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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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【2022年12月24日 08:15AM】

 鍵は、簀巻きにあり。

 フレデリカは郁乃の衣服を始末した清掃業者に問い合わせの電話を入れ、パーティー会場まで戻ってくるよう要請した後、ヴァイシャリー・グランド・インの玄関ロビーを出た。
 簀巻きにされている連中は、ホテルを中心にして放射状にばら撒かれる形で放置されており、その中にはキロスや耀助、或いは山葉 聡(やまは・さとし)といった面々も含まれている。
 だがそんな中で、フレデリカが誰よりも真っ先に探し出さねばならない連中が居た。
「……居た居た。あんなところに転がってる」
 フレデリカが湖畔の緑に覆われた斜面を下りてゆくと、そこに葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)松原 忠司(まつばら・ちゅうじ)、そしてドクター・ハデス(どくたー・はです)の四人が仲良く(?)転がっていた。
「お目覚めのようね。気分はどう?」
「どうもこうも、こんな状態で良い訳がなかろう」
 フレデリカの極上の笑みに対し、不機嫌そうに応じたのはドクター・ハデスである。
「教えたまえ。昨日の夜、一体何があったのだ? サンタに願いを叶えて貰うべく、パーティー会場に足を踏み入れたところまでは覚えておるのだが」
「自分も、どういういきさつで簀巻きにされているのか、よく分からんのであります」
 吹雪が続いて、訝しげな表情をフレデリカに向けた。
 フレデリカはやれやれと、呆れたように肩を竦めた。
「忘却っていうのは、ある意味では救いでもあるわね……何をしてたのか、罪の意識にさいなまれることもないんだから」
「罪の意識だと?」
 ドクター・ハデスは、ふふんと鼻で笑う。
 どうやらこの男には倫理的観念に基づいた話は、あまり意味がなさそうであった。
「僕も知りたいね、何があったのか。朝起きたら何も覚えていないまま簀巻きにされてたなんて、理不尽にも程があるよ」
「理不尽? その口がいうのかしら?」
 フレデリカは、今度こそ心底呆れたといわんばかりに顔をしかめた。
「あれだけの事態を引き起こしておきながら、よくそんなことがいえるわね……でも、良いわ。教えてあげる。その代わり、しっかり思い出して貰うから」
 どこか死刑宣告に近い響きに、忠司などはさっと顔を青ざめさせた。
「矢張り、何か悪いことをしでかしていたのですか……いや、フィーアさんのことですから、いつか絶対、何かやらかすかと思ってましたが」
 忠司としては、出来ればフィーアの悪行など聞きたくないし、耳を塞ぎたい気分だったが、簀巻きにされて両手が使えないから、それも出来ない。
 ここで必死に葛藤しながら、フレデリカの説明を聞くしかなかった。
「あなた達が変に暴れまわってくれたお蔭で、非リア充エターナル解放同盟が動き出してしまったの。彼らは今も、ホテルのローマ式大浴場の女湯を占拠して、従業員達と激しい戦闘を繰り広げているわ。ホテル側は風評被害を恐れてまだ公表してないし、当局に届けてもいないけど、情報が漏れるのは時間の問題じゃないかしら」
 フレデリカは苦虫を噛み潰したような顔を、四人に向けた。
 サンタクロースとしての活躍の場を荒らしまわる非リア充エターナル解放同盟は、ある意味、フレデリカの宿敵のような存在ともいえる。
 そんな彼らが、ここで簀巻きにされている四人の行動に乗じて、パーティー会場であるヴァイシャリー・グランド・インで行動を開始したらしいのだ。
「うむむ……よもや、そのような組織があったとは。一度リーダーと面会して、名刺交換をしておかねば」
 変なところでサラリーマンっぽい発想が出てくるドクター・ハデスの隣で、フィーアはくっくっくぅと小さな笑いを漏らす。
「良いね良いね、非リア充エターナル解放同盟か。これは、面白くなってきたぞ」
「……そんな組織があるなら、自分も御挨拶に行かなければ」
 吹雪は、己が国軍所属であるという立場を忘れて、本気でそのようなことを考えている風であった。
 フレデリカが頭痛を感じたのも、無理はない。


     * * *



 世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポス
 その幹部であるドクター・ハデスは、サンタクロース、つまりこの私を捕まえて、世界征服実現をクリスマスプレゼントとしてせがもうとしてたみたい。
 実際には、世界の支配権をプレゼントして貰うって寸法だったみたいだけど、どこの世界に、こんな他力本願な悪の組織があるのかしら?
 あのショッ○ーだって、自力で世界征服を目指したのよ。
 そういうところが、オリュンポスがまだまだビッグになれない要因じゃないかしら。
 まぁともかく、ドクター・ハデスはパーティー会場に潜入した。んで、最初に出会ったのが……あれ? 理沙さんじゃないの?
「はぁ〜い、こんばんは〜! ワイヴァーンドールズの五十嵐理沙でぇ〜す! 今夜のあなたは、超ラッキーだわよ! だってね、ワイヴァーンドールズ直々にクリスマスプレゼントを手渡ししてあげるんだから!」
「う、うむ、そうなのか。で、これは一体何なのだ?」
 理沙さんの底抜けの明るさに気圧されて、妙にしどろもどろになってるドクター・ハデスだけど……嘘、ちょっと待って!
 理沙さんが手渡してるあれって……サンタの秘宝じゃない!
 えー! ちょっと、マジでー!?
 一体、どうなってんの!?
「ん〜っとね、私もよく分からないんだ。誰かに貰ったラッキーな品らしいんだけど、ワイヴァーンドールズにはこんなの不要だから、プレゼントしてあげる!」
 うわ……超最悪。
 何でドクター・ハデスなんかに、サンタの秘宝が渡ってるのよ。
「……ふん、我らが欲しているのは世界の支配権を実現するサンタの秘宝だ。こんなちゃちぃおもちゃなど、眼中にはないわ」
 ちょっと、何やってんのよ、ドクター・ハデス。
 理沙さんから貰ったサンタの秘宝を、ぽいって投げ捨てちゃったし。
 その後の情報収集で、あれがサンタの秘宝だったって気づいて慌てて捨てた辺りを探し回ってたようだけど、もう既に他の誰かが拾っちゃったみたいで、そこには無かった。
「何たることだ! もう少しで世界征服が実現しようとしていた筈なのに!」
 うーん。
 馬鹿のひと言に尽きるわね。
 って、呑気なこといってる場合じゃないわ。ドクター・ハデスが捨てた秘宝を誰が拾ったのか、しっかり調査しないとね。

 ところでフィーアさんと忠司さん(悪い奴らにさん付けするのって癪だけど、一応礼儀だしね)は、サンタの服装でアベックを襲撃してたみたい。
「リア充、滅ぶべし」
 とか何とか、ふざけたこといいながら。
 しかもその時に名乗ってたのが、サンタ・コロースだって。
 忠司さんは、フィーアさんの行為に罪悪感を感じてたみたいだけど、パートナーのやることだから、渋々同行してたってのが本音みたいね。
 結局、何組かのアベックを襲って裸にひん剥いた後で、忠司さんがフィーアさんを背後から一撃ノックアウトしちゃったんだよね。
 でも忠司さんも同罪だから、簀巻きにして反省して貰わなくっちゃ。
 ……そう。忠司さんを襲って、フィーアさんもろとも簀巻きにしたのは、この私……じゃなくて、まだこの時は一緒にプレゼントを回収してた美羽さんだったの。
 サンタクロースである私が暴力行為に出るのは拙いっていって、美羽さんが敢えて泥を被ってくれたの。
 本当、美羽さんには頭が上がらないわ。
 そして、もうひとり。
 吹雪さんはまた別の形で、非リア充爆発テロを計画してた。
 どうやら、キロス君を巻き込む腹積もりだったみたいね。
「キロス殿! 酷いではありませんか! あなた程の男がリア充になりたいなどとは……見損ないました!」
「んあ? 何を訳分かんねぇことほざいてんだ?」
 パーティー会場で、まだリナリエッタさんと呑み始める前のキロス君。
 吹雪さん相手に、こんなドラマがあったんだ。
「自分はリア充どもに正義の鉄槌を下すべく、ある計画を立てているであります! キロス殿、今ならまだ間に合う! さぁ、一刻も早く、こちら側へ戻ってくるであります!」
「いや、だから意味不明なんだって」
 ここでキロス君、いきなりぎょっとした顔になった。
 吹雪さんも不穏な気配を察して、背後に振り向いた……と思ったら、その瞬間に馬場さんの脳天チョップが炸裂!
 哀れ吹雪さん、一撃のもとに葬られちゃった。
「騒ぎ立てて済まぬな。後はわしに任せておけい」
「お……おぅ、頼むぜ」
 恐らく彼女を簀巻きにしたのも、きっと馬場さんね。
 これで、パーティーを妨害する不届き者は全て成敗された。少なくとも、この時の私は、そう思った。
 でも、その考えは甘かったわ。
 吹雪さんが表立って騒いだ為に、すっかり注意を彼女の方に逸らされてしまってた。
 この時既に、奴らが動き出していたのよ。
 非リア充エターナル解放同盟が。
 奴らは、パーティー会場であるホテルでテロ活動を展開すると同時に、私が失くしたサンタの秘宝の奪取も目論んでいたみたい。
 本来なら、私はサンタの秘宝を見つけ出せばそれで済む筈だった……でも奴らが、フィーアさんや吹雪さんの行動が呼び水となって姿を現し、水面下で行動を始めたお蔭で、とても大変な夜になってしまった。

 この時、私の時計は2022年12月23日の19:30頃を差していた。