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今日は、雪日和。

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今日は、雪日和。

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 ■ 福神社の雪 ■



 いざ雪かき……というものの、ただ闇雲にやっていたら時間も手間もかかってしまう。
 永谷はまずざっと福神社の境内から参道を歩いて、土木工事の知識と照らし合わせてその様子をチェックした。
「境内の雪は寄せておくとしても、参道部分はただ横にどけるだけだと溶けたときに厄介そうだな」
 もともと参道は土の道。雨が降ればぬかるんでしまう道の横に雪を寄せてしまうと、当分の間、参拝客はどろどろの道に悩まされることになるだろう。
「どこか邪魔にならないところに移動させます?」
 さすがにトラックは無いけれど、代わりにこれが使えそうだからと、未憂は手押し車を持ってきた。
 その間に永谷は道の端を調べ、水路の位置を探し出した。
「集めた雪は少しずつ火術で溶かして、ここに流そう。俺はサイコキネシスが使えるから、何かの上に雪を載せてそれを浮かせて運ぶことも出来ると思う」
「分かりました。みんなにもそう伝えますね」
「あたしが知らせてきてあげるよー」
 雪かきするよりそっちの方が楽しそうだからと、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が皆への連絡を引き受けた。
「リンったら……いいけど、ちゃんと知らせるのよ」
「りょーかい!」
 コートにマフラー、手袋にイヤーマフ。もこもこ温かそうな恰好で、リンは参道を福神社のほうへと戻っていった。
 プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)の方は未憂のもとに残って、指示を待つように見上げてくる。
 さあどこから手をつけようかと、未憂は考えた。
「やるところはたくさんだけど……この水路を使うなら、この周辺の雪をどかしたほうがいいですよね? まずはここから手をつけましょうか」
「そうだな。もう少し水路が見えないと、どのくらい流して大丈夫なのか分かりにくいだろうから」
「じゃあそうしますね。――プリム、ちょっとここ足場悪いから、気をつけて雪をどかしてね」
 未憂に言われ、プリムは素直にこくりと頷くと、プラスコップで重そうに雪を持ち上げにかかった。

 通り道の雪を取り除き、水路近くまで運ぶ。
 それを周囲の様子を見ながら溶かして流して処理をする。
 ひたすらそれを繰り返す雪かきは、どこか修行に似ていると永谷は思った。
(実家にいたころを思い出すな)
 日々の掃除や作業。積み重ねるすべての事柄が巫女としての鍛錬だった。
 今日一日、福神社で雪かきをすることで何かが見えてくるだろうか。
(また機会があったら、帰って親孝行しないと)
 そう心に決めながら、永谷は目の前の雪かきに取り組む。
 千里の道も一歩から。
 全力を尽くしてやることが、きっと大切なのだろうから……と。



 福神社から鳥居までの間は、布紅の意向を受けて、通り道と雪に埋もれていると不便なところのみ、雪を取り除くことになっている。
 刀真は石畳を傷つけないように気を払いつつ、まとめて雪を片づけていった。
「刀真すごいね、通り道の雪がどんどんなくなってくよ」
 その勢いに月夜は思わず手を止め、刀真の雪かきを見守った。雪は重い物だけれど、契約者である刀真の金剛力にかかれば、ぐいぐいと押しのけられてゆく。
「石畳のとこ、凍ってるわね。このままだと滑りやすくなるから、溶かしちゃいましょ」
 石と石の間、がちがちに固まっている雪は厄介だから、アルメリアはそれを火術で溶かして取り除いていった。常連の参拝客の中にはお年寄りもいると布紅が言っていたから、足下の安全確保は重要だ。
「貼り紙もしておいた方がいいよね」
 沙幸は大きく見やすい文字で、
『大変滑りやすくなっていますので、足下にお気をつけください』
 とかいた貼り紙を境内に掲示した。今日一杯は雪がちらつくという予報だから、雪かきされているからと油断して歩いて転んでしまうと大変だ。雪の中、せっかく来てくれるのだから、気分良く且つ安全に参拝を済ませられるようにしておきたい。

 まだ雪はちらちらと降っているけれど、除雪のスピードのほうがはるかに勝っているから、境内の雪はどんどん脇に避けられ、人が歩く為の道が確保されてゆく。
「これなら案外早く綺麗になりそうかな。でも道脇に雪が積み重なっていくんだよね……」
 除雪の終わった部分を月夜が振り返ると、刀真もああ確かにと頷く。
「横に寄せるだけだと見栄えが悪くなるな」
 どうしたものかと刀真が考えていると、月夜が雪を丸め始めた。
 余った雪で作った丸を2つ重ねて、目と口をつければ雪だるまの出来上がり。それを道端に置くと、月夜はまた次の雪だるまにとりかかる。
 見栄えを良くしたいのだろうという月夜の意図は伝わってくるけれど。
(それ結局遊んでるよな?)
 雪だるまを作っているから、肝心の雪かきはそっちのけ。
「これは刀真だるまだよ。似てるよね」
 目に赤い実を使った雪だるまを、月夜が自慢げにお披露目してくれるが、刀真はついつっこむ。
「いやそれって、俺似と言うか目が赤いだけだよね?」
「頭も銀雪だよ!」
「それを言ったら雪だるま全部がそうだ」
 習い性のようにつっこみは入れるけれど、とても楽しそうに雪だるまを作る月夜を見ているのは、刀真にとって悪い気分ではないのだった。

「あ、雪だるま! あたしも作る」
 月夜が並べている雪だるまに気が付いて、リンも作り出した。単調な雪かきは面倒だけれど、こういう楽しそうなことなら歓迎だ。
「神社だし、変わり雪だるまなんてどうかなー?」
 神社らしいもの、と考えてリンは巫女だるまを作ってみることにした。
「巫女さん巫女さん……髪が長くて、着物みたいな恰好しててー」
 イメージしながら巫女さん風の雪だるまを作っていくけれど、美術的センスが今ひとつ……のリンだから、出来上がったものはバイト初心者が作ったジェラートのような形の、なんだかよく分からないオブジェ。
「……ちょっと……こわい感じ?」
 きれいな丸を2つ重ねた小さな雪だるまを作りつつ、プリムが呟く。
「えー怖い? そうかなぁ? 今度は可愛い巫女さんを作るね」
 根本的な問題には気付かず、リンは次のオブジェ……ならぬ巫女だるまに取りかかった。


 人手が揃っての雪かきは、布紅が1人でしていたときとは比べものにならないスピードで進み、みるみる雪の間に通り道が確保されていった。
「ほんとに助かりました……」
 これくらい雪かき出来ればもう大丈夫と、布紅はスコップを持つ手を止めた。
 出来た通り道の脇には、大小、形もいろいろの雪だるまが並んで参拝客を待っているかのようだ。
 布紅も隅にかがみこむと、両手で包み込めそうな小さな雪玉で雪だるまを作った。
「布紅さまの雪だるま、小さくてかわいいなぁ」
 私が作ったのはこれ、と沙幸が指さしたのは、南天の葉と赤い実をつかって作った雪うさぎ。
「溶けてしまうのがかわいそうなくらいです……」
 布紅は雪うさぎが影になるように自分の雪だるまを置いて壁にした。
 そこに刀真が月夜を伴ってやってくる。
「ああ布紅ここにいたのか。雪かきも一段落ついたようだから、俺たちはそろそろ失礼させてもらうよ」
「はい。どうもありがとうございました。こんなに早く雪かき出来たのも皆さんのおかげです」
 これなら神社に来てくれる人が雪に困らずに済むと礼を言う布紅に、刀真はぬいぐるみを取りだして渡す。
「これは……脚だけシマウマ?」
「オカピだよ。神様としての仕事大変だろう? それを頑張っている布紅にプレゼントだ」
 説明しながら刀真が頭を撫でると、布紅は照れて俯いた。神様なのだとは知っているのだけれど、幼げな様子の布紅を見ていると、妹が居たらこんな気持ちなのかと思ってしまう。
「む〜っ」
 布紅の頭を撫でている刀真を見て、月夜はちょっと唸った。

 もやもや〜っとする気持ちと、やっぱり寒いということもあって、挨拶を終えて帰る途中、月夜は刀真のコートの中に入った。
「歩きづらい……」
 刀真の呟きに、そうだろうなと思うけれど、コートから出る気にはなれない。
「……駄目?」
「別に駄目じゃない、ただ下手すると転ぶから気をつけろってだけ」
 その返事が嬉しくて、月夜は刀真の右腕に抱きつく。
「うん、転ばないように気をつけるよ!」
「とっ、だから抱きつくなって……仕方ないな」
 やれやれと笑いながら、どこかで昼飯を食べていこうと言う刀真の腕に頭をすりつけて、月夜はにゃ〜っと幸せそうに相好を崩すのだった。