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今日は、雪日和。

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今日は、雪日和。

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 ■ コウノトリは時間軸を越えて ■


「雪、雪、いっぱいれす!」
 はりきってぴょんぴょんと跳ねる林田 コタロー(はやしだ・こたろう)を眺めつつ、林田 樹(はやしだ・いつき)は去年の雪の日のことを思い出していた。
「去年、コタローが願ったとおりになったんだろうか……なぁ、アキラ」
 あのときコタローは、「ねーたんのところに『コウノトリ』が来ますように」と、樹雪だるま、章雪だるま、コタロー雪だるま、そしてちっちゃな雪だるまを作って、お願いをしたのだ。
「それにしてはでっかい息子だと思うけど」
 緒方 章(おがた・あきら)はくすりと笑って緒方 太壱(おがた・たいち)のほうを見やった。
 コタローが作ったのは小さな赤ちゃん雪だるまだったけれど、実際に現れたのは息子というには大きすぎる太壱だった。
 章と樹のことを親父、お袋と呼び、2人の未来の息子だと名乗った太壱が登場した時にはさすがに驚いた。両親よりも老けてみえる息子だが、章が念のためにした遺伝子鑑定の結果も太壱の言葉を裏付けるものだった。
 コタローにとっては、かなり大きな弟が出現したことになるのだけれど。
「コタ君はお姉さんになれたことを素直に喜んでいるみたいだね」
「ああ。実に楽しそうだ」
 今も太壱にお姉さん風を吹かせて指示を出しているコタローを見て、樹は目を細めた。

「たい〜! 早く雪だうま作うんれす!」
「うぁかったよ、コタ姉! そのために雪確保してやっから、ちょっと待ってろ」
 太壱はコタローに返事すると、章と樹に大声で呼びかける。
「親父、お袋! ンな所で突っ立ってねーで雪かきを手伝ってくれよ! 教導団から宿舎の雪かきやってくれっていわれたんだろ?」
「分かったバカ息子!」
 負けない大声で怒鳴り返すと、樹は章に頼んだ。
「アキラ、どのあたりを掻き取り、どのあたりに集めるか計算しては貰えんか?」
 闇雲に雪をかくのは効率が悪い。こういう計算は章の分野だと任せると、章は周囲をぐるりと見渡して考えた。
「そうだね、この入り口近辺を集中的にかいて、こっちの駐車場3台分を雪置き場にしようか」
「了解だ。おいバカ息子聞いていたか? まずはその位置から入り口に向かって雪をかいていってくれ」
「あいよー。っつか、何で非番の日にこんなこと……」
 ぶつぶつ言いながらも太壱は樹に言われた通り、雪をかき始めた。
 どうやら太壱は自分と一緒に雪だるまを作ってはくれないようだ。コタローは残念そうにう〜と唸る。
「……いーもん! こた、自分れ、雪だうま作うもん!」
 ころころと雪玉を作り始めたコタローを見て、太壱はミャンルー・うにゃーさんに頼む。
「うにゃーさん、コタ姉を手伝ってやってくれ」
「みゃう!」
 うにゃーさんはとことことコタローの所に行くと、一緒に雪だるまを作り始めた。
「うにゃーしゃん、手つらってくれうんれすか?」
「みゃう」
 返事をしてくれたうにゃーさんに、コタローは嬉しそうにどんな雪だるまを作るのかを説明する。
「うっとれすねー、いりゅみんしゅーるの図書館へ行ったとき、こた、あじょーとしゃんにすにょーまん、ってゆーの、教えてもりゃったれす! それを作るんれす!」
「みゃ?」
「外国にょ、雪だうまなんれすお〜」
「みゃ〜?」
 その説明では分からないらしく、うにゃーさんは首を傾げる。
 コタローは小枝を拾ってくると、雪の上に丸を3つ繋げて描いた。
「3つ、かしゃねるんれす! 頭と、おにゃかと、足〜!」
「みゃし〜」
 今度は理解出来たようで、うにゃーさんはコタローを手伝って雪玉を転がし出した。


 パワードスーツに匠のシャベルを持った3人でがしがしと雪をかけば、あっという間に宿舎周りの雪は取り除かれていった。
 太壱は最後のひとかきを雪置き場に放り込む。
「おっしゃ! 雪かき終わりっ!」
 雪置き場にした駐車場にはうずたかく雪が積み上げられていた。
「とりあえず集めたが……どうするこの大量の雪は?」
 このままただ積んでおくのかと樹が尋ねると、章はそうだねと雪を見上げ。
「またかまくらでも作るかい?」
「かまくらか。そうだな、七輪もあるし。グランドシートとこたつを持ってくればそこそこ暖かいだろうな。……よしバカ息子、この雪山に最低濃度のアシッドミストをかけて氷術で凍らせてくれ」
 章の提案にのった樹は、そう太壱に頼んだ。
「ああ、外側固めんのね、了解!」
 そうしているうちに、コタローも雪だるまを作り終えた。
「れきたー! 雪だうま〜!」
「みゃ〜!」
 両手をあげて万歳していると。
「……へっきち!」
「みゃぶし!」
 ほぼ同時にコタローとうにゃーさんはくしゃみをした。
 遊んでいるうちは気付かなかったけれど、随分身体が冷えてしまっていたようだ。
 コタローとうにゃーさんは抱き合って樹たちのほうに歩いていった。
「う〜、ねーたん、あきー、しゃむいれす〜」
「うにゃ〜……」
「コタロー、風呂に入って温まってこい。そのままだと風邪を引く」
 樹はコタローたちを風呂へと追い立てると、かまくら作りの作業に戻る。
「じゃ、僕は太壱君連れてちょっと着替えたり七輪の火おこししたりしてくるよ」
 章は雪かき道具をまとめて持つと、
「樹ちゃんも、かまくら完成させたらお風呂に入っておいで」
 と声をかけて宿舎へと入っていった。


 かまくらを完成させた後、樹は章に言われた通り風呂に向かった。
 入浴を終えて戻ってくると、かまくらを覗き込む。
「どうだアキラ、このかまくら、全員入れそうか?」
「大人3人余裕だね。それと……コタ君は寝ちゃったみたい」
 章が目で示した所では、コタローがうにゃーさんを抱えてすやすやと寝息を立てていた。
「お袋、早く入れよ。もう先に餅食い始めてるぜ!」
 太壱がかじりかけの餅を挟んだ箸を振ってみせる。
 それに応えるように樹はかまくらに入ったが、七輪ではなく太壱の前にずいっと座った。
「なんだよ?」
 怪訝そうな太壱に、樹は真面目な顔で、さて、と口を切る。
「……本題だ。バカ息子よ、そろそろこの時代にお前が来た理由を話してはくれまいか?」
「そうだね。『両親』としては是非知りたいものだね」
 章にまで言われ、
「あーえー、うーん……」
 太壱は言いにくそうに口ごもり、餅を皿に戻した。
「……親父とお袋を護りに来た、じゃ駄目か?」
 太壱がはっきり口に出来ず濁した言葉を、樹は真っ向から問いただす。
「それは、我々がお前を置いて死んでしまう、そんな未来があるという事か?」
「まあ、そんなとこだ。それを防ぐのと、親父やお袋と話がしたかったのと、半々かな?」
「……そうか、って事は太壱君の未来では、僕たちはあまり話せてなかった、と」
 章の追及に、太壱はうぐ、と唸った。この分だとどこまで聞き出されてしまうやら分からない。
「そゆこと……もういいだろ、親父、お袋」
 話はここまでだと、太壱は餅を頬張った。
 樹はそんな太壱を眺めつつ、章に言う。
「……何やら覚悟が必要だと言うことを、息子から教わっているようだな、アキラ」
「そのようだね。でも考えてご覧よ樹ちゃん。太壱君が来たことで時間軸がシフトしたと考えたら?」
「時間軸? ……確か、時間軸は複数平行して走っていて、それを横断して息子が来た、そんな考え方だったか?」
「そう、だから『僕たちはそうならない』」
「ふむ……」
 樹はしばし章の説を考えていたが、やがて笑う。
「まあ、難しいことはさておいて、とりあえず雪見酒だ」
 杯を取り上げると、それを太壱に持たせる。
「お前も成人しているんだし、飲んで語り明かすくらいは出来るのではないか? まずはお前の趣味から語ってもらおうか」
「げ、聞き出すつもりかよ」
 危険を感じて身を引きかけた太壱の杯に、樹はなみなみと日本酒を注ぐと、さあ飲めと勧めるのだった。