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第19章 ちょっと奮発

「んー、今日の昼飯は何にすっかなぁ」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、商店街をのんびり歩いていた。
 天気も良く、身体も温かいが、最近、予定外の仕事で予想以上の収入があった為、懐も温かい。
「そうだな、今日は洋食で行ってみるか」
 空京にも日本料理の店が多いが、和食は葦原にいると当たり前のように口にするため、たまには洋食も悪くないだろうと、恭也は歩き出す。
「確かあの辺りにお値段は高いが、その分味は良いって店があったな……」
 どうせ予想外に設けた金だし、そこで使ってしまおうと、恭也は洋食のレストランへと向かった。
「ん? あいつは……?」
 そのレストランの近く。香辛料の専門店から出てきた少女に、目を留めた。
 紙袋を抱えた少女は、辺りを見回して店を探している……飲食店に目を向けていることから、昼食をとる店を探しているようだ。
 恭也はその娘――パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)に近づくと「よう」と声をかけた。
「お前さんも昼飯か?」
「あっ! 久しぶりーっ」
 パフュームは恭也に輝く笑みを見せた。
「うん、お腹が空いたなーって思ってたところ」
「なら一緒にどうだ? ちょいと臨時収入があったんでな、奢るぜ?」
 恭也のその言葉に、パフュームが目を輝かせる。
「ホント!? やったー! 買い物しすぎたせいで、あまりお金なかったんだよねー。どこで食べるの? あたしは何でもOKだよっ」
「その洋食屋。2人前食って構わねぇぜ」
「うおー、ここ、入ってみたかったんだ。オムライスがすっごく美味しいんだって! 勉強にもなるかな〜」
 パフュームは、家族と喫茶店を営んでいる。
 今日もお店のお買い物に、空京を訪れていたのだ。

 少し並んだあと、2人は席へと通された。 
 パフュームは オムライスデミグラスソース添えとサラダとスープのセットを。
 恭也はパフュームに勧められて、ミニオムライスとロールキャベツセットを注文した。
「いただきまーす。……食べていい?」
「どうぞ」
 恭也が言うと、パフュームは喜んで、オムライスを食べ始めた。
「うわっ、ホント美味しい! 卵の加減が絶妙! こっちはどうかな」
 言いつつ、彼女は恭也のオムライスにスプーンを伸ばしてぱくり。
 ロールキャベツも1個持っていく。
 ……支払が一緒なので、誰のという感覚はないらしい。
「柔らかい〜。こういうのって時間をかけて煮なきゃ出来ないよね。だけど、時間かけるとキャベツは煮崩れするんだよねー……」
 味わいながら、料理を学んでもいるようだった。
「まあ、自分だけ食べるんなら、見かけより味だろうけどな。お前さん家は喫茶店だし、そういう面倒なことも考えねぇとなんねーんだな」
「うん、美味しそーと思ってもらえるもの、出さないとね」
「けど、美味そうと思って食べて期待外れなのと、見かけはいまいちだけど食べたら美味いのでは、後者の方が感動するかもよ?」
「確かに! 家族への料理はそれでもいいのかも」
 和やかに話しながら、2人は相手が注文したものにも手を伸ばして、料理を楽しんでいく。
「それからここのデザートも人気があって……デザートも頼んでもいい?」
「ははは、お好きなだけどーぞ」
「ありがと! よっ、太っ腹! 恭也は太ってないけど太っ腹〜! 気前よし、器量よし〜♪」
 歌うように言いながら、パフュームはメニューを開き、チョコレートモンブランパフェという劇甘のパフェを注文した。
 恭也はデザートはなくてもいいかなと思ったが、パフュームが色々食べたいだろうと思って、アイスとゼリー、ミニケーキの乗ったプレートのデザートを頼んだ。
「いただきまーす!」
 デザートが届くと、もう一度嬉しそうに行って、パフュームはモンブラン、アイス、ゼリー、ミニケーキとちょっとずつ食べていく。
 パフュームが満足したかなという時点で、恭也もデザートをスプーンで掬って、食べるのだった。

「今日はありがと! 料理も美味しかったし、楽しかった〜」
 食事後、膨れたお腹を摩りながら、パフュームは言って。
「これお店のサービス券!」
 カフェディオニウス20%割引券の、20%の文字を消して、100%と書き直し、自分のサインを入れたものを、恭也に渡した。
「イルミンスールに来た時には、よろしくね〜」
「んー、わかった。サンキュ」
「それじゃまた!」
「またな」
 パフュームは手を振りながら、帰っていった。
「さて、まだ余裕があるし、何すっかなー……」
 恭也は割引券をポケットにしまって、歩き出す。
 あと半日。
 何をして楽しもうか。