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太陽の天使たち、海辺の女神たち

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太陽の天使たち、海辺の女神たち
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●戦う、夏(1)

「ファイッ! ファイッ!」
 つまりFIGHTと言っている。
 この威勢のいいかけ声をあげながら、海岸線をランニングする一団があった。
 この恐ろしい暑さのなかで。熱気をもうもうと上げながら。汗まみれで。
 砂地を走るというのは難しい、重い疲労感が伴うものだが、それでも結構なスピードだ。しかも彼女らは決してペースを落とさない。
 この集団はプロレス団体、その名も高き偽乳特戦隊
 これをを率いるのは九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)……ではなかった、今はプロレスラー謎の魔法少女ろざりぃぬである。
 いやもともと、特戦隊の面々もトレーニングに来たわけではなかった。ろざりぃぬに呼ばれて『合宿』という名目で来たのであった。けれどもみんなお年頃、いつの間にかろざりぃぬが姿を消したのをいいことに、きゃっきゃうふふと海でバカンス、遊び放題となっていた。
 ところがこれが、罠だった。
「お前らはダメだー! クラブ活動じゃあないってんですよ!」
 油断しきったところで、ろざりぃぬが戻ってきたのだ。リングコスチュームをぴしっと着こなして、それに、手にはピコピコハンマーを握り、サングラスをかけて。
「え……でも先生たちも普通に遊んで……」
 一人の選手が弱々しく反論するも、
 ばしーん。
 鬼教官と化したろざりぃぬは、竹刀で力一杯砂地を叩く。
「お黙り!」
 反抗は許さない、有無を言わせぬ迫力だ。
「暑い中でなにやってんだ……」
 ぼそっと呟く斑目 カンナ(まだらめ・かんな)だが、その声は誰にも届かない。
 カンナもまた、リングコスチューム姿、ろざりぃぬのすぐ後ろで仁王立ちしている。なお彼女のリングネームはハートブレイクカンナである。内心バカバカしいと思わないでもないのだが、これも後輩のため、ろざりぃぬに頼まれるまま、凄味のある表情で構えていた。
 凄味といえば、もう一人、本日はスペシャルゲストがあった。
「お前らを鍛え直すために、今日はこの方にも来てもらった」
 さっとろざりぃぬが引くと、丸太のごとき腕、巌の顔面、鷹並に突き出た胸板のあの人が大股で出現した! 
「わしが蒼空学園第三代校長兼理事長、馬場 正子(ばんば・しょうこ)である!」
 泣く子も黙るこの迫力。もちろん彼女もリングコスチュームだが、ヒール(悪役)デザインのそれであった。
 特戦隊のメンバーは、ここからが本当の地獄であることを知った!
 さてこうして始まった『合宿』、怒濤のランニングが終わると、倒れ込みそうになるメンバーにろざりぃぬは言い放った。
「よし、準備運動は終わりだ。さっそく始めるぞ……そう、プロレスを!」
 ろざりぃぬは竹刀を砂地に突き立てた。
 見ればいつの間にか、四角いマットのジャングルが、竹刀によって砂地に描かれていたのである。ここが舞台だというのだ。
「カードは特戦隊VSろざりぃぬ・ハートブレイクカンナ・馬場校長!
 一回でも私たちからダウンをとれたら、大盛りのチョコレートパフェをおごってあげましょう。どうだ、私は優しいだろう!? さあこい!」
 これがゴングというのかいきなり、ろざりぃぬは手近な選手をボディスラムで場外に叩きつけた。砂地ゆえダメージは少ないかもしれないが、ばすっ、とすごい音がした。
「うおおおおー!」
 馬場校長も阿修羅の形相、向かってきた若手をローリングソバットで倒し、着地と同時に爆発的な掌底! もう一人の若手を海に吹き飛ばした。ざぼーんと水柱が上がる。
「さあ、どんどん来るがいい! 遠慮は無用である!」
 恐ろしい。これでは『馬』場というより猛牛だ。
 ――ろざりぃぬもだけど馬場校長も手を抜かなそうだ。
 この中ではおそらく唯一の冷静な人物、ハートブレイクカンナなのだが、これも後輩を鍛えるためと割り切って、多少の手加減こそするが、決して隙など与えない。
「このまま芽の出ない新人となるのは可哀想だ。ヒールレスラーに師事する以上は、強いだけじゃ駄目ってことを教えてやるよ」
 無助走でハートブレイクカンナは跳んだ。新人のタックルをやすやすと避けてしまう。トップロープがなくても、これくらいたやすい華麗なるレスラー、それがハートブレイクカンナなのだ。よろめいた相手の背中にドロップキック。立ち上がるや否や今度は背後の相手に、切れ味鋭い逆水平チョップ。さらにチョップもう一発! さらにもう一発! よろめいたところで三度、砂地を踏みつけてアピールし、出た! 空手技を応用したトラース・キックだ!
 蹴りは顎を的確にヒット、新人は一瞬で気を失い昏倒した。これでもカンナは手加減しているのだから恐ろしい。
「いかなる場所、いかなる相手であっても。お客さんを満足させられる試合ができないようでは一流のスーパースターにはなれない!」
 ぎりぎりと容赦なく、逆エビ固めを決めながらろざりぃぬは叫んだ。極められている側、つまり新人選手は猛烈に抵抗しているがまったく外れない。
「これも修行です!」
 ろざりぃぬの叫び声と同時に、とうとう選手は砂地を激しく叩いてギブアップを表明したのである。
 戦いは続く。まだまだ続く。三人の猛戦士を前に、どう戦うのか特戦隊!?
 鍛えられた彼女らは脚光浴びるリングで、どんな勇姿を見せてくれるだろう!?
 それが見たい人はチケット予約に走れ! 偽乳特戦隊の試合は近日大公開! あなたの町にもやってくる……きっと!

 恋も戦い。いつだって。
 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)と並んで歩いている。
 想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)も雅羅と並んで歩いている。
 つまり、二人で彼女を挟むように歩いている。
 ――雅羅さんの水着、去年の夏も見たけど……やっぱり魅力的だ。直視できないや。
 ぱっと見スレンダーだが、脱いでみるとすぐわかる。とってもとってもグラマラスな雅羅なのである。
 着痩せというやつだろう。女性らしい膨らみは大きいだけでなく、形も整っていて、弾力もありそうで、そしてなによりいい匂いがしそうで、ついつい視線がそこへ行ってしまいそうになる。
 けれど夢悠は意図的に彼女を見ないようにしていた。そんなことをしちゃいけない、そう自制していた。
 身も蓋もない言い方をすると、刺激的すぎるのだ。半裸の雅羅は。
 ――下心のある目で見ちゃダメだ。雅羅さんが……オレの大好きな雅羅さんが……汚れる!
 思春期真っ盛り。そんな夏の夢悠である。
 それにしても、瑠兎子が雅羅を誘ったとき、すぐに出てきたのはに驚いた。もっとためらうかと思っていたのだ同性(まあ、とりあえず)の瑠兎子だけならともかく、夢悠もいるというのに。
「わたしを守る、どんな時でも駆けつけてくれる騎兵隊になりなさい」
 そう雅羅は彼に言った。
 誇りとともに、この言葉を夢悠は何度も思い返している。
 ――雅羅さんから求められてる? 望まれている? どちらにせよ、少なくとも頼られている……と思いたい。
 思い返すたびに、胸は高鳴る。
 恋人として望まれているのだろうか? だとしたら、普段はどんな態度で接すれば良いのか? 考えすぎだろうか?
「じゃあこの辺で泳がない?」
 雅羅が足を止め、二人に呼びかけた。
「……え? うん」
 雅羅のことばかり考えていたので、夢悠はちょっと夢を見ていたような気持ちだった。
 このとき彼は、自分が必死で抑えてきたものを全開にしている声を聞いた。
「うへへへへ……」
 はっとなってその声の主を見る。
 言うまでもない、瑠兎子だ。
 忘れていた。瑠兎子はまったくもって慎みとか遠慮とかそういうのがないのだ。雅羅の水着姿を、美しい肢体を、舐めるように観察している。じっくりと、いやらしい目で鑑賞している。
「雅羅ちゃん、かわいいよ、雅羅ちゃん……」
 女であることをのぞけば、瑠兎子の口調も目も、まさしくエロ親父のそれだ。
 両手なんかわきわきしてしまっている。隙あらば押し倒そうとしているかのように。
 ――いけない!
 夢悠は慄然とした。
 野獣と化した瑠兎子に押し倒されれば、あの下卑た指によってあっという間に雅羅は剥かれてしまうに違いない。乳白色のビキニは無残に引きちぎられ、少女の隠されていた部分が、熱い太陽にさらされてしまうだろう。
 瑠兎子はきっと、舌を使うのではないか。悲鳴を上げて身をよじる雅羅を、視覚のみならず触覚と味覚で愉しみつくすのではないか。
 いや、雅羅の髪や肌の匂いを嗅覚で、さらには嫌がる声も、いつしか甘くなっていく吐息すらも、聴覚で貪る気では……。
「いたっ!」
 怒りに燃えて夢悠は、瑠兎子の腕を指でつねっていた。
「不健全な感情が露わになってるよ! 変な目で雅羅さんを見ちゃダメだからね!」
「そういう夢悠だって、変な目で見てたじゃない!」
「見てない!」それは自信があった。
「ああ、そうなんだ。じゃあ夢悠は雅羅ちゃんを、異性として見てないってわけだ。女性として魅力的だと思わないんですかそうですかー」
「そ、そんなことはないよ……」
「じゃあしっかりと雅羅ちゃんの水着姿を見なさい!」
 瑠兎子は夢悠の背中を雅羅のほうへ押した。強く。
 させるか――とっさに夢悠は片手を瑠兎子の背中へ回している。
「えっ!?」
 これは虚を突かれた。夢悠に引っ張られるように前のめりになった瑠兎子は、夢悠の片足につまずいてしまう。そうして二人は一緒に倒れ込んだのである。もつれ合うようにして。なんだか抱擁する恋人たちのように。
「だ、大丈夫!?」
 二人のやりとりの過激さに、つい引き気味になっていた雅羅だが、おそるおそる声をかけた。
「どうしました?」
 雅羅の連れ、アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)がぱたぱたとやってくるのも見えた。彼女はワンピース型の紺の水着である。しばし龍杜那由他らと談笑していたらしい。
「な……なんでも!」
 夢悠はがばっと起き上がって言った。
「ええそう、なんでもないの」
 瑠兎子も起き上がり、懲りずに今度はアルセーネの水着姿を鑑賞していた。
 結局この日、夢悠は瑠兎子を、瑠兎子は夢悠を牽制するばかりで、二人とも雅羅との距離を縮めることはできなかったという。