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リアクション
●Sea of Love (3)
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は駆け出した。
岸壁、足元は草が生えている。裸足だとちょっとちくちくするが、それも爽快だ。
「青い空、白い雲、そして海海海海ーっ♪」
崖端まで助走し、一気に、飛ぶ。
ざぶーん。
せいぜい数メートルの高さとはいえ爽快、爽快至極。ちょっとした冒険気分だ。
「有休消化−!」
「水から顔出すなり言う台詞がそれかよ」
器用に立ち泳ぎしながらカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が近づいて来た。
ルカの言う通りで、本日彼女は有給の消化中である。ずっと仕事続きだったので、天下御免のバカンスというわけだ。白と水色のビキニにパレオ、これが本日のルカの水着であることも言い添えておこう。
そこから数十分、
「そろそろ泳ぎ疲れたな。砂浜に戻らんか?」
言うなり夏侯 淵(かこう・えん)は、すいすいと泳いでいく。淵の水着は半ズボンタイプである。すなわち上半身は裸、「これで俺を女子と見まがう痴れ者は出るまい」と断言する淵だが、たんに勇気ある貧乳少女に見えないことも……さすがにないか。
「お、戻るのか? 浜まで泳ぎの競争するか?」
仁科 耀助(にしな・ようすけ)が茶目っ気を見せて言うが、
「遠慮する」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はあっさりと断って、(いつも通り)実にマイペースにクロールして浜を目指した。
「なら那由他、競争する?」
濡れた髪をかきあげて耀助は誘うも、
「ちょっと、あたしはくたびれてるの。勘弁してよ」
龍杜 那由他(たつもり・なゆた)は首を横に振ると、得意の古式泳法でするすると魚のように泳ぐのである。なお、那由他の水着は淡いグリーンのビキニだ。
本日、ルカたちは耀助・那由他と合流して日中を過ごしているのである。あの、日々忙しい(主にデートに忙しい)耀助が二つ返事で参加してくれるなんて――とルカはちょっと胸を熱くしていたようだが、耀助は「楽しそうだし」と特に悩まなかったようだ。
かくして、浜に上がって海の家、腰を下ろしかけたルカは見覚えのある姿が通りかかるのに気がついた。
ユマ・ユウヅキと……クローラ・テレスコピウムだ。
連れだってなにか、楽しげに会話している。
「あっユマさんだ。おーいユマさ……」
途中でその発言は、淵により封じられた。
具体的には口を手で押さえるという方法で。
「むぐぐぐ……!」
「逢引の邪魔はいかん」
「そっかそっかそうだよね……」
それでも、二人の背を目で追うルカだったりする。気を取り直して話題を変える。
「ところでさ、今日の組み合わせって、男女三人ずつのグループデートに見えない?」
「それだと俺の相手は誰だ?」
腕組みして問うのはカルキノス、
「俺? 大きさが違いすぎるだろ! ていうか俺が女子枠なのは解せん!」
言ってから怒り出すのは淵であった。
「つまらないことばかり言っていないでちゃんと食事と水分を取れ。水泳というのは予想外に体力を消耗するものだ」
ダリルは素っ気なく言うのだが、発言内容にさりげなく気づかいが感じられるところには注目しておきたい。
「野菜も食わぬか」
「肉がいいんだ」
などと淵とカルキノスがやっている最中、ルカは一時的に席を外し、戻ってきた。
「じゃーん♪」
クーラーボックスだった。開けると、出てきたのは透き通った瓶入りの飲料だ。
「お、なんだそれ?」
と訊く耀助に対しルカは得意げに言い放った。
「海の定番、冷やし飴だよ」
「いいわね。好物よ」
那由他が手を伸ばそうとするが、待って、とルカは言った。
「実はね、これ、一本だけ生姜三倍の激辛が入ってるんだよね。それが『当たり』。だから慎重に選んでね? 当たった人が王様ってことで、皆は王様の言うことをきくか質問に答えて下さーい」
「王様ゲームってやつね。あたし、それ初体験」
「ちなみに、耀助と那由他は未成年なので『当たり』を冷酒にするという案は廃案になったことをここにお断りしておきまーす♪」
「俺はそっちのほうが良かったな」
と、いささか淵は不服そうである。
「悪ふざけを仕込んでくるとき、ルカは多少の労は厭わないよな……」
やれやれ、といった口調で、ダリルはろくに吟味もせず一本をつかんだ。
「オレが王様になったら、ふふふ……夢がひろがるなあ」
「その好色な笑みを今すぐ引っ込めなさい!」
耀助と那由他も、
「じゃあ俺はこれ」
「こっちでいい」
カルキ、淵も選択を終えた。残った一本がルカの飲む瓶である。
「なら、飲んでみよっか、せーの」
当たりを引いてもみんな、しばらくは平然としてごまかすかな――とルカは思っていた。
けれど、
「なにこれ! なにこれっ! うわ気管入った!」
……那由他は、正直だった。ごほごほごっほごほと咳をして耀助に背をさすられていた。
王様決定。
「でも王様なんて予想してなかったから、どうしようかなあ」
「えっとー、ルカはねー、質問をしようと思ってた」
「どうせ変な質問だろ」カルキが唸る。
「そんな変なこと訊かないよう。皆の初恋教えてよ、っての。どう?」
「それ十分変なことだろ!」
これを聞いて那由他はアハハと笑った。
「だったらそれで! 初恋について知りたいな。あたし王様だから言わなくていいし」
「はーい、ルカはね、真一郎さん♪」
「おまえ、それが言いたかっただけだろう」
「それで次は淵ね!」
げ、と淵はあからさまに嫌そうな顔をしたがしぶしぶ言った。
「英霊となった今の人生で良いなら、御主らも知っておろうが……」
「えー、耀助たちは知らないよう」
ルカが茶々を入れる。
仕方がない。淵は当惑気味に、
「オメガ・ヤーウェ……さんと言ってだな……」
とまで言って、あとは腕組みして黙ってしまった。
「俺は『なし』だな。龍族の女性と会えねぇっての!」カルキノスが言う。
「シー・イーとかは?」
「幾らなんでも若すぎ! ほら、ダリルの番だろ」
「黙秘だ」
全員からブーイングが飛んだ。仕方ない、とダリルは片眉を上げて言ったのである。
「エレーナ・アシュケナージさんと言う同じ剣の種族の女性だ。今は地球に帰っているよ」
最後は耀助の番である。
「えー、オレか〜? 聞いたらみんな、引くと思うぜ」
「引かないよ〜」
ねぇ、とルカは一同を見回した。
「マジだろうな?」
「大丈夫、あたしも保証するから」
きっと那由他は、耀助の回答が一番知りたかったのだろう。眼をきらきらと輝かせている。
「知らないからな……えーと」
耀助の発言に全員の目が注がれた。
「お母さん」
…………。
ほらー、やっぱ引いた−! だからオレ言うのやだったんだよ−! ……という耀助の叫びが、蒼い空に飲まれていった。
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