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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 月夜の元、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)メルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)と共に月を眺めて歩いていた。泰輔はメルヴィアの1日オフの日に合わせ、お月見に誘ったのだ。
「最近なかなか会われへんかったんは、やっぱり少佐さんともなると任務で忙しいっちゅうことかいなぁ?」
「ああ、ニルヴァーナではまだまだ凶悪な生物や『スポーン憑き』のモンスターの対処に追われている。それだけでなく、シャンバラ教導団本校での任務もあるからな」
 メルヴィアは現在、ニルヴァーナとパラミタを行き来する忙しい日々を送っている。
 そんなメルヴィアを気遣い、泰輔は息抜きのためにお月見に誘ったのだ。
「まあ、今日は日頃の仕事の事は忘れて、ゆっくりしぃや。たまにはちゃんと息抜きしてもらわんと、本業も盛大に働かれへんやろ」
 にこにこと笑いながら、泰輔がメルヴィアのリボンに手をかけた。
「あ、こら、リボンを取るな……ああん!」
 ピンク色のリボンが泰輔の手に収まった時には、もうそこに元のメルヴィアの面影はなかった。

「メル、月にいるウサギさんに会いたいなぁ」
 池のほとりにある縁台に腰掛けたメルヴィアは、目をキラキラと輝かせながら頭上に輝く月を指差した。
「ウサギさん」
 泰輔はメルヴィアにお団子を一本とって渡すと、メルヴィアと同じように空を見上げた。
「……地球という星は、天文学的なことが色々明らかになってくるにつれて、ホンマに奇跡みたいな星やってわかってきた」
 メルヴィアは、泰輔の話にじっと耳を傾ける。
「太陽と月が一つずつで、見かけの大きさがほぼ同じ。衛星に過ぎない月も、火星の衛星とは違ってまんまるで美しい。自転周期と公転周期が同じやから、常に『同じ面』を地球に向けてるから、地球から見える――月の海、と呼ばれる部分が形作る――模様も、いっつも同じに見える」
「それって、ウサギさんがいつでも見える、ってことかなぁ?」
「ま、そういうことや」
 泰輔は月の周囲に煌めく、星々を見上げた。
「この時期だと、秋の星座が綺麗に見える時期やね。ペガスス座とアンドロメダ座は秋の大四辺形を作っとるし、カシオペアの『W』の字も綺麗に見える」
 メルヴィアは、興味深そうに泰輔の話を聞いている。
「カシオペヤは、娘のアンドロメダの美しさを自慢したために神々の怒りをかい、椅子に座ったまま星座にさせられた。アンドロメダも、アンドロメダが生け贄に捧げられそうになった化け物のくじらも、全部秋の星座として同じ空にある。
 空を見上げるだけで、そこに神話が見えてくるのが面白いところやね」
「かわいい星座はないのかなぁ?」
「もうしばらくすると、こいぬ座なんかが綺麗に見えるようになるで」
 それからしばらく泰輔たちは、星座の話に花を咲かせた。

「今日はありがとな」
 お月見を楽しんだ泰輔とメルヴィアは、帰り道を並んで歩いていた。
「こちらこそ、ありがとう! 色んな星座に会いたくなっちゃったよぉ」
「ん。こうやってたまには息抜きもせーへんかったら、ええ仕事できひんでー?」
 そう言って泰輔は、可愛いウサギのマスコットをメルヴィアに手渡した。途端に、メルヴィアの表情がぱっと明るくなる。
「これ、今日の記念。これ見て、ウサギさんのこと思い出してな」
「うん! メル、大切にするねぇ!」
 ウサギのマスコットをぎゅっと握りしめたメルヴィアは、泰輔に満面の笑顔を向けた。