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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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 第5章

 空京にある総合公園。
 開発が進んだ空京において自然を取り戻そうとでもしたのか、そこには沢山の木々が植樹されていた。森か林かというその中には細長く舗装された道が1本だけ通っていて、ファーシー達5人と風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)、彼のパートナーのテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)。そして隼人・レバレッジ(はやと・ればれっじ)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)はそこを通って多目的広場に到着した。公園内は、夏の肝試しもかくやという暗さだった。しかし、彼女達と同じく日の出を見ようと公園を訪れた者は多く、怯える要素は特に無かった。
「見晴らしがいいわねー」
「ここなら、綺麗な初日の出が見られそうですね」
「空の色も薄まってきましたし、そろそろかもしれませんわ」
 優斗とルミーナが言う中で、まだ誰も確保していない一角を見つけて足を止める。
「間に合って良かったな。林の中だと影が多くて上手く見えなさそうだし」
「おにいちゃんが寝坊するからだよ!」
「だってお前、あの時間に寝て4時起きは無理だろ……」
 隼人の言葉にピノが反応し、ラスが未だ眠そうにそれに応える。それに、日の出は去年見たし元々そう興味も無い。1回見れば充分である。
「全く、置いていけば良いものを……。夜明け前に着けたから良かったですが」
「あれ、アクアさんは初日の出が好きなんですか? 綺麗ですよね」
「す、好きというわけではありませんが……去年見て、まあ悪くはなかったので……」
「出てきたようだぞ」
 笑顔で話しかけてくる優斗に、アクアはどこか憮然とした表情でそう言った。灯姫が皆を促したのはその時で、アクアは急いで視線を前に戻す。去年の初日の出は悪くなかったどころか感動すらしてしまったので、実は楽しみにしていたのだ。
 てっぺんを覗かせた太陽は、ゆっくりゆっくりとその朱色の全容を彼女達の前に晒していく。まんまるのその姿を見て、ミアとテレサが感嘆の声を上げる。
「……うわあ、すごいねー……」
「綺麗ですね……今年は、何か良いことがありそうです……」
 具体的に言えば、優斗とラブラブな関係になれるような気がする。特にそんな慣わしはないのだが、流れ星に祈るような気持ちで2人は願う。勿論、後で神前でも願うつもりなのだが――
(優斗お兄ちゃんのお嫁さんになれますように……!)
(優斗さんが婚姻届に判を押しますように……!)
(…………)
 何かを願っている彼女達に倣って、灯姫も日の出に願おうと考える。導き出された願いは、世界が平和でありますようにというものだったが、そこには優斗が更生しますようにという願いも込められていたかもしれない。何せ、彼女はミアとテレサととある軍師に彼の素行不良について良く聞いていたから。
「お2人共、恋する女の子の顔をしていますわね。お力になれそうな事があったら何でも言ってください。協力しますわ」
「ル、ルミーナさん、そんな事を言ったら……」
 後でどうなるか分からない。
「えっ……、本当!?」「えっ……、本当ですか!?」と食いついたミア達の勢いを前にしながら、隼人は内心で冷や汗を掻くのだった。

              ◇◇◇◇◇◇

「にゃ〜」
 皆と一緒に初詣だ。と、ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)は机の上の座ってリズムよく足をぶらぶらさせていた。にゃ〜、という言い方も楽しそうで、うきうきとしているのがよく分かる。
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)に着付けしたもらったちびあさにゃんは、ピンク色を基調とした晴れ着を身に纏っていた。後ろ髪に、牡丹の花をあしらった髪飾りをつけている。可愛らしさを重視したその着物姿はよく似合っていて、それ即ち、榊 朝斗(さかき・あさと)に着せても良く似合うということなのだが――
(……今年は朝斗との関係を進展させないとね)
 アイビスと自分の着付け待ちをしているちびあさにゃんを横目にしながら、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)はうずうずする心を抑えてそう思った。朝斗は今、ラフな冬服を来て部屋の外で待っている。本当は、彼にも着物をつけてあげたかった。けれど、今の関係――イヤがる彼に何だかんだで女装させて楽しむような関係――をいつまでも続けていたら、アイビスに……
「…………」
 ちら、と、こちらも着付けをしているアイビスを見遣る。買い物に行った時に聞いた時の、子供が産めるという彼女の告白、そしてその時に聞き、問われた話を思い出す。
 今の関係は楽しいし居心地が良いけれど。
 居心地が良いという事は幸せを感じるということで。
 だから、朝斗の隣で連れ添うのは、自分がいい。
 そう、自覚したから。
(朝斗との関係を進展させなきゃ……絶対に……)
 ルシェンは気合いを入れて、着物の調整をしていく。アイビスの着付けは早くも終わりそうで、着物姿を朝斗に披露する時まであと少しだろう。
「うん、これでいいかな」
 満足する出来になったのか、アイビスは鏡の前で頷いた。
「もう出来たの?」
「ファーシーさんとの約束の時間までまだあるけど、朝斗を待たせるのはちょっとね……」
 着物の衿を軽くつまみ、彼女ははにかんだ笑顔を浮かべた。そして、「さあ、行こう」とルシェンを促す。
「そうね。行きましょう」
「にゃー!」
 内心を表に出さないように普通に応え、ルシェンは机の上のちびあさにゃんを肩に乗せて彼女に続いた。

「それにしても……やっぱり女性陣の着付けって時間かかるもんだなぁ」
 その少し前、居間で適当に時間を潰しながら朝斗は何度となく時計を見遣った。
『ファーシーさんたちと一緒に初詣いかない?』とアイビスに誘われて一緒に初詣に行く事になって、支度を整えてこうして待っているのだけれど。
 待ち合わせ時間まではまだ全然余裕があるが、待たされる朝斗としてはやっぱりちょっと暇だったりする。
「……和服姿のルシェンとアイビスって、どんな風になるんだろうなぁ」
 普段は洋装の多い2人なので、何となくの想像は出来るがはっきりとした輪郭を伴う想像ではなくて。
 だから、彼女達が出てきた音を聞いて、少しどきどきした。そして――
「お待たせ、朝斗」
 見慣れないというのもあるだろうが、朝斗は着物姿のアイビスとルシェンを前にして少し惚けた。アイビスは白地に翡翠色の模様が入ったシンプルな着物で、百合の髪飾りでショートカットの一部を留めていた。一方、ルシェンは黒地に薔薇の模様が入った着物に身を包んでいた。いつも下ろしている長い髪はアップに纏め、黒薔薇の髪留めで飾っている。
 それぞれが彼女達らしく、思った以上に美しかった。アイビスからは透明な純真さが、普段より大人びて見えるルシェンからは気品が感じられる。
 気品なんて、毎日の生活で自覚することなど殆ど無いのに。
「…………」
「どうしたの?」
「え? あ、ううん……2人とも、すごく似合ってるよ」
「にゃー、にゃー!?」
 アイビスに聞かれて慌てて答え、ちびあさにゃんの抗議に気付いて付け加える。
「うん、ちびあさももちろん可愛いよ。じゃあ、そろそろ行こうか」

「皆様、あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いしますであります!」
 空に日が昇るのを見届け、優斗達を含めた全員でチェラ・プレソンに戻ると着付けの準備はもうばっちりと出来ていた。ファーシー達を迎えに出てきた向日葵柄の着物姿のスカサハは、周囲が一気に華やぐような笑顔を浮かべて元気に言う。
「やっふー! 新年でありますよ!」
 そんな彼女の隣には、丹後ちりめん柄の着物を着た大人しそうな少女が立っていた。初めて会う筈なのにどこか懐かしいような感じもして、ファーシーは小さく首を傾げる。
「…………?」
「あ……」
 それとほぼ同時、背後で極小さな声が漏れた。小さすぎてファーシーは気付かなかったが、そこではフィアレフトが僅かに目を見開いていた。驚きを露わにする彼女に、少女は控えめな微笑を浮かべる。
「お友達かな? すっごく可愛い子だね!」
 ピノが言うと、スカサハは笑顔を弾けさせて一歩前に出た。
「皆様に紹介するでありますよ! なんと、スカサハに弟子が出来たのであります!」
「弟子?」
 予想外の単語に驚くファーシー達に向け、少女は丁寧に礼をする。
「初めまして、皆様。弟子の満月・オイフェウス(みつき・おいふぇうす)です。諸事情でこの時代に来ました。よろしくお願いします」
「? この時代? 諸事情?」
(……どういうことでしょうか)
「…………」
 自己紹介の中に入っていた単語の意味が分からず、ファーシーは少し混乱した。アクアも、眉を顰めて少女を見る。その解が出る前に、次の問いが出る前に、言葉を失っていたらしいフィアレフトが口を開いた。
「うん、よろしくね、満月ちゃん! 私はフィアレフトっていうの」
「……はい。よろしくお願いします」
「機晶技術を学ぼうと弟子になってくれたのであります! これもスカサハが調律師にレベルアップした影響でありましょうか♪ 来年は今以上に機晶工学関連で活躍するでありますよ!」
 スカサハはそうして、着物の袖口を摘んでわくわくとした様子で言った。
「さあ、皆様、着物の準備はバッチリであります! 大丈夫、スカサハに任せるでありますよ!」