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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【ひみつ!】


「はあ……ちょっと疲れたあ」
 作業台に凭れる様に伸びをするジゼルに並んで、豊美ちゃんも同じ様に伸びをする。工房にきてから一時も休まずに手を動かしてきたから、流石に身体が凝り固まっていたのだ。
「ずっと集中してましたからねー。流石に疲れちゃいました」
「少し休んだら?」
「あ、アレクさん。ありがとうございます、頂きますねー」
「ミルクと砂糖多めにしといた」
「良い香りですねー……」
 アレクが差し出したココアを受け取って、豊美ちゃんが鼻孔をくすぐる甘い香りに目を閉じていると、隣の作業台から鼻歌とミシンの音が聞こえてきた。
 フットコントローラーを操作する遠野 歌菜(とおの・かな)の傍に移動して、三人は彼女の作業風景を見下ろしてみる。
 何かの洋服を作っているらしいが、彼女の手元で既に完成し丁寧に畳まれている他の人形用の服に比べ、かなりサイズが大きいようだ。豊美ちゃんが向こうの作業台をちらと見た限り、これ程大きな服を待つ、裸の人形はいないようだが――。
「でけぇな」
「お人形さんやぬいぐるみさんのお洋服じゃない……のね?」
 小首を傾げたジゼルに振り返って、歌菜は今出来たばかりの部分を三人の前で広げてみせた。
 どうやら彼女が作っているのは人間の――それも男性の服らしい。未だ未完成のそれを見て豊美ちゃんとアレクが何を作るつもりか頭の中で推測していると、作業台の上の金モールを見たジゼルが声をあげた。
「エポーレット……、王子様のお洋服ね!」
「せいかー……大きめの人形衣装だから、これは!」
 慌てて言い直した歌菜は「羽純くんには気づかれないようにしたいんです」と小声で付け足した。どうやらこれは彼女の夫月崎 羽純(つきざき・はすみ)にプレゼントするものらしい。
「羽純くんといえば王子様ですしっ」と言い切る彼女に、三人は納得してうんうん頷いている。
「サイズも完璧なんですねー、流石奥様です」
 褒める豊美ちゃんに「えへへ」と笑って、歌菜は何かを思いついたのか手をぱちんと合わせた。
「そうだ、豊美ちゃんとジゼルちゃんも作ってみたらどうですか?」
 彼女の振りが果たしてそういう意図だったかどうかは主語が抜けていた為分からないのだが、ジゼルと豊美ちゃんは同時にアレクを見上げていた。
 欧州の貴族や王族は義務として国に仕えるという考えからかつては戦闘を指揮する立場であったし、現在でも軍属であるものが多い。その流れを汲んでいるのか軍のメスユニフォームだとかドレスユニフォームだとか華美なものは、ジゼルの目から所謂『王子様の服』と対して代わらないように見えた。大体アレクの出身を考えれば色々と洒落にならないと思い当たり、ジゼルが頭の中の想像を打ち消していると、実際アレクはその話題を嫌って背中を向けキッチンへ向かって歩き出している。
 そんな時に豊美ちゃんがこっそりジゼルを呼んだ。
「アレクさんはどんな服が似合うでしょう」
「どうかしら……お兄ちゃん、ファッション何時もテキトーだもん。軍服と戦闘服と基地で着るTシャツばっかり」
「だとすると、あまり派手なのはもらっても困っちゃいますね。……パジャマなんてどうでしょう」

 豊美ちゃんの小声の提案に、ジゼルは暫く考え込んで首を横に振った。寝室に居る時のアレクの格好を思い出してみると、夏は所謂パンイチだったし、冬はジャージにTシャツだったからだ。
 そんなジゼルの回答を受けて、豊美ちゃんはうーん、と考え込む。パジャマなら(アレクさんがお休みの時に安心して休んでもらえるかな)、と思ったのだが、どうやら難しそうだ。
「――だったらそれこそぬいぐるみでいいと思うわ。お兄ちゃんのベッド大きいから、枕元に置いておけるもの」
 ジゼルに自分の意図を話せば、良い意見が返ってきた。
「じゃあアレクさんのぬいぐるみを作りましょうー」
 豊美ちゃんの無邪気な言葉に、ジゼルは「え!!」と驚愕する。
(アレクがアレクの形をしたぬいぐるみと一緒に寝るの……?)
 想像するとそれはシュールな光景だし、無防備にベッドルームに飾っておけば誘拐されてしまう可能性もある。例えばお兄ちゃんが大好きな彼女とか……。
「んー……お兄ちゃんにあげるなら、豊美ちゃんのぬいぐるみさんのほうがいいと思うの。たとえばこんな感じで……」
 ジゼルが余っていたパターン用紙に鼻歌混じりにペンを走らせる。
「お兄ちゃんは可愛いものがすきー♪」という歌詞と共に出来上がった絵は、兎の着ぐるみを着た豊美ちゃんだった。
「わ、そうですか。私が私のぬいぐるみを作るのはなんだか恥ずかしいですけど……分かりました。
 じゃあ、早速作りましょう」
 豊美ちゃんがジゼルと二人で席に戻る。その後黙々と作業に没頭し、皆の作業が終わる頃に歌菜の作った服も綺麗にラッピングされて手元に戻ってくる。そこにメッセージカードを添えたらいよいよ完成だ。
 同じぬいぐるみ制作の班に居たものの、羽純は気づいていないだろう。勿論こちらをちらちらは見たりしてきたのだが、そこは豊美ちゃんとジゼルが上手くガードしてくれていたのだ。
 しかしいざ、プレゼントするシーンを思い描いてみると、歌菜は今からもう緊張してしまうのだ。
(羽純くん、喜んでくれるといいんだけど……渡す前から不安になって来ました!
 だって、私の趣味100パーセントだしっ。
 ああ、どうしよう……!)