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2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

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2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

リアクション



咲け、咲け!


 打ち上げ機では人や物だけではなく、普通の花火も打ち上げられている。
「綺麗ですね」
 夜空に咲く花を見ながら、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は微笑みを浮かべた。
「神楽崎も一緒に、来れたら良かったな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がそう言うと、アレナは素直にこくりと首を縦に振った。
 2人は会場の端の、目立たない場所に座って華美や祭りを観賞していた。
 話したいことがあったため、ダリルがアレナをここに誘ったのだ。
「神楽崎の回復は順調か?」
「……はい。リハビリを始めたところです。やりすぎて、お医者様によく怒られてます」
「そうか……神楽崎らしいな。
 アレナが元気だと神楽崎の回復も早まる。土産を持って帰って、土産話を沢山聞かせてあげれると良いな」
 アレナは微笑んだまま、またこくりと頷いた。
 それから2人は少し、沈黙をした。
 アレナは花火を見ていたけれど……花火よりも遠くを見詰めているような目をしていた。
「何を考えている? ……いや、聞かずとも察しがつくが」
 ダリルの言葉を受けて、アレナが彼に目を向けた。
 優子の見舞いに行った時、ダリルはアレナの寂しげな言葉を聞いていた。
「アレナは今のままで十分神楽崎の役に立っている。
 そもそも神楽崎とは家族なんだから、役に立つ立たないの問題でもない。……だが、アレナの悩みも、解る」
「……」
「剣として、神楽崎の力になりたいんだな」
 アレナは少し沈んだ顔で「はい」と答えた。
「もし今から話すことが我慢できなかったら殴って良いからな」
 そう前置きをしてから、ダリルは話しだす。
「星弓を復活させたいと思うか?」
 その問いに、アレナは少し目を大きくして。ダリルの瞳を見つめた。
「可能かどうかは分からない。復活したら戦いに巻き込まれるかもしれない。
 それでも足掻く価値は有ると思う」
「……」
「閉じた扉や蓋は隙間に鏨を入れて開ける事が出来る。
 合鍵を作って開ける事も出来る。内側からぶち破る事もできる」
 ダリルもアレナの瞳を見つめながら、言う。
「俺が出来ることなら手伝う」
 アレナは何度か瞬きをして、それから少しさみしげな笑みを浮かべた。
「ありがとう、ございます。
 私は――光条兵器、取り出せるようになりたいです。
 優子さんの剣として、優子さんの側にいたいです。剣として必要とされたいと、思ってきました」
 でも、とアレナは言葉を続けていく。
「優子さんは、あまりそれを望んでない……みたいです。だから、光条兵器を取り出せるようになっても、剣として生きる事は出来ないかもしれません。
 それに、ダリルさんが言った通り……復活したら戦いに巻き込まれる――命を狙われることもあるかもしれません」
 十二星華の持つ星剣は持ち主を殺した者が、新たな所持者になるから。
「自分の身を守れるくらいの強さは持ち続けていたいですし、優子さんの剣として戦うことは嬉しいこと、ではあるんですけれど……。
 ただ、最近少し、怖い、とも感じるようになりました」
 アレナは優子と共に死にたかった。
 優子の死を恐れてはいなかった。
 優子が戦場で死んだ時、優子の一部として自分も一緒に逝こうと思っていた。
 死は楽になれることであり、アレナはそれを望んでいた。だけど、今は……。
「今、私には大切な人、いるんです。一緒にいて楽しい人、嬉しい人、たくさん出来たんです。
 私を助けてくれる人や、守ろうとしてくれる人……いるんです。
 皆に、怪我してほしくないです。大事なんです。ずっとずっと一緒にいたいんです。一緒にいられる時間、本当に短い、ですから……っ」
 アレナの言葉に、ダリルはふうと息をついた。
「なるほどな……。今のアレナは、普通の女の子として生きたいとも思っている」
 その言葉に、アレナはびくっと震えた。
「ごめんな。折角の祭りなのに」
 彼女の反応を見て、ダリルは謝罪した。
「どう言おうか長い間迷ってたんだが、結局こんな言い方しか……。
 一番苦しい君を、更に苦しめてしまう」
 ダリルが頭を下げると、アレナは強く首を左右に振った。
「大事なこと、教えてくれてありがとうございま、す……。
 多分、これが優子さんの私に対しての気持ち、なんだと分かりました。
 剣として戦死して楽になることじゃなくて、
 大切な人たちと、人として生きてほしいって。
 私に対して、そう思って見守ってくれていたんだって」
 そして今、アレナはそう思えるようになってきた。
「私は……優子さんの剣で“も”ありたい。
 欲しいのは星弓じゃなくて、光条兵器なんです。普通の剣の花嫁として、優子さんの剣でありたい。普通の“人”として、大切な人と……一緒にいたい」
 涙をぽたりと落しながら言ったアレナの言葉に、ダリルは強く頷いた。
「アレナの望みを叶えるために、力を貸そう」
 言って、ダリルや手を指しだして、アレナと指切りをした。
「さ、気持ちを切り替えて祭りを楽しもう」
 そう言ってダリルがアレナの手を引いて立ち上がった途端。
「ダリル〜、アレナ〜、見てみて、こんなにキャッチしちゃった♪」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がポムクル達とともに、打ち上げられたお菓子を大量に抱えて走ってきた。
 ただ、中身は殆どなかった。
「そういえば、こんなものもあったよ。はい、アレナ」
 ルカルカはアレナにパラシュートのついたCDを渡した。
「これは……『オレの優子を讃えるCDサマーバケーションバージョン』……あ、番長さんのお歌ですね」
 若葉分校の番長作詞作曲のCDだ。
「帰ったら優子さんに渡します」
 アレナは嬉しそうに鞄の中にCDをしまった。
「次は、屋台で焼きそばでもー」
 もぐもぐお菓子を食べながら歩くルカルカ&ポムクル達に。
「お前らどれだけ食べたら気が済むんだ!」
「美味しそうな笑顔、可愛いです」
 ダリルは苦笑し、アレナは笑みを見せた。

☆ ☆ ☆


 天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は、この時間をとても心待ちにしていた。
「さあ、いんぐりっとちゃん、私達の番だよ。用意はいいかな?」
「もちろんですわ」
 結奈が星型のクッキーの包みを出して言うと、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)はハート型のクッキーの包みを見せて微笑んだ。
 今日は、恋人同士仲良く一日を過ごしてきた。
 当然、この打ち上げ華美も楽しく過ごすつもりだ。
 二人のクッキーや他の参加者のお菓子がリーア特製の打ち上げ機にセットされる。
 操作しているのは若葉分校生のようだ。
「あのあたりに落ちるから、準備ができたら言ってくれ」
 と、示されたところへ二人は走る。
 落下地点として用意された広場だ。
 ところどころ土の色が変わっているのは、打ち上げられた人がキャッチされずに地面に突き刺さった後始末のせいかもしれない。
 周りの様子を確認した結奈が打ち上げ機のほうへ手を振った。
「いいよー!」
 よっしゃあっ、と返事の後に、たくさんのお菓子が夜空にポーンと打ち上げられた。
「思ったより高いですわね。どこかしら……」
 お菓子達は夜の色に同化して、見えなくなってしまった。
 結奈もイングリットも、目を凝らして探す。
 やがて、パッ、パッとお菓子に括りつけられていたパラシュートが開いた。
 結奈がそれを指さす。
「落ちてきた!」
「さあ、キャッチしますわよ!」
「おー!」
 それぞれ落下点に駆け出す。
 結奈は滑り込むようにお菓子を両手で受け止めた。
「これは! いんぐりっとちゃんのクッキー、つかまえた!」
 見ると、イングリットも何かのお菓子を無事にキャッチし、結奈に見えるように掲げていた。
 それから二人は華美見物に移った。
 イングリットのクッキーや煎餅を食べながら、次に打ち上げられたお菓子や人間を見ては結果を予測し合う。
 先ほど打ち上げられたパラ実生は、見事に頭から地面に突き刺さりまるで卒塔婆のようになっていた。
「ねぇ、いんぐりっとちゃん。このお菓子、すごくおいしいと思わない?」
「ふふふっ、一度空高く飛んだんですもの。特別かもしれませんわね」
「じゃあさ、私も飛んだらもっともっといんぐりっとちゃんの特別になるかな」
「それは、まさか……」
「見てたら私も打ち上げてもらいたくなっちゃった。だから、いんぐりっとちゃん。しっかり受け止めてね」
「あ、危ないですわよ」
「へーきへーき。信じてるもん」
 屈託なく笑ってそう言われるとイングリットも断れないし、何がなんでも受け止めてみせようという気になる。
「ええ。安心して飛んでください。あなたのことは、このわたくしが必ず抱き留めてみせますわ!」
 イングリットは頼もしげに胸を叩いて言った。
 結果は、いっそう想いが深まった二人の様子がすべてを物語っていた。
 結奈と同じ打ち上げに、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も参加していた。
 二人共、今日はいつもの格好ではなくラフな普段着で夏祭りを楽しんでいた。
 セレンフィリティはスカイブルーのタンクトップとデニムのショートパンツ、セレアナはオフショルダーTシャツとキャミソールを重ね着し、下はスリムパンツを合わせていた。
 ちょうど夏季休暇期間に入ったので遊びに来ることができたのだ。
 二人は昼間は契約の泉で泳いだり、肉球拳でお互いに生えた耳や尻尾を触って遊んだり、フリーマーケットで冷かしたり衝動買いしたりと、今まですれ違っていた分を取り戻すように過ごした。
 そして夜の部で楽しみにしていた打ち上げ華美。
 セレンフィリティは張り切ってお菓子を作る予定だったのに、何故かセレアナに必死に止められてしまい、仕方なく店で買ったクッキーや煎餅になったのだ。
 そして、捕まえたお菓子は星型のクッキーだった。
 味も形も良いクッキーを食べながら、セレンフィリティは少し不満そうにこぼす。
「もぅ、どうしてダメって言うかなぁ。おいしいクッキーをあげたかったのに」
 セレアナは、内心の動揺を押し殺して恋人にやさしく言い聞かせた。
「セレンが作ったお菓子を、私以外の人が食べるなんて嫌よ」
 甘えるように寄り添えば、セレンフィリティは機嫌を直してあっさりと引き下がった。
 実は、彼女の料理はとても攻撃的なのだ。
 殺人兵器だとかナラカ人も死ぬだとか食物ブラクラだとか、そういう評価には事欠かない腕だ。
 そんなものを打ち上げ華美でばら撒かれては大惨事になってしまうと恐れたセレアナが、身を挺して止めたというわけだ。
 そして残念なことに、セレンフィリティ本人はこのことをまったく自覚していなかった。
 それどころか、自分は宇宙一の天才料理人だと思っている。
「セレン、お茶もあるわよ」
「ありがと」
 水筒から注がれた麦茶を受け取ったセレンフィリティが、その姿勢のままセレアナを見つめる。
 すれ違いが続いていたセレアナが、やっと戻ってきてくれた。
(ううん。あたしがセレアナのところに帰ってきたのかな。あたしはダメな……本当にダメな女だけど、だからこそどうしてもセレアナのことを離したくない)
 そう思ったとたん、セレンフィリティは居ても立ってもいられなくなった。
 麦茶を一気に飲み干すと、すっくと立ち上がる。
「あたし、ちょっと行ってくる! ここで待ってて!」
 セレンフィリティは、セレアナが止める間もなく走り出した。
 突然置いていかれたセレアナは、呆然と小さくなっていく後ろ姿を眺めていた。
「行ってくるって……どこへ?」
 携帯に手を伸ばしかけて……やめる。
「いいわ。待ちましょう」
 理由もわからぬまま待ち続けてどれくらい経っただろうか。
 華美が打ち上げられた。
「セーレーアーナー!!」
 どこからか響いてくる恋人の声に、セレアナはハッと顔を上げた。
 瞬間さまよった視線は、すぐに上空の一点に定まる。
「まさか、打ち上げられに行ったの?」
「あたし、あなたが好き! 大好きー!」
 夜空に響き渡る告白に、セレアナは目をまん丸にして呆気にとられ──次の瞬間には真っ赤になっていた。
「な、なんてことを……!」
 ドキドキと高鳴る胸を押さえるが、静まる気配はない。
「セレンたら、いつだって突拍子もないんだから」
 それでも、恥ずかしさと同じくらい、嬉しかった。
 戻ってきたら、どう答えようか。どんなふうに迎えようか。
 ひとまず、最初の言葉は、
「ばか」
 かもしれない。
 でも、その後はきっと思い切り抱きしめるだろう。

 屋台で広島焼きを買ったリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は、打ち上げ華美がよく見える場所を探して歩いていた。
「打ち上げ華美が始まったのは二年前の七夕イベントの時だったかなぁ。まだ種もみ学院とかもなかった頃ね」
 当時を思い出しながらリネンが言った。
「その七夕イベントには参加したの?」
「ええ。短冊を飾ってね……」
 あの頃からフリューネに好意を持っていたリネンは、短冊に書いて願ったのだ。
『フリューネと、いつまでも一緒にいられますように』と。
 実際は、照れもあって『フリューネ』の部分を『みんなと』と書いてしまったのだが。
 リネンはおまじないを信じるほうではない。
 しかし、今こうしてフリューネと家庭を持つことができたということは、ひょっとしたら短冊にこめた願いが叶ったからかもしれない。
 その時、一緒にいた仲間もリネンの幸せを願ってくれていた。まだエルフトの姓だった。
(今思うと、すごく必死だったな……)
「リネン、急に黙ってどうしたの。短冊を飾って、それから? 何か願い事を書いたの?」
 フリューネに顔を覗き込まれ、我に返るリネン。
「う、うん……ちょっとね……その短冊に書いた願い事がね──や、やっぱり恥ずかしい!」
「何で恥ずかしがるの? 願い事が叶ったなんて素敵じゃない! ねぇ、何て書いたの?」
「え!? き、聞きたいの?」
「教えてくれるなら聞きたいな。無理にとは言わないけど」
「え、ええと……ね」
 叶ってしまった願い事を言うだけ。
 簡単なことなのに、どうしてこんなに緊張してしまうのか。
 宝くじが当たった、ならばさらりと言えるのに。
 そして、緊張が緊張を呼び、リネンは頬が熱を持っていくのを感じた。
 すっかり困ってしまった彼女の様子に、フリューネはくすくすと笑う。
「そのうちでいいよ。今日はリネンの困り顔をたっぷり見れたし」
「フリューネ、楽しそうね」
 リネンが軽く唇を尖らせると、その先をふにっと押された。
「困らせてごめんね。ほら、もうじき打ち上げみたいだよ。行こう」
 やさしく微笑んだフリューネがリネンの手をとった直後、ドーンと打ち上げられた音が鳴り響いた。
「あっ、始まっちゃった! お菓子狙ってたのに! フリューネ、走るわよ!」
「次のでもいいんじゃない? リネン、待って!」
 とられた手を握り走り出すリネンに、フリューネは必死についていく。
 走っているうちに、どちらからともなく楽しげに笑い出した。
「打ち上げられてみるのもいいわね!」
「自分で飛んだらダメよ、フリューネ」
「それはむずかしいなぁ。私が飛ぶのは瞬きをするのと同じくらい自然のことだもの」
「じゃあ、私が打ち上げられてみようかな」
「ちゃんと装備を置いていくのよ」
「裸足かぁ……」
 打ち上げられるかどうするか、他愛のないおしゃべりは、次に発射されたお菓子をキャッチする間も続けられたのだった。