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黄金色の散歩道

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平和の園〜切ない思い出〜

 ハーフフェアリーの村の外れにあるガラス工房ではガラス工芸を体験することが出来る。
「セレアナ、こっちよ」
 少しの散策をしてから、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)をここに連れてきた。
 2年ほど前、セレンフィリティが訪れた時。
 隣にセレアナの姿はなかった。
 2人は長い間すれ違っていたから。
 でも今は、セレンフィリティとセレアナは強い絆で結ばれている。
 そう、2人は長い長い紆余曲折を経て、結ばれたのだ。
 3年もの彷徨の果てにやっと、セレンフィリティは大切な人の元に戻った。
 ここにしか戻れる場所はなかったから。
 もう二度と、離れたくないと互いに思い、2人は結婚をした。
 2人だけの結婚式をあげた後で選んだ新婚旅行先がここ、ハーフフェアリーの村だった。
(2年前は一人だった。とっても悲しい思い出だけが残ってる……1人でいることが、あんなにも辛くて、好きな人との距離が広がっていくことが、こんなにも痛くて……)
 思い出すだけで、涙が浮かんでしまう。
 本当に本当に辛い思い出だ。
「あれ?」
 セレンフィリティは工房に近づいて、不思議な感覚を覚える。
 一度来たことのある場所だ。だけどなんだろう。
 知らない場所のように感じる。
 建物は古く、建てかえたり塗装した様子もないのに。
(そういえば、何も覚えていない)
 2年前に来た時、村の中をどう回ったか、どこを見たか……。
 覚えているのは、この工房でガラス細工を作ったことだけ。
 考えないようにしていたはずなのに、やはりセレアナの事を考えてしまっていたという、記憶だけ。
「どうしたの?」
 辺りを見回しだしたセレンフィリティにセレアナは不思議そうに声をかけた。
「なんかね、2年前のことよく覚えてないなって。
 2年前も、一緒に来たかったんだけど、セレアナはあの時、公務で来れなかったんだよね?」
 苦笑気味な顔で、セレンフィリティがセレアナを見た。
 その瞳には哀しみの色が滲んでいて、セレアナは胸に痛みを感じた。
 少しの間、一緒に風景を眺めて。
 2人で初めて見る、美しい村の姿を楽しんだ。
 ただ、歩いているだけなのに、村を眺めているだけなのに。
 セレンフィリティの心が満たされていく。
(あの時、一緒にいたかった……一緒に硝子細工を作りたかった。あの時の硝子細工は結局持ち帰れなかった。辛かったから)
 それでも、切ない思い出は消えない。

「変わってないなー……って、少しは覚えてるみたい」
 工房の中に入って、ガラス細工を始めると、2年前の記憶が少し、セレンフィリティの脳裏に浮かんできた。
 作っているのは、ガラスのブローチ。
 今度は2人で一緒に同じものを作っている。
 セレンフィリティは2年前と同じように丁寧にブローチを作っていく。大雑把な彼女だけれど、この時ばかりは真剣に、繊細に。
 最愛の人のために心を籠めて……。
 セレアナも同じように、セレンフィリティへの想いを込めて、真剣に繊細な細工のブローチを作っていく。
 形が出来て、冷やしている最中のことだった――。
「どうぞ」
 と、工房を営んでいるハーフフェアリーの店主が、セレンフィリティに小箱を差し出した。
「え? 何、サービス?」
 なんだろーと、わくわく中を見たセレンフィリティの顔が、驚きの表情へと変わる。
 覚えている。しっかりと確かに覚えている。
 これは――2年前、自分が作ったもの。
 持ち帰れなかったフリージアの押し花ガラス細工だった。
「あ……」
 途端、セレンフィリティの目から涙がボロボロと零れ落ちた。
「セレン」
 心配そうにセレアナは声をかけ、彼女の手の中のものを見て全てを悟る。
 フリージアは自分の誕生花であり、好きな花だ。
 ここに一人で訪れたセレンフィリティが、過去に自分を思いながら作ったものなのだろう、と。
「渡せなかった、あの時、は……」
「……ええ」
 互いに声を詰まらせる。
「これ……2年前に作ったままで……今さらって感じもするけど……受け取ってもらえるかしら?」
 差し出されたセレンフィリティの手に、セレアナは手を伸ばした。
「ありがとう」
 そして、彼女の手ごと包み込んで、瞳を潤ませながらお礼を言った。
 今の想いと共に、セレンフィリティの2年前の想いも今、セレアナは大切に受け取り、二人の心が深い愛に包まれる。