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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~

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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~
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【西暦2028年 9月下旬】  〜金鷲党の最後〜

 東野藩は広城城下にある、とある高級料亭。
 その離れで、一人杯を重ねていた羽皇 冴王(うおう・さおう)は、わずかな物音に耳をそばだてた。
 誰か、中庭にいる――。

「そこにいるのはわかってんだ。出てこい」

 冴王は、杯を重ねる手を止めもせずに言った。

「お久しゅうございます、冴王様」

 庭木の影から、一人の男が姿を現した。
 玲瓏な容姿をしているが、触れれば切れるカミソリのような、危険な印象を与える男だ。

「オマエ、確か悪路の――」
「はい。悪路様にお仕えしておりました、青霧(あおぎり)にございます」

 冴王達が四州にいた頃、青霧は、悪路の側近を務めていた。手下の中では一番の切れ者である。
 冴王達が四州を去ってからは、青霧が、四州地下連合の頭目を務めている。

「遅ぇぞ。後一日遅かったら、オレ一人で始めちまうトコロだった」
「申し訳ございませぬ。冴王様にお声掛けするのは、テロリスト共の居場所が分かってからと思いまして」

 青霧の言うテロリストとは、鏖殺寺院地球派の者達である。
 かつて由比 景継(ゆい・かげつぐ)の下にいた生き残りが、復仇を果たすべく、四州に舞い戻ってきたのだ。
 狙いは、来月1日に予定されている、四州統一選挙の妨害。
 妨害といっても、各地の投票所を一斉に襲撃し、市民を数百数千人という単位で虐殺しようという、相当に陰惨な計画である。

「フン、気ぃ使ったつもりかよ。それで?連中は何処にいる?」
松村 傾月(まつむら・けいげつ)と、その配下がこの東野に。小津 将介(おづ・しょうすけ)の一党が西湘。武田 旭(たけだ・あきら)は北嶺、武田 孫四郎(たけだ・まごしろう)は南濘に潜伏しております」
「詳しい場所は?」
「既に、掴んでございます」
「連中は、時期を合わせて一斉に蜂起するはずだ。オレは、松村のクソジジイを殺る。残りは、オマエらに任す――出来るな?」
「必ずや」
「よし。襲撃のタイミングは、オマエに一任する。その時が来たら呼べ」
「畏まりました――それともう一つ、お耳に入れたいコトが」
「あん?なんだ?」
ドクター・ハデス(どくたー・はです)とその一党が、四州に潜伏しております」
「ハデスぅ!?なんだ、また『世界征服は四州から!』ってのか?しつっけぇなアイツも!!」
「そのようにございます」

 うへぇ、という顔をする冴王。

「いかが、なさいますか?」

 冴王の反応が余程面白かったのか、青霧の鉄面皮にも、笑みが浮かんでいる。

「ほっとけ。アイツらが動いても、99%問題にはならねぇ」
「……残りの1%は?」
「その場合は――オレ等が動いてもどうにもならねぇ」
「なるほど。ご明察にございます。では、ハデスの対応は政府の契約者達に任すと致しましょう」
「おお。そうしろそうしろ」

 話は終わった、とばかりに、ヒラヒラと手を動かす冴王。「下がれ」という合図だ。

「では――」

 青霧は、深々と頭を下げると、その姿を消した。


 数日後――。
 冴王と四州地下連合は、一斉にテロリストを襲撃した。
 自分達の潜入が気づかれているとは思いもよらないテロリストは、ろくな反撃も出来ずに殲滅され、松村傾月以下各地のリーダーは、部下を捨てて逃げた。
 彼等は、由比景継の家宰であった、三田村 掌玄(みたむら・しょうげん)を頼って落ち延びた。

 御上は、雄信を始めする諸藩の藩主に、掌玄の助命を乞うた。

「掌玄は、いわば景継の道具のような物。罪があるのは人を殺した犯人であり、人殺しに使われた道具ではありません。掌玄は、『赦されるならば景継の墓地に一社を構え、終生、主の霊を慰めたい』と話しています。景継が、首塚大神の如き祟り神とならぬように、その願いを叶えてやるのがよろしいかと思います」

 御上の、この理を尽くした訴えを、藩主達は認めた。
 掌玄は、景継の墓の側に作ったあばら屋で寝泊まりしながら、毎日木々を切り出しては、景継を祀る社を建てた。
 そうして、一年余りかけて粗末な社が完成してからは、日夜、景継のために祈る日々を送った。

 傾月達は、そんな掌玄を頼ったのである。
 掌玄が、素直に受け入れる筈は無かった。
 掌玄は、彼等を、以前、自分が景継と潜入した洞窟に案内すると、その足で、四州地下連合に連絡を取った。

「う、裏切ったな掌玄!」

 冴王や青霧達と共に戻ってきた掌玄を見て、傾月は烈火の如く怒った。
 掌玄は、眉一つ動かさずに言った。

「裏切ったなどとは笑止千万。私は、亡き景継様の臣であり、お主等の臣ではない。お主等と行動を共にしたのは、景継様の命に従ったまでであり、お主等の仲間となった覚えは無い。このままお主等が生きていては、景継様の眠りの妨げとなる。速やかにナラカに行き、景継様にお仕えするがよい。心配めさるな。お主等が祟り神とならぬよう、それがしが、景継様と共に祀って差し上げる」
「だとよ。良かったな」

 冴王は、嘲るようにそう言うと、呆然自失としている傾月の首を、一刀の元に撥ねた。
 小津将介達は必死の抵抗もむなしく、傾月の首の隣に屍(かばね)を晒した。
 掌玄は約束通り、傾月達の骸(むくろ)を景継の墓の隣に埋葬し、共に祀った。
 これが、9年に渡り世に害悪をまき散らし続けた、金鷲党の最後であった。