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リアクション
【西暦2023年 2月某日】 〜別離〜
「ちょ、ちょっと御上くん大丈夫!?しっかりして〜!」
「だ〜いじょうぶ、だいじょぶ〜」
「大丈夫じゃないから言ってるんじゃない!ホラ、しっかり歩いて!」
「は〜い……」
キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)は、酩酊状態の御上 真之介(みかみ・しんのすけ)に肩を貸し、起き上がらせた。
しかし御上は本人の言とは裏腹にすっかり千鳥足で、とても長くは歩けそうにない。
「ダメだ、御上くん。少し、休んでいこう」
キルティスはこれ以上御上を歩かせるのは無理だと判断し、手近な店に入った。
四州が平和を取り戻して、既に一年。
広城は、不夜城の賑わいを取り戻しつつある。
「ハイ、御上くん、水。レモンで割ってあるから、少しはすっきりするよ」
「あ、ありがとう……」
「でも、珍しいね。御上くんが、こんなに呑むなんて」
「うーん……」
御上は水を半分ほど口にした所で力尽き、テーブルに突っ伏した。
この日、キルティス達は、シャンバラに帰る三船 敬一(みふね・けいいち)とレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)の送別会に参加し、その後、有志だけで二次会に参加した。
ところが、今日に限って御上が更に飲みたいといい、三次会、四次会とハシゴした。
その挙句御上はすっかり酔いつぶれてしまい、仕方無くキルティスが城まで送る事にしたのである。
「これは、迎えを呼ぶしかないかな……」
キルティスは諦めて、城に電話すると、不寝番の兵に、誰か迎えに寄越すよう頼んだ。
今の御上は藩主から重臣として遇されているから、これくらい頼んでも問題はない。
「キルティス……ゴメン……」
「ん?起きたの御上くん。いいよ、別に謝らなくても」
「違う……。そうじゃないんだ、キルティス……」
「え?」
「済まない、キルティス……。僕は、キミとは付き合えないよ……」
「御上くん……」
ああ、そうか――。
キルティスは、この時、全てを理解した。
御上は初めから、これを言いたかったのだ。
ただ、どうしても言い出せなくて、酒の力を借りて、それでも、今まで言い出せなかったのだ。
「何度も、何度も考えたよ。もしキミが、女性だったらって。そうすれば、こんなに苦しまなくて済むのにって――。でも、キミは男で、僕も男なんだ。こればかりは、どうしても変えられない。キミは、僕にとってかけがえの無い親友だけど……。でも、どうしても、それ以上にはならないんだ」
「もういいよ、御上くん――!」
気づけば、キルティスは大声を出していた。
とても辛そうに――それこそ、血を吐くように告白を続ける御上を、見ていられなくなったのだ。
一瞬、店の中がしん、と静まり返り――何も無かったとわかると、すぐにまた、元の喧騒を取り戻す。
「ゴメンね、御上くん。辛い思い、させちゃったね……」
泉 椿(いずみ・つばき)が御上に告白し、それに続いて五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)も御上に告白した知ったキルティスは、改めて御上に告白をした。
既に「好きだ」という気持ちは御上に伝えてあるが、今度は更に、「恋人として、自分と付き合って欲しい」と言ったのだ。
それが、御上を苦しめた――。
キルティスは、激しい悔悟の念に襲われた。
ポタリ。
キルティスの目から、涙が溢れ、テーブルに落ちる。
「告白の事は、忘れて。御上くん」
キルティスは、涙を振り払って言った。
「キルティス……済まない……」
やがて御上は、深いまどろみの中に落ちていった。
「ゴメンね、椿ちゃん。御上くんを潰しちゃって」
「気にすんなよ、キルティス。アタシが、好きでやってるんだからさ」
意外にも、御上を迎えに来たのは椿だった。
御上専属のSPを自認する椿は、中々帰ってこない御上を、寝ずに待っていたらしい。
「でも珍しいね、先生が、こんなに飲むなんて」
よっこいしょ、と御上を飛空艇の後部座席に乗せながら、椿が言う。
「うん。御上くん、最近ちょっと悩んでる事があったらしくて。その相談に乗ってたんですけど……」
キルティスは、敢えて核心には触れなかった。
「やっぱりか〜。先生、時々深刻な顔してたから、なんか悩みがあるんじゃないかと思ってたんだけど……。それで、悩みは解決した?」
「えっ?ええ。大丈夫、もう解決しましたよ」
「そっか!良かった〜。アタシじゃ相談に乗れない話みたいだし、ちょっと心配してたんだけど……。ありがとな、キルティス」
「そんな、お礼なんて――」
自分は、本当は御上くんを苦しめていたのに――。
椿の心からの言葉が、今のキルティスには辛い。
「それじゃ、またなキルティス。今日は、ホントにアリガト!」
「い、いえ。それじゃ、また――あ、ちょっと待って椿ちゃん!」
キルティスは、飛空艇に乗り込み、今にも飛び立とうしていた椿を引き止めた。
「ん、ナニ?」
「う、ウウン。何でもないです――。御上くんのコト、よろしくお願いしますね」
「ダイジョブダイジョブ。心配すんなって!それじゃな!」
御上を乗せた飛空艇は、フワリと浮き上がると、あっという間に夜の闇に消えた。
「サヨナラ、御上くん……」
これが、御上がキルティスを見た、最後となった。
「御上さん!御上さん!!」
「どうしたんだい、秋日子くん。そんなに慌てて」
二日後――。
二日酔いから復帰した御上の所に、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)が駆け込んで来た。
「実は、今朝からずっとキルティスの姿が見えなくて。一昨日、帰ってきてからずっと部屋に閉じこもってたから、心配になって様子を見に行ったら、部屋の中がもぬけの殻で。それで、机の上にコレが置いてあって――」
秋日子は、ニ通の手紙を示す。
一通は『秋日子くんへ』。もう一通には、『御上くんへ』と、小さな字で書かれていた。
御上は、自分宛ての手紙を引ったくると、封を開いた。
――お別れも言わずに姿を消す事を、どうか許してください。
出来る事なら、いつまでもキミの側にいたかったけれど、やっぱり僕は、キミの側にいる事は出来ません。
僕は、キミを苦しめてしまったし、キミが、他の人と幸せそうにしているのを見るのも、辛いから。
だから、お別れします。
僕はもう、キミに会う事は無いと思うけれど、どうかお元気で。今まで、有難う――
キミの親友 キルティス・フェリーノ
「……秋日子くん。君への手紙にはなんて?」
手紙を読み終わった御上は、呆然とした面持ちで、秋日子に訊ねた。
「それが、『しばらく旅出たい』とだけ……」
「そうか……。有難う、秋日子くん。悪いけど、少し一人にしてくれないか?」
「は、ハイ……」
御上が差し出した、彼宛ての手紙に目を通し、事情を察した秋日子は、静かに部屋を出て行く。
「キルティス!何故だ、キルティス――!」
御上は、その場に泣き崩れた。
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