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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~

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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~
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【西暦2024年 8月1日 夕方】  〜晩餐会・二次会〜


「本日は、我が四州共和国連邦の成立を祝うこの宴に、シャンバラ王国前代王であるお二方のご臨席を賜りし事、誠にもって喜びに絶えません――」

 四州共和国連邦初代大統領、広城 豊雄(こうじょう・とよたけ)の開宴の辞が、会場に居並ぶ招待客の間を、滔々と流れていく。
 四州共和国連邦の仮の大統領府が置かれているここ広城(こうじょう)で、壮麗な晩餐会が、今まさに始まろうとしているのだ。
 シャンバラからは、二人の代王や、各校の代表たち。
 マホロバ幕府からは、前将軍鬼城貞継(きじょう・さだつぐ)が。
 そして地球からは、日本やアメリカ合衆国を初めとする、主要各国の使節が列席している。
 一方これを迎える四州側も、大統領豊雄以下、副大統領大倉 重綱(おおくら・しげつな)、外務大臣水城 隆明(みずしろ・たかあき)を始めとする各省庁の長、四州連邦軍陸軍総司令長谷部 忠則(はせべ・ただのり)を始めとする軍関係者、四州開発銀行総裁南臣光一郎(みなみおみ・こういちろう)、そして、かつての藩主である四共和国首相など、新政府の首脳は残らず出席している。
 
 全世界に向けて、四州四藩の統合と共和制への移行、そして国際政治への参加を高らかに宣言したこの日、島は上下の別なく歓喜に包まれた。
 既に正午の連邦成立宣言からこっち、四州のあちらこちらで、新政府成立を祝う宴が一日中催されている。
 ちなみにこの晩餐会の模様も記念式典から引き続き、ライブ中継されていた。
 

 豊雄の短いがツボを押さえた開宴の辞に続き、人々がシャンパングラスを手に一斉に座を立つ。
 満座の視線が、理子に注がれた。
 少し照れたように、傍らの酒杜 陽一(さかもり・よういち)を見る理子。
 陽一に視線で促され、乾杯の音頭を取る理子。
 会場に響く「乾杯!」の声と共に、晩餐会は幕を開けた。


 そして、数時間後――。
 宴は、尚も続いていた。
 と言っても、きらびやかな――その代わり堅苦しい――晩餐会場から二次会に場所は移り、親しい者同士が歓談に花を咲かせている。
 広城城下にある御上 真之介(みかみ・しんのすけ)の私邸も、そんな二次会場の一つだ。
『景継の災い』の後始末が一段落ついた昨年末ごろから、御上と円華も広城から、城下に与えられた屋敷へと移り住んでいた。


「ああ、やっと来た!御上先生――って、もう先生じゃないんでしたね」

 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、ようやく帰宅した御上を笑顔で出迎える。

「お久し振りです、御上さん。お邪魔してます」
「コハク君こそ、元気そうだね」

 御上は、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の差し出した手を、がっちりと握った。
 
「相変わらず、お忙しいんですか?」
「そうだね。まだまだ楽はさせてもらえないカンジかな」

 そう言って苦笑いする御上は、大統領顧問兼文教総監という要職についている。
 新政府成立にあたり、御上は広城豊雄から、副大統領への就任を要請されていたが、御上は「ナンバー2が外国人は良くない」と言ってこれを固辞。「御上が側にいなければ、大統領にはならない」という豊雄と散々揉めた末、結局に大統領顧問に落ち着いた。
 もう一つの『文教総監』というのは、日本で言う所の文部科学省と文化庁の長を併せたような職であり、御上は顧問に就任するにあたり、交換条件として、このポストを求めた。

 本人曰く『国家百年の計は教育にあり』という事だが、結局御上はどこまで言っても教師という事なのだろう。

「美羽、コハク、久し振り!結婚したんだって?おめでとう!」

 御上の後ろから、黒いスーツに身を包んだ泉 椿(いずみ・つばき)がひょっこり顔を出す。
 これまでも、常に御上の側近くにいて彼を守ってきた彼女は今、公式に御上専属のSPとして活動している。

「そうそう!おめでとう、美羽君、コハク君!」
「おめでとう、二人共。もう!いつまで経っても結婚しないから、結婚しないつもりなのかと思ってたんだぜ!で、どっちからプロポーズしたの?コハク?それとも美羽?」

 椿に肘で突かれて、顔を紅くして照れるコハクと美羽。

『そういう椿こそ、聞いたよ〜。ついに御上先生ゲットしたんだって〜?ねね?あのおカタイ御上先生、どうやって口説いたの?』
「えっ?そ、そそそそんな、口説いたとかじゃないけど……」

 お返しとばかりに、小声で呟く美羽。
 椿は、途端に耳まで真っ赤になる。

「聞きましたよ、御上先生。椿と付き合う事になったんですってね。てっきり御上先生は、円華さんを選ぶものとばっかり――」
「私が、どうかしたんですか?」
「えっ?ま、円華さん!?」

 突然背後から声を掛けられ、驚いて振り向くコハク。
 そこには五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)と、北嶺(ほくれい)共和国の首相、峯城 雪秀(みねしろ・ゆきひで)、それに円華の護衛である神狩 討魔(かがり・とうま)なずなの二人が、並んで立っていた。
 円華と雪秀の二人は、先日婚約を発表したばかりである。
 連邦政府の祭祀庁長官に就任した円華は、その職務の第一として、北嶺山脈の白峰(しらみね)に鎮座する、白峰輝姫(しらみねのてるひめ)の祭祀について研究を進めていた。四州の安定のためには、白峰輝姫が末長く平穏に鎮座し続ける事が何よりも肝要だと考えたからであるが、そのために長く北嶺共和国に居続ける内に、次第に雪秀と親しくなっていったのである。
 御上にフラレて傷心であったとか、雪秀の妹で斎宮(いつきのみや)でもあり、円華を心の底から慕っている峯城 雪華(みねしろ・せつか)が、二人の関係を積極的に後押ししたとか、理由は色々あるが、究極的には、雪秀の穏やかで優しい性情が、円華の好みにあったというのが一番の理由であろう。
 要するに、共に古風な家に育った二人は、自然とウマがあったと言う訳だ。

 また、この円華の婚約は、もう一組のカップルの仲も進展させる事になった。
 討魔が、ついになずなと付き合う事になったのだ。
 討魔曰く「なずなの執拗なアプローチに根負けした」という事だったが、密かに円華を思慕していた討魔も、二人の幸せそうな様子を見て、やっと円華の事を思い切る事が出来たと言う事だろう。

「あ、円華さん!お久し振りです!ご婚約、おめでとうございます!」
「美羽さんこそ、ご結婚おめでとうございます」

 美羽の言葉に、優雅に会釈を返す円華。

「円華さん、雪秀様、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。お二人は、円華さんとは古い友人だそうですね?是非私とも、ご昵懇に願います」

 コハクと雪秀は、そう言って互いに礼を交わす。 

「ああ!雪秀さん、円華さん。それに討魔君となずな君も。お疲れ様、ささ、座って下さい」

 四人に椅子を勧める御上。
 椿が、一人ひとりにグラスを配って回る。

「おめでとうございます、円華さん」

 円華にグラスを手渡しながら、椿が声を掛けた。

「お久し振りです、椿さん。良かった……。貴方も、御上先生も、元気そうで」
「円華さんも、幸せそうで――良かった」

 二人は、どちらからともなく笑いあう。
 
「それでは、みんなの再開と、美羽さんとコハクさんのご結婚と、円華さんと雪秀さんのご婚約を祝して――」
「あと、椿ちゃんの頑張りもね♪」
「な!?か、からかうなよなずな!それを言うなら、なずなだってそうだろうが!!」

 御上の音頭に割って入った美羽の言葉に、椿は顔を紅くして反論する。

「そうよ〜、私はガンバったのよ〜♪ね〜、討魔〜?」
「……人前で、必要以上にくっつくんじゃない」
「……討魔のいけず」

 等とほぼお約束のやりとりが交わされ、座が笑いに包まれる。

「え〜、と、とにかく――乾杯!」
「「「乾杯!」」」
 
 唱和する声と、重なるグラスの音が、楽しい語らいの時の始まりを告げた。