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別れの曲

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【指切り・2】


「どう? 来年ミリツァの制服姿を見れないあなたの為にわざわざ着てあげたのよ。有り難く思いなさい」
 パーティールームにやってきて第一声がそれであるミリツァに、キアラは言い淀んでミリツァの後ろにいる美羽とコハクへ助けを求める。お互いに伝えたい言葉や気持ちはあるが、今はこの『何時もの感じ』が丁度良いだろうと影を残した微妙な微笑みを交わしていると、アレクが横からにゅっと顔をだしてきた。
「俺の妹可愛いな!」
「うふふ、気に入って? 美羽が用意してくれたのよ」
「でもスカート短いな、ヒラヒラなかったらケツ見えそう」
「そかな? 私と変わらないと思うけど。じゃあ、私も短すぎるかなぁ……」
 ジゼルが自分の制服のスカートを摘みながらミリツァの横に立つと、アレクが、ごく自然を装った不自然な動きで彼女の太腿へ手を伸ばした。
「変質者だな」とハインリヒの呟きに、羽純は思わず真顔で頷いてしまう。
「痴漢みたいな事するのやめて」とジゼルがぺちぺち手を払っているが――。
「触るのがケツじゃなかっただけ有り難く思え!」
「なんで堂々としてるの!? 今の絶対に人としておかしいのに!」
「ジゼル……君のスカートが短くても、俺は一向に構わない。ひらひらとミニスカートと白ニーソという三大オタクドリームアイテムとが織りなす絶対領域は譲れないので寧ろそのままでお願いします!」
「え、あの……」
 毎日変態と過ごしている流石のジゼルまでもが、いよいよ反応に困っている間に、アレクが素早い動きで振り返る。
「羽純もそう思うだろ!」
「また矛先こっち向いた!?」
「歌菜の魔法少女の時のピンクのスカートと、ひらひらと、白ニーソみてるとムラムラするだろ!」
「ムラ――! 確かに歌菜の魔法少女姿は可愛……ま、待て、やっぱりおかしいぞムラムラは!」
 頭を抱え出した羽純の肩を、ハインリヒは軽く叩いて「飲まれちゃだめだよ」とアドヴァイスするが、お陰で今度はそちらへ向かってしまう。
「騙されるなよ羽純、そいつムッツリだからな! 上から下まで着飾らせて一枚ずつ脱がすのに興奮する種類の変態だからな、俺より余程上級者だ」
 羽純が固まりながら「そうなのか?」と恐る恐る問い直すと、ハインリヒは「否定はしない」と答える。顔から微笑みが消えてる辺り、『マジ』だ。
「……が、一言言わせて貰おうか。
 アレクの業界で言うところの『ロリっ娘系』の奥さんにマイクロミニスカートと三つ折りソックスというフェティッシュな恰好を許してるコハク君はどうなんだよ。
 僕が上級者だと言うのなら、彼のような男は更に上のSクラスだろう!」
「え!? 僕はその、美羽がそれで良いなら別に良いって思ってるだけでそんな――」

 収拾のつかなさそうなやり取りを見守るのを諦めたジゼルとミリツァが引き上げて来ると、女性陣のティータイムが再開する。
 歌菜とジゼルが作った菓子を食べながら会話はとりとめなく続く。途中美羽がジゼルに手伝われながらミリツァの好物の菓子を作ったりと、楽しく時間を過ごし、頃合いを見た歌菜がこんな提案をした。
「――いつかキアラちゃんがカスタマイズしてくれたコーヒーフロート、とっても美味しかったよね。
 そうだ、材料あるから、作ってくれないかな? キアラちゃん」
「ああ、あのコーヒーフロートは本当に美味かった」
 羽純の同意する声に、キアラはキッチンの上を見る。
 ホイップクリームのスプレーにアーモンドプラリネとコーンフレークとフルーツビッツ、5の色スプレーチョコが入った透明の瓶が並んでいる。それらは去年、デートで偶然キアラのアルバイト先へやってきた歌菜が注文したコーヒーフロートのカスタマイズメニューに使ったものだった。

「丁度クリスマスシーズンだったっけ、懐かしいっスね……」
 店のように全てがその為に準備されている訳では無いため、キッチンカウンターで何時もよりぎこちなくも楽しそうに手を動かすキアラを、歌菜と羽純、美羽とコハクが囲んでいる。
「皆と会ってから、ほんっと色々あった」
 言わないように隠して来た別れを感じさせる言葉をキアラが笑顔で呟くと、歌菜が微笑む。
「――ねぇ、また来年の夏に、こうやって皆で集まってパーティしようよ。
 キアラちゃん、その時はまた、コーヒーフロート作ってね」
「うん、任せ――」
 言いかけたキアラは、上げた顔を固まらせてしまう。
 遂に涙を堪えきれなくなった美羽が目に飛び込んで来たのだ。コハクはそんな彼女の肩を抱いて「行ってらっしゃい」と微笑みかけてくる。
「皆に言わなきゃって思ったけど、タイミングとかよくわかんなくて、言って受かんなかったらダサいし……?」
 そう言って笑うが、喉はもう震え出していた。
「決まったら決まったで、お別れって感じするの嫌で、言えなっちゃって、みっともないから泣きたくなかったのに――」
 ぼろぼろと零れる涙を掌で拭うのを見て、美羽も声を上げて泣き出すと、連鎖するようにジゼルもしゃくりを上げてしまう。
「私も頑張るから……キアラも地球で頑張ってね」
「うん、うん! 美羽ちゃんが、私みたいな魔法少女を師匠って言ってくれて、嬉しかったっス。
 だから地球で勉強して、もっと師匠らしくなって……スカートの事以外もアドヴァイス出来るようになってくる!
 私も美羽ちゃんみたいに……強い女の子になるから!」
 わんわんと泣き出した三人の手を歌菜はそっと上から握り、小指を立てる。
「指切りしましょう」
 また来年会えるよう願いを込めて約束しようと言う彼女に、三人は続く。が、如何せん人数が多く上手くいかないらしい。
 そのうち誰となく吹き出したのに、つられるように皆が声をたて、やがて部屋全体が笑い声に包まれた。
 不器用に絡む指をトーヴァ自分の掌で包んでやると、彼女と目配せした羽純が言うのだ
「永遠の別れじゃない
 また会えるんだから、な」と。