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別れの曲

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【卒業】


 地球。神崎 輝(かんざき・ひかる)の実家付近の草原で、彼は神崎 シエル(かんざき・しえる)と運命の出会いを果たした。

「やっぱりいい景色だね〜」
 ぐーっと伸ばした両手を空へと向けながら、シエルが気持ち良さそうに息を吸い込んだ空気は、草の良い匂いがした。
「二人きりで出かけたいっていうから、どこに行くかと思ったら……
 まさかこことはね〜」
「何となく、シエルと出会ったこの場所に行きたくなっちゃった……地球に行くのも久しぶりだし」
 こんな風に思ったのは、あのシャンバラ儀式場の外、大荒野での戦いを経た為だろうか。
「何年ぶりだろう……何だか、色々思い出しちゃうなー。
 輝と出会えて、本当によかった……」
 雰囲気に呑まれた、とでも言うのだろうか。
 シエルが沁み沁みと言うのに、輝は密かに心臓を鳴らしながらも彼女の言葉を静かに聞いている。
「最初に出会った頃の輝は頼りなかったのに……あの時は凄くかっこ良くて、本当に強くなってて……驚いたなぁ」
 瞳を閉じて思い出すのは、仲間と共に前進していく輝の勇ましい姿だ。あの姿にシエルは女性として焦がれ、パートナーとして目標にしたいと思う。
「私も負けてられないね……結婚もしたことだし」
「まさか結婚まですると思わなかったけど……」
 くすくすと笑う輝につられて、シエルも笑い出す。
「守護天使としても、輝や皆を一生護り続けられるように……頑張っていこう♪」
 そんな風に取り留めの無い幸せな会話は、あの日、この草原で真白いドレスの少女と出会った時から続いている。
 ――シエルと一緒にいられてよかった……。
 
「これからもずっと一緒だからね♪」


 * * * 



 2025年3月。蒼空学園高等部の卒業式。
 全ての過程を終了して、輝とシエルは手を繋いだままゆっくり惜しむように校舎を去って行く。
「これで私達も高校卒業か……あっという間だったな〜」
「高校生活、色々あって楽しかったなー。大学生活もとても楽しみ……」
 二人はこのまま蒼空学園の大学部へと上がる予定だ。
 同じ学校と思ってしまうと感動も薄いが、それでもこの学び舎で過ごすのは今日が最後だったのだ。こみ上げる物がある。
 それに進学に際して不安が無い訳でもない。例えば、否、シエルの場合は殆ど――勉強において。
「大学でも輝と一緒に頑張らないとね。自力できちんと勉強出来るようになりたいな……」
「僕はシエルや皆と一緒に、楽しく過ごせたらいいな」
 未来への不安も、期待も、全て二人一緒ならと思えば、何時でも笑顔で居られる。
 どちらともなく笑い合ったその時、輝とシエルの繋いだ手の上に、ひらりと舞い落ちるものがあった。
「……あ、桜」
 三月もまだ始まったばかりだ。まだ咲き始めも無い木の枝の間に、仄かな桃色が揺れている。
 四月には満開に、やがてそれは二人の進む新たな通学路を敷き詰めて行くのだろう。
「これからもよろしくね、輝♪」
 シエルの言葉に笑顔で答えて、輝は彼女の前に一歩出た。
 新たに舞い落ちた花片は、二人の重なる鼻先に落ちる。どちらともなく、笑いが零れた。