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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

リアクション

 
 
 とりあえずハルカを捜すのは他のメンツに任せ、レベッカは拡大コピーしたジェイダイトの似顔絵をアリシアに持たせてサンドイッチマン状態にした。
「これ、ちょっと恥ずかしいですわ」
 レベッカの愛車、黄金の単眼ドラゴンヘッドが装備されたスパイクバイクの後部座席に横座りしながら言うアリシアをよそに、レベッカは更に『おじいちゃん捜してます』と書いた旗をバイクの後ろに差して、完璧! と頷く。
「まあ、人助けのためですもの、我慢しますけど……」
「じゃ、行ってくるネ!」
 セルフフォローにも耳を貸さず、巨乳を揺らしながら颯爽とバイクにまたがったレベッカは、面々にピッと人差し指を振って見せると、独特のクラクションを鳴らしながら、低速で走り去った。



 ハルカを最初に見つけたのは、ミスドでひっそりとハルカ達の様子を窺っていた、永夷 零(ながい・ぜろ)である。
「お1人でございますね」
 とことこと迷いなく歩いている様子にそう言った、パートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)に頷いて、零は
「ひとつ試してみるか」
と呟いた。話は聞いていたのだが、ハルカという少女がどんな性格なのか、把握しておきたい、と思ったのだ。
「何をするのですか?」
「そうだな……財布でも落としてみるか」
 単純な判断だが、それを拾ってくれれば優しい少女だと判断できるというわけだ。

 が。ハルカは、目の前で落とされた零の財布を、きれいにスルーした。
 しかもただのスルーではなく、
「……気付かれなかったようでございますね」
「……やっぱそう思ったか?」
 かなりあからさまにやったつもりだったんだがなあ……と零す零に、
「ええ、ちょっと大丈夫かと思うくらいあからさまでございました」
 言外に、ちょっと芝居が下手でしたね、的なニュアンスが含まれているようなそうでもないような口調でルナも頷く。
 目の前で落とされた財布にも、そんな2人のやりとりにも全く気付かず、てくてくと歩くハルカは、
「よう、お嬢さん、1人? 今暇?」
と、軟派風の男に声をかけられて立ち止まっていた。
「1人じゃないのです。皆と一緒なのです」
 と、振り向いたハルカは、あれ? という顔でキョロキョロと周囲を見渡し
「……今は1人なのです」
と言い直す。
「でも暇じゃないですよ。おじいちゃんを捜しているのです」
「へーえ。じゃあオレも一緒に探してあげるから、ちょっと付き合わない?」
「おじいちゃんを知っているのですか?」
「ああ……うん、心当たりがあるからさ」
「そうですか!」
と、ハルカが顔を輝かせたところで、
「ちょっと待て」
と、零が割って入る。
「捜したぞ、ハルカ」
 あれ? とハルカは零を見上げた。
「知ってる人ですか?」
「さっきミスドで一緒だったろ」
 厳密にはそういうことではないのだが、ナンパの男に、知り合いだとアピールする為にそう言うと、
「あっ、そうでしたか! 沢山いたので、憶えきれてなくてごめんなさいです」
と謝られてしまってやや良心が痛んだものの、そもそも彼女を助けるためなのである。
「そういうわけだから、悪いね」
と言うと、ナンパ男はすごすごと引き下がった。
「……あのな」
と、男が消えると、溜め息と共にハルカに向き直る。
「見知らぬ人の誘いに簡単に乗っちゃ駄目だぞ。特に、一見優しそうな輩には特に注意だ」
「わかったのです」
 ハルカは神妙に頷く。くれぐれも、と言い聞かせて、零はハルカと別れた。
 1人にしてしまってよろしいのですか、とルナが問うたが、説教したその場で、自分という「見知らぬ男」と一緒に来いというのもおかしな話だ。
「まあ大丈夫だろう、彼女を捜している奴らもいるだろうし……」
と、言いかけたところで、
「おじいちゃんを知っているですか!?」
という声が雑踏に紛れて聞こえ、2人は同時に声の方を見る。
ハルカがいかにも怪しげな男3人に囲まれて、顔を輝かせているのが遠目にも見え、言った傍から……! と脱力しかけたところで、
「いた――! ハルカ! 見つけたっ!」
という叫び声が聞こえ、とりあえず自分が駆けつける必要はなくなった、と判断した。
「ゼロ……」
「とりあえず、気をつけてないといけない子だってことはわかったよ」
 痛ましげな表情のルナに、零は肩を竦めたのだった。



 流石にガミガミと叱られたハルカだったが、神妙に反省していても油断はできない、と、全員の思いは一致した。
 そんな訳で、ハルカには首に縄をつけておかなくてはという判断がなされた。勿論比喩であるが。

「とりあえず今日はこうやっとくぜ」
と、身長は2メートルを僅かに越える白熊のゆる族であるベアが、ハルカを抱え上げて肩に乗せた。
「わー! いい眺めなのです」
「ご主人もよく肩車してて慣れてるしな。高い所からだと捜しやすいだろ」
「ありがとうなのです!」
とはしゃぐ様子に、とりあえず今日のところは一安心、と安堵することにして、その前に。

「ハルカ、ちびっとこれ持っとけえや」
と、翔一朗がハルカにお守りを手渡した。
 『禁猟区』を施したものである。特に疚しいわけではないのだが、何しろガラの悪い外見でもあるし、ハルカに不審がられないようにとあれこれ考えた結果のお守りだったが、ハルカはあっさりと
「ハルカにくれるのです? ありがとうなのです」
と、スカートのポケットに入れる。
「あ――! 先を越されたっ! 僕があげるつもりだったのに!」
 ばたばたと駆けつけた柊 カナン(ひいらぎ・かなん)が、その様子を目撃してショックを受けた。
 ミスドでの話し合いの後、ハルカが見つかったら渡そうと、捜す人達をよそに悩みながら選んだ首飾りだったのに!
 「……兄さんのはハルカを護る為というよりは、禁猟区にかこつけて単にプレゼントしたかっただけよね」
 ひそっ、と日奈森 優菜(ひなもり・ゆうな)に囁かれて、びく、と肩を振るわせた。
「だって、お近づきの印に、とか渡せないだろっ」
 全くもう、と溜め息をつく。ハルカがちょん、とカナンの前に立った。
「ハルカにくれるのですか?」
「えっ、ああ、うん! そうなんだ。貰ってくれると嬉しいな。ハルカちゃん可愛いね!」
 全くもう、兄さんたら、と、優菜がジト目で睨む。
 ロリコンかよこいつ、と思ったのは翔一郎とベアだが、口にするのはやめておいた。
「ありがとうなのです! ふたつ貰っても全然邪魔にならないです」
と、何を誤解したのか、そう笑いながら、ハルカは首飾りをつけようとする。
「つけてあげますね」
と、すかさずハルカの後ろから首飾りをつけてあげようとした給仕職メイドの高務 野々(たかつかさ・のの)は、ハルカの首から下げられている紐に気がついた。
「ハルカさん、他にも何かつけてますの?」
「これですか? これは首飾りじゃないのです」
 前に回って、ハルカが引っ張り出して見せたのは、7、8センチくらいの巾着袋だった。
「何です? 見せて貰ってもいいですか?」
「見せるだけならいいのです」
ハルカは巾着袋の中から、石の塊のような物を取り出して見せた。
「何でしょう、宝石の原石みたいな……?」
 ハルカの掌の上に乗せられたそれを、夕菜も横から覗きこむ。上からは翔一郎やベアが。
 赤のような茶色のような、透き通っているような濁っているような、不思議な色合いの鉱石だった。
「アケイシアの種と言うそうなのです。肌身離さず持ってないといけないのです」
「アケイシアの種? って何?」
 名前を訊いても解らない。カナンが更に訊ねると、ハルカは首を傾げた。
「……何でしょう?」
 がくり。と思わず脱力する。何なのかを知らないまま持っているということか。不思議に思った野々も訊ねる。
「何故肌身離さず? おじいさんに言われたのですか?」
 えっ? という顔をして、ハルカは考え込んだ。
「まさか、どうして持ってるのかも解んねえのか?」
 おいおい、とベアが呆れる。
「……解らないのです。ハルカどうして持ってるです?」
 しかもそれを今迄不思議にも思わなかったのか。
「何じゃそら?」
 翔一朗も呆れて言ったが、ハルカは、首を傾げたものの、あまり気にしない様子で、それを巾着の中に戻して服の中にしまう。
「……まあ、とりあえず、おじいさんを捜しに行きましょうか」
 優菜が気を取り直すように言った。ハルカさんに手を出したらだめですからね、とカナンに念を押すのも忘れずに。



 地球から空京に来た人々が一般的に宿泊に利用するホテルを幾つか訪ねてみた高潮 津波(たかしお・つなみ)は、ジェイダイトとハルカが泊まっていたというホテルを見つけた。

 ホテルのフロントにいた中年の女性は、ハルカを憶えていて、
「あの子、おじいさんに会えました?」
と逆に訊いてきた。
「いえ、捜しているのですが。あの、詳しく話を聞かせてもらっていいですか?」
 津波が問うと、まあ、と心配そうな表情を浮かべる。
「空京にいらした際にこのホテルをご利用いただきまして、旅の準備などもあって連泊なさってたのですけど、3日目くらいに、ちょっと散歩に行ってくる、と言ったきり、お爺さんが戻らなくて。
 ええ、ハルカさん、毎日待ってらっしゃったのですけど、10日ほど前に、お爺さん、ひょっこり帰ってらして」
「帰ってきたんですか?」
「ええ。孫はいるかね、って。でも丁度ハルカさん、おじいさんを捜しにお出かけになられてまして。それまでの宿泊費をお支払いになって出ていかれたきり、お2人ともお戻りになりませんでしたので、てっきり無事に出会って旅に出られたのだとばかり……」

「合流できなかった、ということでございましょうか?」
 ホテルを出ると、じっと津波の横にいて2人の会話に口を挟まなかったナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)が首を傾げて言った。
「ちょっと、よく解らないですね……」
 10日前、ハルカを迎えに来てすれ違い、そのまま今に至る、ということか。そもそも、10日前に戻って来る、その前は何処にいたのだろう。
「予測ですけれど」
 ナトレアが呟く。
「既に空京にはいらっしゃらないような気がいたしますわ」
「そうですね」
と、津波も頷いた。



 シャンバラにおける長旅の主な交通手段は馬、ないしは馬車である。
 車両はシャンバラ教導団で一部軍用に揃えられている他は、殆ど無いと言って等しく、ゲーはその辺にアタリをつけて聞き込みをしてみた。
 そして、その爺さんに馬を売った、と言う業者を探し当てた。
「馬を2頭、この爺さんに売ったよ」
 馬売りの男は、携帯写真の似顔絵を見せると、間違いない、と言う。
「2頭? それは両方とも普通の馬か?」
「ああ、そうだが」
 1頭ずつ本人とハルカの分として、無茶をする、とゲーは思った。老人と子供を、普通の馬に1人乗りとは。
 老人や女子供で空京からザンスカールまでの長旅なら、選ぶべきは馬車ではないだろうか。
「ちなみにいつの話だ?」
「10日くらい前のことかなあ?」
 ゲーは眉をひそめて考えこむ。どうにも、このままジェイダイトを捜しても無駄のような気がした。