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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

リアクション

 
 
「えーっと携帯食料オッケー、保存食オッケー、携帯の予備バッテリーオッケー、電灯オッケー、寝袋オッケー、着替えのぱんつオッケー……」
「リネンさぁん、まだ買い物終わらないんですの? そろそろ飛空艇が直視できない状態になっているのですけど」
 メモを見ながらブツブツと呟くリネン・エルフト(りねん・えるふと)に、パートナーのユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が溜め息と共に声をかけた。
 顔を上げ、ユーベルを見た後に自分の飛空艇を見たリネンは、「確かに」と苦笑する。
 堆く荷物を積み上げられた2人の飛空艇は、絶妙のバランスで何とか倒れないという有様で、歩くより遅い速度しか出せない。
「やっぱりミネラルウォーターが重いんだよねー。でも水は重要だし……」
と、そんなこんなでキャンプ用品の買い物を済ませた2人だったのだが、目的は勿論キャンプではない。
 しかし意気揚々として仲間達と合流した2人は、待っていた言葉に驚愕した。

「ええーっ、セレスタインには行けないのお!?」
 ぎっしりと荷物を詰め込んだ巨大なリュックを背負ったリネンは、目を丸くして叫んだ。
 両手にも荷物、更にリネンの隣りでやはり大荷物を抱えたユーベルも
「どういうことですの?」
と訊ねる。
「折角、荷物を買い込んだのに〜」
 2人に、野宿を想定したキャンプの必需品リストをレクチャーした(パンツ除く)、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は、
「ごめんなさい、読み間違えてしまいました」
と苦い顔をした。
「セレスタインって、ぜんっぜん遠いんだって! ツァンダからタシガンに行くよりもっとずっと遠いっていうのよ!」
 イレブンのパートナー、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)もぷりぷりと憤慨した様子で2人に答える。
 一般的なシャンバラ地図には、空京より南の小さな島々は載っていない。
 その為、イレブン達は、空京より南の島々は、シャンバラ本土とは、全く交流がなく、隔たれた場所だと知らなかったのだ。
「あそこで何が起きているのか、調べるのは大事なことだと思ったのですが……」
 コハクは、自らセレスタインから空京まで飛んで来たという話だし、まさか渡れないとは思わなかった。
「あと、空京を南下していくと、酷い乱気流が壁のように阻んでて、その向こうには行けないんだって」
 お手上げ、というような仕草で、イレブン達と一緒に話を聞き回っていた倉田 由香(くらた・ゆか)が付け足す。
 故にセレスタインは『隔たれし島』と呼ばれているらしい、と、イレブンが更に付け加えた。
「空京は新しい町ですから。それ以上詳しいことは解らなかったのですが」
「乱気流!? うわっ、何それ、追い討ち」
 がっくりと溜め息を吐くリネンに、
「ったく、デバナをクジカレルってのはこのことだぜ!」
と由香のパートナー、ルーク・クライド(るーく・くらいど)が吐き捨てた。
「……るーくん、まだちっちゃいんだから、無理して難しい言葉使おうとしなくていいのよ」
「うっせー! ちっちゃい言うな!!」
 うふふと笑ってそう言った由香に、真っ赤になって怒鳴り返しつつ、ルークは、本当は、危険な地であるだろうセレスタインに、由果が行くことがなくなったことに内心安堵してもいた。
(ま、実際行くことになったらオレがしっかり護ったけどよ!)
「セレスタインの人達、無事なのかなあ……」
 心配げな由香の呟きに、イレブンも溜め息をついた。「人類の危機かもしれない時に、身動きがとれないというのは、歯痒いですね……」
 聖地の魔境化。それはやがてパラミタ全土を巻き込むほどの事態に発展するのではないだろうか?
 眉をひそめるイレブンの横で、
「全くねー」
と、カッティもはああ、と溜め息を吐く。
「偵察隊、って響きだけでテンションだだ下がりだったのに、デバナをクジカレちゃあ、更にやる気も無くすってもんよね!」
 ぎろりとルークがカッティを睨みつけたが、気付かないフリをして両手を広げ、
「ま、次の機会に期待しますか!」
と肩を竦める。
 イレブンや由香達はこっそり顔を見合わせて、やれやれと苦笑した。


「空京の南の浮き島へ行くって? そんな水上スキーみたいなバイクで? おいおい、ちっこい体で無茶言うなあ、嬢ちゃん」
 からからと笑われて、その子供扱いに荒巻 さけ(あらまき・さけ)は密かにむっとした。
「でも、飛んで来た子がいるのですわよ」
「飛んで!? ”渡し”でとかじゃなくてか。
 空京南の空峡って、でっけえ乱気流でその向こうにゃ行けないって話だろ。信じられねえなあ」

 空京から南の浮き島へは行けない。
 まだ留まっているかもしれないアズライアを探す為にセレスタインに渡ろうと思ったさけもまた、同様の結論に至っていた。
 さけはパートナーにヴァルキリーを持つ。ヴァルキリーの護る聖地が魔境化したという話に、パートナーである日野 晶(ひの・あきら)も憤りを感じたし、さけ自身も他人事とは思えない心配を抱いていたのだ。
 空京から南へ至る地図やコンパスを購入できないか……と入った店での会話が、上記のものだった。
 結局空京から南を記した地図はなかったので、二人はそのまま店を出た。
 シャンバラにとっては、空京が世界の南側の果てなのだ。
「仕方ありませんわね。何か他の方法を考えましょう。聖地を魔境化なんて言語道断ですわ」
 さけは溜め息を吐く。
「同感ですけど……。あまり無茶はしないで下さいね」
 彼女が以前、無気力な性格だった頃は、それを腹立たしく思ったものだが、今、無茶ばかりする性格も、振り回される方は大変だ。
 苦笑しつつ、それでもさけを支えて、いつか大物にしてあげたいと思う晶なのだった。




 それにしても、とコハクは窓から外を見て呆然としていた。
 何度見ても、そこにあるものが信じられなかった。
「どうした、阿呆みたいに口を開けて」
 樹護 紫音(きのもり・しおん)の言葉に、うん、とコハクは溜め息を吐く。
「ここって……シャンバラなんだよね?」
 この街並みが、自分の知る世界と同じものだとは、とても信じられない。何だか幻を見ているような気がする、
 ……などと言うので、叢牙 瑠璃(そうが・るり)は仲間達に断り、皆でコハクを空京観光に連れ出すことにした。


と言っても、直接コハクと一緒に行く人数は少なくし、牧杜 理緒(まきもり・りお)テュティリアナ・トゥリアウォン(てゅてぃりあな・とぅりあうぉん)は、カップルさながらに腕を組みながら、コハクとは少し位置を空けてついていく。
 全員がコハクの傍にいては、団子か押しくら饅頭のようになってしまうので、少し距離を置きつつ周囲を警戒していた。
「何だかちょっと、……デートみたいですね」
常にコハクが見えるように気をつけながらも、何となく気恥ずかしいような、嬉しいような楽しいような。
「ふふっ、そうね。ちょっと楽しいかも」
 理緒も笑ってそう言ったが、ちなみに2人は同性だ。

 ぱらりらぱらりらぱらりらぱらりら。
 空京のメインストリートに出た途端、道の向こうから謎のクラクションが鳴り響いてきた。
 ド派手なバイクに、旗を翻し、看板を前後に抱えた女性を乗せて、道いっぱい使って蛇行運転しながら、ドップラー効果のクラクション音と共に走り去る。
「……今のは何?」
「あー、えーと……」
「特に珍しくもないが、憶えなくてもいいもんだ」
 返答に困った瑠璃の代わりに、紫音がそう答えた。

 気を取り直して、まず最初に案内するのは、何といってもここだろう。とコハクが連れられた場所は。
「ここが、空京における学生達の心のオアシス、ネタの宝庫、『ミス・スウェンソンのドーナツ屋』です!」
「……ドーナツが沢山ある」
「帰りにもう一度寄って、買って帰りましょうか」

 そんなやりとりを、近くのテーブルから桐嶋 静瑠(きりしま・しずる)が眺めていた。
 常に目視される翼があり、そしてそれが1枚しか無いコハクの姿は、かなり目立つ。
 既に噂も流れていたから、コハクのことはすぐに解った。
 ふと、こちらを向いて、目が合ってしまったので、手を振ってみると、ぺこりと頭を下げられた。
「光珠……かあ」
 古い時代の遺物や建物に興味を引かれることの多い静瑠のツボをストライクでつくキーワードに、気になって仕方がないのである。
(あっあっ、店を出るみたいだねぇ)
 つられるように立ち上がって、静瑠も出口へと向かった。

「声をかけなくてよろしいのですか?」
 気になっているくせに、と店を出て行くコハク達を見送って、クナイ・アヤシ(くない・あやし)がパートナーの清泉 北都(いずみ・ほくと)に訊ねた。
「ええ……まあ、そうなんだけど、気になることもあってねえ。今考えてるところなんですよね〜」
 ミスドで一通り情報を得ていた北都は、”気になる部分”をクナイに教える。
「……つまり、守り人という人が彼を逃がした理由は、光珠を護らせる為だけなのか、それとも、もしかしたら、彼自身に何かあるのか……ってね」
 なるほど、と頷いたクナイに、
「まあ結局、彼を護るのが第一だとは思うんだけどね。でも何だか、護りは固いみたいだしさ〜」
と、北都は肩を竦めた。
「そうでございますわね」
と、クナイも苦笑する。
「それにしても、光珠かあ……。特別な力が秘められているのか、それとも何かの鍵なのかねえ?」
 北都は店の外を見やる。
 店の外では、初めてゆる族を見たコハクが、目を丸くしていた。

 2メートルほどもある白熊の気ぐるみが、少女を肩に担いでのっしのっしと歩いている。
 少女はメガホンを手に、
「迷子のおしらせをもうしあげまあす!!」
と叫んでいた。
「……えっと、……あれは何?」
「あー、えーと……」
「よく見かけるものだが、特に憶えていなくてもいいものだ」
 説明に困ったノエルの代わりに、黎次がそう言った。


 ふふっ、コハク君、楽しそう。
 遠くからコハクの様子を見て、アリアは微笑む。
 ずっと塞ぎ込んでいたようだったから、気分転換になっているようで、嬉しい。彼にはこの空京にあるものは、全て新鮮に写るのだろう。
 と。
「!!!?」
 突然背後から引き込まれて、驚いた時には口を塞がれていた。何!? 何が起きてるの!?
 誰も、最後尾にいたアリアが突然路地裏に消えたことに気付かない。
 首筋に痛みを感じた、と思った瞬間、意識が暗転した。


 ところで、と、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)が、密かにコハクを護衛し、敵襲を警戒している者達に声をかけた。
「できたら携帯ナンバー交換しておきたいんだけど」
「あー、そだな、情報交換できるようにしとかねえとな。お前ソレ、出掛ける前に言えよ。俺も忘れてたけどよ」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が思い出したように言って、だって中々言い出せなかったんだもの、と月実は心の中で唇を尖らせる。
「何だか緊張するね。何か起きるのかな」
 カチカチと携帯電話を操作しながら、陽神 光(ひのかみ・ひかる)が落ち付かせるように深く息を吐く。
「何も起きない方がいいんですよ」
レティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)が微笑み、
「それは勿論、そうだけどさ」
と返す。
 リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)は、月実が携帯画面を見てにまにましている(と、リズリットだけには解る)のを見て、
「おまえ、何笑ってんだよ。キモいなあ」
と、軽く引いた。
「え、だって何だか友達ができたみたいじゃない」
「……おまえなー」
 ちょっと踏んでやろうか、とリズリットが溜め息を吐いた時、コハクと一緒に歩いていた、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が突然立ち止まった。

 ミルディアは、突然こめかみにチリッとした痛みを感じ、足を止めた。
 それは、コハクに対して施しておいた、『禁猟区』が発動した合図だった。
(何か、危険が来る!? でも何が)
と、周囲を確認しようとして、前から歩いてくる、街の子供に気付く。
 ただの子供だ。
 だが、目が。
 目が、虚ろで。
「皆――!! このコ、ヤバいよっ!!!」
 ミルディアが絶叫し、周囲に潜んでいた者達が反応した、その直後。
「なッッ!!?」
 ドン、という爆破音に、メインストリートから一本向こうの通りを歩いていたキューは、呆然と火の手を見た。 町を破壊したくないので、くれぐれも火術は使わない。 そう念を押したのに、まさか。
「……まさか最初に爆発から戦闘が始まるとは……」
「落ち込むのは後にして! 行くわよ!」
 リカインが走り出し、心に深い傷を負いながら、キューもその背後に続いた。

 その瞬間、シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)がコハクを押し倒すように抱きしめて、爆発の被害から逃れた。
「コハク! 大丈夫か!」
 素早く身を起こしながらコハクの無事を確認しようとしたが、コハクは、凝然と目を見開いて動けなかった。 見てしまったのだ。
 その瞬間を。
「大丈夫ですか! お怪我はございません!?」
 和泉 真奈(いずみ・まな)達がコハクの身を案じて駆け寄る。
 駆け寄りながら、一本の手が、コハクの腹部に向かって伸びた。
 その腕が、素早く察した比島 真紀(ひしま・まき)にがしりと掴まれる。
「ここにもであります!」
 はた、と、コハクがその手の主を見た。
「……アリ……ア? どうして」
 ぼんやりとしたアリアは、コハクの声に答えない。「あーもう、さっさと正気に戻れよ!」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、やむなくアリアの頬を平手で殴る。
 何の抵抗もなく殴れたアリアはそのまま向こう側に倒れようとして、リアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)に支えられ、はた、と、瞳に光を戻した。
「………えっ……私……?」
「『吸精幻夜』か?」
 吸血鬼であるリアンは、アリアの首筋にあるものを目ざとく見つける。
「……しかしあれは、人間の意識を操るようなものではないはず……?」
「……私、どうしてたの……?」
 縋るような表情を浮かべるアリアに、コハクは絶望的な気持ちになった。

「そっちは大丈夫か!?」
 シャンテがミルディア達の方の無事を確認する。
「何とか、へいき〜」
 コハクと同じく至近距離にいたミルディアと真奈だったが、呼雪や巽達に庇われていて無事だった。
「吸血鬼が関わっているのですか!?」
 リネンの言葉を聞いて、巽の表情が厳しくなる。
「あーもう、だからコユキの言った通り、すりかえておけばよかったんじゃん!」
 ファルが騒ぎを見て言った。
「取られなかったのだから、結果オーライです。それより、来ますよ!」
 アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が、上空を見据えながら叫んだ。