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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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 一方、教導団の生徒たちは『黒面』の侵入阻止に全力を挙げていた。
 「ええっと、左の方が手薄ですわー、あっ、でも右手からも来ました!」
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)のパートナー、シャンバラ人グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)が見張り台から指示を出す。直接戦闘に関わるのは苦手なので、イレブンに言って見張りに回してもらったのだが、戦い慣れしていない上にすばしこい『黒面』相手なので、どうも指示が要領を得ない。
 「ド、ドコヘ行ケバイイ??」
 英霊パントル・ラスコー(ぱんとる・らすこー)が盾とランスを持ってあたふたと周囲を見回す。
 「グロリアーナ、ちゃんと指示してくれないと、パントルが二階級特進しちゃうよ?」
 剣の花嫁カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、グロリアーナに向かって叫ぶ。
 「はっ、二階級特進はいけませんっ。それはとても怖いことですわ。でもあの、本当に、戦況が混沌としていて、どう申し上げて良いかわからないのですー」
 グロリアーナが見張り台の上でおろおろとしているうちに、『黒面』は教導団の生徒たちだけでは防ぎ切れないほど広範囲に散開してしまった。
 「パントル、とにかく手近な奴を殴るぞ!」
 「そうそう、悩んでる前に戦えばいいんだよ! でもちょっと待って、その前に『パワーブレス』かけるから!」
 カッティがイレブンに祝福を与える。
 「よし、じゃあ打ち合わせの通りに……」
 言いかけた時、『黒面』の一人がイレブンたちに向かって突っ込んで来た。予定では、カッティが敵に隙を作ったところを、『隠れ身』で隠れていたイレブンが攻撃するはずだったのだが、どうやらそんな暇は与えてくれないらしい。
 「ハッ!」
 パントルがランスで『黒面』の足元を攻撃する。『黒面』は跳躍した。
 (後転で避けたら、そこを攻撃してやるっ!)
 カッティはサーベル型の光条兵器を構えた。しかし、『黒面』は後退はしなかった。空中で身体をひねって回し蹴りをパントルの横っ面に叩き込むと、倒れこむパントルの体を蹴って離脱する。
 「待てッ!」
 「あっ、コラ、逃げるな卑怯者!」
 イレブンとカッティが追うが、『黒面』の目的は生徒たちと戦うことではない。とてもではないが追いつけない速度で、『黒面』は逃げて行く。
 そして、他の『黒面』も次々とバリケードを突破し、バリケードの内側は完全に乱戦状態になってしまった。
 「戦士に加護を!」
 剣の花嫁マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)がパートナーのベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)と自分に『パワーブレス』をかける。軽業師のようにバリケードを足場にして飛翔する『黒面』が、その頭上を飛び越えようとした。
 「うおおおおお!」
 ベアはグレートソードを振り上げた。が、『黒面』はあざ笑うかのようにその上を一回転して着地する。
 「危ない!」
 ベアの背後と『黒面』の間にマナが割って入り、フェザースピアを繰り出した。『黒面』は跳躍すると、スピアが伸びきった瞬間に、その穂先を『踏んだ』。
 「きゃあっ!」
 マナがバランスを崩す。その顎目掛けて、『黒面』の蹴りが飛ぶ。
 「そのまま頭を下げてろ!」
 ベアは怒鳴ると、グレートソードを横に一閃した。だが、風を巻いて刃が通り過ぎた後に、『黒面』の姿は既にない。マナの顔に蹴りを入れた後後方に一回転し、そのまま身を翻す。
 「マナ! しっかりしろ、今手当てしてもらうからな」
 フェザースピアの穂先を踏まれていたため、蹴りをまともに食らって倒れているマナを、ベアは助け起こす。
 「ちょっと待ちや!」
 「ここは通しまへんえ」
 陽一のパートナー、剣の花嫁ソラ・ウィンディリア(そら・うぃんでぃりあ)がマナを蹴り倒した『黒面』の前に立ちふさがった。同じく陽一のパートナーである英霊雨慈乃 橋姫(うじの・はしひめ)が、蹴りを避けるため倒れこみながら、『ヒロイックアサルト・丑の刻参り』で大量の五寸釘を飛ばす。『黒面』はとんぼを切ってそれをかわすと、身を翻してソラの背後を取った。
 「……!」
 ソラは屈み込み、低い回し蹴りで『黒面』の足を狙った。『黒面』はひょいと飛び上がってそれを避けると同時に、屈みこんだソラの頭をぐしゃ、と踏みつけた。
 「ソラ様!」
 橋姫が起き上がりつつ叫んだ時には、『黒面』はもう彼女の目の前にいた。
 『蹴りが来た時は身を屈めると同時に、相手の足を狙うんや』
 事前にソラが言っていたことを思い出して、しゃがみ込むと同時に相手の足をランスで払う。確かに、顔を狙ってきた回し蹴りは外れた。だが、彼女のランスが『黒面』の足を払うより早く、フィギュアスケートのシットスピンのような、地を払う回し蹴りが、橋姫のランスを蹴り飛ばした。
 「きゃあっ!」
 ランスを吹き飛ばされた勢いで、橋姫は転倒する。少女たちを蹴散らした『黒面』は、飛ぶように《工場》の入口へ向かった。

 そんな戦場を、百合園女学院のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、弾薬を運んで走っていた。
 「これが、戦場なんだ……。女学院の中に居たら、どんな気持ちで戦争するのかなんてわからないんだろうな……」
 ミルディアは今回、女学院のクラスメイトから呼ばれて義勇隊に参加している。大変なことになっているからと言われ、確かに大変だと思ったが、それ以上の感慨は彼女にはまだない。
 「他の人たちは、どんなことを考えて戦ってるんだろう? 命令だから? 鏖殺寺院を倒したいから? それとも……」
 その時、
 「ミルディアさん、避難しよう! 戦う方人たちの足手まといになるといけないから!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)に守られながらバリケードの後ろから後退してきたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、ミルディアに声をかける。
 「うんっ!」
 うなずいて、ミルディアはメイベルと一緒に救護所の方へ下がった。