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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

リアクション


■■■リアクションB


第1章 突入せよ!


 樹海に眠っていた遺跡《工場》を探索していたシャンバラ教導団の生徒たちは、ついに、中枢区画と思われる場所まで到達した。だが、その手前には多数の敵がひしめいており、遺跡探索の指揮を執っていた技術科主任教官楊 明花(やん みんほあ)は、いったん退いて戦力を立て直し、今まで幾つかの班に分かれて行っていた探索を中止、中枢区画に続く通路に戦力を集中して、中枢区画を制圧する決断をした。
 「楊教官、風紀委員と『白騎士(ヴァイサーリッター)』に、協力して作戦に当たるように釘を刺しておくべきじゃないですか?」
 着任したばかりの三釘 六郎(みくぎ・ろくろう)は、風紀委員と『白騎士』が反目しあっているという噂を聞き、パートナーのシャンバラ人トマト・サンド(とまと・さんど)を連れて、明花に進言に行った。
 「これだけ強い人がたくさん居るんです、力押しで行っても多分何とかなるでしょう。……が、もし戦っている最中にもめるようなことがあったら、どうなるか判りません。ここは、風紀委員長とヴォルフガング・シュミットに楊教官から注意をしておくべきでは?」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)も、
 「前回の作戦で、『白騎士』にくみする生徒に対して、補給の遅延がありました。おそらく、風紀委員か査問委員の差し金でしょう。こういったことのないように、楊教官が直接、今回の作戦の指揮を取って下さるよう、お願いに来たのですが」
 と、明花の元に言いに来た。
 「まあ、確かに、風紀委員と『白騎士』がもめて、それが原因で作戦が失敗したら私も困るけれど……風紀委員長の李 鵬悠(り ふぉんよう)は、そんなことはしないでしょう」
 「そうでしょうか。《工場》での成果は、今のところ『白騎士』がリードしてるんですよね?」
 明花の言葉に、六郎は反論する。
 「ちょっとっ、六郎!」
 教官に反論するなんて……と、トマトは六郎の袖を引っ張った。
 「そうね。でも、だからと言って表立って『白騎士』と争って作戦が失敗するようなことがあれば、それは教導団の不利益となり、風紀委員の……そして、風紀委員長である鵬悠の落ち度になるわ。団長の役に立つことしか考えていない彼が、そんなことはしないし、させないでしょう。そして、」
 明花はイリーナに向き直った。
 「今回の作戦の指揮は私が取るわ。破壊されて困るものや持ち帰るものの指示もしなくてはならないから。それはそれでいいわね? で、あなたの言い分についてだけれど……補給の遅滞が風紀委員または査問委員の仕業だという証拠はあるの?」
 訊ね返されて、イリーナは言葉に詰まった。確かに、状況からそうではないかと思えるだけで、それが査問委員の仕業だという確実な証拠を、『白騎士』は握っているわけではない。
 「それに、もし本当に『白騎士』への補給の遅滞が風紀委員や査問委員の仕業だったとしても、風紀委員長と査問委員長は団長から直接命令されて動いているんですもの、私に止める権限はないわ」
 「そんな!」
 イリーナは叫んだ。だが、明花は動じず、冷ややかな口調で指摘した。
 「風紀委員会と査問委員会が団長直属である以上、それに反発する『白騎士』は反体制派ということになるのよ? シュミットはそれを理解しているから、戦場で功績を上げるという方法で自分たちの勢力を拡大し、自分たちへの評価を変えさせようとしている。体制派の妨害はあって当然、それを乗り越えて自分たちを認めさせるくらいのことをしなければ、いつまで経っても、『白騎士』は『団長にたてつく者』でしかないわ」
 「……失礼します」
 イリーナはぐっと唇を噛んで、きびすを返した。
 「あ、あたしたちも、失礼します」
 トマトもぺこりと頭を下げ、六郎を引っ張るようにして帰って行った。


 弾薬や食糧を補給した探索部隊の生徒たちが、《工場》の入口の前に整列する。いよいよ、中枢区画の制圧作戦が始まるのだ。パートナーの太乙(たいいつ)を従えた明花が、生徒たちの前に立つ。
 「この作戦の目的は、第一に中枢区画を制圧して、防衛システムを止めることです。そのためにはまず、中枢区画の前で待ち構えている敵を排除しなくてはいけません。内部にはまだ未調査の部分があり、思わぬところから敵が現れる可能性もあるので、皆、充分に注意して行動するように」
 明花の言葉に、生徒たちは緊張した表情で敬礼を返し、《工場》の内部に入って行った。列の一番先頭にいるのは、懲罰部隊送りになった前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)とパートナーのドラゴニュート仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)、そして神代 正義(かみしろ・まさよし)とパートナーの剣の花嫁大神 愛(おおかみ・あい)だ。その後ろに懲罰部隊の監視として憲兵科の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とパートナーのシャンバラ人セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)、英霊湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)、そしてその他の生徒たち、と続くのだが、もともとの部隊編成の関係もあり、『白騎士』たちと風紀委員たちは、少し間をおいて別の集団のようになってしまっており、その前や間に、どちらにも属さない生徒たちが入っている。
 (共闘せざるを得ない状況のはずだが、初っ端からこれか……さて、どうなるかな)
 ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)は、冷ややかなまなざしで、自分たちの前を行く『白騎士』たちを見た。風紀委員たちは明花、太乙と共に後方に居る。手柄を焦るつもりはないということなのか、それとも……
 (まあ、俺は俺に出来ることをするだけだが。手柄を争って中枢区画にたどりつけなかったなんて、間抜けなことにはなりたくないからな……)
 そんなことを思いながら、真新しいトミーガンを肩にかけ、ロブは《工場》に入って行った。

 「……出発しましたわね」
 物資置き場になっているテントの前で《工場》に入っていく生徒たちを見ながら、兵站担当の教官沙 鈴(しゃ・りん)は、パートナーの剣の花嫁綺羅 瑠璃(きら・るー)に言った。
 『黒面』の襲撃を受けた後、鈴は物資置き場の配置を、敵の攻撃の影響を受けにくいように、その分戦闘時の持ち出し効率は良いように変更した。さらに、可燃物や爆発物を防炎布で覆ったり、消火用の水を近くに用意したりと、火炎瓶や物資への放火による被害を最小限に防ぐよう対策を取った。現在は、本校から補充された物資の受け入れや、置き場を移動した後の物資の再点検などを行っている。
 「では、私も行って来ますですぅ」
 パートナーのゆる族うんちょう タン(うんちょう・たん)、英霊皇甫 嵩(こうほ・すう)と共に大きな荷物を担いだ皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が、鈴に声をかける。三人は、補給部隊として探索部隊に随行する。
 「気をつけて。可能そうなら、お願いした通り、中枢区画までのルート上に、幾つか物資集積所を設営してください」
 「了解ですぅ」
 鈴の言葉に伽羅はうなずいた。鈴は遺跡内の補給線が延びたことから、探索部隊が進むルート上に物資集積所を作った方が効率が良いと考えていた。そこで、伽羅に集積所の設営を依頼したのである。出来るなら有線通信の敷設もしたかったが、《工場》の規模を考えると一本道としても相当な長さのケーブルが必要で、車両による物資輸送が出来ない現状では、そちらはあきらめざるを得なかった。
 「気をつけてね!」
 瑠璃が手を振る。伽羅たちはよたよたと遺跡の入り口に向かった。
 「何事もないと良いのですが……」
 それを見送って、鈴は呟いた。遺跡の中の敵も気になるが、それと同じくらいに教導団の内部事情の方も気になる。
 (今の教導団では、たとえ『白騎士』を解体しても別の反体制的派閥が出来るだけだだろうし。かと言って、対立を放っておくのも、それはそれで問題だし……何とか、軟着陸できる地点を探したいものだけれど)
 その時、
 「何かお手伝い出来ることはありませんかな?」
 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)とパートナーのドラゴニュートグレイシア・ロッテンマイヤー(ぐれいしあ・ろってんまいやー)が鈴たちに近付いて来た。
 「力仕事でしたらありますが……」
 鈴はじろじろとセバスチャンとグレイシアを見た。補給などで本校から入れ替わり立ち代わり生徒が来るので、見覚えのない生徒が居ることは決して珍しくないのだが、することを探してうろうろしているらしい様子に、若干の不信感を覚えたのだ。
 「はぁ……いえ、これでも私執事の身でして、簿記会計には慣れておるのですが」
 セバスチャンはにこにこと微笑む。
 「そうですの。でも、そういった管理はわたくしの仕事ですし、手伝って頂くようなことはありませんのでご心配なく」
 鈴はにっこり笑って答えた。しかし、セバスチャンは引き下がらない。
 「いやいや、そう遠慮なさらずに」
 「遠慮ではありませんわ。自分の仕事は自分で責任を持ってやりたいんですの」
 鈴としては、先日の香取 翔子(かとり・しょうこ)の件もあり、見知らぬ生徒をやたらと物資の管理に関わらせるのは避けたい。笑顔で、しかし退かない意思を滲ませて答えると、セバスチャンは残念そうにため息をついた。
 「……そうですな、補給は戦略の要、しかもここは物資調達が困難な場所。となれば、着任したばかりの生徒をやたらと関わらせたくないというお気持ちは判ります。いや、失礼いたしました」
 「着任したばかりだから、前から居る生徒たちにここの様子を色々聞いて回っていたら、遺跡探索部隊への補給が滞ることがあったって聞いたから、もしかしたら手が足りてないのかなって思ったんだ。でも、そんなことはないみたいで安心した」
 セバスチャンとグレイシアはぺこりと頭を下げて、去って行った。
 「……なんか怪しかったわよね、今の」
 瑠璃が難しい表情で言った。
 「『白騎士』側が牽制に来たのかも知れませんわね。困ったこと……」
 鈴としては、物資をめぐって風紀委員と『白騎士』がにらみ合う事になればさっきのような事が増え、応対で仕事の手が止まることになる。
 「林教官に、どうにかならないかお願いに行こうかしら……」
 盛大にため息をついて、鈴は呟いた。