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リアクション
第12章 聖地カルセンティン
パートナーである葉月 ショウ(はづき・しょう)と合流した葉月 アクア(はづき・あくあ)は、ハルカのおじいさんを捜すと言っていたはずのショウが、聖地カルセンティンに向かうつもりだと言うのを聞いて、
「目的を変えたんですか?」
と訊ねる。
「いや、そうじゃない。
ハルカのじいさん考古学者だっていうし、聖地に向かうんじゃないかな、って気がする、ただの勘」
あと、聖地でなら、ハルカの持つ”アケイシアの種”の情報が手に入るんじゃないかと思うんだ、と続けて、
「そうですか」
とアクアは頷いた。
「……色々、考えてることがあるんだけどさ」
「何をです?」
「アナテースとハルカと種の関係、とか」
ハルカには、パートナーであるアナテースと種に関する記憶だけが殆ど無い。
無い、というより、その不自然さは、封印されているのではないかという気すらしてくる。
元々種はアナテースが持っていたものだが、何らかの事情でアナテースに何かが起こり、種をハルカに託したのではないか。
だとすると、もしかして、アナテースは……
「アナテースは、もう、生きてないんじゃないか、って気がするんだよな」
ハルカには言えないけれど。
「……だとしたら、ハルカさんの記憶障害の原因は、それかもしれないですね」
アクアは痛ましげに呟いた。
死別などしてパートナーを失うことは、残された片方に、何らかの影響を与える。
これは酷く身体や精神を蝕む場合もあるし、軽い場合もあり、症状の種類も様々だ。
「ああ……記憶障害の内容がアナテースのこと、っていうのがいかにもそんな感じだしな……」
何度か目撃情報のあるハルカの祖父と違い、アナテースは気配すら感じられない。
だから、多分そうなんじゃないかという気がした。
「折角環菜校長が動いて入手してくれた情報なんだしな。
俺はカルセンティンとやらに行ってみようと思う」
シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)もまた、そう決めて、
「気をつけてくださいね」
と雨宮 夏希(あまみや・なつき)は彼の身を案じつつ、頷いた。
聖地カルセンティンでは恐らく、高い確率で戦うことになりそうな気がする。
名刺の人物を訪ねたい、と言ってきたどことなく疲れ切ってよれよれの少女に前回手に入れた白紙の名刺を渡し、受け取りそこねて風に飛ばされた名刺を慌てて追いかける少女の後姿を呆然と見送った後で、ツァンダ南東部へと向かった。
蒼空学園で改めて調査結果を聞いた時に教えられた場所、そして、行ったことないけど大体この辺、と、リシアが地図で示した場所へ行ってみると、そこは森だった。
イルミンスールのような桁違いのものとは比べるのが間違いにしろ、それなりに大規模な森だ。
南方に山岳部を抱いている為か、森の中は、ごつごつした、アップダウンの激しい地形になっていた。
それほど風が強いわけでもないのに、ガサガサと、葉ずれの音が騒がしく響く。
鳥でも飛んでいるのかと上を見上げていると、遠くの方から怒声が響いた。
「――何やってんだてめえら!
魔法で結界を展開しろ!
野っ郎、生かして帰すと思うなよ!」
「……パラ実のカツアゲ部隊でもいるんですか」
こんなところにまで……と、志位 大地(しい・だいち)が苦笑する。
本当に、大陸の隅々にまではびこっている。
「こんなところをうろうろされていたら、聖地を見つけられてしまうんじゃないかしらねえ」
パートナーのシーラ・カンス(しーら・かんす)が、呑気に首を傾げた。
「聖地の清浄な気を乱したらまずいのでしょう?」
「いやあ、俺達も今から行くんですけどね」
何の策も持たずに闇雲に聖地に向かっているのだから、また自分達が聖地の気を乱すことになるのは必至である。
「でもまあ、今回は『カゼ』の方が先に行っているような気がするんですよね」
それはそれで、手遅れにならないといいんですけど。
と、どう転んでも自分達に分が悪い賭けのようで、自分で言ってて大地は苦笑した。
そんな会話をしている内に、葉ずれの音がますます大きくなり、見ていると、向こうから誰かが飛んでくる。
光の翼を携えた男が3人ほど。
「お前ら!」
ヴァルキリーではないだろう。
守護天使か。彼等は大地達を見てぎょっとしたように地面に降りて来た。
「何者だお前達。この森に何しに来た!?」
敵意の込められた誰何の言葉に、大地とシーラは顔を見合わせる。
「……あのう、探している人がいるんですけど」
この場合、『カゼ』を言うべきか、聖地を言うべきか。
迷って
「褐色の肌の、長い銀髪の男なんですけど」
と言った途端2人は縛り上げられた。
「何よ――っ! いきなり縛りあげることないじゃない!
解け解け解けーっ!」
「落ち着いて下さい、理緒。
叫んでも無駄に体力を消耗するだけです」
ばたばたと暴れる理緒に、テュティが冷静に言う。
「だって、生け贄にでもされたらどうすんの」
「私達は何も悪いことはしていないのですから、誤解が解ければ解放されるに決まっています」
「そっかなあ……」
大地とシーラが連れられた場所には、同じように縛り上げられている牧杜 理緒(まきもり・りお)とテュティリアナ・トゥリアウォン(てゅてぃりあな・とぅりあうぉん)がいて、彼等よりも、彼等を別々に連れて来て森の中にある村に運んだ守護天使の男達の方が驚いていた。
「何で最近、こんなに外から入って来る奴が多いんだ?」
「それは、話せば長くなるんだけど……」
「ここは、”聖地”なんですか?」
大地の問いに、守護天使達の表情が険しくなる。
「何故」
と、守護天使の1人が言いかけたその時、4人が閉じ込められている建物の外が騒がしくなった。
「奴が出た! アレキサンドライト様が追ってる! 護りを固めろ!」
それを聞いた男達も慌てて部屋を出て行こうとする。
「ね、誰が出たの!」
理緒が慌てて訊ねれば、扉を開けて振り向いた男が
「『褐色の肌に銀髪の男』だ」
と言い残して、部屋を出て行った。
「やっぱり!」
『カゼ』が近くに来ている。
まだ聖地にはたどり付いていない、と思っていいのだろうか。
「……どうしますか」
「うーん、何がどうなってどういう状況なんだろう。
私達、いつ説明のチャンスが訪れるの!?」
「やはり、ここは聖地を守護する一族の村らしい。
『カゼ』とやりあってる最中らしいな」
こっそりと村を窺って、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が呟いた。
「『カゼ』は”聖地”を見付けられていないのか……?」
「あの人達……どうするのです?」
パートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が不安そうに訊ねる。
『カゼ』の仲間とでも思われたのだろうか、それとも聖地の気を乱す者として、入ってきた余所者は全て捕らえるということだろうか。
「……話さえできりゃ、解放して貰えると思うんだけどな。
どうにも取り込み中で、ホント、チャンスがいつ来るか解らない気がするから、折角だし助けてやるか。
この村につれ込まれたってことは、この村にいる時点では、聖地の気とやらも大丈夫みたいだし」
ここで見捨てるほど非情じゃないし。
そう言った静麻に、そうですね、とレイナはほっとしたように頷いた。
「はあ……助かった……」
レイナに縄を解かれて、理緒はほっと息をついた。
「ありがとうございます」
テュティの礼の言葉にレイナは頷き、
「急いでここを離れましょう」
と促す。
「『カゼ』は?」
「捕り物中のようだな」
大地の言葉に静麻は肩を竦めた。
「また逃げられたのか! お前ら何処に目ぇつけてやがる!」
「でも、あの男、すばしっこくて捕らえられないです」
「ちっ、本当に役立たずだな。少しは何とかしようと思え!」
響き渡る怒鳴り声を頼りに進む。
「用心棒はいかがですか」
たむろしている守護天使の男達に声をかければ、彼等はびくっと振り向いた。
「なっ、何だてめえ!?」
「朱黎明といいますが。………………」
名乗った黎明は、そこにいる守護天使達を見て、深々と息を吐き出した。
「…………何だそのため息は?」
「美しい女性とは言いませんが…………いや言いますが…………聖地を護る『守護天使』が筋肉の乗った男とかってないでしょう……ないですよ」
「どういう意味だッ」
しみじみと首を横に振る黎明に、彼等はカッとなり、すみませんこの人悪気は無いんです、と、パートナーのネアがひたすらに謝った。
「――で? 用心棒ってのは何だ」
「褐色の肌の男とやりあっているのでしょう。
こちらも、あの男と因縁がありまして。 追いかけてきたんですよ。
この手で撃ち殺させて貰えると嬉しいんですけどね」
「……けろっとした顔でおっかねえこと言いやがる。
まあ、俺らの敵じゃねえんなら、好きにして構わねえさ」
何と、このヤンキーとしか思えないような言葉使いと彼等の中で一番を誇る筋肉質の男が、この森の聖地の”守り人”、アレキサンドライトだというのだった。
名乗られた時には黎明は詐欺だ……と呟き、どういう意味だあ! というやりとりをもう一度繰り返している。
「ちなみに、他に森を徘徊している連中も似たような感じなんで。
恐らく『カゼ』は単独で行動していると思いますよ」
「だが使い魔を使いやがる」
「使い魔?」
「3人やられた。
俺らの村じゃあ戦闘能力鍛えてる奴はあまりいねえからな。
てめえらも気をつけとけよ」
ただの平和な、土地を護るだけの一族だったのだ。
アレキサンドライトは恐らく守り人としての例外なのだろう。
「ああ、それと、何処か入っては拙い場所などはあるんですか。
『カゼ』を追いかけていて、間違って行ってしまったらまずいですし」
「外なら何処だろうが走り回って構わねえぜ」
「……つまり、聖地は地下に?」
「っていうか、鍾乳洞だ。”柱”はでかい鍾乳石。
見たいんなら見せてやっても構わねえが、お前等、まず清めねえとな。
今はそんな暇はねえから後だ」
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