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リアクション
第10章 最深部
「よくここまで辿りついたわね」
イリーナとルカルカ、セシリアとレイディス、綾人、詩穂、蒼人、北都、オレグ、そしてにゃん丸と刀真。
それが最深部に辿りついた者達だった。
思い合う強き心、或いは、非情とも言える決意、そして、助ける為に真実を知りたいという願い。
いずれかを兼ね備えたと、封印の書に認められた者達だった。
「封印の地に封じられているのは昔、シャンバラを滅ぼしたもの……その一部であるとも影どあるとも呼ばれるモノ。存在を知る僅かな者達からは、影の王とも影龍とも呼ばれているわ」
一同を見まわし、キアは説明した。
自分はもしもの時の為、外から封印を守る者だと。
「そして、それを解き放とうと……手に入れようとしているのが、鏖殺寺院の影使いよ。影に潜み他者を操る……自らはほとんど姿を見せない嫌らしい奴。誰に化けているのか、誰が操られているのか分からないから、迂闊な事は言えなかった……って、あんた達は大丈夫よね?」
「何を今更……その為の試練なのでしょう?」
オレグに問われ、キアは「まぁね」と頷いた。
「じゃ、ちゃちゃっとやっちゃいましょう。そろそろ影使いも動き出しそうだしね」
呟くと同時に、その手に光が宿った。
「光の継承を……封印の光を……」
それぞれが淡い光に包まれる。
「これで扉を封印する事が出来るわ。で、その方法なんだけど」
キアは一つ指を折った。
「一つは夜魅を消滅させる事。夜魅を消滅させれば影龍も無事ではいられないし、そこで扉を封印すれば……災いはもう起こらないわ」
それから、もう一本を折る。
「……もう一つは、雛子を殺す事。あの子が今回の扉の鍵……封印をこの世界と繋いでいる存在だから。雛子を殺せば、扉は再び異界に戻るわ」
「影龍を復活させない為には、夜魅を犠牲にする……或いは、雛子を犠牲にする、ですか」
「そう。雛子の命を捧げれば、扉そのものが異界に戻るわ。そして、夜魅を殺せば、拠り代を失った影龍は異界に戻るかなくなる筈よ」
蒼人は考えを巡らせる。
心情等を別にすれば、どちらが容易いかは明白だ。
夜魅を倒す為には、守ろうとする者達、或いは鏖殺寺院の影使いの邪魔が考えられる。
対照的に雛子を狙うなら、一番の障害は守護者たる陸斗だろう。
言いかえれば、陸斗を何とかすれば雛子を狙うのはそう難しくはない。
「……蒼人」
「俺達が替わるわけにはいかないんですよね?」
「ええ。扉と蒼空学園を繋いでいるのは雛子だから」
キアが少しだけ目を伏せる。
夜魅を倒しさえすればと煽ったのは、簡単な筈の方法を黙っていたのは、多分キアにも心があるから。
封印の守護者としての役目と、蒼空学園の生徒……陸斗のパートナーとしての自分とがせめぎ合っていたから。
いつも軽い風を装っていた仮面の下の、葛藤。
それは蒼人達に選択を託して軽くなったのだろうか?、それとも……?
「……それが選択なんですか?」
だがそこに詩穂が問うた。声に、押し殺した怒りが、激情が透ける。
「常に選択肢は2つとは限らないんじゃないですか。それに、キアさんの示す選択肢では、白花さんはどうなるんです? どちらを取っても救われないじゃないですか!」
「……そうね。だけど御柱……白花は最初から承知しているわ。影龍と運命を共にする事を」
「詩穂はここに、白花さん夜魅さん2人共を助ける方法を探しに来たんです。お二人の願いは在り続ける事でも、封印を守り続ける事でもない筈です」
例え、二人が大昔の人だったとしても、もしもこれが全て本の中のストーリーだったとしても。
長い年月の苦痛から解放してあげねば、とそう強く強く思うから。
「だって、そのために皆さんここまで来たんでしょ……? 本のストーリーでも信じて来れたんでしょ?」
「キミは自分のパートナーよりも、彼女達を選ぶの?」
そんな詩穂に、清泉 北都が静かに問いかけた。
「ボクは嫌だな。パートナーが大事だし、自分の居場所がなくなるのも嫌だ。うん、そう……とても自分勝手な気持ちだよ。だけど、大事なものを守る為なら、ボクは躊躇ったりしない……殺す事でしか解決しないのなら、ね」
「方法はある」
だが、にゃん丸が口を開いた。
「俺は見た、白花と夜魅の過去を。それから、頼まれたんだ……多分、二人のお母さんに。あの子達を救って、ってさ」
「夜魅の心を光で満たし、影龍と夜魅を切り離す……夜魅を助けられれば白花も封印の中に留まる意味がなくなるし、その上で扉を封印すれば影龍だけを異界に放りだせる」
勿論、言う程簡単だとはにゃん丸も思っていない。
影使いの邪魔もあるだろう、闇に在る夜魅の心を光で満たす事が本当に出来るのかも、分からない。
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