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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』
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第9章 繋がる心
「みんな、諦めないで!」
 ルカルカは周囲の者達を見まわし、声を上げた。
 空間が軋みを上げていた。
 扉を上げようとする向こう側からの力と、こちらからそれを留めようとする陸斗や黎達と。
 その狭間で、夜魅もまた耐えているのをルカルカは感じた。
 押しつぶされそうな、呑みこまれてしまいそうな、闇に、
 そして。
 手が。
 ようやく手が、届く。
「やっと、ここまで来たよ」
 神楽授受は夜魅の身体をそっと抱きしめた。
 途端、全身に走る痛み。
 今、夜魅が味わっているだろう、痛み。
「わたしも負けませんから……無謀パワー、見せてくださいね」
 流れ込んでくる、エマの癒しの力。
 それを夜魅に注ぎ込みながら、ジュジュは口の端を釣り上げた。
「誰が負けるかってーのよ」
 流れ込んでくるのは、癒しの力だけではない。
「わたしも…忌み子として、閉じ込められていました。でも、たくさんの人と出会い、友達ができたから……救われたんです。あなたも、その闇から出ることができるはずですわ。友達を信じて」
 エマの思いもまた、流れ込む。
 いや、エマだけではない。
「だいじょーぶ、痛みはあたしが一緒に引き受けるわ。だから……皆の声を聴いて」
 ふっと、夜魅の瞳に光が灯った。

「あいつらのやろうとしている事、絶対に邪魔はさせないわよ」
 ルカルカや真人達の防御に入るセルファ。
「白花と夜魅、それに皆が笑顔になれるエンディングは譲れないのよ!」
「私にできるのは、どんな闇の中でもどんな苦しい中でも、希望は存在して夢を見ることができることを伝えること」
 オレグは、持ってきた小瓶の蓋をあけた。
 漂う、花の香り。
 甘やかなそれは、荒らされた花たちの残り香を集めて作った香水だった。
 香りは夜魅に届く。乗せられた、皆の思いと共に。
「ことばと想いと心と。きっと、人を好きになるというのはこういうことなのでしょう」
 だから、せめて勇気を。
「心の扉を開き、因縁を断ち切るための勇気を私はあげたいと思うのです」
「君に、どうしても伝えたい事があるんだ。黒花も、こんなに綺麗で、その美しさに魅了される人は多いんだよ」
 エースの手には、クリスマスローズ『ルーセブラック』が在った。
 5枚の黒い花弁が正五角形を描く、とても綺麗な花だ。
 夜魅に渡したいと必死で守ってきた、花。
「花の一輪一輪はいずれ枯れてしまうけど、花が枯れる事は花が滅ぶことじゃない。花は次々と咲いていくもので、そして次の世代へと繋いで行くものなんだよ」
 花で封印が成されていたのも意味があるはずだと。
「花は命の象徴で、未来へと生きていく生命の謳歌の象徴でもある。君がまだ体験していない沢山の楽しい思い出を一緒に紡いでいきたいと願っている人が沢山いるんだ」
 可憐な花の姿が、芳しい花の香りが、闇に沈みゆく夜魅の意識を繋ぎ止める。
 こちらに向けられた瞳が確かに焦点を結ぶのを、エースやクマラは見た。
「一人ぼっちで寂しいキモチは、よく判るよ……オイラも仲間を何千年か探していたから」
 小さな魔女……クマラは「だけど、さ」と仲間達を、戦う仲間達を見まわした。
「オイラは契約者を得たし、探してた大切な友人も見つかった」
 生きていればいい事ある。勿論、悪いこともあるけれど。
「でも対処方法も考えられるじゃん、一人じゃなけりゃ」
 こんなに大勢の手を差し伸べてくれる人たちがいるなら、何が怖いわけ?、子供っぽく不思議そうに問う。
「みんな、夜魅の笑顔が見たいんだよ」
「そう、だな。俺にルカがいるように、お前にも白花や大勢の仲間がいる」
 こんな青臭い言葉を言うガラじゃない、思いつつダリルは口にせずにはいられなかった。
 先ほどのルカルカの言葉は届いている筈。
 何故ならあの言葉はルカルカの心の底からの叫びだったから。
 銃声も妨害もあの声を思いを、遮る事なんて出来る筈がないから。
「夜魅が化け物だと言われても関係ない。今、絶望に染まるほどの希望が、望みがあったんだろう」
 それは葛稲 蒼人(くずね・あおと)も同じ。
「真に許されざる化け物はそれを利用し歪め使い捨て、自らの欲望を叶えようとする者だ。夜魅の本当の望みを真にかなえる方法が今此処に示され、それが叶う事を願う者達もいる」
 自分達がいる、だから。
「希望の光を掴め、願った望みを本当に叶える為に。もし、絶望を暗い心の闇が捨てきれないなら全て吐き出せ、俺達が受け止める。もし、犯した罪が邪魔をするならば俺達が共に背負う。……だから心を光で満たせ」
「どれ程辛くて悲しくても、昔を変える事は出来ないけど、今と此れからは変える事が出来るよ」
 蒼人に寄り添い、神楽 冬桜(かぐら・かずさ)もまた声を思いを、手を差し伸べる。
「それがどれ程絶望に染まる昔でも、受け入れてくれる人がいるなら、支えてくれる人が人達が、支えたい共に歩きたいと思う人が人達がいれば。……そんな人達が集まってきてるの、だから願いを、希望を捨てちゃ駄目だよ」
「君が今ここに居るのはお母さんと姉である白花さんの愛があったからではないでしょうか?」
 同じ気持ちで真人もまた思いを告げる。
「何故俺達がここに居るんですか? 君に幸せになって欲しい。そう思うからですよ」
 夜魅は……今の、善悪を知った夜魅なら、自分がしてきた事への罪悪感と不安感が有るかもしれないけれども。
「一人不幸にしたのなら、その人ともう一人幸せにして償っていけば良い、もちろん俺達も協力を惜しみません」
 仲間達を、指し示す。
「痛みも悲しみも分かち合えば良い、そんなお人好しは俺も含めても一杯居ますよ」
 夜魅が希望を持てるように、勇気付けながら。
 それだけではダメだと、真人は分かっていた。
「俺達は幸せの可能性を提示は出来ても、最後は夜魅が掴まないと駄目なんだと思います」
 そう……いくら希望で満たしたとしても、それを受け入れるか決めるのは夜魅自身なのだから。
「未来が不幸だなんて誰が決めました? 未来は夜魅自身が決められることです。他人が決めることではありません」
 自分達に出来るのはただ、希望の灯火を示し、手を差し伸べることだ。
 だから、待つ。
 思いをぶつけて、手を伸ばして。
「幸せになりたいと思うのなら、こんなところで諦めるな!」
 仲間達から託された思いを胸に。