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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第1回/全3回)

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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第1回/全3回)

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「我ら三人、性は違えども……なんて、堅苦しい口上は抜きにして……これからも仲良くしてね」
「改まって言われるとなんかこう、やりにくいねぇ。ま、今後ともよろしく」
「変わらぬ友情と、共に平和を守ることを、この樹の下に誓おう」
 イルミンスールの中でも一際太くしっかりとした枝、人間に例えるなら背骨に相当する、世界樹イルミンスールからすれば『枝』だが、人間がどう見たところで『樹』としか形容出来ない規模の、その樹の下で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)佐々良 縁(ささら・よすが)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、かつて歴史に名を残した武将が行ったとされる儀式を真似て、この場に巡り会えたことを喜び合い、これからも仲良くしていくことを誓っていた。
「終わったのなら、そろそろ行くぞ。……む、暗くなったな」
 なおも楽しげに会話を交わしていた三人にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が呼びかけたところで、それまで上空からもたらされていた光が弱まり、代わりに各所に設置されている集光灯――しゅうこうとう、世界樹イルミンスールに注がれた太陽光は、枝葉を通してイルミンスールのとある施設に送られ、そこから適時必要な場所に光を供給している。集光灯も、それによって光る仕組みになっている――が柔らかな灯りを提供する。この、いわゆる『昼』から『夜』への切り替わりは数分で行われるため、他方からやってきた生徒、そして精霊はその環境の劇的な変化に少なからず戸惑いを覚えていた。
「灯りがあるとはいえ、今までより見通しが悪い。こういう時にこそ秩序は乱される、気を抜かず行くぞ」
「ったく、ダリルはこんな時でも生真面目だぜ。……っと、皐月、そっちじゃないぜ」
 ダリルの態度にやれやれと息をついたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、一行から離れていこうとする佐々良 皐月(ささら・さつき)を引き止め、一行の列に戻させる。
「あ、あれ? もしかして、またワタシ、間違えてましたか?」
「おうよ、ふらふら〜っとな。ま、しゃあねえ。いきなり暗くなっちまったからな」
「あうぅ……ワタシって本当に方向音痴なんだよね……ありがとう、かるきん」
「……その、かるきん、ってのはどうにかなんねえか……」
「え〜、かるきんはかるきんだろ〜? いまさらかるきん以外になんて呼べっていうんだよ」
 佐々良 睦月(ささら・むつき)の言葉に、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が反応して答える。
「オイラはカニって呼んでるよ? だってカニじゃん」
「カニ〜!? どこをどう見たらカニなんだよ、ぜんぜん違うじゃん。やっぱかるきんで決まりだな!」
「いや、オイラはカニだと思うね!」
「かるきんだ!」
「カニだ!」
 両者一歩も譲らず、やがて言い争いに発展する二人。
「ああほら、こんなところで喧嘩でもしたら、他の人や精霊に失礼だろ?」
「なんだよふちー、いい子ぶっちゃってさー。俺と見た目対して変わらないのにさー」
「オイラとも対して変わらないのにさー」
「な、何だと!!」
 夏侯 淵(かこう・えん)が二人の仲裁に入ろうとして、余計に言い争いを拡大させてしまう。外見年齢10歳の、一見可愛らしい、しかし何とも騒がしい戦いが激化の様子を見せていた。
「おやおや、困りましたね」
 孫 陽(そん・よう)がまるで我が子を見守るように微笑を浮かべていた。
「どうしたんだな、何があったんだな?」
「どうしましたかー……あ、モップスさん。それに……あっ!」
 騒ぎを聞きつけたのか、モップスがさらによれよれになった着ぐるみを揺らしながら駆けつけ、一時の休息を満喫したミーミルが舞い降りてくる。そこに見知った顔を見つけて、ミーミルが声をあげ、やはり気付いたルカルカが微笑みを浮かべる。
「ここで会えてよかったわ。元気だった?」
「はい! あの、なかなか会いに行けなくてごめんなさい。私、ミーミルって名をつけてくれたあなたに会いたかったです!」
 ミーミルが甘えるように飛び付き、受け止めたルカルカがその頭を撫でる。かつての戦いで絆を結んだ者同士、再会を喜び合う。
「お、ルカさんいいなぁ……私もミーミルさんもふもふしたいなぁ。ふかふかで柔らかそうだよねぇ……」
 二人でキャッキャウフフ状態のルカルカとミーミルを、縁が少しだけ羨ましそうに見つめて、ふとモップスが視界に入る。
「……うーん」
「な、なんだな。ボクはもう勘弁なんだな。もふもふ、って言葉を聞くだけで鳥肌が立つんだな」
 視線を受けたモップスが慌てて後ずさる。もちろん、傍目には鳥肌なぞ立っていないし、びくついているその姿はどこか愛らしくもあった。
「あっ、そうだ! あの、これから向こうの広場でパーティーを企画しているんです。今日の精霊祭の最後に一番盛り上げようって、皆さん張り切っていて。皆さんも、よろしければこれからご一緒しませんか?」
 ルカルカと、結局加わった縁にもふもふとされながら、ミーミルがこれから行われるパーティーへ一行を誘う。
「それはいいですね。では、素敵なレディとなったあなたを、ぜひエスコートさせてください」
 エースが、取り出した白い薔薇をミーミルの胸元に挿して、手を差し出す。
「え、私ですか? いえその、お気持ちは嬉しいんですけど、私なんかよりも、もっと素敵な精霊さんをエスコートしてあげてください」
「……ぷっ、ふられてやんの」
「ふられてやんのー」
「まだまだ精進が足りないようだな」
「うるさいぞおまえたち! 俺はそんなつもりで言ったわけじゃない!」
 それまで紳士的だった対応を素に戻して、エースが今やすっかり仲良しになってしまった三人のちびっ子――本人がそれを聞いたら激怒しそうだが――を追いかける。
「……こんな調子で、無事にパーティーが済むのか?」
「まあ、何とかなるだろ。もっと気楽に行こうぜ、ダリル」
 嘆息するダリルに、カルキノスが笑って答える。
 そうして一行は、パーティー会場へと向かっていった。

 パーティー会場は既にたくさんの人と精霊が集まり、既にいくつかのテーブルでは料理や飲み物が振る舞われ、賑やかな談笑が交わされていた。
 その片隅で、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)が、それぞれの撮影機器の最終チェックを行っていた。彼女たちは精霊祭の様子を撮影し続けてきており、今こうしてパーティーの様子を撮影することで、その仕上げとしようとしていた。
「エル、フィア、準備はオッケー?」
「大丈夫なのです。カメラもフィルムもバッチリなのです」
「私にお任せください、ろり好みの精霊達を激写するのですよ」
「……ちょっと待ちなさい。フィア、ダメに決まってるでしょそんなの。ちゃんと均等に映しなさい」
「後で高く売れるかもしれませんよ?」
「売らなくていいわよ! ……まったく、一体どこからそんな知識覚えてくるのよ」
「えっと……ここ?」
 そう言ってフィアが自分の頭を指す。……ごめんなさい、自分がしょっちゅう電波送ってます。回を重ねるごとに強力になっていくかもしれないので、対策を検討するなりしておくと心配事を減らせると思います。以上、個別コメント出張版でした。
「……まあ、いいわ。じゃあ私は今まで通り、生徒を中心に撮るわね。祭で浮かれてることだし、コメントも気軽にもらえるかしら」
「その時は私がインタビュアーを務めるのですよー。質問、何がいいですかねー?」
「では……「ストライクゾーンはいくつからいくつまでですか?」でお願いします」
「……却下!!」
 フィアの質問内容は、即座に唯乃に却下される。
「「自分のストライクゾーンは、外見年齢7歳〜14歳です」だそうです。……リンネさん、外れてますね」
「誰の情報よそれ!! ……一回、フィアのメンテナンスをした方がいいかしら?」
 フィアがこの先どんどんとコワれていくことを、心底から危惧する唯乃であった。
「あっ、準備できた? そろそろ本格的に始めようと思うんだけど、いいかな?」
「できたら、あたいとレラのカワイイところも撮ってよね!」
「カヤノ、そんな、記録に残るなんてわたし、恥ずかしいわよ」
 そこにリンネ、カヤノとレライアが現れる。既にその手には注がれた飲み物が持たれていた。ちなみに中身は果実を発酵させて作った、いわゆる『ちょっといい気分になれる飲み物』である。
「ええ、準備完了よ。じゃ、行ってくるわね」
「行ってくるのですー」
「……げっと、ろーあんぐる、です」
 唯乃、エラノールとフィアが撮影機器を手に散っていくのを確認して、リンネがパーティー会場に設けられたステージの上に立つ。
「みんなー、今日は来てくれてありがとー! 最後まで盛り上がっていこー!」
 元気よくリンネがパーティーの開始を告げ、お祭りはいよいよ最高潮へと向かっていく。

「……あら、どういう物かと思いましたけれど、飲みやすいですわね」
「そう、これがイルミンスールと人の業が生み出した、その名も黄金の蜂蜜酒。飲むごとに悪魔を寄せ付けなくするという曰く付きの代物よ」
 テーブルについた『サイフィードの光輝の精霊』イオテスに、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がお酒を勧める。実際のところはそんなことないし、ましてや星間宇宙を移動できるわけでもない。後、人によってはえっちぃ方向に解釈する人もいるかもしれないが、これはちゃんとしたお酒です。……キャラクエネタのような気もするんですが、マスターは現時点ではキャラクエの内容を把握出来ないので、こんな解釈になっちゃいましたごめんなさい。以上、個別コメント(これは全体向けに説明するかもしれません)出張版でした。
「飲みやすくて、ついつい飲み過ぎてしまいそうれすわね」
「そうなんですよ、私もつい飲み過ぎてしまうんです」
 黄金の蜂蜜酒はその口当たりの良さから特に女性に人気を博しているが、密かにアルコール濃度は高い。具体的な数値は製法が不安定なこともあって確定していないが、一桁のものはこれまで出回っていないとのことであった。そしてその影響が、どうやらイオテスにも現れ始めたようである。
「はれれ、なんらかひもひよくなってひましたわぁ〜」
 もうすっかり酩酊といった感じのイオテスが、透き通るような白い肌を朱に染めて、ぽわぽわとし始める。普段はキリッとした様子の彼女も、酒の力には抗えないようである。
「今宵は特別な一時、どうかこのことを忘れぬよう、存分に楽しんでください」
 一方祥子は、飲み慣れているのか外見的にはさほど変わった様子はない。
(もう少し……もう少し酔わせれば、後は契約も思いのまま……ふふふ……)
 ……ように見えて、実は相当酔っているようである。

「ちょっと、どこ連れてく気よ! あたいはレラと一緒に――」
「いーから付いてきて! とっておきのもの、見せてあげるから!」
 カヤノの手を取って、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が人と精霊で溢れる会場をすり抜けていく。そして辿り着いた先では、風森 巽(かぜもり・たつみ)が訪れた精霊に給仕を行っていた。
「いらっしゃいませ。精霊祭はどうでしたか? 最後までゆっくりしていって下さいね」
 虎耳に虎尻尾、長く伸びた髪を優雅に垂らし、ふわふわのメイド衣装に身を包んだ巽は、少なくとも人間には完全に女性だと勘違いされていた。
「あ、ああ、ありがとう。その服、似合ってるね」
「ふふ、ありがとうございます」
 応対を受けた精霊が、おそらくは巽が男性であることを直感的に知りながらも、褒め言葉を口にする。本質を見極めることに優れた精霊が嘘の対応をしてしまうほどに、巽の女装は堂に入っており、異性を惹きつける効果があった。
「どーだ! タツミのコーディネートはボクが決めたんだよ!」
「く、悔しい……けど、可愛い、と言わざるを得ないわ……というか、どうしてあんなに似合ってるのよ、おかしくない?」
「へっへーん、タツミには女装の才能があるのだ!」
 どうしても否定できない悔しさを滲ませながら、巽の女装ぶりを肯定するカヤノに、ティアがまるで自分のことのように胸を張って答える。
「くしゅんっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ええ、大丈夫です。少し冷えてきたみたいですね。そちらもどうかお気をつけて」
 心配してくる精霊に笑顔で返して、巽がその場を立ち去る。
(……誰か噂をしている?)
 巽の心配をよそに、ティアとカヤノがなにやらヒソヒソと話を続けている。
「でさ、ちょーっと、頼みがあるんだけどさ」
「何よ、あんたらしくないわね。……はぁ!? ……まあ、いいんじゃない? 元々あたいとレラで何かしようと思ってたから、それを合図にでもすれば」
「そっか、じゃ、よろしくね!」
 走り去るティアを見送って、カヤノがリンネとレライアのところへ戻っていく。

「わたくしたち、精霊祭の最後に行われるというキャンプファイヤーと申すのですか? その点灯役を仰せつかりましたの。わたくしはサイフィードの光輝の精霊、エレンですわ」
「同じく、ネーファスですわ」
「メリルですわ。わたしくたちが交代で、炎がもたらす光を調節し、赤から紫まで変化させます。熱の方は炎熱の精霊の方がいらっしゃるようですから、その方にお任せしますの。ここは世界樹の中、万が一のことがあっては、招待を受けたのに失礼ですものね」
 リンネが最後に企画した、人と精霊の友好の証を象徴する大キャンプファイヤー。その、光の調整を担当する予定の精霊と顔を合わせたランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)シャロット・マリス(しゃろっと・まりす)が、料理と飲み物を傍らに交流を交わしていた。
「つまりは、炎色反応のようなものと思えばいいのかしらね? なんだか楽しみですわね。わたくしもその光の調節というものに加わってもよろしいかしら?」
「わたくしは構いませんけど、一度、セイラン様に許可を取って頂いた方がよろしいかと思います。セイラン様は光輝の精霊の中でも優れた力と知識を持つお方で、わたくしたちのおまとめ役を仰せつかっているのです」
「あら! そんなに凄い方がいらっしゃるの? それで、その精霊は今どこに?」
「まだお見えになられていないようです。時間に遅れてくるような方ではないので、どうしたのかなと思っているのですが」
「随分としっかりとされた方なんですね。その方がまだとなると……何かあったのでしょうか」
「セイラン様は気難しい方なのです。それに、闇黒の精霊と住処を共にしていると聞いています」
 光輝の精霊と闇黒の精霊は、基本的には仲が悪い。もちろん例外はあるのだが、精霊の一般的な見解として、炎熱と氷結、光輝と闇黒は相容れない存在として捉えているのである。
 なかなか現れないそのセイランという精霊のことを心配し始めた一行は、突如ステージの方が騒がしくなるのに気付いてそちらに視線を向ける。見れば数人の生徒が、楽器を手に精霊を称える歌を披露しようとしていた。
「どうしよう、みんなコッチ見てるよ……失敗したらどうしよう……」
 ステージの真ん中で、愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)が無数の人間と精霊の視線を受けて緊張の面持ちを浮かべる。
「ミサさん、大丈夫! ミサさんの歌なら、きっと心に届くよ!」
 ステージの左、フルートを手にした遠野 歌菜(とおの・かな)がミサに励ましの言葉をかける。
「ここまで来たら歌うっきゃねーだろぉ!? 腹に力入れて、俺の歌を聞けー!! ってやりゃあ、嫌でも振り向く! 演奏は俺たちに任せて、歌え! 存分に歌え!」
「そーだそーだ、歌っちゃえー!」
 ステージの右、アコースティックギターを手にした五条 武(ごじょう・たける)と、タンバリンを手にしたトト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)がハッパをかける。
「……………………」
 自らの胸に手を当てるミサ、鼓動が速く、そしてしっかりと聞こえてくる。……気付けば、ミサの不安な気持ちを察した精霊たちが汲んだように静まり返り、それに人間もつられてじっと、演奏が始まるのを待っていた。
(難しいことなんて考えない……ただ、この歌を聞いて、人間と精霊が仲良くなって欲しい……!)
 ミサの表情から不安が消え、そこにはただ、歌を愛する一人の少女がいるだけであった。
 ミサの準備が整ったことを確認した歌菜と武がアイコンタクトでタイミングを合わせ、そして演奏が始まる。誰に言われるでもなく、自然とミサの口が開き、思いを込めた言葉が紡ぎ出される。

 母なる大地の子供達
 大地の御子たる精霊と
 恩寵に生きる人々の
 古き交わり今ここに
 幻想の彼方より呼び戻そう

 熱くその身を滾らせて
 力と与えし赤き炎

 澄んだその身を佇ませ
 命を守りし青き水

 風雨にその身を委ねつつ
 大地を巡りし稲光


(ミサさん、楽しそう……)
 歌菜の目には、ミサが心から楽しんでいるように見えた。そして、精霊にもその思いが届いているのだろう、段々と歌に合わせて身体を動かす精霊が増えてきていた。
(私も、頑張らなきゃ!)
 ちょうどフルートのソロパートに突入し、歌菜がまるで踊りたくなるような、軽快なリズムの演奏を披露しながら、自身も花びらのように広がったスカートをふわりと舞わせて躍動する。
 ソロパートが終わり、少しずつ手拍子などの音が加わる中、再びミサが言葉を紡ぎ出す。

 父なる空の子供達
 空の御子たる精霊と
 恩寵に生きる人々の
 永き交わり今ここに
 追憶の彼方よりここにあり

 陽光と共に空を満たし
 我らを照らす白き光

 月光と共に空を満たし
 全てを包む黒き闇


 続いて、武のソロパートに突入する。
(いつものロックな演奏は封印だぜ。……ま、あれはあれで演りたくもあったが、精霊と仲良くなりゃあ、いつでも聞かせてやれっからな!)
 普段は激しい演奏を見せることの多い武だが、今日はまるで広大な自然をバックに迎えた、伸びやかなメロディーを演奏する。横ではトトが、タンバリンをシャンシャンと鳴らしながら、音楽に合わせて可愛く踊る。
 人間と精霊が手を取り合い、ハーモニーを奏でる会場を、ミサの澄んだ声が包み込んでいく。

 大地と空の子供達
 大地と空の精霊と
 恩寵に生きる人々の
 懐かしき様を見よ
 蒼き空の彼方にて
 新しき交わり今ここに

 
 演奏が終わり、静まり返る会場。
「聞いてくれて、ありがとう!」
 全てを出し切った、清々しい表情を浮かべて、ミサが一回頭を下げ、もう一度歌菜と武と手を取り合って、一緒に頭を下げる。
 その直後、割れんばかりの歓声が響き、人間と精霊がステージに集まってくる。そこからかけられる言葉はどれも、ミサ達を称える言葉ばかりだった。
「素晴らしい演奏でしたわ。精霊にもきっと、心は伝わったと思います」
『そうだの。我も思わず聞き入ってしまっただの。……さて、次といくかの。セリシア、準備はよいな?』
「ええ、いつでもどうぞ、姉様」
 ステージの盛り上がりを見守っていたサティナの姿が消え、代わりにセリシアの身につけていた『シルフィーリング』が緑色に光輝く。そのリングを付けた手を前にかざせば、生み出された風がステージから真っ直ぐに伸びる花道を示すように吹き抜ける。優しく頬を撫でる風に引かれるように振り向いた先からは、賑やかな演奏と光の演出を行いながら、個性豊かな仮装衣装に身を包んだ者たちがパレードを始めていた。
(パレードするってェんなら、この格好しかねーだろォ! 思いっきり楽しませてやるぜェ!)
(折角のお祭りです、イルミンスールとの仲だけでなく、精霊同士も仲良くなれたらいいじゃないですか)
 フルートを演奏しながら一行の指揮をとるかのように先頭を歩くサン・ジェルマン(さん・じぇるまん)の後ろに、ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)が変装した、星型のサングラスがユニークポイントの白いウサギと、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が変装した、青い、等身が高くぴっちりしているところがこれまたユニークなコアラの二体が続く。飛んだり跳ねたり、ムーンウォークにバク宙などもはやムチャクチャな動きだが、精霊にはその楽しさが伝わったのか、同じように飛んだり跳ねたりムーンサルトに前宙の大盛況であった。
「精霊さんがた、ごきげんようー! ……で、あってるよね? あと、楽しませるためだからってヘンなこととかしたら全力で止めるからね!?」
「こんな余興も、たまにはよいものじゃ。なあに安心せい、あ奴らが何かしでかそうものなら、おぬしが出ずともわしと、この虎で押さえつけてくれようぞ」
 精霊をイメージした衣装を纏ったラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が、前で好き勝手に暴れているようにしか見えない二対を牽制しながらも、自らも術を用いて演出を彩る。
「師匠! 一緒に何かパフォーマンスをするであります! 同時に爆炎波なんてカッコよくてアリだと思います!」
「何を言うかと思えば、ジェーン、はしたないであろう」
 スネアドラムの16ビート演奏に飽きたジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が、ノリノリでタンバリンを振り回していたクロシェット・レーゲンボーゲン(くろしぇっと・れーげんぼーげん)にパフォーマンスを持ちかける。
「師匠、ここは是非とも、師匠の偉大さをお見せください!」
「……ふむ、そこまで言うなら、よかろう。ジェーン、とくとその目に焼き付けておけ!」
「了解であります! ジェーンさんも恐れながら、負けないのであります!」
 二人がタイミングを取り、演奏に合わせるようにしてそれぞれタンバリンとスティックを振り上げれば、そこから爆風と炎が暗くなった空間に舞い上がり、見ていた観客を一層盛り上げる。
「精霊可愛いなぁ……オレも可愛く生まれたかったなぁ……こんなにいるんだから、お持ち帰りしてもバレないかなぁ……って、なんだか面白いことしてるねぇ。んじゃオレも加わらせてもらおうかねぇ」
 外見年齢9歳のとても可愛らしい精霊に手を振られて、思わず危険な思考に陥りかけていた仙 桃(しゃん・たお)が、ジェーンとクロシェットのパフォーマンスに刺激されたか、自らも龍の姿をとってその口から炎を吐き出すパフォーマンスを見せる。
「ねーねー精霊さん、ファムといっしょにあそびましょ?」
「むふふ……可愛い精霊ばかりじゃのう……まさに選り取りみどりじゃのう……」
 その愛らしい服装と仕草でファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)が、ある種の琴線に触れた精霊を虜にし、一方で九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)は外見年齢7歳の精霊に纏わり付かれて、すっかり虜にされていた。……このロリコンどもめ!(お前が言うな) あ、名前は、一回は出さないとシステム的にエラーが出ちゃうので、失礼ながら出さざるを得ませんでした。以上、個別コメント出張版でした。
 そうして、パレードがステージの前まで辿り着いた時には、会場は人も精霊もその区別関係なく――炎熱と氷結、光輝と闇黒の精霊同士も、仲良くとまではいかないものの、同じ場にいて喧嘩を起こさないのはそうないことであった――手を取り合い、踊りに歌に興じていた。
「どうやら俺の意見が参考になったようだな」
「うんうん、演奏会とパレードをどうくっつけようかなって……ってうわぁ!! いつの間に後ろに!? そういえば最初の時も天井からいきなり降ってきたよね!?」
「なあに、第一印象は大事ってヤツだ」
 突如姿を表した出雲 竜牙(いずも・りょうが)に、満足げな笑みを見せていたリンネが思いきり驚く。竜牙がリンネに「日本でも古来から、神や精霊といった神秘的なものを祀るために歌舞を行うことはよくあった。だから生徒と精霊を混じえた舞踏会を開こう」と提案し、既に演奏会とパレードを行うことが決まっていたことを知っていたリンネは、「じゃあ一緒にやっちゃおう!」ということで、この流れに収まったのであった。
「と、とにかく! カヤノちゃん、レライアちゃん、手はず通りにお願いっ!」
 気を取り直して、リンネが控えていたカヤノとレライアに指示を出す。
「任せて! あたいとレラで、最高の演出ってヤツを作ってあげるわ!」
「お願い、わたしに力を貸して……!」
 カヤノが高々と掌を掲げ、レライアが青色に光る『アイシクルリング』に祈れば、やがて空からふわり、そしてキラリと、水の結晶が舞い降りてくる。幻想的な光景が生み出すロマンティックな雰囲気に、人間と精霊はごく自然に手を取り合い、流れる旋律に身を委ねていく。
「最高の舞台になったな。……さて、リンネちゃん、せっかくだから俺と踊らない? 大丈夫、俺が手取り足取り教えてあげるからさ――」
「レライアちゃん、リンネちゃんと一緒に踊らない?」
「え、あ、わ、わたしですか?」
「ちょっと、何勝手にレラ誘ってるのよ!」
 宝石の舞い降る中、竜牙がリンネを誘うべく手を差し出す……が、既にリンネはその場におらず、リンネはレライアの手を取り、突然のことに慌てるレライアと、レライアを取られまいと反発するカヤノ、そんな一行を微笑ましけに見守る、セリシアとサティナの姿があった。

「……くそっ、めぼしい成果は上がらなかったか。そろそろ時間切れだな」
 賑やかなその様子を遠目に見ながら、男が呟く。
「しかし、向こうは手筈通りにいっているはずだ。……くくっ、せいぜい楽しむがいい。お前たちに、次の朝は訪れないのだからな」
 不敵な笑みを浮かべて、男が闇に消える。

 上空からミーミルが、音もなく舞い降りてくる。その表情は、この賑やかな会場の中にあって決して明るくはない。
「リンネさん、少しよろしいですか?」
「なになに、どうしたの?」
 呼ばれたリンネが、ミーミルと共に会場を後にする。
「まさか風森が、こんなに可愛いなんて、予想外でびっくりしたよ」
「いや、これは違うんだ! そういう趣味があるわけじゃ……」
「うん、分かってる。あと、差し入れありがと。美味しかったよ」
「そっか、よかった。愛沢の歌、凄くよかった。きっとみんなに、愛沢の気持ちが届いたと思うよ」
「そ、そそそんなこと言われると、恥ずかしいよ……」
 氷と雪のコラボレーションを合図に、ティアが導くことによって無事に会うことの出来た風森 巽と愛沢 ミサの微笑ましい会話の横で、譲葉 大和と遠野 歌菜が手を取り合ってステップを踏んでいた。
「大和さん、姿が見えなかったですけど、どこに行っていたんですか?」
「ちょっと所用がありまして。大丈夫です、歌菜さんの演奏はちゃんと聞いてましたよ」
「本当ですか? あの、変じゃなかったですか?」
「いえいえ、素晴らしい演奏でしたよ」
「よかった……大和さんにそう言ってもらえて、嬉しいです」
 会場ではその他、今日知り合った者たち同士の仲睦まじい会話が交わされていた。

「ええっ!? まだ来てないの!?」
「はい……予定ではもう来ていてもいいはずなのですけど」
 ミーミルの報告によれば、大キャンプファイヤーのまとめ役としてこのイルミンスールに来るはずの『サイフィードの光輝の精霊』セイラン、同じく闇黒の精霊ケイオース、そして『ヴォルテールの炎熱の精霊』サラの姿が、まだ見えないのだという。
「うーんうーん、困ったよ〜、みんなが来ないとせっかくの仕掛けができないよ。精霊との絆も結べないよ」
 まさに困ったとばかりにリンネが唸る。サラ、セイラン、ケイオースはそれぞれの縄張りの中で高位の位置に立つ精霊であり、彼らが人間を認めぬ限りは、個々の友好関係に関わらず、イルミンスールと精霊の絆は結ばれないであろう。
 と、突然、会場が賑やかさとは別の、騒然とした雰囲気に包まれる。
「サラ様だ!」
「サラ様が来られたぞ!」
「サラ様、そのお怪我は一体――」
「私のことはいい。ここの責任者に会わせてくれ」
 声を聞きつけてやってきたセリシアとサティナ、カヤノとレライアと一緒にステージの前までやってきたリンネとミーミルは、赤い髪を両脇に垂らし、露出の多い衣装を纏った女性の姿を認める。女性の身体のあちこちには何かに引掻かれた痕が残り、出血こそしていないものの痛々しい姿を晒していた。
「あなたがここの責任者か。私はヴォルテールの炎熱の精霊、サラだ。まずは貴重な人間と精霊の交流の場に遅れてしまったこと、誠に済まない」
 言い終えたサラが、がくり、と膝をつく。駆け寄ったミーミルに身体を支えられながら、同じく膝をついたリンネと視線を合わせる。
「申し訳ない……もしあの者たちに助けてもらわなければ、どうなっていたことか」
 言ってサラが振り返れば、そこには虎の頭をしたキメラを二匹従えた鷹野 栗と、彼女と行動を共にした生徒たちが控えていた。
「一体何があったの?」
 問いかけるリンネにサラが、無念の表情を浮かばせて答える。

「セイランとケイオースが、連れ去られた」










……リアクションはここでおしまい!
次ページは、『ミーミルへの質問コーナー』を掲載します。