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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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 山葉が走り去ったあと、斉藤 八織(さいとう・やおり)カース・レインディア(かーす・れいんでぃあ)が、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)有洲 いちご(ありす・いちご)の前を通った。
 いちごと瑠樹からチョコをもらうと、八織も彼らににチョコをプレゼントした。
「お三方ともお疲れ様です。皆さんに幸せを届けてる皆様にも幸せを」
 そして、八織は彼らから山葉の話を聞き、ふむふむと頷いた。
「彼を救えるならば、私からもチョコをと思いますが……」
「まぁ、チョコの数は多いほうがいいだろう。会えたらあげるといい」
 瑠樹のアドバイスをもらい、八織は頷いて、カースと共に、山葉が向かったという公園のほうに行った。
 カースは挨拶をして去りながら、ちょっと瑠樹が気になった。
 面識はまったくないが、名前を聞いて噂を思い出した。
 瑠樹は教導団の中でも一番の速さで少尉に出世した人物だ。
 眠たそうな目をしたゆるっとした雰囲気だが、校長会議を襲撃した鏖殺寺院の作戦を一人で読み切り、迎撃したと聞いたことがある。
(八織殿の主候補に……もっとお知り合いになってみたいかもしれません)
 カースは八織の主候補を探しているのだ。
 八織は尽くし甲斐のある、尊敬出来る方に惹かれますと言っていた。
 それが執事としてならだが……とカースとしては複雑な気持ちではあるのだが、しかし、知り合いを作るのは良いことだと思っていたし、八織もカース様のお眼鏡にも適わなければならないでしょうが、友人として知り合う分にはいろんな人と知り合って問題ないでしょうと思っていた。
 現在のところ、八織には主となる相手が居ないので、カースが仮の主状態だ。
 練習台とはいえ、自分の執事として振舞う八織にカースは複雑な心境ではあったが、今日はそんな八織への想いを込めて、プレゼントを用意していた。
 公園に入り、2人っきりになると、カースはそのプレゼントを八織に渡した。
 それはちょっと良い店で買ってきたチョコとアメジストの指輪だった。
「え……?」
 予想外の贈り物に驚きながら、八織はそれを素直に受け取った。
 特に八織にとっては、アメジストは意外なものだった。
 カースは八織が潜在的に抱える危うさ・儚さに気づいていて、八織には脆く儚い花ではなく壊れ難い物を贈りたくて、アメジストの指輪を選んだのだ。 
「この石は騎士の象徴、誓いと忠誠の証です。出会いをもたらすとも……」
「出会いですか。今以上の出会いはそうはない、ですな」
 八織の言葉に、カースは複雑な笑みを返す。
 自分はおかげで八織に会えたから、八織にもそんな出会いがあってほしいと思っていた。
 でも、いざそんな出会いがあったら、八織が望むような主になれる人が現れたら、きっと複雑だろうということはカースも自覚していた。
 そして、今以上の出会いはないと言って自分を見つめる八織に、カースはさらに複雑な心境になった。
「いつもありがとうございます。未熟な執事の練習相手になってくれて、いつも守ってくれて、私の事ばかりで……」
 感謝と謝罪を込めて、八織が言葉をかける。
 その言葉にカースの胸がちくっと痛んだ。
 そう、自分は練習相手。
 仮の主人。
 間違えてはいけない。
 そう思いながら、騎士として、カースは膝を折った。
「貴女が真の主に出会うまで、それまでは俺が守ります」
 誓いの言葉に、カースの心のに気づかぬ八織は冗談めかして言った。
「きっと長いお付き合いになりますな」
「いえ、主たる人が見つかるよう、尽力いたしますので……」
 カースが苦そうな表情で言うのを、八織は少し気にしたが、思い出したようにバッグに手を入れた。
「改めて宜しくお願い致しますぞ」
 八織もカースにチョコを用意しておいたのだ。
「余り物ですが、鍛錬の疲れを取るためにでも」
 用意していたことは言わず、八織はカースにチョコを手渡す。
「これは……ありがとうございます」
 カースがチョコをしまうと、向こうの方から可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
「なんですかな、あれは」
「さあ、行ってみましょうか」