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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「…………山……山葉…………」
 声が耳に届き、山葉は目を覚ました。
 すると、そこには魔法少女エーコこと城定 英希(じょうじょう・えいき)がいた。
「大丈夫? ヒールを重ねがけしたから傷は癒えているはずなんだけど、うなされてたよ」
「腹減ってるんじゃない? ほら、煎餅」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)がお煎餅を上げると、山葉は複雑そうな顔をした。
「……煎餅」
「ほら、煎餅じゃだめなんだよ」
 エーコちゃんは股間にしまって温めておいたチ○ルチョコをあげた。
「そんなところに入ってたもの食えるかー!」
「何言ってるんですか! 少女の股間から出てきたチョコですよ! 有難く頂きなさいよ!」
「じゃあ、肉はどうだ? ほら、うまいぞ」
 シータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)が自分が狩って来た野生生物のこんがり肉を大量に差し出した。
「惚れた腫れたなんざさ、あんまし関係なくね? 楽しくやりゃいいだろ! な?」
「…………肉か」
「ま、一緒に食おうぜ! そうすりゃ気もまぎれるだろ?」
 ニコニコと笑顔を向けるシータを見て、これまでのことで散々疲れた山葉は肉を手にした。
「もう……肉の方がいい気がしてきた」
「おう、そう来なくっちゃ!」
 シータが喜んで一緒に肉を食べる。
「でも、肉の方がって何だよ」
「これだよ」
 山葉はいくつかのチョコをばらばらっと出した。
 月光蝶仮面鬼崎 朔(きざき・さく)からもらった揚羽蝶仮面スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)手作りのテロルチョコ化した手作りチョコ。
 八神 誠一(やがみ・せいいち)のパートナー・オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が作った、見た目は普通だけど、味蕾を破壊するほどの異様な味がする、直径およそ20センチ、厚みおよそ1センチの丸型で表面に「ギリ」と書かれたチョコ。
 他にもチョコ処分場のようにものすごい作品のチョコからおまけチョコまで、色々と出てきた。
「……貴様、せっかく美少女が作ったチョコを食べないというのか!」
 現れたダークヒーロー、月光蝶仮面が山葉に叫ぶ。
 しかし、山葉は面倒そうに肉を食べていた。
「もうヒーローの出番は終わったぞー」
「……むっ、なぜ自分だけ……」
「いや、さっきの『奈落の鉄鎖』、お前だろうが……」
 途中、山葉はヒーロー達の戦いに巻き込まれた混乱から逃げようとしたのだが、それを最後に供養しようとしていた朔に『奈落の鉄鎖』をかけられ、止められたのだ。
「いいから、早く食え。もし、チョコ食って不味いとか言ってスカサハを傷つけてみろ、そのメガネ壊して、本当に始末するぞ!」
 朔が山葉にしか聞こえない小声で、山葉を脅す。
「さあ、せっかくのチョコだ、たくさん食え! 気絶しても食べさせてやるから、安心しろ!」
 しかし、この一日でたくさんの辛酸を舐めた山葉はレベルアップしていた。
 朔の脅しを聞き、山葉はスカサハにこう言った。
「その大量のチョコ、パートナーさんが食べたいって」
「本当でありますか?」
 輝くような笑顔でスカサハが朔を見る。
「ちょ、ちょっとま……」
「悲しませたくないんだろうー。そんじゃがんばれ」
 恋人になったばかりの椎堂紗月と、蜜月を送る朔が妬ましいのだろう。
 山葉はかけらも同情せずに、朔を地獄に送った。
「お、お前に絶対に宿敵設定送ってやるー!!」
 山葉に恨みの言葉を投げて去っていく朔を見て、永式 リシト(ながしき・りしと)はドキドキした。
「人を呪わば穴二つか……」
 パートナーの山時 雫(やまとき・しずく)からもらったチョコを手にリシトは迷う。
 雫のチョコはオフィーリアやスカサハ同様に、殺人チョコだ。
 リシトはそれを自分で食べずに、山葉の口にぶち込んでしまおうと思ったのだ。
「……何をしてるんですの?」
 後ろに立った天使に、リシトはびくっとする。
 だが、リシトが答える前に、雫は勝手に納得した。
「へえ……可愛い子たちがいっぱいいますね。どの女の子がお好みなのでしょうか?」
「い、いや、女の子なんて見てないぞ?」
 好みだといった女の子を葬り去りそうな雫に怯えつつ、リシトは話を逸らした。
「べ、別にみんなが集まってるから、混ざりたいなって。友達とチョコ交換したり、バレンタインは友達と仲良く楽しく遊びたいなと……」
「それは私とだと楽しくないってことでしょうか……?」
 左手首にリボンを巻いた手をすっと伸ばし、雫が微笑を浮かべる。
 その微笑が逆に怖くて、リシトはビクビクした。
「い、いや、そういうわけじゃなくて……」
「じゃ、これ、食べられますよね?」
 リシトが手に持った自分の手作りチョコを、雫はリシトの口の前に向けた。
「あ、いや……」
「愛があればなんだって食べれるはずです!」
 逃げ腰のリシトを、雫がカタールをぶん回して追いかける。
 その様子を見て、山葉がぼそっと呟いた。
「八神が言っていた『貰えないだけが不幸じゃありませんよ、貰えたって、そっちの方が、文字通り地獄を味わえることもあるんですよねぇ』が少し判った気がした」
「ま、あんなばかりじゃなくて、素敵カップルもたくさん見たよ。ね」
 麒麟宮 文貴(きりんぐう・あやき)は一息ついた他の人たちに同意を求める。
 彼ら手には文貴がくれた高級チョコがあった。
 このチョコには秘密があって、文貴からの質素ながら優しさの篭ったレターが挟まれていた。
『学園で共に過ごし、共に戦っていく者として仲良くしてください、友達になってください 麒麟宮家当主・麒麟宮文貴より』
 文貴はチョコでの営業を欠かさず、御神楽環菜(みかぐら・かんな)にもさらに超高級なチョコレートを送っていた。
「山葉くん、僕も恋人とか居たことないし…ほしいと思う、いれば楽しいだろうと思う。周りが色めき立ってるのに取り残される感じは辛いと思う…でもこんなの男らしくない、カッコよくないよ山葉くん! 君は決して悪くはないんだから堂々とするんだっ!」
 文貴はそう励まし、山葉にもチョコをあげた。
「いつかきっと何処かでいい人が見つかるよ」
「そういうこと。ま、そこまで何かに夢中になるっていい事だと思うんだよねー、良くも悪くもさ」
五月葉 終夏(さつきば・おりが)の言葉に山葉は肩をすくめる。
「良くも悪くじゃ、いいことか分からないじゃないか……」
「まぁまぁ、その悲痛な叫びを聞いて、これを用意してきてあげたから」
 終夏は山葉の眼鏡とそっくりな手作りのチョコレートを渡した。
 眼鏡チョコのガラス部分にあたるチョコにホワイトチョコで【グッドラック!】、裏面には小さく【義理】と書かれていたが、義理とハッキリ言われた方がいっそ良いのか、山葉は受け取った。
「ありがたくもらっておく」
「そうそう、いいかい、バレンタインのチョコレートの数が全てじゃない。大事なのは、そのチョコレートに込められた思いだよ。そしてホワイトデーだよ」
 さりげなくホワイトデーを主張した終夏だったが、光や鮪と話したときの理屈で言うならば、終夏は山葉を気にして、山葉のために手間をかけてチョコを作ってくれたので、素直にその話を聞いた。
 特に終夏はパートナーとラブラブしたり、他の事をするついでの片手間ではなく、自分のためだけにやってきてくれたので、山葉としてはうれしかったのかもしれない。
「ホワイトデーか……一応覚えておくよ」
「うん、その努力はいつか報われるさ。頑張れ、若人よ!」
 終夏はばちーんと元気に山葉の背中を叩き、明るく笑った。
「ところでチョコレートってバレンタインの翌日になると半額になるよね。うーん、明日が楽しみだねーあっははははは」
「明日か。明日になったら、もっと自棄チョコできるだろうが、今はこれでも食おうぜ、山葉よ」
 教導団の坂下 小川麻呂(さかのしたの・おがわまろ)がやってきて、空京のコンビニで買い漁ったチョコをざらざらざらっと山葉の目の前に積み上げた。
「これは……」
「お前と一緒に自棄チョコしようと思って買ってきたんだよ」
 パシッと小川麻呂は山葉にチョコを投げつけた。
「寂しいのはお前だけじゃない。さ、食って憂さを晴らすとしよう」
「……ありがとう」
 小川麻呂と山葉の間に、友情が生まれた。
 すると、そこにこそこそといんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)を混ざってきた。
「チョコ配りの方にもらったので……」
 別にバレンタインに恨みも何もないが、かわいそうな男の集まりを見て、橘 恭司(たちばな・きょうじ)が近寄ってきた。
「ま……これ以上悪いことはしないってことなら、公園で自棄チョコするのも許してやるか」
 恭司は苦笑しながら、涙ながらにチョコを頬張る彼らを見守った。