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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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Scene.7 あなたの価値
 
 「ハルカ、久しぶりです。元気……みたいですね」
 改めて確認をしなくても、ハルカは相変わらず元気そうだった。
 その無垢な笑顔も、変わらない。
「ハルカ元気そう。よかった」
 パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も、安心したように言う。
「とーまさん達もお久しぶりなのです。元気です?」
「元気ですよ」
 相変わらずそうなので、樹月 刀真(きづき・とうま)は、ハルカに念を押すのを忘れなかった。
「ハルカ、勝手にいなくなって、博士や皆に心配をかけてはいけませんよ? 解りましたね?」
「大丈夫。ハルカいなくなったりしないのです」
 こっくりと深く頷いてみせるハルカを、月夜に預ける。
「ハルカちゃーん、どこか行ってみたいところあるか?」
 この観光マップ、今いち解りずらいなあ、と、ヴァイシャリーの地図を広げながら、ぶつくさ言いつつ神代正義がハルカ達を呼ぶ。
「今、ヴァイシャリーでは使いやすい観光マップを作成中なんですよ」
 ご期待ください、と野々が説明している。
「……ハルカ、呼んでる」
 オリヴィエ博士の方へと向かう刀真から少し距離を置くように、月夜は皆の方へとハルカを促した。

「初めまして、オリヴィエ博士。クイーン・ヴァンガードの樹月刀真と言います」
「クイーン・ヴァンガード?」
 情報に疎いのか興味が無いのか、その名を初めて聞いたような顔をして、博士は訊き返す。
 女王を護る為に作られた組織なのだ、と説明されて、へえ、と興味深げな表情を浮かべた。
「何か、私に話かい」
「ええ。……俺が言うのも変ですが、ハルカをお願いします。
 俺にはハルカに声を掛けてやることと、――この剣で、ハルカの身に降りかかる不幸を斬り払うことしかできませんから」
 刀真の言葉に、オリヴィエ博士は苦笑した。
「困ったね。
 私に、ハルカ君に声を掛けてあげられて、剣で護ってあげられる人以上のことができるとも思えないよ」
 むしろ困らせることならできると思うんだけどね、と肩を竦める。
 ハルカと博士のタッグ、という構図に戦慄を感じたのは、1人や2人の話ではないはずだ。と、いうことを彼は一応理解している。
 何しろ光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)にこんこんと説教されて財布まで没収されているのだ。
「……もっと、重要なことがあります」
 ハルカは刀真に礼を言った。
 ハルカの心に偽りなどないだろう。
 それでも、自分はハルカの心に傷を、悲しみを与えたのだ。
 ハルカが気にしていなくても、自分が納得できなかった。
「……依怙地になっているだけかもしれません。それでも」
 自分の生き方を後悔したことはないし、これからも変わることは無いだろう。
 だから、ハルカの心を支えることは、誰かに託すしかできないのだった。
「うーん、うん」
 博士は何かを言おうとしたが、説教くさいことを言うのは苦手だな、と呟いて口を閉じた。
 他人を教え諭すほど、自分が立派な人間だとは彼は思っていない。
「ハルカ君は、皆に支えられて、笑っていられるんだと思うんだけどね……。まあ、うん」
 できるだけ、ご期待に添えるように頑張ってみるよ、と、笑って、私達も行こうか、と、正義達の方へ刀真を促す。
「お話、終わったですか〜?」
 歩み寄る2人に、ハルカが笑顔を向けた。
 お待たせ、と言った博士は、ハルカの横にいた月夜に顔を向ける。
「君、あの人の相棒さん?」
 話し掛けた博士に、月夜は頷いた。
「いい人だね」
と笑った博士は、
「ちょっと余計な世話を焼くから、必要なかったら忘れていいし、その内思い出すことがあったら、彼に伝えてくれるかい」
と、声をひそめた。
「目の前にある闇が濃いほど、ちょっと後ろを振り向いてみれば、眩しい光があると思うよ」
「…………?」
 月夜は首を傾げて、眉をひそめる。
「どういう、意味?」
「うん、いいんだ」
 解らないなら解らなくて。博士はそう言って笑うだけだった。
 

◇ ◇ ◇

 
 パラリラパラリラパラリラパラリラ。

 賑わしくも穏やかなるヴァイシャリーの水の町に、ヤンキーなクラクション音が響き渡る。
「ハルカ――――!!」
 バイクをひらりと飛び降りるレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)に、ハルカが両手で手を振った。
「レベさーん!!」
 ハルカがヴァイシャリーにいるという情報に、後を追ってきたレベッカは、
「人探しならコレネ!」
と、パートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)に、お得意の似顔絵看板でサッドイッチマンにさせて町中を練り歩き、もとい走り回り、時計塔のある広場に目撃者有り、という情報を掴んで、無事に再会までこぎつけたのである。
「ハッピーニューイヤー、ハルカ! 久しぶりネ!」
 走り寄ったハルカを、ぎゅうっと抱き締めて、レベッカは再会を喜ぶ。
「お正月はもう過ぎてるのです」
「その年最初に会った時の挨拶はコレだヨ!
 ステイツでは12月31日23時59分59秒までセーフだヨ!」
「レベさん、ハッピーニューイヤーなのです」
 レベッカの主張に、ハルカは律儀に新年最初の挨拶を返した。
「やかましいのが合流したな〜」
と苦笑する正義に、
「あんた自分のこと言えるんか」
と翔一朗が呆れ、
「それこそお互い様だ」
と正義が言い返す。
 ハルカの周りは一気に賑やかになった。

 レベッカとタンデムしていたアリシアは、レベッカの代わりにバイクを邪魔にならない所に停めてから、ハルカ達のところへ来る。
「オリヴィエ博士、お久しぶりです。以前はお世話になりました。
 頂いたドラゴンのオブジェは、今でもレベッカのお気に入りなんですよ」
 アリシアは博士に挨拶をして、レベッカのバイクを飾るドラゴンヘッドライトを指差す。
 あー、あの時の、と、2人を憶えているのだかいないのだか、という顔をしつつも、
「こちらこそ、その節はお世話に」
と博士は挨拶を返した。

「よっしゃあ、それじゃあまずは広場で露店を制覇!
 その後は折角水の町に来てるんだから水上バスかゴンドラ!
 町を巡って名所を回る!
 それで行くぜ。ハルカちゃん、百合園女学園には行ってみたいか?」
 あの中は流石に自分には案内できないが、いや、ハルカが望むなら俺は正義のヒーローだから大丈夫だ! と言い切って
「無理ですから。百合園に来るなら私が案内しますよ」
と高務野々にきっぱり言われつつ、とにかく今日は遊び尽くすぜ! と叫んだ正義に
「明日からはバイト三昧だけどな」
と、ぽつりと翔一朗が誰にでもなく突っ込む。
「? どういうことですか?」
 アリシアが訊ねると、
「どーもこーもあるかい!」
と翔一朗はじろりとオリヴィエ博士を睨みつけた。
 博士はあははと気まり悪く笑う。
 博士の無計画さを思い知り、今後に不安を抱いた翔一朗は、これからの旅行を楽しく無難に過ごすべく、
「旅行費用は俺が管理しちゃるけえ」
と、博士から半ば強引に財布を奪い取ったのだ。
 そしてその中味を確認して唖然とした。
「小銭しか入っとらんとかどう言う了見じゃい! 晩飯1回分にもならんわ!」
 はあ? とレベッカ達は博士を見る。
 まさかお金も持たずに旅行に出たというのか?
「いやあ、実は札入れの方がいつの間にかスられちゃってたんだよねえ。
 君に財布のことを言われるまで気付かなかったよ」
 博士の説明に、一同は一気に疲れた顔をした。
「……大丈夫かこのオッサン」
 雪国ベアがジト目で呟く。
「心配すんな! 今日はまとめて俺のオゴリだッ!!」
そしてコイツが無意味にハイテンションなのは、半分ヤケになっているからか……、と、叫ぶ正義にベアは納得した。
 やっぱりこの人にハルカを託すのは間違いかもしれない、と、一瞬刀真は不安に駆られるのだった。

 しかしとにかく、折角ヴァイシャリーまで来たのだから、今日は遊ぶことにしよう、ということになったのである。゜
「いざ行かん、湖上の都市、ヴァイシャリー!」
 護衛兼ガイド(自称)として同行する正義が、ヴァイシャリーのガイドなら私の方が適任です、と言い張る野々と争うようにしてハルカの側を歩く。
 コイツが無意味にハイテンションなのは、ガイドの座を争っているからか……、と、叫ぶ正義にベアは納得していた。



 立ち並ぶ露店を冷やかし、おやつやお土産などを買い込んで、運河の町であるヴァイシャリーの名物とも言えるゴンドラで町を巡ろう、という話になった。
 と、突然、ゴンドラ乗り場に向かって歩く翔一朗の、ズボンの皮のベルトが、不自然にブチィ! と切れた。
 同時に、小さなブチッという音もして、パンツのゴムが切れる。すとん。
「なッ!?」
 ぎょっとする翔一郎の後ろで
「きゃあ――!」
とソアが叫んだ。
「てめえ! ご主人に何を見せやがる!」
 ベアがすかさずソアの両目を塞ぎながら叫ぶ。
「ストリップ!?」
と翔一朗の前を歩いていたレベッカが、ソアの叫びで振り返って、目を塞ぐフリをしながら形ばかりの叫びを上げた。
 好きで脱いだんじゃねえ! と翔一朗こそ叫びたいところだったが、それどころではなかった。
 翔一朗は、今日もハルカに、『禁猟区』を施していた。
 ハルカの持つお守り、2つにだ。
 その禁猟区が2つとも反応した。
 反応は、ひとつがズボンのベルトを、ボタンを巻き添えにして千切り、ひとつがパンツのゴムを千切ったのだ。
 結果、翔一朗は不幸なことになってしまったわけだが。
「ハルカ!」
 翔一朗は、パンツとズボンを引き上げながら、ハルカの方を向く。
「ハルカ!?」
 はっとしてレベッカもハルカを見た。
 自分とアリシアに施していた『禁猟区』には反応はなかったのに。

 そこには、呆然と月夜が立っていた。
 ハルカの姿はなかった。
「刀真……。ハルカが、飛んでった」
 あまりに突然のことだったので、声を上げる暇すらなかった。
「飛んで行った!? どういうことだ!?」
 ちくしょう俺がついていながら! と、正義が空を見上げる。
 ハルカの姿は見当たらない。
「あっちの方」
 と、月夜は時計塔を指差した。


 突然何かに引っ張り上げられた、と思ったら、気がつくと空を飛んで、ハルカは時計塔の上にいた。
「……あれ? ハルカどうしてこんなところにいるのです?」
 キョロキョロと周囲を見渡すと、そこに、つり竿を持った若い男が座っている。
「何だこれ……今日は調子が悪すぎる」
 ハルカをジト目で見て、ブツブツと文句を言っていた。
「もしかして、ハルカ釣られちゃったのです?」
「そーだよ。何でお前が引っ掛かるんだ。おかしいだろ」
「おかしいのです」
 ハルカはきょとんと首を傾げる。
「とーまさん達が心配するのです。帰ってもいいのです?」
「勝手にすれば」
 男は素知らぬ顔で、つり竿の調子を確認し、それを街並みに向かって振る。
「どうやって下りればいいのです?」
 時計塔のてっぺんで、ハルカがちょっと困ってしまった時。
「ハルカちゃ――ん!!」
 下の方から声がした。あっ、とハルカは下を見る。
「ヒーローさん!」
「無事ですか――ッ!?」
 続いて聞こえるのは、アリシアの声。
「はーい!」
 手を振るハルカが見えたのだろう。
 翔一朗が小型飛空艇に飛び乗り、俺も乗せろとシャンバラン仮面を装着した正義がその後ろに飛び付く。
「やべっ」
 男は慌ててつり竿の糸を戻すが、翔一朗の小型飛空艇は一気に時計台の屋根の上まで上昇し、シャンバランがそこから飛び降りて、男に飛び掛かった。
「うわっ!」
 慌てて短剣を取り出そうとしていた男は、シャンバランに倒されて、後頭部を屋根に激突させた。
 倒れた拍子に、ポケットから何かが転がり落ちる。
 あれ? とハルカがそれを見た。
「てめえ、ハルカちゃんに何しやがる!」
「ちっきしょう! 手違いだっーの!」
 押さえ付けられて、男は悪態を吐く。
「問答無用だ、来やがれ!」
 シャンバランは、縛り上げた男を翔一朗の乗る小型飛空艇に向かって投げる。
 時計塔のてっぺんである。男は悲鳴を上げた。

「……値打ち物が釣れるつり竿!?」
 縛り上げた男を囲んで全員で吊るし上げると、男はあっさりと白状した。
 上空で放り投げられたのがよほど恐怖だったらしい。
「そうだよ。町の上でそれを垂らせば、価値のあるものを釣り上げる、はずなんだ。
 ちくしょう、今日は変なものばっかり釣れやがって、やっぱりヴァイシャリーみたいなでかい町を狙わなきゃよかった……」
 悔しそうな顔で男は吐き捨てる。
「じゃ、これも釣ったものなのです?」
 ハルカが見せた物を見て、あれ? とオリヴィエ博士が呟いた。
 それは古い札入れだった。
「え、もしかして、博士のお財布ですか?」
 アリシアの問いに、「そのようだね」と博士は頷く。
「てめえがスってやがったのか!」
 頭にもう一発、と拳を振り上げた正義に、
「わー! 確かに俺が釣ったけどよ! それ、最初から空っぽだったぜ!」
 え!? と、ハルカから受け取った翔一朗が中を改める。
 確かに中には全くお金は入っていなかった。
「お前が抜き取ったんじゃねえのか?」
「違う! 全く、とんだ言いがかりだぜ!」
「――どっちにしろ、スリも誘拐も犯罪だっ!」
 まるで冤罪を主張するような男に、正義は上げていた拳を振り下ろした。
「……オイ博士?」
 一方、翔一朗もまた、不穏な眼差しをオリヴィエ博士に向けている。
「いや、だってね」
と、博士は苦笑した。
「財布にお金なんて入れておいたら、スられてしまうじゃないか」
「阿呆かぁ――!!!!!」
 翔一朗は、力いっぱい絶叫した。