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リアクション
エリア(6一)からの魔物の増援同様、未探索だったエリア(1一)からも蛇のような蔦の魔物が湧き出し、群れを作って進軍を開始する。狙うはエリア(3四)でヴァズデルと戦いを繰り広げている生徒たち。
――しかし、彼らの狙いはもろくも粉砕する。
エリア(2四)に到達した魔物は、しばらくも行かない間に事前に展開していた生徒たちの抵抗を受ける。道が広がりきる前での戦闘は、防御側に有利をもたらしていた。
「みんながんばってるんだもん、ここは絶対通さないよっ!!」
大型の盾を構え、遠鳴 真希(とおなり・まき)が魔物の侵攻を阻むように立ち塞がる。魔物は果敢に突破を図るが、彼女の重装備を易々と抜けるほどの力は持ち得ていなかった。
「真希ちゃんが身体張って守ってくれとんのや! ここで応えてあげんかったら、男が廃るでぇ!!」
日下部 社(くさかべ・やしろ)の放った電撃が、真希の行動範囲外から突破を図った少数の魔物を撃ち貫き、塵へと消し飛ばしていく。電撃を放つ蔦には無力だった社も、ただ這い回り飛びつくだけしか出来ないこの魔物には有利に戦闘を進めていた。
「真希様ばかりに苦労はかけさせません。早々にお帰りください」
ユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)の生み出した炎弾が魔物の群れに炸裂し、飛び散った魔物の破片が塵となって消える。戦力差は歴然であるが、一つ懸念があるとすれば数の差であり、戦闘が長期化すればするほど疲労とともに突破される可能性が向上するであろう。
「ケテルも戦いに加わらせてもらいますよ……ぉ?」
後方にいたケテル・マルクト(けてる・まるくと)が戦闘に加わろうとしたところを、傍にいた『ウインドリィの樹木の精霊』ティッキーに裾をつかまれて止められる。
「おねえちゃん、行っちゃやなの」
不安な表情で見つめるティッキーに、ケテルが頭を撫でながら答える。
「しょぉがないですねぇ。ケテルがいっしょにいますよぉ」
「……うん、ありがとうなの」
安心したように頷くティッキー、彼女たちの前方では新たな動きが起こっていた。
「真希ちゃんに怪我させたら俺、瀬島さんに合わす顔がないわ。こうなったら一撃で決めるでぇ!! 寺美、今こそ俺らのコンビプレーを見せる時や!!」
「はぅ? ボクと社とで何かしましたかねぇ?」
「覚えてないなら思い出させたる! 俺が合図したら銃を撃て!
社の言葉にすっとぼけた回答を漏らす望月 寺美(もちづき・てらみ)の背後に社が回り込み、構えた両手に雷龍の力を宿していく。
「真希様、わたくしが合図を出しましたらお下がりください」
「うん、分かったよ!」
社の行動の目的を悟ったユズが真希に指示を飛ばし、自らも頭上に大きな炎弾を構築する。
「いっけ〜! これが俺らの力やぁ〜!」
何かの波動を撃つように社が電撃のこもった弾を寺美に撃ち込む。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!! ま、前にもこんなことがあった気がしますぅぅぅ〜〜!!」
それはここだっただろうか、相手は誰だっただろうか、そんなことを思い返しながら半ば無意識に、まるで身体が覚えているかのように、寺美がライフルを発射する。
「真希様、行きます!」
「せーの……それっ!」
真希に合図して、ユズが炎熱の爆炎を巻き起こす。防御姿勢から真希が社たちに向かって下がり、再び盾を構えるのと、飛び荒んだ雷電弾と爆炎が大きな爆発を起こすのはほぼ同時のこと。目を覆わんばかりの閃光と熱量が引いた後の視界には、魔物の姿は一つも見られなかった。
「よっしゃぁ! 見たか俺たちのコンビプレー!!」
「はぅぅぅぅ……かかか身体がししし痺れますぅぅぅ……」
ガッツポーズを見せる社の足元で、パチパチと火花を散らせた寺美が痙攣を起こして倒れていた。それも直ぐに治療を施されて元通りになり、戦闘の余韻もそこそこに集合した一行は今後の対策を講じる。
「ティッキー様は、この遺跡のことを他に何かご存知ですか?」
ユズの問いに、ケテルに背後から抱きすくめられる形のティッキーがうーん、と考えに耽る。頭に押されて変形したケテルの胸は何とも刺激的で、思わず社が鼻を伸ばしたところを真希の冷たい視線が射抜き、寺美のボディブローが炸裂する。
「……他にもいくつか、まものが出るところがあったの。でも、もうなくなっちゃったみたいなの。後はあっちに、おっきな危ないまものがいるだけなの」
ティッキーが指さしたのはエリア(3四)の方角、今も生徒たちがヴァズデルと相対しているはずの場所であった。
「そか、ほんならまずは一安心ってとこやな。休憩したら俺たちも援護に向かおっか! 遅れた分まで取り返す勢いでやったるで〜!」
「も、もうさっきみたいなのは勘弁ですよぅ〜?」
意気込む社に、寺美がまた電撃を食らうのではとビクビクしながら応える。
「真希様、怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫! えっと、ティッキー……んと、チキちゃんも大丈夫? 怪我とかしてない?」
「……うん、おねえちゃんがいっしょだったから、へいきなの」
「ケテルがまもってあげたんですよぉ」
ケテルがぎゅっ、とティッキーを抱きしめると、ティッキーはむふー、と満足そうな笑みを浮かべる。
「まるで親子のようですね」
「そうですかぁ? それならぁ、ユズ様はおばあちゃんですねー」
「……………………」
ケテルの発言に、ケテル以外の全員――もちろんティッキーも――が身震いを起こす。ユズは無言かつ無表情だったが、確実に怒っている。それも、生半可ではない。
「チキちゃん、こっち!」
真希がティッキーを呼び寄せ、ティッキーもぴょん、と真希に飛び付く。それを見遣って、ユズが炎の嵐を容赦なくケテルに叩き込む。
「けほっ……ユズ様ひどぉいですよぉ。いくら本当のことだからって――」
ケテルの次の言葉は、二発目の炎の嵐にかき消された。まさに口は炎の元、である。
「怖がらせちゃってごめんね。……えっと、こんな感じでよかったら、チキちゃん、うちにくる?」
真希の言葉に、ティッキーはしばらく目をパチパチとさせた後、にっこりと微笑んでうん、と頷く。
「うん、大歓迎だよっ! これからよろしくね、チキちゃん!」
新たな絆が結ばれた瞬間、この繋がりを一時のものにしないためにも、ヴァズデルとの決着を付ける必要があった――。
「アンドリューさん、私、頑張ります! かばってもらった分までお役に立ってみせますね!」
普段以上に意気込んで一行の先頭を進んでいったフィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)だが、どうしてか一向に魔物の群れと出くわさない。
「おかしいなぁ……道はこっちで合ってるはずなんだけど」
周囲の風景を見つめながら、アンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が頭を抱えて呟く。フィオナのドジっ娘属性が発揮されて迷わないように注意していたので道は合っているはずなのだが、こうも静かだと不安を覚える。
(……今度こそフィオナさんに遅れは取りません。兄様の援護、立派に全うします。……そして、兄様に頭を撫でてもらえたら……) アンドリューの傍を行く葛城 沙耶(かつらぎ・さや)が、少しの乙女心を混ぜつつ戦う意思を明らかにしたところで、フィオナの悲鳴が耳を打つ。
「きゃあああ! な、何するんですか、離してくださいっ!!」
エリア(1一)に入るための唯一の隙間から、それまで息を殺して気配を伺っていたと思しき数匹の蔦の魔物が、一斉にフィオナに襲いかかってきた。なんとか絡みつかれるのは回避したものの、戦闘の準備もままならない状態ではいつ組み付かれるか知れたものではない。
「フィオ、走れ! 僕と沙耶で迎え撃つ! 沙耶、援護を頼む!」
「お任せください、兄様!」
アンドリューの言葉に力強く頷いて、沙耶が炎弾を生み出し魔物の群れへ放つ。炸裂する炎弾がフィオナへの追撃を阻害し、いくつかは魔物に直撃して四肢を吹き飛ばす。
「受けてみろっ!」
鮮やかな剣技で魔物を切り飛ばしたアンドリューは、視界の先に見慣れない形をした緑色の何かを見つける。そこから先程切り飛ばした蔦の魔物が飛び出してくるのを目撃して、それこそが魔物を生み出すジェネレーターの役割を果たしていると判断する。
「お待たせしました、アンドリューさん!」
ようやく戦闘の準備を整えたフィオナが、アンドリューと沙耶に加護の力を施す。沙耶も駆け寄り、視界に捉えた新たな魔物へ炎弾を用意する。
「あの魔物に集中攻撃だ! 行くぞ、フィオ、沙耶!」
「アンドリューの言葉への返答は、行動で示される。フィオナが進軍を阻害しようとする蔦の魔物をハンマーで潰し、沙耶の放った炎弾が空中で炸裂して小さな炎を撒き散らし、直線状に魔物ジェネレーターごと焼き払う。
「これで、決める!」
炎が吹き上がる刀身を、アンドリューが魔物ジェネレーターへ向けて振り下ろす。巻き起こった爆炎が全てを包み込み、炎が掻き消えると同時に魔物も、魔物を生み出していたモノも跡形もなく消え去っていた。
「……ふぅ。何とか、元は断てたみたいだね」
剣を収めて一息つくアンドリューのところに、フィオナと沙耶が駆け寄る。
「二人ともお疲れさま。沙耶、的確な援護、助かったよ、ありがとう」
アンドリューの手が沙耶の頭に伸び、その艶やかな黒髪を優しく撫でる。
「あっ……こ、このくらい、造作もないことです。……兄様が満足に戦えたのでしたら、あたしも頑張った甲斐があります」
口ではそんなことを言いつつも、浮かべた表情はすっかり緩み切って、嬉しいのがバレバレであった。
「む〜、仕方ありません。……ですが、次は負けませんよ! アンドリューさん、急いで戻ってドラゴン退治に向かいましょう!」
「うわっ!? ちょ、ちょっと待ってフィオ、少し休んでから――」
「ふふ、大変ですね、兄様」
「沙耶も笑ってないで、何か言ってやってよ。……ま、これもいつものことかな」
二人に振り回されつつも、今のアンドリューにはちょっとした確信のようなものが生まれていた。
この二人となら、龍だって倒せる……と。
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