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リアクション
第6章 分校の意味
砂塵の舞う、寂れた一角がやけに騒がしい。
住宅街ならば、子供も大人も眠りについている時間だ。
農家も漁師もまだ眠っている時間。
午前1時過ぎ。
オープンしたての店はまだ、賑わっていた。
「……というわけで、以前とは違い、独立した酒場のようですぅ。とはいえ、仕事の内容から、組織とも関係あると推察できますぅ。あと、ちょっとした訓練なんかも実施しているようですぅ」
合流した皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が集めた情報を、神楽崎分校長の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)に報告する。
「パラ実生向けの職業斡旋所兼酒場ってところね」
「罠の実践なんかもやっていましてぇ、周辺には落とし穴が掘ってあるようですぅ〜」
伽羅の言葉に、亜璃珠は頷く。元々窓から侵入する予定などはなかった。
彼女達がいる場所からその店は見えない。
だが、賑やかな声は届いてきている。その中には、神楽崎分校に顔を出している者もいるかもしれない。
ため息をついた後、亜璃珠は番長だった男、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)に最終連絡の電話を1本かける。事前にメールであの店を『襲撃をすること』と、『実行時間』は教えてあり、彼も準備を整えているはずだ。
電話後、指を弾いて分校生達に合図を送る。
2600――午前2時、正確に合わせてあった時計が、その数字を表した途端、作戦は開始された。
「マスター、なんかガキが来てるぜ〜!」
入り口付近で飲んでいた男が、カウンターに声をかける。
店の店長である三井 八郎右衛門(みつい・はちろうえもん)は、入り口にいる2人組みの子供に目を向け、金になりそうもないと判断し、にこにこと笑みを浮かべながらこう言う。
「お陰さまで深夜まで大盛況で、手が離せないんです。お嬢さんはもうお家に帰ってお休みなさい。5年後にお待ちしております故」
「でもね、伝言頼まれてるの。おだちんももらっちゃったんだ。伝えられないとこまるの」
少女が店長に向って声を張り上げる。
「こまるのーっ」
もう1人の子供は目を潤ませている。
2人ともアイドルコスチュームを身に纏い、とても愛らしい。
「よーし、代わりにお兄ちゃんが聞いてやろう〜。誰から、どんな伝言だい?」
酔って顔を赤らめている少年が屈みこんで、少女と目を合わせる。
「えーと、若くてきれいな女の人だったよ。学生さんかな」
「そーかい、そーかい。でもお兄ちゃんはキミといちゃいちゃしたいな〜」
ロリコンのようだ。
にこにこ笑みを浮かべながら少女はこう言う。
「あのねあのね、かぐらざきぶんこうだけど、カチコミするからよろしくな、って」
「ん?
「……こんな風にね!」
次の瞬間、少女は大人の女性へと変化していた。ちぎのたくらみで子供の姿になっていたのだ。
その女性――ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)は、固く握った拳を、男の鳩尾へと叩き込む。
「ぐがっ」
男が酒を吐いて蹲る。
「いくよ!」
もう1人の少女、岸辺 湖畔(きしべ・こはん)が野生の蹂躙を使い、ネズミを呼び寄せた。
「うわっ」
「ぎゃっ」
店が混乱していく。
「はあっ!」
続いて、鉄甲を嵌めた手を、柄の悪い男女に叩き込んでいく。
「逃げ道はありませんわよ!」
「屍山血河を作ってやるじゃん!」
大声を上げて、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)、アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)も、入り口から飛び込んでくる。
入り口に警備の者などおらず、入店チェックも行われていなかった。
「っと、屍はダメだったじゃん。血河だけってことでよろしくじゃん!」
アンドレは機関銃を壁に向けてぶっ放した。
店員と客が悲鳴を上げて伏せていく。
「上等じゃ!」
「バラしてやるぜ!」
ただし、血気盛んな若者や、酒の飲みすぎで冷静な判断が出来ない者は武器を手に4人に襲いかかってくる。
「相手になりますわ」
ジュスティーヌが忘却の槍を、襲い来る者達に繰り出していく。
ジュスティーヌとしては気が進まない行為なのだが、時には必要なことだからと自分を説得し、この場にいる。
槍で突かれたモヒカンの男が、倒れてうめき声を上げる。
ガガガガガガガッ
突如、大きな音が響き、ぱらぱらと屑が天井から落ちてくる。
次の瞬間に、天井に穴が開き、木材の破片が落ちてきた。
作業用の電灯を装備した者達が空いた穴から店内へと飛び降りる。
途端、店内の電気が消え、その者達の明かりだけが頼りとなる。
「全員動くな! 神楽崎分校だ!」
工事用ドリルを構えた男、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が言い放つ。
「パラ実生の憩いの場に何たる蛮行。神楽崎分校の仕業ですかー!」
八郎右衛門が身を隠しながら声を上げる。
パアン
パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)が天井に向けて、威嚇射撃をする。
「……おとなしくなさい」
凄む彼女の様子に、店内が一瞬静まり返った。
しかし、次の瞬間、客の一人が椅子を投げつけてくる。
「危ないじゃない」
テーブルの上に降り立っていたアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)が、ドリルで椅子を破壊する。破片がアカリやパオラの体を打った。
「はわわわわ、敵意の無い人は床に伏せて武器を捨て、両手を頭の後ろで組んでくださぁい」
クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)も、天井に向けて威嚇射撃をする。
何人かの客は、机の下や物陰に隠れるが、酒に酔った者や腕に自身のある者達は構わず、4人にかかってくる。
「やる気なら、相手になるわよ」
言って、アカリはドリルを下に向け、机を破壊し、床に降り立った。
「やる気なら、相手になってくれるそうですよ」
クリスティーナは動揺しながら、弾幕援護でパートナー達を支援していく。
ピシ、ピシ、ピシッ
パオラは実弾ではなく、ゴム弾を向ってくる者に撃っていく。
「結構痛いでしょ?」
次々に放たれるゴム弾を避けるため、客達は部屋の隅へと下がっていく。
「終わりよ……っと、死なない程度だっけね」
アカリはドリルで男の武器を破壊する。
「あれが実弾だったらお前はもう5度死んでるぜ!」
言いながら、アクィラも抵抗する男達の武器や利き腕をドリルで裂いていく。
「オレも混ぜろやァ!」
更に、プロレスマスクを被った巨漢が乱入してくる。
ジュリエット達は阻みはしない。
額に『竜』の刺繍のあるマスクを被ったその巨漢は、武器を手に反抗するパラ実生に飛び掛っていく。
「いくぜェェ!」
「ヒャッハー、いい商売してんじゃねぇか、分け前くれよ!」
彼の後から、同じ格好の舎弟達も入り口から店に飛び込んでくる。
「吉永、てめぇ!」
パラ実生の客が男の正体に気付き、ドスを抜く。
「竜司さん!」
机の下に避難していた、分校にも通っていると思われる少年も驚きの声をあげた。
「オレはドラゴンマスクだ! 神楽崎分校とはなんの関係もねェ! 欲しい情報が手に入んなくてなァ、むしゃくしゃしてんだ、派手にやろうぜェ!」
武器を手に襲い掛かってくる男に逆に突進をして突き飛ばし、殴りかかってくる男は殴り返す。
「いい加減にしろよ、てめぇら!」
様子を見ていた客達がたまりかねて、椅子や、植木鉢、武器になりそうなものを手に、神楽崎分校生とドラゴンマスクと舎弟に襲い掛かる。
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