リアクション
〇 〇 〇 綾と校長達が屋上に到着し、お茶会が始まった。 庭園を観賞しながら、少女達は和やかに談笑していく。 「皆、お願いね……」 プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)は、テーブルを囲んでいる友人達に目を向けて、そう呟くと屋上入り口の方に目を戻す。 プレナは皆とは少し離れた位置に待機していた。 綾や組織についての事件は、白百合団員として全ての資料に目を通したけれど……。 自分が綾だったら、どうしただろうか。 そんなことを考えると、また頭の中が混乱してしまう。 そうなってみないと、答えの出せない問題だった。 「綾さんは……闇組織の事などを自分一人で抱えていたようですね」 そう、プレナに声をかけたのは同じく白百合団に所属する幻時 想(げんじ・そう)だ。 「人は……一人では弱いものです。辛い時に誰の助けも得られない人がいたら、その人は容易に潰れてしまいます……」 「うん」 「でも……今は違います。プレナ先輩や、僕や、皆がこうして綾さんの近くにいます……。なので、きっと……綾さんも心を開いてくれます」 そうだねと、プレナは想の言葉に頷いた。 「だけど、プレナは今まで関わりがなかったから」 「ええ、だから」 「警備頑張ろうね」 「警備を頑張りましょう」 プレナと想は同時にそう言って、微笑み合った。 「綾さんを守り……二度と、彼女を闇組織に渡さない様に……」 想がそう言葉を続けた。 プレナはこくりと頷いた後ディテクトエビルを使って周囲を探ってみる。 今のところ何の異常もない。 「それじゃ、僕は巡回してきますね」 「うん、お願い。プレナはここで見張ってるね」 「無理はしないで下さいね」 そう言葉を残して、想は屋上への隠しカメラ設置と巡回の為に一旦、プレナの側を離れたのだった。 早河綾とアユナ・リルミナルは、怪盗舞士のファンとして親しく過ごしていた頃があった。 だけれど、綾は舞士を偽る者と接触をした頃から、アユナから離れていった。 遊び友達よりも、恋をとったのだ。 アユナは綾に親しみを感じていたけれど、今度はアユナの方が本当の舞士――嘆きのファビオと接触を果たしたせいで、やはり綾とは距離を置く形になっていた。 「綾さんに何か話すことありますか?」 アユナの隣に座っている稲場 繭(いなば・まゆ)が、アユナにそう声をかけた。 「ううん。アユナからは特に何も……」 気持ちが複雑すぎて、何を言ったらいいのか、何が言いたいのか、何も言いたくないのかもアユナはわからずにいた。 綾達が囲んでいる丸テーブルからは、離れた位置にある小さなテーブルに、アユナと繭、それから繭のパートナーのエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)は座っていた。 「このぷちケーキ、騎士の橋の側に出来たケーキ屋さんで買ったんですよー」 言いながら、繭は購入してきたケーキをアユナとエミリアに配って。 明るい話題を振りまいていく。 とはいえ、綾のことも。 アユナの状態も……。 そして、このヴァイシャリーさえも危険な状態で。 どんなに明るい話をしても、もうすぐ全て無になってしまいそうで。 中々、心の底から笑顔を浮かべられるような話は出てはこなかった。 繭自身も、本当は不安で……。 ファビオの力を受け継いでいるというアユナが、凄く悩んでいるというのに。 ただ、こうして側にいてあげることしか出来なくて。 武術も魔法も得意なわけでもなくて。 特別頭が良いわけでもなくて。 (私は……とても無力です) 考えると、凄く凄く悲しくなってしまう。 そんな思いを悟られないように、心の奥に閉じ込めながら、繭は微笑みを浮かべて明るい話題を探していく。 「あっちの席にも興味あるんだけどねー」 エミリアといえば、そんなことを言いながら、悩んでいる様子のアユナと一生懸命な繭の姿をにまにまと眺めている。 「どうしたら、いいのかな……」 アユナの口から出てくる言葉は、そればかりだった。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 高務 野々(たかつかさ・のの)は、いつものようにメイド服をまとって百合園生達の皿の上にフルーツを乗せて回っていた。 一通り配り終えた後、そっと礼をすると後方で控えている男性、ルリマーレン家の執事のラザンの下に戻る。 彼はトレーと布巾を手に、全員が見える位置で待機していた。とはいえ、ルリマーレン家の執事である彼はミルミ以外の世話は特に行いはしない。 「いつもミルミさんに付き添ってるのですか?」 野々は良い機会なので、ラザンに質問をしてみる。 「何か事件が起こりそうな時には、付き添わせていただいております。ミルミ様の意思を尊重するよう命じられていますので、基本的には自由にしていただいていますが」 「今も、楽しそうに遊んでいますしね」 言って、野々は空を見上げた。 遠くに、ミルミとアルコリアの姿が見える。 彼女に付き添っているラザンは目立ちはしないが、気配りは見事なものだった。 ミルミがハンカチを必要とする時には既に彼の手の中にあり。 足元になにかあろうものなら、彼女が気付く前に処理している。 会話で躓けば、そっとフォローを入れたり、話題を振ったり。 執事としても、大人の男性としても魅力的な青年だった。 少しだけラザンと会話をした後、野々は皆の方に目を移す。 (鏖殺寺院と綾さんが関わっていた闇組織は一体どんな関係があるんでしょう) 綾には聞きたいこともあるけれど……気の利いたことは言えそうもなく。こうして、普段どおりメイドとして働きながら、耳を澄ませていた。 百合園生達は、綾と共に、しばらくの間楽しく談笑をしていた。 静香は綾の隣に腰掛けて、体の調子を気遣いながら、優しく優しく接している。 「さて」 切り出したのは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。 「そろそろ、何があったのか話してくれないかな……?」 ミルディアは綾の友達として、綾と一緒に組織の拠点に行き、組織に売られそうになった百合園生の1人である。 「実際、あたし自身も痛い目にあったけど、理由があればそれも許せると思うんよ。理由も何もわからないのが一番怖いし……」 綾は俯いている。 「どんな理由だって、受け入れるよ。もし大したことない理由だったとしても、綾ちゃんにとっては、大事なことだったんだって」 ミルディアは静香に目を向けると、静香は深く頷いた。 「罰が欲しいってんなら、事が済んでから思う存分受ければいいと思う。もう、十分受けてるとも思うけどね」 そして、ミルディアは手を伸ばして、綾の手をぎゅっと握り締める。 「ただ、今だけはあたしたちを信じて、話して欲しい!」 綾は首を左右に振る。 力はこめずとも、ミルディアの手から逃れようという動きも感じられた。 「早河綾さん」 ミルディアより少し厳しい声が飛んだ。 ミルディアのパートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)だ。 「あなたにはミルディとの、ミズバさん方との絆があったはずです」 親友であったミズバ・カナスリールも茶会に顔を出していた。 だけれど、どう接すればいいのかわからずに、彼女は綾と距離を置いている。 でも、嫌いになったわけでも、侮蔑しているわけでもないことは分かる。 こうして白百合団の仕事より、綾を優先しているのだから。 「彼女たちを少しは信じてあげてください!」 真奈の言葉に、綾はぴくりと震える。 「危ない、から……っ」 そして小さな声を漏らした。 「あたし、あの時に護り切れなかった……」 ミルディアはもう一方の手も綾の手に重ねた。 更に強く握り締めて力強く言葉を続ける。 「だから護れるようにあたし自身を鍛えてきたんだから!」 ミルディア達の言葉に、綾はどうしたらいいのか分からないというように、首をただ左右に振っている。 |
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