リアクション
〇 〇 〇 店の中に入った圭一は、店内を見回した後、普通に空いた席に腰掛けた。 改装工事がなされ、テーブルや椅子が用意されたその店には大きな掲示板があった。 いくつかの依頼が直筆のコメント付きで掲示されている。 ・賞金首の殺害 ※新規オープン記念として、キャンペーン人物の殺害に成功した場合はなんと今までの1.5倍の賞金が! 詳しくは店長にお尋ねください! ・リーア・エルレンの捕縛もしくは殺害 ※謎のバイク男との戦闘が予想されますのでご注意下さい。尚、バイク男の死体は特に必要としません。 ・シッター殺害犯の捕縛もしくは殺害 ※先日、ある研究所付近でシッターと呼ばれる男性が身代金目当てに誘拐殺害されました。百合園生の社会科見学前に同様の事件を防ぐ必要があります。 「こちらの仕事が今一番のお勧めです」 店長の三井 八郎右衛門(みつい・はちろうえもん)が、客達に進めているのはリーア・エルレンの捕縛についての依頼だった。 「居場所がわかんねーんじゃ、捕まえようがないが、偶然見かけたら捕まえて連れて来るな」 「よろしくお願いします」 八郎右衛門はぺこぺこと頭を下げる。 「なんかヤバくない仕事はないの?」 化粧の濃い女性が尋ねる。 「お客様にはこちらの仕事がお似合いです」 すぐに、八郎右衛門は女性に近づいて、別の掲示板の広告を指した。 そちらの掲示板には、一般人からの無難な依頼も貼られている。 迷子のペット探しや土木作業員、喫茶店の店員などだ。 ……まあ、仕事の内容は迷子虎探しだったり、対立分校の破壊だったり、風俗店だったりするわけだが。 この店自体の、バーテンダー、キャバクラ嬢、用心棒も募集しているようだった。 「色々あるのね……」 依頼全てに目を通した後、葛葉 明(くずのは・めい)は腕を組んで考え込む。 気になったのは、リーア・エルレンという占い師だ。 最近不自然なほどにキマクで話題に上がっていた人物だから。 襲撃があったこと、バイクで連れ去られたという噂くらいは、キマクにも届いていた。 (誘拐されたのね。まだ間もないし、生きているかもしれないわね) リーアと会ったこともなく、単に気になっただけだけれど。 (仲間と合流されると厄介だから、その前に何とかしたいわね) 密かにそう思いながら、急いで店を後にする。 店内の椅子の数は50脚くらいだろうか。カウンター席には8人座れるようになっている。 その店の隅、入り口からさほど遠くない位置には、少女が2人、座っていた。 ジーパンにトレーナー、野球帽。そして大きな鞄を所持している少女は、家出娘らしい。帽子を目深に被って、俯き、ときどきちらちらと辺りを伺っていた。 もう1人の少女は、ラフな服装で、明るい印象のこの辺りでもよく見かけるタイプの少女だった。 「安くてもいい。即金が入る仕事ないかな?」 「そっちの子売りゃあ、手に入んじゃね?」 酒を飲みながら下品な声をあげて、周りの男達が笑った。 家出娘――に扮している鳥丘 ヨル(とりおか・よる)の格好は、ラフだが仕立ては良い。 「この子は売るつもりはない。それなりの家のオジョウサマらしんで、適当に面倒見た後家に帰して、謝礼金をたっぷりもらう予定だ」 にやにやと笑みを浮かべながら、少女――カティ・レイ(かてぃ・れい)は、男達と打ち解けていく。 「そういえばさ、有名な占い師が誘拐されたんだって? 怪獣なんかも召喚できるような魔女だって話なのに、変な話だよな」 「ここらで仲間を募ってる奴がいたからな、大人数で襲撃したんじゃねぇ?」 「そうなのかー。捕らえたのか? 召喚魔法みたいよな〜」 「逃がしたって話だ。その魔女の殺害依頼もこの店で出てるみたいだぜ。魔女の家と似顔絵以外の情報は載ってねぇけど」 男たちの言葉に、それじゃ後で見てみると答えた後、更に質問をしてみる。 「あと最近、ハーフフェアリーとかいう、見かけない種族を目にすること増えたよな? あれってさ、キメラみたいなもん? まだ研究段階なのかな。これから進化を遂げる、とか」 「フェアリーと人間じゃ、合成できなくないか?」 「細胞段階で合成しねぇとなー。良くわかんねーけど〜」 「ペットに欲しいよな、アレ」 「俺もそう思ってた!」 男達はハーフフェアリーの話題で盛り上がっていくが、特にそれ以上の情報はつかめなかった。 それから。食事を終えて全ての依頼書の内容を確認した後、ねぐら探しに行くといい、カティはヨルを連れて店を出る。 得た情報は店から出た後すぐにメモに記し、追っ手に注意をして他の街へと急ぐのだった。 ゆっくりと酒を飲みながら、圭一は店の様子に目を光らせていた。 髪はワックスで固めて、服は着崩し、サングラスをかけていつもとは違う――不良のような雰囲気を醸し出していた。 荒れていた頃のある圭一には、この店はなんだか懐かしさも感じる場所だった。 集まっている人々の年齢層は若く、大半はパラ実生のようだ。 (教え子達が道を踏み外さないようにしたい) そう強く思うものの、パラ実生達の就職先は賊などが一般的な現状に変わりはない。 掲示されている依頼も、キマクでは普通の内容だ。 (もっと普通の。例えば飲食店の店員などの求人を集めてくれれば……) この施設を認めることも出来ただろうが。 (変な仕事に就かないよう、注意して見守りたいものだ) 分校に戻ったら、教師として生徒達の就職先についても考えていかねばならないと、圭一は強く思うのだった。 ゆっくりと酒を飲み、酔った客達と軽く会話をしたり、求人広告を何気なく眺めてみたり。 目立たず時を過ごし、心配で我慢が出来なくなった千佳が窓から覗き込む様子を確認後、淡い笑みを浮かべて店を出て共に帰路についたのだった。 |
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