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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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「勿論私は行くわ」
 真っ先に言ったのは、6騎士の1人マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)だった。
「オレも同行希望だ。転送はマリザが封印を行っていてイメージしやすく、魔術的繋がりもあるであろう南の塔を提案する」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)がそう提案する。
「あ、私の封印は西塔よ。南はマリルね。ファビオが東。カルロが時計塔、ジュリオが中央地下、ソフィアが北塔、かな。どちらにしろ、イメージは任せて」
 マリザが言い、春佳は2人の言葉に頷いた。
「是非お願いします。近日中に転送できるのは十数名程度だと聞いています」
 春佳は転送希望者の名前をメモに記していく。
「パートナー通話が行える者が少ないようなら、残ることも考えるが……大丈夫そうか?」
「マリザさんからの情報は非常に重要だとは思うのですが、駆けつけてくださった方も沢山いますから、コウさんに連絡係として本部に残っていただく必要はないと思われます」
 春佳はコウにそう答える。
「わかった。では気兼ねなく、同行させてもらおう」
「僕も同行させて下さい。本部の仕事もあるので申し訳ないですが……。レイルとは面識もありますし、同行されると思われる親戚のパイス・アリルダさんともお会いしたことがあります」
「ワタシも行く……っ」
 菅野 葉月(すがの・はづき)、それからミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が不安そうな顔で言った。
 2人はファビオが起こした事件の際に、レイルの世話や護衛を担当していたため、百合園側としてもレイルとしても安心できる人物だ。
「お2人が行ってくださるのなら、多分ヴァイシャリー家の方は付き添わないと思います。お願いしますね」
 春佳がそう言った。
 パイスは付き添わないようだ。
「あたしも行くわ! そんな小さな子を危険なところに行かせなきゃならないなんて……。あたし、護ります」
 そう言ったのは推薦状をもって訪れたばかりの茅野 菫(ちの・すみれ)だった。
「でも、貴女も大人とはいえないですし……」
 春佳は戸惑いを見せる。菫は外見年齢10歳ほどの少女だ。
「彼女は大丈夫だ」
 口を挟んだのはエリオットだ。
 側には、クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)が付き添い、まだ治療を行っていた。
「まだ皆、本調子には遠いわよね、でも頑張って」
 SPルージュで回復をして、クローディアはここでもリカバリを発動しておく。
 皆がほっと息をついて礼を言い、ブネが淹れてくれたアイスティーに手を伸ばしていく。
「航空団団長、すまないが今回ばかりは敵と仲良くできるとは考えないでくれ。……向こうがそれを拒否したからな……」
 エリオットは菫にそう言った。
 菫は意思の込められた瞳を見せて、頷く。
「心配しなくても、歯向かう敵には容赦なんてしないから」
「私も一緒に行くわ」
「わしもな」
 菫のパートナー相馬 小次郎(そうま・こじろう)菅原 道真(すがわらの・みちざね)もそう申し出る。
「……分かりました。それではお願いします。ただ、護衛やお世話にそんなに人数はいりませんので、向うに着きましたら指揮官の神楽崎優子の指示に従い、離宮問題全体に対して、お力をお貸し下さい。1個人の身を案じていただけるお気持ちはとても大切ではありますが、この離宮問題には沢山の方の命がかかっていますから、必要な人材、物資を送ることを優先しなければなりません」
 春佳のその言葉に志願した一同は頷き、気を引き締める。
「あのっ、わたくし達も離宮に行きたいです」
「涼介兄ぃ達大変みたいだし。ここも大変ではあるけどさ」
 離宮別邸にいる本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)のパートナー、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)がそう言う。
 2人は涼介達と連絡が取れなくなったことで心配になり、百合園に訪れたのだ。
 電話は繋がるようになったのだけれど、涼介はかなり切迫した状態らしく、満足な会話は行えていなかった。2人の不安は募るばかりだ。
「わかりました。パートナーの方でしたら、連携していただけるでしょうし助かります。転送希望者は以上でよろしいですね?」
 確認をとった後、春佳は人数と目的を紙に纏め、ラズィーヤに電話を入れる。
「軍人の運用に関しましては、仮本部の方で決定されすでにヴァイシャリー軍に連絡が行っているようです。また、冒険者のグループがキメラの討伐にも当たってくれているようです」
 進行を引継ぎ、エレンはまず現状報告をする。
「復旧分です」
 オレグが離宮に関する資料の一部を印刷して、皆に配っていく。
 初期に描かれた離宮の大まかな地図と、行われていた作戦、資料を纏めていた時点での状態について書かれている。
 その地図に、セラフィーナやパートナー通信を行える者達を通じて得られた情報を、書き込んでいく。
「ヴァイシャリー側の防衛計画ですが、私の方でも色々と考えてみましたわ」
 エレンは治療を受けながらも色々と考えを巡らせていた。
 ただ具体的に纏めることは出来ていないため、現時点で案として提示できる状態ではなかった。
 イルマが作成した最新版の地図を広げて、研究所から飛来したキメラが通りそうなルート。川を下って船で侵入した場合の迎撃場所などを、記入しながら案を詰めていく。
「離宮が浮上する地点の住民は勿論、この辺り住民にも避難していただいた方が良いと思いますわ」
 キメラが通ると思われる地点に印しをつける。
 仮本部での決定では、キメラの狙撃は主に離宮の封印に関わる地点で行われるということだ。
 それとは別に討伐に当たっている契約者は概ね北西の運河付近にキメラを落とし、戦闘を行い、深追いはしないという方針をとっているとのことだった。
「百合園生に街の方を回ってもらい、状況の説明をしてもらおう。それ用の資料も必要じゃな。百合園生に全てを説明するわけにもいかんし」
「今作っています。私も百合園生と共に回りますわ」
 フィーリアの言葉に、エレンが答えていく。
「有力者や商人、私兵を抱えてそうな人々や青年団などにも協力を要請していきましょう」
「白百合団員で動ける者はおるじゃろうか?」
「それはかなり難しいようですわ。団員の多くが離宮に下りており、残りはジィグラ研究所の制圧、それから他の事件にも動いているようですから」
 エレンはそう答えて確認の為に春佳を見ると、春佳は電話をしながら頷いた。
「でも全くいないわけじゃないから、呼びかけてみようね。あと、動物達にも助けてもらおう」
 アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)がそう言い、飼っている狼の背を撫でた。
 既に狼には、マジックで伝令と記したチョッキを着せてある。
 これまでにも、書類運びなどを手伝わせていた。
「避難どれくらい必要かわからないし……不安になったり、不満もったりしないように、お世話したりしなきゃね……」
 言ってアトラは少し考える。
「パーティまでは無理だけど、ちょっとしたお菓子を配ったり、お茶を振舞ったりはできるよね」
「そうですわね。それくらいでしたら、予算の都合もつきますわ」
 エレンはアトラの提案を百合園生へ配布用の資料に書き加えていく。
「さて」
 一旦電話を切って、春佳は皆に目を向ける。
「仮本部の案含めて、大体の方針と担当が決まったわね。私はここで連絡係を務めます。セラフィーナさんも残ってください。後の方は行動に移してください。どうか、ヴァイシャリーをよろしくお願いいたします」
 春佳がそう言い、会議は数十分で終了し、各々行動に移すこととなった。

 百合園女学院の校門前には、説明を求めにやってきた者や、関係者の肉親が押し寄せていた。
 警備員が順番に対応している。
「リキューはどこだ! 2人を解放しやがれっ!!」
 ゆる族の猫井 又吉(ねこい・またきち)も訪れた1人だ。
 パートナーの国頭 武尊(くにがみ・たける)と、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)と連絡が取れなくなったことから、彼らが百合園に捕らえられた可能性もあると考えた。
 シーリルは兎も角、武尊は色々と……そうイロイロとやっているので、拘束されても全く不思議ではないのだ。
 とはいえ、今のところ百合園にとって武尊は、とても心強い味方なのだが。
「キメラ、キメラが飛んできたわよ!」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)のパートナー、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が空を見上げる。
 翼を持ったキメラが北の方角に見える。
「なんだー!?」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)は思わず声を上げる。
 パートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)イーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)がいつになっても戻ってこないので、向ったらしいヴァイシャリーに来てみたら、この事態である。
「街中に落としたら被害者が出ちゃう! 飛べる人がいたら、百合園の校庭に誘導して!」
 メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)が、応戦の準備をしながら、そう言った。
「一体何が起きてんだ?」
 翔はわけが分からず、ただ唖然とするばかりだ。
 百合園の校庭には武装した契約者が集まっている。どうやらヴァイシャリー。そしてパートナー達は危険なことに巻き込まれているようだ。

「そういえばエリオットくんの性格考えたら、すぐに放火犯を追いかけそうなものだけど、何でそうしないの?」
 百合園の校庭で警戒に当たりながら、メリエルエリオットに尋ねた。
「私もできればそうしたいが、今回は状況が状況だ。あの女に燃やされた借りを返すのは、状況に余裕ができてからの方がいい」
 エリオットは鋭い目で上空を見上げる。ここにはまだキメラは訪れていない。
 クリスの攻撃は完全に自分達を抹殺する方法ではなかった。そのつもりなら、もっと確実な手段があったはずだ。
 放火直後にすぐに逃げたということは、確実に次の攻撃がある。
 おそらくはキメラの襲撃を計画しているはずだと考え、エリオットはすぐにでもクリスを追いたい衝動を抑えて武器を持ち本部の外に出たのだった。
 時折、携帯電話が鳴り報告が入ってくる。
 今のところ、こちらに向っているキメラは確認されていないようだが、気を抜くことは出来ない。
 転送術者による転送術はここから行われるのだから。
「本部の方も異常ありません」
 ぱたぱたと走って、ミサカが近づいてくる。
「大丈夫、ですか……?」
 心配そうにミサカはエリオットを見上げる。
「もう何ともない」
「でも……どうして、作戦のこと、教えてくれなかったんですか……?」
 エリオットは転送術者の振りをして潜入者を炙りだす作戦を、事前にミサカ達パートナーにきちんと説明をしていなかった。
「……もちろん後で教えるつもりだった。情報が敵に漏れるのを防ぎたかったし、それに、ミサカ達に怪我をさせたくなかったからな……」
 エリオットは空を見上げ続けていて、パートナー達の顔は見てはいなかったが、その声は優しかった。
(……無茶しすぎですよ、もう)
 ミサカは小さく呟いて、エリオットの隣に近づいた。

〇     〇     〇


「1匹に集中してください。止めはわたくしが刺します!」
 ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)が装備を変えて河原へと戻る。
 船から飛び出したキメラ数匹は街の方へと行ってしまった。指揮者がいないため、街中で暴れまわっているようだ。
 これ以上、行かせないためにもまだ残っているキメラはここで確実に仕留める必要がある。
 警備兵達1人1人は接近戦でキメラと戦える強さはない。
 だが、一斉射撃を行えば、十分キメラを傷つけることが出来る。
 傷ついたキメラは暴れ回り、より無差別に攻撃しだす可能性もあるため、ユーナは警備兵達に声をかけて連携を求めていく。
「戦えない人は逃げろ!」
 パートナーのシンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)は、ユーナにパワーブレスをかけた後、負傷者の下に駆けつける。
「怪我した人は俺の側に! 一気に治す」
 負傷した警備兵達を集めると、シンシアはリカバリをかける。
「船の前にいるキメラを狙おう。行くぞ!」
 シンシアはバニッシュを放つ。
 警備兵達も船の側で暴れるキメラに、銃を撃っていく。
「銃、そこまで。ユーナ、今だ!」
 シンシアの言葉を受けて、ユーナは地を蹴って船の前へと跳ぶ。
 2本の刀を振り上げて左右からキメラを斬り裂く。
 右手の刀を首へ。左手の刀を足に。
「これで終わりよ!」
 連続で攻撃を加えて、キメラを倒す。
 そのまま川の中に入って船にかけられた梯子に飛びつき、中へと入る。
 船室へ続くドアを閉めたところに、シンシアが空飛ぶ箒で駆けつけた。
「その辺の荷物で塞ぐぞ!」
「お願い」
 ドアを押さえるユーナの前に、シンシアが積荷を押してくる。
 そうして、ドアを封鎖し、一先ずこの船から次なるキメラが出てくることだけは防いだ。
 ただ、船着場で行われていた臨時の検問はすでに行われてはいない。
 すでに何隻かの船が運河を通過している。その中にも、キメラを乗せている船があるかもしれない。
「検問、直ぐに再開して! 警備兵も集めて」
 キメラを単純にどこかに運んでいるだけなのかは分からないけれど、ヴァイシャリーに災いを起こす存在であるこは確かだ。
「こちらに向っている契約者達がいるようです」
 警備兵がユーナに答えた直後に、若者達が少し南の河原へと下りてくる。

「何者かが侵入した恐れがあります」
「侵入者は発見し次第、斬って運河に捨てろ」
 ヴァイシャリーの運河に入り込んだ1隻の船の船員が慌しく動き出す。
(おっと、気付かれちまったか。ま、今回はビンゴのようだな)
 ベルフラマント、ブラックコートを纏い、隠形の術で姿を消し船に潜入を果たしたのは武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だ。
 小型飛空艇で追跡し、バーストダッシュでこうして船に入り込んで、怪しい船を探っていた。
 音に気付かれてしまったようだが、船に乗っている船員の数はほんの数名のようであり、牙竜は身を隠したまま船室へと入り込むことに成功する。
「目的地まであとどれくらいだ」
「10分くらいで着くと思われます」
(10分……近いな)
 船員達の声に耳を澄ませながら、積荷を調べていく。
 だが、その船に乗っていたのは荷物ではなく――案の定、キメラだった。
 施錠された檻に種類ごとに入れられている。種類は3種類ほど。複数の顔がある多彩な動きをしそうなキメラに、ヒョウのような体を持つ素早いと思われるキメラ、硬い鱗のある頑強そうなキメラが主に目についた。
 資料の類は目のつくところにない。
 見ただけではキメラが機械かなにかで制御されているのかどうかの判断も出来なかった。
 目的地到着まであまり時間がないこともあり、牙竜はそこで調査を打ち切って、携帯電話でパートナー達に連絡を入れる。
「人が入った形跡があるぞ!」
 銃を構えた男が、船室へ入ってくる。
「さて、帰らせてもらうぜ」
 牙竜はバーストダッシュで男を飛び越えてドアへと向い、甲板へと駆け出た。