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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 前編

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 第3章 ヴァイシャリー 貴族街

■□■1■□■ 未来のヴァイシャリー

小ラズィーヤと静香達は、ヴァイシャリーの町にやってきた。
一行の訪れた貴族街は、あいかわらず美しい街並みを誇っていたが、
その一方でスラムも広がっている。

ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)は、
小ラズィーヤに言う。
「どんどんヴァイシャリーにやってきてしまったのはよいのですけれど、
 細かな状況がわからなければ動きようがありませんわ。
 小ラズィーヤ様には、わたくしの質問に答えていただきますわよ」
「かまわないぞ」
小ラズィーヤは鷹揚に言う。
「小ラズィーヤ様のお父君はジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)様と伺いました。
 ですが、ご結婚はされていないご様子ですわね。
では、小ラズィーヤ様は、
どうしてまた大宦官静香様に逆らおうと思われたのですの?
 大宦官静香の専制を倒して、そのあとどうなさるおつもりかしら?」
「私は平和なシャンバラを作りたいのだ。
 腐敗した宦官の支配する世界などではなく、
 地球人とシャンバラ人が手を取って暮らせる国を。
 私には半分地球人の血が流れているのだからな」
小ラズィーヤは理想に燃える瞳でジュリエットに言う。
「なるほど……」
ジュリエットは目を細め、考える。
(タイムトラベルが可能なのですから、
 小ラズィーヤ様のお父君が地球人なのは間違いないでしょうね。
 ですが、あのジェイダス様に限って、女性にご興味をもたれるなどと言うことがあるでしょうか?
 いささか不自然ではないかと思いますわ)

★☆★

雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)も、静香が宦官になった経緯をたずねる。
「ラズィーヤ……ちびちゃんのママが無理矢理させたの?
麻酔とか殴ったりとか?
 逆……」
「わー!? ちょっとちょっと、リナリエッタさん!?」
真っ青になった静香がリナリエッタの口をふさぐ。
「どうしたのぉ?」
「7歳の子の前であんまり残酷なこととか、その……」
「いまさら何言ってるのよぉ。
 未来のこの世界は、暴力と圧政の支配する場所なのよぉ?
 それに、きちんと真実を見つめさせるのが、ちびちゃんのためにもなると思わなぁい?」
「そ、そうは言っても……」
リナリエッタに反論され、静香はおろおろと視線をさまよわせる。
「なんのことだかよくわからないが。
 私は、桜井静香が宦官になった経緯は知らない。
 とはいえ、奴が、悪であることに変わりはない。
 その桜井静香を利用している母様の陰謀も、また、止めなければ!」
小ラズィーヤの返答を聞いて、リナリエッタは面白そうに笑う。
「親に喧嘩売るっていうのは、結構しんどいのよぉ」
「私はラズィーヤ・ヴァイシャリー。
 『貴族の責務』は果たさねばなるまい」
「じゃあまずは、未来の反静香勢力に会って協力できないか会議でも開きましょうか。
 大事なのは叛乱する気配を見せちゃダメってことかしら。
今すぐ動くのはいけない」
そして、リナリエッタは静香にも視線を送る。
「……あと、静香校長自身が未来を変える、
って行動させないとダメね。
校長が自分の意思を持って、行動して結果を得る。
そうすれば男としての自信を持てて、宦官になんてならなくなるわ」
「僕自身が、未来を……」
静香はつぶやく。

★☆★

「はぁーい、話は聞かせてもらったわぁ」
そこに、未来の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が現れた。
未来・リナリエッタは、ラズィーヤや静香に取り入り貴族として大邸宅でゴージャスに生活しており、
アンチエイジングでスーパーモデル級の美しさを誇っており、
イケメンの召使を囲みまくり、ホストクラブ状態という生活をしているのだった。
「いい生活してるじゃなぁい、うふふふ」
リナリエッタは、未来の自分を見て言う。
「私は【イケメン解放前線隊長】!
 イケメンを愛しイケメンを育成してイケメンに囲まれた世界を夢見る同士のリーダーよ。
 もし宮殿を滅茶苦茶にしたいのならぁ、隠れ家ぐらい提供してあげるわぁ」
「え、じゃあ……」
静香の視線を受けて、未来のリナリエッタは満面の笑みを浮かべる。
「但しイケメンに限る!!!!!」
なお、この発言が冗談とわかるのは5秒後のことである。

★☆★

こうして一行は、貴族街にある、未来リナリエッタの家で作戦会議をすることになった。

「ごきげんよう、皆様」
そこに現れたのは、未来のジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)だった。
未来のジュリエットは、大ラズィーヤ直属の女官であった。
静香一党が心得違いをして僭上の沙汰に及ばないよう、
名前を出さずに裏で反静香勢力とのコンタクトを持ち
バランス・オブ・パワーをはかるというのが、未来のジュリエットの任務であった。
「反静香に協力するのなら、わたくしも手助けさせていただきますわ。
 なにより、小ラズィーヤ様を、
 お守りする義務がわたくしにはありますもの」
未来ジュリエットの提案に、小ラズィーヤは言う。
「母様の部下が?
まあいい、まずは悪の大宦官、桜井静香を倒すべきだ!」
「なんとか皆で仲良くできないかな……」
静香はそんなことをつぶやいている。
「ところで、湖畔がヴぁいしゃりーに飲み込まれた時にはどうしたのかしら」
「細かいことを気にするものではなくってよ」
湖畔はジュリエットのパートナーの地祇(ちぎ)である。
現在のジュリエットの問いに、未来のジュリエットは優雅に微笑を浮かべるのだった。