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リアクション
「よかった、ユーニスさんもお祭りに来てたんだね。……あ、いきなり押しかける形になっちゃって、迷惑じゃなかったかな?」
「そんな、こうしてまたお会い出来ただけでも嬉しいですわ」
前回の精霊祭の時以来、久し振りの再会を果たした神和 綺人(かんなぎ・あやと)とユーニスが、並んで路地を歩いていく。
「瀬織は初めまして、だよね。ずっと会いたかったって言ってたよね」
「はい、わたくし、ユーニスさんに雷術についてご教授願いたかったのです。よろしくお願いします」
綺人に紹介され、背後から神和 瀬織(かんなぎ・せお)が丁寧に頭を下げるのに続いて、ユーニスも礼儀正しく返す。
「私で教えられることでよければ、こちらこそよろしくお願いしますね」
そして、瀬織とユーニスとで、術の顕現についてあれこれと会話が交わされる。そんな光景を、後方からクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が焦れるような表情で見つめていた。
(何でしょう……ユーニスさんとお話しているアヤを見ていると、胸がモヤモヤします)
「綺人がここに来た目的は、彼女に会うためだったんだな。……クリス、大丈夫だ。綺人はあんな感じだが、ちゃんとクリスを恋人として認識している」
クリスの様子がおかしいのを悟って、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がそれとなく気遣いの言葉をかける。
「ユーリさん……はい、そう、だと思うのですけど……」
不安な面持ちを崩さないクリス、そしてユーリも綺人の特殊性をよく知っているからこそ、それ以上のことが言えずにいた。
「まあ、割り切って祭を楽しめ。……これからどうなるか分からないのだから」
言ったユーリの前方、瀬織とユーニスの談義は今も続いていた。
「瀬織はこんな時まで、勉強熱心だなあ」
「学べる時に学ばなくてはと思いましたので。今後、世界情勢がどうなるか分かりませんから」
瀬織の言葉に、綺人の表情が陰る。
「……これから、この世界はどうなるのかな。西と東に分かれてしまったシャンバラ、エリュシオン帝国のこと……ここもやっぱり巻き込まれるのかな」
「五精霊の皆様方は、そのようにお考えになられました。外敵に対抗するためには、シャンバラに住まう全ての精霊の協力が必要である、と。……私も、セリシア様が治めていらっしゃるウィール遺跡に住まうことにしましたの。たとえ私の力が小さくとも、少しでも皆さんのお力になれるなら、と」
「そっか……みんな、大切な人や物のために戦おうとしてるんだね……」
呟く綺人、そこへクリスが綺人の腕を取って隣に身を寄せる。
「私は何があっても、アヤの傍にいますから! 絶対離れませんっ!」
想いのこもった言葉、そして行動に、綺人の表情がふっ、と緩んだ。
「……うん、そうだね。どんなことがこの先あったとしても、前に進むしかないよね。クリス、そう言ってくれて嬉しいよ」
ぽんぽん、と綺人の手がクリスの頭を撫で、その温かさにクリスが目を細める。
「瀬織、向こうに売ってるわたあめなんてどうだ?」
「……まあ、たまにはいいかもしれませんね」
ユーリの言葉に、その意図を読んだ瀬織が頷き、一行をわたあめの売っている屋台へと連れて行く。
(うん。今は、このお祭りを楽しもう)
二人に続いて、綺人とクリス、ユーニスが向かっていく。
「じゃじゃ〜ん! あなたも精霊気分になれるグッズをたくさん用意したよ〜! これでもっともっと精霊さんと仲よくなっちゃお〜!」
自らも精霊を想起させる衣装に身を包み、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が柔らかな素材で出来た羽根や羽織物を勧めていく。
「チムチムはこう見えても結構器用アルよ。さ、よければどんどん着てってほしいアル」
「すご〜い、普通にキレイ! ねーねー、これ似合うかな?」
「ああ、似合ってると思うよ。……何か面白そうだなあ、僕も一ついいかい?」
チムチム・リー(ちむちむ・りー)の製作した服やアクセサリーに興味を引かれた街の人や生徒たちが、それらを手に取り、身に付け合ったりして楽しんでいた。
「……よし、こうだ!」
「違うよー、ちゃんと見てよもー」
子供の一人が着飾ったのを、幼い外見の精霊が自分の格好や羽を見せたりして突っ込みを入れる。何度かやり取りがあって、お互い満足したのか笑顔を浮かべて、二人手を取って路地へと消えていった。
「はい、今からスタンプラリーもやっちゃうよ! 集めた人にはカヤノさんが作った氷で特大かき氷!」
「レキ、それちゃんとカヤノちゃんに言ったアルか?」
「これから言うよ! 大丈夫、カヤノさんなら乗ってくれるよ!」
「大丈夫アルか……?」
子供たちを中心にスタンプカードを配っていくレキを、チムチムが不安そうに見守りつつ、製作活動に勤しむ。
「アンドリューさん、どうですか? これ似合ってますか?」
「ああ、うん、似合ってるよ。……あれ? 沙耶の姿が見えないようだけど……」
頭につけ羽根を付けて、ラメ加工が施されたかのようにキラキラと光る布を纏ったフィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)に答えたアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が、姿の見えない葛城 沙耶(かつらぎ・さや)の姿を見つけようと周囲に視線を配っていたところへ、
「……それっ!」
背後から声が聞こえたかと思うと、何かを頭に被せられる。
「うわっ! ……沙耶、これは一体何のつもりだい?」
「せっかくのお祭りですもの、兄様にもお揃いの格好をしてもらおうと思いまして」
被せられたのがつけ羽根であることを確認してアンドリューが、これを被せたのが同じつけ羽根を被った沙耶の仕業と知ってため息をつく。
「沙耶ちゃん、私も同じ格好だよ? みんなお揃いってことだよね」
「いいえフィオナさん、わたくしと兄様の羽根はお揃いですけど、フィオナさんのは違います。フィオナさんは仲間外れですわ」
「そ、そんな〜」
目尻に涙を浮かべるフィオナと、胸を張る沙耶を交互に見て、アンドリューがいつもの光景にため息をつきつつ、こうしていつもの光景を見られることは、多分いいことなんだろうなあと思っていた。
「あっ、あっちで皆さん踊ってますよ! アンドリューさん、沙耶ちゃん、行ってみましょうよっ」
「フィオ、そんな引っ張らなくても、ちゃんと行くよ」
「もう……せっかく兄様とお揃いになれましたのに……」
フィオナが、広場に生まれた変装した人と精霊の輪を見つけて、アンドリューと沙耶を引っ張っていく――。
「兄様、次はわたくしとですわ。兄様のエスコート、期待してますわよ」
音楽が途切れたところで、それまでフィオナの相手をしていたアンドリューの前に、今度は沙耶が進み出る。
「ちょ、ちょっと待って、少し休ませて」
「いいえ、わたくしは少しでも長く兄様とお祭りを楽しみたいんですの。フィオナさんの時にお願いしてみてはいかがですか?」
「それ、フィオの時には「沙耶ちゃんの時にお願いしたらどうですか?」って言われたよ?」
「あら、こんな時だけ気が合いますのね♪」
明らかに示し合わせている素振りで沙耶とフィオナが微笑み合い、そしてアンドリューはため息をつきながら、二人の間を何度も相手させられることになったのであった。
「おっ、北斗、なかなかサマになってるんじゃないか? これで今日から北斗も精霊の仲間入り、ってか?」
「そ、そうかな? えっと、レオンさんも似合ってるぜ! ……それでよかったら、その……一緒に踊らないか?」
「よっしゃ、行くか北斗! っと、護はどうすんだ?」
「僕はそこで座って見てるよ。二人で楽しんできて」
「オッケー! んじゃちっと、暴れてくっか!」
天海 護(あまみ・まもる)と天海 北斗(あまみ・ほくと)に連れて来られた形のレオン・ダンドリオンが、今ではつけ羽根に上半身をすっぽりと覆う衣装を纏ってすっかり精霊気分で、どこかもじもじした様子の北斗と軽快なステップを踏んでいく。
(よかった……北斗とレオンさんが楽しそうで。それも、きっとこのお祭りの雰囲気がとてもいいものだからかな)
一人椅子に腰掛け、人と精霊とが楽しく踊り明かす光景を目にしながら、しかし護はこうも思う。この平和で賑やかな世界も、時間も、本当に狭くて小さくて、脆いバランスの上でほんのひと時成り立っているだけのものに過ぎないのではないか、とも。
(きっと、僕に残された時間は長くない……。だから、学べる時には学んでおきたい。備えられる時には備えておきたい。守りたい人たちの、こんな素敵で平和な生活がいつまでも続くように)
護が物思いに耽っていると、音楽が途切れ、清々しい表情のレオンと、どこか照れくさそうな様子の北斗が戻ってくる。
「いやー、東シャンバラまで行くっつうから、本当はちょっとどうかなって思ってたんだけどさ。心配する必要なかったな! こんな愉快な祭を開ける奴らが、悪い奴のはずがねぇ!」
レオンが頷きながら言い切る。ヒラニプラは西シャンバラ、イナテミスは東シャンバラ。国の違いは時に思想の違いを産みかねないが、お祭りを楽しむ心は西も東も、いや、もっと大きなスケールで共通しているはずなのである。
「さ、次行こうぜ! 今度は護も楽しめるようなのあるといいな!」
「ぼ、僕は楽しそうなレオンさんと北斗を見てるだけで十分――」
「おっ、あれ何だろな!? 行ってみようぜ、護!」
どんどんと話を進めていくレオン、そしてそれに付いていく北斗に釣られながら、護はこれから自分達に何が出来るだろうかを考えていた。
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