リアクション
ありがとう
一面の緑。
背丈の低い花々の陰に、名前の刻まれた墓石が見える。
かつて好きだった人の眠る墓前に、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は感慨深くたたずんでいた。
「久しぶり……君が死んで、もう10年になるんだな……」
あの頃はまだ小さな子供だった自分も、すっかり大人になってしまった。
いや、大人になったからこそ、こうして墓参りに来られるようになった、というべきか。
彼女の死と向き合うことができず、レーゼマンは今までこうして墓参りをしたことが無かった。今日はじめて彼女の墓と、こうして対面出来たのは、パラミタで送った日々があってこそのこと。
「あれからいろんなことがあったんだ」
10年分の話は、どれだけしても尽きない。
パートナーと出会い、パラミタに渡り、沢山の仲間が出来た。
そして……。
共にいたいと思えるような人も出来た。
それがレーゼマンをここに来させてくれたのだ。
「今でも君に対する思いは変わらないよ」
告白の答えも聞けぬまま、レーゼマンの目の前で死んでしまった彼女。
今でも彼女を大切に思う気持ちは変わらない。
けれど、だからこそ。
彼女を理由に立ち止まったままでいることは、してはいけないことなのだと思う。
10年間、言いたくて言えなかった言葉を、やっとレーゼマンは唇にのせる。
「ありがとう、君に逢えて『僕』は幸せだった」
彼女といた子供の頃の自分。あの日々の幸せは忘れない。
だからこそ。
「君への想いを胸に、これからも『私』は歩いていくよ」
彼女と共にここに留まるのではなく、彼女の思い出を胸にずっと歩いてゆく。どこまでも、どこまでも。
過去の想いと過去の人、新たな出会いと新たな世界、すべてを自分の内に含有して――。