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リアクション
●転送ホールb付近
転送ホールbでは、ちょっとした問題が起きていた。
「む、これはいかんな……統制が取れていないではないか」
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が転送ホールbからコーラルネットワークに降りてくると、そこは予想を上回る生徒の数で溢れていた。アーデルハイトが、転送ホールの指定をしなかった生徒まで「とりあえずbに行っておれー!」と転送してしまった結果であった。
「このままでは、無用な被害が出てしまいますね……」
「ヤバいっす! 蛇も多いっスけど、人も多いっス! キモさ2倍っス!」
ヴァルと一緒に転送されてきたキリカ・キリルク(きりか・きりるく)とシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が、視界に映る現状を憂いるように呟く。既に戦端が開かれている地点もあるが、蛇の襲撃を受けての反撃という形に留まっていた。
「ご心配なく、全ての交渉は完了している」
遅れて転送されてきた神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)が、アーデルハイトと交渉の末、情報の収集と共有に当たっている【アルマゲスト】のメンバーにも情報を伝達することを条件に、一旦この場に飛ばされてきた現時点では行き先が決まっていない生徒の振り分けを現場で行えるよう手配したことをヴァルに伝える。
「よくやってくれた! 【アルマゲスト】との連絡手段は確保してあるか?」
「我にお任せを。帝王は帝王らしく、存分に采配を振るうが良いであろう」
ゼミナーの後押しを受けて、ヴァルが意気揚々と生徒たちを振り分けていく。多少の混乱はありつつも、転送ホールbに過剰に投入されていた戦力が、各地へ適切に配分されていく。
「アルマゲストの方々とは、私達も情報を共有しています。迅速な戦力配分に協力できると思います」
「ここの少し後ろに、同じ目的の皆さんを治療する救護所を展開しようと思うのですけど……どうでしょうか?」
「いいだろう、魔法陣Bの安全確保、及び維持はおまえ達に任せよう! 後方を脅かす者共を撃滅し、万全の迎撃態勢を築くのだ!」
協力を申し出た神裂 刹那(かんざき・せつな)、対策案を提示した高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の意見を聞き入れ、ヴァルが魔法陣Bへの対策を言い渡す。
「私達は魔法陣の安全確保に向かいます。協力をお願いできませんか?」
「えっと、怪我の手当てならお任せって人、集まってー!」
刹那と結和の呼びかけに呼応して、それぞれ得意な役割を果たす為に生徒たちが集まっていく。
「まぁ、これだけの人がいて、かつこの程度の奴ら、苦戦すら論外といった所でしょうかね」
「そうね。魔法陣の周囲を綺麗にさえしてしまえば、後は近寄らせないようにすればいいだけ。……わざわざ辺境にまで、眷属共々ご苦労様。おもてなしはたっぷり準備してあるみたいだから……去ね」
遠方から火力を提供する砲台役として美鷺 潮(みさぎ・うしお)が、その砲台を守るソアトゥ・ヴィネ・リュスインテシテ(そあとぅう゛ぃね・りゅすいんてして)と共に刹那の主導する集団に加わる。
「まっ、このままやられっぱなしっつうのは面白くねぇ話だよなぁ。ってわけで、俺も援護させてもらうぜ!」
「ユーニス様は安全な場所で皆の治療をお願いする。敵は俺が引き受けよう!」
「ホルス、ロア、お願いね。……大好きなイルミンスールを守るため……私も頑張らなきゃ!」
既に戦闘準備を整えた様子のホルス・ウォーレンス(ほるす・うぉーれんす)とロア・メトリーア(ろあ・めとりーあ)を励ますようにパワーブレスを施したユーニス・アイン(ゆーにす・あいん)が、決意を固めた表情でぐっ、と手にしたメイスを握り締め、いつでも治癒の魔法を施せるように精神を集中させる。
「我が君、私達も前に出て敵の殲滅に当たります。我が君がイルミンスールを守ろうとする思い……私達が形にしてみせましょう」
「いちるといちるの大事なものは俺が……いや、俺たちが守るから。安心しろ」
「ギルさん、クーさん……うん、無理だけはしないで、危なくなったら戻ってきてください。私も、私に出来ることを精一杯しますから!」
クー・フーリン(くー・ふーりん)とギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)の言葉に、抱くものを感じ取った東雲 いちる(しののめ・いちる)が一瞬複雑な表情を浮かべて、直ぐに自分のやるべきことをやろう、という表情に変えて準備を始める。
「皆さん、協力ありがとうございます。……では、行きます!」
数多くの協力者へ感謝の言葉を送った刹那が、即座に表情を戦いに勇む者のそれに切り替え、戦闘開始の合図を送ると同時に、手近な蛇へ念力を発動させる。
不可視の力に包まれた蛇が必死に身を捩らせるものの、傍には殆ど動いていないように見えた。
「私の居場所を奪おうとする物は、何であれ許さないよ……!」
研ぎ澄まされた感覚で、隙を見せた蛇を標的に見定めた十六夜 久遠(いざよい・くおん)が近付いていく。身体の自由を取り戻すべく奮闘する蛇が久遠に気付いたのは、久遠が振り下ろした剣によって自らの身体が二つに分断された直後であった。
「姿が見えなきゃ、攻撃も反撃もできないよね?」
言い放つ久遠に、同胞を討たれた別の蛇が息巻いた所で、遠方から飛んできた火弾が炸裂し、炎に巻かれた蛇が断末魔の悲鳴をあげて身を塵と化していく。
「人様の領域で勝手に騒いでいるような輩には、お仕置きが必要ですね」
ワンドの先に魔力を凝縮させ、イリス・ナイトロード(いりす・ないとろーど)が二発目の火弾を蛇の一群へ撃ち込む。群れを為していた蛇が火弾の爆発で散り散りになり、脅威を減じていく。
「此処は貴方方の居場所ではありません。早々に消え去りなさい」
一旦散らされた蛇は、前に出て蛇を挑発するように言い放つルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)に狙いを定め、再び群れを為して襲い掛かろうとする。
「……掛かりましたね」
フッ、と微笑を浮かべて、ルナが即座に身を退く。後方では今まさに、詠唱を行っていた潮といちるが魔法の力を行使せんとしていた。
「ガルディーリング・ベルリア……上位魔法でもてなしてあげるわ……!」
「私達が学んできた魔法は、決して無駄なんかじゃありません!」
杖を地面に突き立てた潮の、書物に浮かんだ言葉を紡ぎ終えたいちるの、二つの魔法陣が蛇の真上に出現し、そこから雨の如く降り注ぐ雷が放たれる。挑発に乗り一塊になっていた蛇は、その一撃で大半が身を裂かれ、悲鳴すらあげることなく命を絶たれる。
「はい、そうやって視界外に逃れようとしても、そうはいきませんよ? ……潮さんはあたしが守りませんとね」
かろうじて直撃を免れた蛇が、身をくねらせて壁から天井に這い上がろうとするのを、見逃さずにソアトゥが電撃を撃ち込んで叩き落とす。
「いちるの作った好機、無駄にはしない……! 遅れを取るなよ、クー!」
「言われずとも、我が君のお心遣い、無下にはいたしません」
雷の一撃を耐え切った蛇も、ギルベルトの剣とクーの槍に切り裂かれ、貫かれて体液をほとばしらせ、動かなくなる。
徐々に生徒たちの集団が、魔法陣Bを攻めていた蛇を追い詰めていくが、流石に他の場所よりも敵の数が多いせいか、相応の被害が発生していた。
「うお、か、身体が動かねえ……」
「っと、大丈夫か!? おい、その牙引っ込めな!」
蛇に噛まれて身動きの取れなくなった生徒の前に滑り込んだホルスが、突き出した拳で口を開けた蛇を牙ごと砕き、退けさせる。
「地に還るがいい!」
ロアの振り下ろした剣が蛇にトドメを刺し、しばらく身を震わせた後ぴくりとも動かなくなる。
「怪我人の具合は如何様か?」
「……早くユーニスんとこ連れてった方がいいな。しょうがねぇ、オレが担いで――」
容態が思わしくないのを確認して、生徒を担ごうとしたホルスとロアの前に、サンタクロースが乗るようなソリとトナカイのセットを担架として、怪我人を運んで回っていたエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)と占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)が現れる。
「負傷者の回収は僕たちに任せてください」
「ありがてぇ、じゃ任せたぜ!」
「くっ、まだだ……まだ戦える……!」
「うっせーなヴォケ治療するから乗れって言ってんだろ! 動けねぇくせに無茶言うな!」
渋る生徒をソリに押し込み、戦線を離脱する。ソリは無事に戦線を離れ、結和とユーニスが待機する救護所へと向かっていく。
「結和、負傷者を保護したよ。手当てをお願い」
蛇に噛まれた際に流し込まれた毒の影響か、顔を黒くして呻く生徒へ、結和とユーニスのキュアポイゾンが施される。
少しずつ生気を取り戻していく生徒にほっ、と息を吐き、攻撃を受けた箇所の手当てに取り掛かる。
「……ありがとう。これでまた戦える」
「はい、あ、あの、無理しないでくださいねっ」
二人に見送られて、再び戦う力を取り戻した生徒が前線へと戻っていく。
「……流石に、これだけ怪我人が出てくると、疲れてくるね」
「うん……だけど、実際に戦ってる人の方が何倍も辛いはず。このくらいで弱音を吐いていられないですよね」
疲れの見える表情を浮かべながら、自らを奮い立たせる結和とユーニスへ、機晶石のもたらす癒しの力が施される。
「結和、あんなこと言って、君こそ無理しちゃだめでしょ。魔法は使えないけど、僕だって治療の手伝いくらいなら出来るんだから、適度に交代していこうよ。これからきっと大切な場所になるここを、一緒に守っていこうよ!」
アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)の言葉に励まされるように、結和、そしてユーニスの表情に再び笑顔が戻る。
「……そうだ、紗月さんと朔さんは大丈夫かな」
前方を見遣って、新たな怪我人の運ばれてこないのを見計らって、結和が場所を違える同じ目的の者たちと連絡を取る。
ややあって届いた返信の内容は、魔法陣Cの安全を現時点では確保していること、引き続き魔法陣の防衛に当たるとのことであった。
(……うん、私も頑張らなくちゃ!)
違う場所でもそれぞれの役割を果たしていることを知って、自分を奮い立たせた結和が、ユーニスと共に怪我人の治療に奔走する。
「これで……最後!」
刹那の生み出した火弾が蛇を塵と化し、息を吐いた刹那が感覚を研ぎ澄ませて周囲を確認し、魔法陣を襲う蛇の脅威が去ったことを認める。
「では、ここに防衛線を構築しましょう。周囲の警戒も行わなければいけませんね」
「私達で後方と横の警戒を行ないましょう。刹那様は前方にて警戒と、他の皆様との情報の共有を」
「手伝うって決めたからには、最後までやらないとね!」
「久遠が珍しくやる気になっているのに、私がやらないわけにはいきませんね」
「ちょっと、珍しくってどういうことよー?」
「言葉通りですわ」
イリスの微笑に久遠が頬を膨らませつつ、それぞれ左右へと散っていく。ルナが後方へと向かった所で刹那も前方へ振り向き、配置の組み換えを行うべく駆けていった。
しばらくの後、魔法陣Bに近い側から結和とユーニスの回復拠点、潮といちるの遠距離攻撃拠点、刹那の前方の部隊との連絡拠点が完成し、生徒は後方の憂いを気にすることなく戦いに勇むことが出来るようになった。
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