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まほろば大奥譚 第二回/全四回

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第三章 地下に棲まう鬼2

「遅かったな、軍師殿。待ちくたびれたんで、俺が適当にのしといてやったぜ」
 暗闇の中で蠢く黒い鎧の男がいる。
 蒼空学園橘 恭司(たちばな・きょうじ)の足下には、数名の大奥お庭番が倒れていた。
 彼は魔鎧ミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)を纏い、いつでも戦闘態勢を整えている。
「ずいぶんとまた、やってくれたな」
「ハイナ殿が手を回してくれたお陰で、これでも少ない方だ。流石に城内全ての警護を取り除くことはできんだろう。まあ、気を失わせているだけだから、翌朝にでも目覚めてくれればいいさ」
 恭司の台詞に閃崎 静麻(せんざき・しずま)は彼を頼もしく思った。
「俺もティファニーの護衛につかせてもらうぜ。こっちだ」
 恭司を先導に、一同は緑水の間から大奥内に進入した。



「流石に大奥、広いですね。でも事前に目星はつけていましたから、後はティファニー殿の記憶が頼りでございます」
 ローグ服部 保長(はっとり・やすなが)がお手製の地図を広げた。
 マホロバ城は、城内が本城(本丸、二の丸、三の丸)の他、西御殿や西御殿下、もみぢ山、付上御庭とで構成されている。
 うち、本丸は表、中奥、大奥に区分されており、表と中奥は繋がっている。
 大奥だけは切り離されており、中奥と大奥を繋ぐ唯一の廊下が御鈴廊下である。
「ティファニー殿は大奥から本丸の真下に出たと思われますから、やはり地下で繋がっているんでしょうね」と、保長。
「ティファニーちゃんは覚えてるか?」
 隼人は優しく尋ねるが、彼女はぶんぶんと首を振った。
「どこを向いてもタタミ、フスマ、タタミ、フスマ……ミーには全部同じに見えマス」
「それは困ったな」
 一行が立ち往生をしていると、暗い廊下の奥で人影が揺らいだ。
 緊張が走る。
 恭司が籠手を握りしめ、一気に相手を捕らえる。
「ちょっ……! そんな物騒なもんで俺様の美しい顔を狙うなって!」
 薔薇の学舎南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は慌てて飛び退いた。
 恭司の拳が壁にめり込み、ぱらぱらと崩れ落ちる。
 その真横でが巨大鯰(ナマズ)オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が口をぱくぱく開けていた。
「そ、それがしを殺す気かー!? 動物愛護法を知らぬのかー!」
「あ、あの時のフィッシュですヨ! フィッシュー!! ミーが大奥で迷子になったときにいたデスヨ!」
 ティファニーが魔鎧の後ろから顔を出してオットーを指さした。
 オットーはぎょっとして、口笛を吹きながらごまかす。
「な、何をいっておるかさっぱり分からんな。それがしは鯰(ナマズ)。決して鯉(コイ)ではな……あ!」
「やっぱりそうですネ。ミーはフィッシュと言いましたが、コイとは言ってマセーン。この人なら場所覚えてマスヨ。案内してもらうデース」
 ティファニーに特技の変身(体を黒く塗っただけ)をあっさり見破られ、ヨヨヨと倒れ込むオットー。
 静麻が呆れたように光一郎に問うた。
「……そうなのか? というか、貴様らここで何してるんだ?」
「あーまあ、諸事情で大奥から出られなくなってだな。ついでだし、この鯉君がいう乳幽霊を探してた」
 光一郎は念を入れて一同の顔を見渡し、天狗の面を後ろ手に着物の奥へしまい込んだ。
「乳幽霊? 場所は知ってるのか?」
「確信はない。が、ここにいる鯉君はこう見えても魔法少女だ。番組補正できっと見つけられる。うん、なあ鯉君!!」
「それがし少女ではござらん! ちょっといいかも……などど思ったことは断じてござらん。というか、番組補正は水曜スペシャルなのでは……!?」
 彼は最後まで抗議していたが、誰も聞いていない。同情もしていない。
 光一郎にヒモを付けられ、犬のように先頭を歩かされるオットー。
 やがて、鯰の動きがぴたりと止まった。
「臭う、臭うぞ〜。この先が怪しい、ってか、ここに相違ない!」
 そこは以前ティファニーとオットーが迷い込んだ場所。
 大奥の隠し部屋であった。