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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
「ミレイユさん、保護区の為に尽力して下さって、ありがとうございます。私も手伝いたかったのですが……」
「ううん、大丈夫! サラさんも手伝ってくれたんだよ! そうだよね、シェイド?」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)の下に合流し、申し訳なさそうな表情を浮かべるルイ・フリード(るい・ふりーど)に微笑んで、ミレイユがシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)へ声をかける。
「……そうですね。状況が落ち着いたら、サラさんや炎の精霊の方々、ディルさんエルミティさんにお礼がしたいですね」
「ぜひ私もご一緒させてください! アレフとプックルにも会ってやりたいですからね」
「そうだ、メッツェ、どうしてるかな。元気にしてるかな?」
 二人が互いのキメラについて語り合っている横で、シェイドが『希少種動物保護区』内にある管理棟でサラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)の看護をしているはずのデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)と連絡を取り合う。
「……ええ、こちらはこれから、ニーズヘッグの説得に向かいます。……そうですか、それはよかったです」
 デューイの話では、エルミティ・ラートスンの看病もあって、サラは起きていられるまでに回復したとのことであった。
 好物は何か、と尋ねたシェイドに対してのデューイの答えに、シェイドが意外そうに目を丸くする。
「……分かりました。そちらに向かった時に、作って差し上げましょう。では、これで」
 通信を切ると、話をし終えたミレイユとルイが、ニーズヘッグの下へ向かう準備を終えていた。
「じゃあ、行こっか!」
「はい!」
 そして一行は、ニーズヘッグと話をするため、出発する――。
 
●ニーズヘッグ周辺
 
(……よし、彼女たちも説得に入った。校長にも方針は伝えた。
 ニーズヘッグを撃ち抜く銀の弾丸を手に入れられるかは、彼女たち次第。
 そして、俺は弾丸を撃つ銃をこの手に!)
 
 ニーズヘッグへ生徒たちが向かっていくのを頭上に見、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が『説得が成功した直後』のことを考え始める。
 イルミンスールの生徒とニーズヘッグ、双方が同じように『勝ち』を得られる結果を、それを為し得る方法を模索する。
「ふむ……校長の様子もおかしいようですし、精霊塔にも使用限界があります。リンネくん達の方も大変そうですからねぇ。
 ……このまま両者との戦いが続けば、全体的かつ将来的に此方が不利。
 となると、ニーズヘッグが仲間という形に収まってくれるならば、確かに心強いですね」
「まぁ、我の方も八つ当たりは十分に済んだしのぉ。仲間になるというならば、其れも良いかのぉ」
 そこへ、三人の生徒たちの話を耳にした月詠 司(つくよみ・つかさ)ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が、互いに意見を言い合いながらやって来る。
「何にせよ、ニーズヘッグが何を考え、何をしたいのか、ニーズヘッグ自身から聞く必要があるかのぉ。助けるにしても滅するにしてもじゃ」
「……まさか、直接聞きに行くなんてことはないでしょうね?」
「其れも良いが、我が聞いてみたいのは、このニーズヘッグがラグナロクを生き残ったニーズヘッグであるかを聞いてみたい。
 あの戦いを生き残ったモノの率直な感想、生き残った後今まで如何していたのか、をな」
 ふふん、と興味深そうな表情のウォーデンに、司がため息をついて答える。
「付き合わされる身にもなって下さいよ……しかし実際、ただで仲間になってくれという話は無理がありますね。
 何かこちらから出せるものは……そうですね、例えば協力の対価として、イルミンスールの根の内活性化し過ぎている部分をニーズヘッグに喰わせる、というのは如何でしょうか?」
 それは、確かに筋は通っていた。イルミンスールが浮遊するというのは、ある意味で成長したということ。
 しかしその成長が、契約者であるエリザベートに悪影響を与えることになるのなら、成長した部分をニーズヘッグに喰わせ、影響を抑えると同時にニーズヘッグを生かす(散々イルミンスールを喰うと言っていたのだから、おそらく好物なのだろう)という方針は、両者に益がある。
(……いや、確かにそうなのだが……それでは結局、一時的な解決に過ぎぬ。
 ニーズヘッグを半永久的に抑え込み、代わりの力を与える手段は――)
 そこでふと、何か閃いたヴァルは自分の一歩後ろに立つ、キリカ・キリルク(きりか・きりるく)へ振り返る。
「? ヴァル、どうしました?」
 ヴァルの警護を行っていたキリカと、ヴァルに存在するもの。そして、エリザベートとイルミンスールにも存在しているもの。
「……そうか!」
 答えを導き出したヴァルが、銀の弾丸を撃つ銃を手に入れた瞬間であった。
 
「イルミンスール……この場合校長か、それとニーズヘッグとを契約させるなんて、何と言うか……言葉が出てこないわね。
 ま、校長がニーズヘッグとの闘争を望んでないのなら、イルミンスールとも契約したんだし、何とかなるのかな?」
 北久慈 啓(きたくじ・けい)の駆る飛空艇の上で、須藤 雷華(すとう・らいか)が呟く。
 ヴァルの『イルミンスールとニーズヘッグを契約させる』案はHC等を介して周囲の生徒たちに伝えられ、ニーズヘッグの説得が成功した後の提案の一つとして認知されていた。
「で、俺達は説得者への妨害阻止、というわけか。確かに、話をしてからでも遅くはないだろう」
「私も、話が通じるのであれば、言葉を交し合うのはいいことだと思います」
 啓と、一緒に乗るメトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)の言葉に、雷華が頷く。
「あっちの方は厳しそうだけど、せめてこっちの方だけでも、余計な争いがないようにしなくっちゃね!」
 大事な時に邪魔が入らないようにと、雷華たちが生徒へ一時停戦を呼びかける。
「はい、そうです。イルミンスールとニーズヘッグの契約……実現するかは、説得を頑張る人達次第ですね。
 ……ええ、私はその方の盾となりたいと思います。また何かありましたら連絡します、では」
 校長室の牙竜たちと連絡を取り合ったロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、説得の行方を見守るヴァルとキリカの下へ赴き、説得を行おうとする生徒たちの護衛をする旨を伝える。
「おまえの実力は、コーラルネットワーク防衛戦の時に見せてもらった。今度もその力で、事に当たる生徒たちを守ってやってくれ」
 ヴァルの護衛を続けるキリカとヴァルに激励されたロザリンドが、装備を整え飛空艇に乗り込む。
(私には、ニーズヘッグを説得できるだけのものを持っていませんですし、弁が立つわけでもありません。
 私にできることは、説得を頑張る意志をとその力がある人達が説得を続けられるよう、その人達の盾となることです)
 コーラルネットワーク、およびイナテミスでの防衛戦で見た時よりも、さらに大きくその姿を曝け出すニーズヘッグ。
 ひとたび牙を剥けば、どれだけの生徒が傷付くのだろう。
(……皆さんを傷つけさせるようなことはさせません。そうしないようにするのが、今の私にできること……)
 自分のできること、やれることの中で全力を。
 ロザリンドがそう胸に誓い、説得に当たる生徒たちの護衛につく――。
 
 
「んっと……ワタシ、思い切りブリザードかけたり、痛い事たくさんしちゃったけど、お話聞いてもらえますか?」
『……あぁ、そこの剣使いと攻撃してきたヤツか。ケッ、テメェらのせいでオレは満足に動けねぇよ』
「ご、ごめんなさいっ。
 でも、いきなりあなたが攻め込んできたから、ワタシ達だって何が何だかわけがわからなかったし、みんなでがんばって作った場所を壊されたくなくて必死だったんだよ。
 ……って、これじゃ責めてるみたいになっちゃうよね。ごめんなさい……」
……チッ、やりづれぇなぁ……。
 全部テメェらのせいって言ってねぇよ。話したいことあんならさっさと話せよ』
「あ、うん……」
 
 ニーズヘッグに急かされつつ、ミレイユが気になっていたことを口にする。
 
「ユグドラシルは、これからどうなっていくかわからないイルミンスールの事が怖いのかな……?
 人間と契約をして、それによってまわりにも影響が出て、今までの環境が変化していくのが嫌なの……?
 それとも、わざと攻め込んで、イルミンスールがどんな行動をとるか見極めたかったとか?」
『あいつ……ユグドラシルのことはオレにゃ分かんねぇ。
 ……ただよ、オレは最近、妙に地上が騒がしいなとは思ってたぜ。
 んで、こうして地上に出てみて分かった。こいつは異常だ。
 はっきりどこが異常だなんてオレにゃ分かんねぇ、けど、何かおかしい。
 ……ま、オレとおんなじことをあいつが思ってるかは、オレにゃ知らねぇ』
 
 ――悠久の時を生きる(生きていると思われる)者たちには、今のシャンバラを含むパラミタ大陸に起きている変化は異常としか見えないのだろうか――。
 
「……もしそうだとしても、これからはゆっくりと成長していこうとしているイルミンスールの事を、できればそっと見守り続けてほしいんだけど……だめかな?」
『さあな、そんなのはあいつが決めること……って言いてぇとこだけどよ、あいつ、オレがここに来てから何もしてこねぇし、何も言ってこねぇ。……ったく、世界樹喰わせてくれんじゃなかったのかよ
 
 悪態をつくニーズヘッグ、考え込むミレイユに代わり、今度はルイが口を開く。
 
「私は、イルミンスールの成長が何より楽しみです。全てを見届けることは、私が人間である以上、叶わぬ夢でしょうが……。
 それでも、この命続く限り、イルミンスールと共に在りたいと思うのです。
 ここでお互いが戦って、イルミンスールが傷つくのは見たくないし、そして……あなたが傷つくのも、見たいとは思いません。
 あなたに助けられたという生徒さんの話を聞き、今またミレイユさんとの話を聞いて、あなたはただの悪龍ではないと私は思うのです。
 ……それに、本当は私、あなたに会えて嬉しく思うのです。
 神話……ああ、これは地球で伝わっているお伽話のようなものですが、それでしか聞いた事が無かった存在と出会えた私は、心踊っています。今もです!
 いろいろと聞きたい事があります。その全てを口にするには、時間がかかります。
 ですが、私個人の思いは、イルミンスールの成長を、ぜひあなたも共に見守ってほしい。
 互いが共存してほしい。……そう、思うのです」
「うん……ワタシも、そうなったらいいな、って思った。
 あなたとの『これから』も含めて、ここで一緒に考えていきたいよ」
『…………』
 
 偽らざる本当の想いを、二人が言葉にして伝える――。