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リアクション
『ファーム産の芋を使った『イナテミス焼き芋』をニーズヘッグに食べさせてみるのはどうだろう――』
志位 大地(しい・だいち)の意見を、イナテミスに誘導してくれたシーラ・カンス(しーら・かんす)から聞いたコルト・ホーレイとプラ・ヴォルテール、アシェット・クリスタリアは、今こそ開拓民根性見せる時、とばかりに奮起する。
「アシェ、倉庫からありったけ芋持って来て! 凍らせちゃえば運ぶのも楽……にならない?」
「プラ、私カヤノ様のように出来ない……だけど、うん、頑張る」
「おらたちも手伝うべ! おらたちが作ったモン食えば、どんな悪いやつだって心入れ替えんべ!」
アシェットとコルト、他多くの住民が、イナテミスに点在する倉庫から芋を持ち出すべく行動に移る。
(あたしも、サラ様のようには出来ないけど……精一杯やるわよ!)
強い決意を秘めたプラの掌に、ボッ、と火柱が浮かぶ――。
そして、大地とメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)がイナテミス中心部に辿り着くと、そこには積み上げられた焼き芋の山が出来上がっていた。
「こ、これは……」
呆然と見上げる千雨の横で、何とかそれだけを呟いた大地を、やって来たシーラが手招く。
大地が向かった先では、プラとアシェットが仲良くすぅ、すぅ、と寝息を立てていた。
「嬢ちゃんたちがあんたのためっつって、一生懸命働いたんだべ。おらたちに出来んのはこれっぽっちだけんど、後はよろしく頼むべ!」
大地と千雨を出迎えたコルトと、他『イナテミスファーム』から避難してきた住民が頭を下げ、自分たちが精魂込めて育ててきた作物を大地に託す。
「……ありがとうございます。必ず、届けてみせます」
感謝の気持ちを言葉にした大地が、シーラと千雨と共に、焼き芋をニーズヘッグの下へと運ぶ準備に取りかかる。
『……以上が、ニーズヘッグの素性である。
その上で俺、ジークフリート・ベルンハルトは、皆に問おう』
その時、精霊塔を介してジークフリートの声が響く。
既に多くの住民が、鏡に映し出されたニーズヘッグについての情報を目にした中で、ジークフリートの訴えが街中に伝播していく。
『奴は孵化して間もなく、満足に戦える状態ではない。
皆の目にも見えるだろう、ブライトコクーンにより皆の安全は確保されている。
さらにはエリザベート校長自ら、イルミンスールに乗って助けに来てくれた。
我々が負ける要素はない……そう、ニーズヘッグは最早脅威ではないのだ。
その気になれば、奴を消滅させることも可能であろう。
だが、素性を知った今、本当にそれで良いと思うか?
突然攻めてきたニーズヘッグに対し、思うところもあるだろう。怪我をした者もいるだろう。
……だが、もう一度自身の胸に手を当て考えて欲しい。
ニーズヘッグを消滅させるのではなく、我々の仲間として迎え入れるべきではないかと!
……答えは急がない。
だが、答えが出た者は精霊塔へ足を向け、ニーズヘッグへその想いをぶつけて欲しい!』
ジークフリートの演説は、校長室で手伝いをしていた白花の耳にも届いていた。
そして白花が、自身の境遇と重ね合わせながら、イナテミスの住民へ願う。
(イナテミスの皆さんお願いします……疎まれ続けていてもなお光を求める者に、皆さんの力で光を与えてください。
傲慢かもしれませんが、それでも、望むものを得られた喜びを皆さんからもらったものとして、お願いします。
ニーズヘッグにその手を差し伸べてください――)
街のあちこちから住民のざわめきがひしめき合う。
果たして、イナテミスはニーズヘッグに対し、どのような判断を下すのだろうか――。
(滅ぼすか、それとも友とするか……これは、イルミンスールの生徒、そしてこの街の住民が決めることね。私の出る幕じゃない)
ジークフリートの演説を聞き届けた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、踵を返して歩き出す。向かう先は町長室。
「全員分となると、かなり大きい調理場が必要になりますわね」
「その辺は問題ないでしょ。宿屋のとか、料理を扱うお店もいくつかあるみたいだし。
あ、町長だけじゃなくてその人達にも連絡を取らないとね。後は……セイラン様にも声掛けて、お手伝い願いましょ」
「ふふ、そうですわね」
隣に並んだイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)と話しながら、祥子がこの後のことを想像し、必要な準備を済ませようとしていた。
どのような形であれ、最後は笑って「お疲れさまでした」と言えるようにと思いながら――。
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