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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

リアクション


・科学と魔術


「ホワイトスノー博士、初めまして。空京大学所属の夜薙 綾香だ。よろしく頼む」
「インドの小僧からの紹介だったな。まあ、座れ」
 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)と彼女のパートナー達は、ホワイトスノー博士との面会のため、海京分所を訪れた。
 元学長アクリトからの紹介状もあり、なんとか取り付けることが出来た。なんでも、アクリトがまだ学者になりたての頃に、ホワイトスノー博士の世話になったことがあるらしい。
「私が参加しようと思った理由だが、イコンに魔術理論を取り入れては、と思ってな。挙げるとすれば、
 アルマインのような純魔術機ではなく、補助的に魔術を使用し、補強・強化が出来ないか。
 魔術兵装用のエネルギーコンバーターの効率化。
 対魔法能力の向上……まぁ、対魔法以外にも対超能力、ひいては純粋なエネルギー攻撃に対して、だな。
 ゆくゆくは魔力併用でのスペックの向上が出来ればと思っているが……まぁ、出来る範囲から協力させてもらいたい」
「なるほど。それが実現出来れば頼もしい限りだ」
 ホワイトスノー博士は、魔法の導入に前向きなようだ。
「全校向けの機体ならば魔法に備えるのは必須。天学用にしても、EMUに本拠があるF.R.A.Gに対するならばあった方がいいだろう。『教会』固有の術式を使ってくるかもしれないからな。それに、現行機では超能力のような純粋なエネルギー攻撃に対する備えはなかろう?」
「第一世代機にはな。テスト運用中の第一.五世代機ならば問題はない。超能力者専用という問題はあるがな」
「超能力者以外でも扱えるようにする必要があるな。それに、エネルギーコンバーターにしても、機晶石から魔力を取り出した方が効率的だろう」
 機晶エネルギーを途中で魔力に変換するよりも、抽出段階で魔力として取り出せれば、余計なエネルギーの消耗を抑えることが出来る。
「其方に魔術概念がないことは承知している。必要ならざっと説明する用意はあるが、いかがかな?」
 すると、博士が不敵に微笑を浮かべた。
「是非ともご教授願おうか」
「私もイコンについては知らぬことが多くある。お互いに見識、技術を深めていければ幸いだな」
 というわけで、魔術概念の説明に入る。
「はい、博士、お土産だよ!」
 ヴェルセ・ディアスポラ(う゛ぇるせ・でぃあすぽら)がアタッシュケースを開いて、その中からデータディスクを取り出す。
 それを、博士が持っているコンピューターに読み込ませた。
 魔術の仮想シミュレーションデータである。他にも、自前のイコンによる研究データと、持ち出し許可が得られた大学にあるマジックアイテムのデータがケースの中にある。さすがに、ゾディアックや女王器のような政府の管理にあるものは持ってこれなかった。
「なんか、アヤカがね、『イコン起動時に装甲を覆っている機晶エネルギーに加え、魔力障壁の類を併用してはどうか』とかって言って、それに魔鎧のデータがあったら便利じゃ、って話になってね……」
「ほう。確かに、エネルギーシールドが張れるのは『レイヴン』と『ブルースロート』だけだからな。参考データになるなら、あって困ることはない」
「データ取る位ならいいんだけどさ、人身御供にはしないよね!? 被検体の人権……じゃないか、鎧権は守ってよ!?」
「何、人格を持った存在で実験を行うような真似はしない。少なくとも、『私は』な」
 そうこうしている内に準備が整う。
 フィレ・スティーク(ふぃれ・すてぃーく)に憑依しているアスト・ウィザートゥ(あすと・うぃざーとぅ)が口を開いた。
「ジール・ホワイトスノー。魔術に関して無知な貴女には、まず、『魔術は学問であり、技術である』ことを知って頂きたく思います」
 無表情に、淡々と続ける。
「故に、個体に依存する超能力と違い、魔力と適切なデバイスがあれば誰でも扱えるものです。例えその者に魔術的素質や知識が皆無であっても、魔術をプログラム化してイコン側で処理する。
 夜薙 綾香が言っているのは、そういうモノです」
「なるほど。つまり、その『デバイス』とやらがイコンに導入出来ればいいわけか。機晶石が機晶エネルギーだけではなく魔力も発生させているというのは、機晶姫を見ていれば説明がつく。つまり、動力炉からの魔力抽出、及びデバイスを介しての魔術のプログラム化が必要というわけだな。それ自体は現在の技術で十分可能だ。あとは、機体への負荷を減らすため、どれだけ最適化が行えるかだ」
「理解が早くて助かります……ええ、なんです、フィレ・スティーク?」
 本来の身体の持ち主であるフィレが何か言いたいらしい。とはいえ、主導権はアストにあるため、彼女が代弁する。
「補足しますと、魔術プログラムを組んで搭載させる以外にも、マジックアイテムのように機体なり部品なりにエンチャントする……つまるところはマジックアイテム化するという方法もあります。設計段階でシステムに組み込むのではなく、この方法ならば現行機を強化することも可能でしょう。機晶エネルギーとの兼ね合いもありますから、どんなものでも、とはいかないとは思いますが……。
 それらを併用して、対魔性能向上やらエネルギーコンバーター改良やらを進めてみてはどうでしょうか?」
 説明を行っている間に、綾香はシミュレーションデータを提示する。
「これならば、比較的短期間で組み込めるだろう。イコンについては、私の口から説明するより、実際に図面を見てもらった方が早いな。
 通常、十メートルの人型ロボットは、この構造では自重を支えられない。それを可能にしているのが、動力となる機晶エネルギーだ。飛行用のフローターに加え、機晶コーティング、さらに機体の自重を支えるために反重力が働いている。これらは契約者が搭乗していなければ完全には働かない。地球人とパラミタ人の二人がいないとな」
 イコンの基本構造をざっと博士が説明する。
「私の持っているデータを見れば、イコンの基礎はすぐに身に付けられるだろう。実際の開発は……もう少しプロジェクトが進んでからだな。午後からは会議もある。
 まあ、今後ともよろしく頼む」
 握手をかわし、面会終了となった。

* * *


「なんとかジェイダス校長から紹介状ももらえた……ここだよな」
 柚木 瀬伊(ゆのき・せい)は受付で申請書と紹介状を提示し、手続きを済ませる。
「これほど強く願ったのはいつ以来か……」
 そして、博士の元へ通される。
「初めまして。薔薇の学舎所属、柚木 瀬伊という。それから、貴瀬と郁だ」
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)柚木 郁(ゆのき・いく)も、一礼する。
「このような時期に申し訳ない。博士が魔法を物理エネルギーに変換する実験に成功したとの噂を聞いたので、いても経ってもいられず会いに来た。俺自身も最近はそれをテーマに研究しているのだが、行き詰ってしまっていて……。公開出来る範囲で構わない、ざっと話を聞かせてもらえないだろうか」
「先ほど、ちょうど魔法に精通している者からも話を聞いたところだ。エネルギーコンバーターに関しては、実に単純だ」
 机の上に置かれたのは、論文だった。
「魔術の基礎理論か」
 なるほど、これを用いてエネルギーコンバーターを造ったのか。
「使われている技術はな。『魔法も科学も、突き詰めてしまえば、本質的には同一』というのは、昔『二十世紀最後の天才』と謳われた科学者が言っていたことだ。その論文はその男によるものだよ」
 瀬伊はそれに目を通す。
「私は、魔法のことは全くといっていいほど分からない。単に、魔法と科学を全く切り離して考えているから行き詰ってしまったのだろう」
 博士が瀬伊の実験結果をまとめた資料を見ながら、続ける。
「やはりな。本質的には同じであるならば、一度『エネルギーが発生した状態』に戻せばいい。そこからコンバーターを介して出力出来るものに作りかえる。ただ、こういったプロセスであるため純粋な変換ではない上、コンバーターの消耗が激しいのだがな」
 全く別のものに置き換えるわけではない、と博士が説明する。
 そのとき、ふらっと瀬伊がよろける。
「瀬伊おにいちゃん、大丈夫っ? 貴瀬おにいちゃん、ぎゅーてしてあげないと」
 貴瀬と郁が彼に寄る。
「これが安定した動作を確立出来るなら、イコンの武器の可能性がもっと広がるかもしれない。そう考えると、つい寝食を忘れて研究に打ち込んでしまってな」
 倒れそうになりながらも、博士となんとか顔を合わせる。
「博士、頼みがある。どんな厳しいことでも、絶対にやり遂げてみせる。だから、どうか……博士の研究の手伝いをさせてもらえないだろうか」
「ホワイトスノー博士、お願い、瀬伊おにいちゃんにお手伝いさせてあげてほしいのっ。だって、おにいちゃん、このままだと一人でたおれちゃうんだもの。おねがいします」
 郁も隣で頭を下げる。
「ならば、第二世代機開発プロジェクトに参加することだ。研究専門の助手は受け付けてはいない。今いる二人は天御柱学院の生徒で整備科、ちょうど今日からプロジェクトにあたって入所した教導団員は警備兼務。ましてタシガンの薔薇の学舎に通いながら、毎日ここに来るには無理があるだろう?」
「それは……」
「私は甘くはない。それに、私の専門はあくまでロボット工学だということを忘れないでもらいたい。魔法を物理エネルギーに変換する術、というのは本分ではない。学びたいというのであれば、その意志を行動で示せ」
 そう簡単にはいかない、ということだ。