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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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・情報管理部


「ひとまずは、こんなところでしょうか」
 PASD情報管理部長ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、黒崎 天音(くろさき・あまね)樹月 刀真(きづき・とうま)から得た情報をまとめていた。
 提供者の二人にはプラント争奪戦以降の表の流れの他に、PASDのデータベースから非公開にしている『※裏の流れ』も送っている。
「なかなか扱いに気をつけなければいけない情報だね、それは」
アレン・マックスが指すのは天音からの天住という男とメアリー・フリージアが海京で会っていたという事実と、パラミタ内海でローゼンクロイツから聞いた話の内容だ。
「十人評議会は確かに実在している。ローゼンクロイツという男の言葉通りなら、総帥はノヴァ。あの巨大イコンに乗っていたエドワードっていう貴族もその一員だろうね。あとはカミロ・ベックマンやヴィクター・ウェストもメンバーか近い立場の人間。メアリー・フリージアに関しては彼女よりも、天住の方が疑う余地がありそうだ。何と言っても、『海京にいるはずのない人物』だからね」
 他に、マヌエル枢機卿も評議会に絡んでいる可能性がある。そして正体が掴めない海京のハッカー。
「経歴が分かっているのは?」
「メアリー、エドワード、マヌエルの三人だよ。エドワードはロンドンの社交界では名の知れた存在だったらしい。ヴィクター・ウェストに関しては、五年前に消息を絶っていた。その間、非合法な研究を進めていたってところかな」
 天住とマヌエルに関しても、アレンは調べを進めていた。そちらは「別件」の依頼によるものだという話だ。
「ほんと、こうまで『予想通り』の展開になってしまうとはね。評議会の連中は、表に立っている人間から一歩引いた位置で、状況を操っているんだろう。枢機卿は非常にグレーなラインなんだよね」
 マヌエルはヴァチカンのトップではない。しかし、聖戦宣言を行ったりと目立ってしまっている。それが、彼が評議会の一員か単なる傀儡かの判別を難しくしている。
「あとは、天住 樫真ですか」
 理事会――あるいは役員会と呼ばれる学院上層部の一員に「別の名前」で潜んでいる可能性はある。
 表向き、天住は未だに植物状態で入院しているとされているからだ。
「アレンさんの調査結果も含めますと、かなり怪しいですね」
 そこでロザリンドは博士と調律者の元へ行き、確認を取ることにした。タブレット型の端末に情報を入れて偏光フィルムを張り、盗み見られないようにする。
「戻ってくるまでの間、ハッカーの特定作業は続けるよ」

* * *


 極東新大陸研究所海京分所。
「ヴィクター・ウェストについて、という話だったな」
 ホワイトスノー博士に、ヴィクターのことを尋ねる。
「昔は、ただ父親を越えるために躍起になっていた若者だった。私のこともライバル視していたな。野心的な面もあったが、決して一線を越えるような男ではなかった」
 父親の死が、彼を変えてしまったのだろうと博士が推測した。
「それと、糸術のことか。それ自体は、元々『マスター・オブ・パペッツ』が戦闘への最適化を図って編み出したものだ」
「まあ、わたしであって、わたしでない存在なのだけれどね。『マスター・オブ・パペッツ』というのは」
 と、調律者が言う。
「それでも、わたし自身に染み付いていたからこそ、ジールの身体を操ってその技術を身に付けさせることが出来たのよ。ジールが機械の身体じゃなかったらこうはいかなかったわ」
 そうはいっても、やはり博士の身体でさえ十分程度しか使えないほど、負担が大きい技術らしい。
 口でそのような話をしながら、ロザリンドはタブレット端末をスクロールしながら渡す。天住について博士達に心当たりがないか確かめるために。
(どこから監視されているか分かりません。この件は極秘扱いでお願いします)
 端末に文字を打ち込みながら、話し合いを進めていく。
(風間の前任者か。ならば、三年前にロシアの本部を訪れているはずだ。提携をもちかけられたのが、その年だからな。強化人間関係ということなら、ドクトルが何か知っているかもしれん。もちろん、風間もな)
 ただ、今日面会するのは厳しいらしい。
「力になれなくて、申し訳ない」
 過去に天住と繋がりのある人物を辿らなければ、この海京にいるはずのない男の正体を掴むのは難しいようだ。
 次は二人に面会の手続きを取って、話を聞く必要がある。
「いえ、こちらこそすいません。ありがとうございました」
 
 そして、帰り際。
 専用通信でアレンから端末にメールが送られてきた。
『ハッカーの正体が分かった。どうして相手が特定出来ないかの理由も』
 そこには驚くべき事実が記されていた。
『ハッカーは海京の街そのものだ。いや、正確には海京のメインサーバーに、そういうプログラムが組み込まれていると言った方がいいかな。ある一定のキーワードに反応して、それを入力したコンピューターを自動的に攻撃する。そして吸い出したデータは広大なネットワークの海へと流されていく。空京のデータ通信も海京を経由しているから、その範囲内だ。
 やられたよ。まさか、このメガフロートの設計段階から掌握されているとはね。でも、それが出来るってことは、学院上層部にいて、なおかつ日本政府と深い繋がりがある人物ということになる』
 それだけじゃない、と文章は続いた。
『ただ一ヶ所、極東新大陸研究所海京分所だけはそこから切り離されている。海京のネットワークに頼らず、独自の閉鎖的なサーバーネットワークを構築しているんだよ』
 アレンによる解析結果が表示されていた。
『研究所の職員がそれを見抜いて独自にサーバーを用意したとは考えにくい。機密の流出を防ぐという意味でサーバーを切り離すように指示したんだとは思うけど、それを容認したってことは――その気になれば研究所からデータを持ち出せる立場にあるってことじゃないかな』
 ロザリンドは考える。
 研究所、学院双方に顔が利く人間はそう多くない。
 まして、その中で然るべき立場にいる者となれば――
 


※Entracte 〜それぞれの日常〜24ページ目を参照