リアクション
* * * 極東新大陸研究所海京分所。 「ヴィクター・ウェストについて、という話だったな」 ホワイトスノー博士に、ヴィクターのことを尋ねる。 「昔は、ただ父親を越えるために躍起になっていた若者だった。私のこともライバル視していたな。野心的な面もあったが、決して一線を越えるような男ではなかった」 父親の死が、彼を変えてしまったのだろうと博士が推測した。 「それと、糸術のことか。それ自体は、元々『マスター・オブ・パペッツ』が戦闘への最適化を図って編み出したものだ」 「まあ、わたしであって、わたしでない存在なのだけれどね。『マスター・オブ・パペッツ』というのは」 と、調律者が言う。 「それでも、わたし自身に染み付いていたからこそ、ジールの身体を操ってその技術を身に付けさせることが出来たのよ。ジールが機械の身体じゃなかったらこうはいかなかったわ」 そうはいっても、やはり博士の身体でさえ十分程度しか使えないほど、負担が大きい技術らしい。 口でそのような話をしながら、ロザリンドはタブレット端末をスクロールしながら渡す。天住について博士達に心当たりがないか確かめるために。 (どこから監視されているか分かりません。この件は極秘扱いでお願いします) 端末に文字を打ち込みながら、話し合いを進めていく。 (風間の前任者か。ならば、三年前にロシアの本部を訪れているはずだ。提携をもちかけられたのが、その年だからな。強化人間関係ということなら、ドクトルが何か知っているかもしれん。もちろん、風間もな) ただ、今日面会するのは厳しいらしい。 「力になれなくて、申し訳ない」 過去に天住と繋がりのある人物を辿らなければ、この海京にいるはずのない男の正体を掴むのは難しいようだ。 次は二人に面会の手続きを取って、話を聞く必要がある。 「いえ、こちらこそすいません。ありがとうございました」 そして、帰り際。 専用通信でアレンから端末にメールが送られてきた。 『ハッカーの正体が分かった。どうして相手が特定出来ないかの理由も』 そこには驚くべき事実が記されていた。 『ハッカーは海京の街そのものだ。いや、正確には海京のメインサーバーに、そういうプログラムが組み込まれていると言った方がいいかな。ある一定のキーワードに反応して、それを入力したコンピューターを自動的に攻撃する。そして吸い出したデータは広大なネットワークの海へと流されていく。空京のデータ通信も海京を経由しているから、その範囲内だ。 やられたよ。まさか、このメガフロートの設計段階から掌握されているとはね。でも、それが出来るってことは、学院上層部にいて、なおかつ日本政府と深い繋がりがある人物ということになる』 それだけじゃない、と文章は続いた。 『ただ一ヶ所、極東新大陸研究所海京分所だけはそこから切り離されている。海京のネットワークに頼らず、独自の閉鎖的なサーバーネットワークを構築しているんだよ』 アレンによる解析結果が表示されていた。 『研究所の職員がそれを見抜いて独自にサーバーを用意したとは考えにくい。機密の流出を防ぐという意味でサーバーを切り離すように指示したんだとは思うけど、それを容認したってことは――その気になれば研究所からデータを持ち出せる立場にあるってことじゃないかな』 ロザリンドは考える。 研究所、学院双方に顔が利く人間はそう多くない。 まして、その中で然るべき立場にいる者となれば―― ※Entracte 〜それぞれの日常〜24ページ目を参照 |
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