校長室
話をしましょう
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「こうして話をするのは、久しぶりだな」 「はい。よろしくお願いいたします、優子副団長」 優子を前に、そう敬礼をしたのは神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)。白百合団員だ。 「よろしく。それじゃ、まずは、将来の夢から聞かせてくれるか?」 「はい」 有栖は腰かけて、考えを巡らせていく。 「……私は……私も、卒業しても、ヴァイシャリーに籍を置きたいと思っています。私もまだまだ世間知らずで到底未熟者です。立派に自立できるようになるまで、地球には帰還しないつもりです……。副団長は進学を希望されているのですよね?」 「うん、まあそうだな」 優子の返答に、有栖は軽く視線を落として考え込んで。 それからこう言う。 「わがまま、でしょうけれど。私は、副団長には此処にいて欲しいです……白百合団、ロイヤルガードとして、まだまだ副団長には教わりたい事が沢山ありますから……」 「私も、百合園を離れることには抵抗がある。キミや後輩達も心配だし……。百合園を離れたら、何かあった際に、今以上に直ぐに駆けつけることは出来なくなってしまう。……だけど、ここに自分はいない方がいいんじゃないかと、思う時もある。キミ達の成長をかえって妨げてはいないだろうか、とも」 「そんなことないです。絶対、ないです……」 有栖の言葉に、弱い笑みを浮かべて優子は頷いて、次の質問に移る。 「パラミタでの生活で、困っていることや気になっていることはあるか?」 「気になる、事なら……」 僅かに不安そうな表情で、有栖は優子に目を向けた。 「自分は白百合団員として、ロイヤルガードとして、その責任を果たせているのか、という事でしょうか。ロイヤルガードに推薦していただき、任命という、身に余る抜擢をして頂いたのですけれど、副団長から見て、私は……その、副団長や皆さんの期待に応えられているでしょうか?」 「評価は自分でつけていいんだよ、神楽坂有栖」 穏やかに優子は有栖に語りかけていく。 「自分で納得が出来る活動が出来るかどうかを、大切にしてほしい。つまり、キミがこんなことを私に聞くのは、自分で納得が出来る活動が出来ていないからじゃないだろうか? 立候補時に、キミの心は聞かせてもらった。守護の心も能力もキミは十分持っている。それをどう活かすかはキミ次第だ」 「はい……。あとは……」 有栖は真剣な瞳で優子に尋ねていく。 「今後私も、特殊班員になれるのか、という事でしょうか……パートナーは『ロイヤルガードにもなられたのですから、これ以上危険に身を投じようとなさるのはおやめください!』って心配してくれるんですけれど、やっぱり、学院の……百合園内でも、もっと皆さんや学院の為のお力になっていきたいですから……」 「ロイヤルガードの仕事と両立は大変かとは思うけれど、両立できるというのなら、キミにはなってもらっても構わないと私は思う。キミの頑張りは良く知っているし、個人的に応援もしたい。次の団の仕事あたりで、白百合団員として相応しい活動が出来たのなら、私の方から推薦させてもらうよ」 有栖は気を引き締めて、強く頷く。 「はい。頑張ります……。出来る限りのことを、したいんです。守るために」 「ん。だが、あまり無茶をしないようにな。キミのパートナーもひどく心配するだろうし、キミを守りたい人の心を守れなくなっては、元も子もないのだから。パートナーとも話し合って、決めてほしい」 「……ご無理、は、副団長こそされているかと。そういう意味でも、百合園からお離れにならない方がいいのでは……いえ、出過ぎた発言、すみません……っ」 有栖はぺこりと頭を下げた。 「ありがとう。キミ達がこうして教えてくれることは非常に多い。私もロイヤルガード隊長として、白百合団副団長として、学生、として。日々学ばせてもらっている」 「はい。それでは……パーティに戻ります」 そう微笑む有栖は、百合園のとても可愛らしい乙女だった。 廊下に置いてきた鞄の中には、手作りのサーク・サレが入っている。 友人達や、来賓に食べてもらうために作ってきたものだ。 最後に、直立してまた敬礼をして。 「ありがとうございました」 と礼を言う。 「お疲れ様、有栖」 優子の微笑に笑顔を返して。 有栖は一足先に、パーティ会場へと戻っていった。