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リアクション
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「地図によると、このあたりが火元のようですね。時間を考えると、このへんまではすでに火が広がっているでしょうか」
大型飛空艇シグルドリーヴァのキャビンでイルミンスールの森の地図を広げた風森 望(かぜもり・のぞみ)が、予想される地点を赤鉛筆で書き込みながら説明した。
「じゃあ、レンさんがいる場所は大丈夫なんですね」
ちょっとほっとしたように、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が言った。
現在、レン・オズワルド(れん・おずわるど)はザナドゥにでかけていて不在だ。このまま火災が消えなければ、火はやがてザナドゥにおかされた地域までも達するかもしれない。それはそれで、一つの攻撃となるからよしとする者もなかにはいるだろうが、それはイルミンスールの森の大半を焦土と化した後のこととなる。そんなことをして誰が得をするものか。
大半の艤装を外したシグルドリーヴァには、代わりに消火用の水のタンクや、消火隊を希望した者たちが乗り合わせていた。
「その地図通りだとすれば、このあたりに防火帯を作れば延焼は止められますな」
同乗させてもらった魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、地図上をスーと指でなでて言った。
「さすがに、範囲が広すぎるわよ。防火帯を作るにしろ、消火剤を撒くにしろ、人手も薬も水も足りなすぎる」
自分たちだけの力では無理だと風森望が困った顔になった。
「なあに、そのためのイコンですよ。すでに、私たちのアイゼンティーゲルも別動で現地にむかっています。そこで、迎え火の計を行うつもりです」
「何をするの?」
ノア・セイブレムが、魯粛子敬に訊ねた。
「ある程度の防火帯を作ったら、こちらからわざと火を放って無作為な炎に焼かれる前に、燃える物をなくしてしまうのです」
パタパタと扇で顔を扇ぎながら、魯粛子敬が答えた。
「それはどうかしら。草原であればそれも有効かもしれないけれど、上昇気流で火の粉があがるし、風を制御できなければ逆効果にもなりかねないわよ。おそらく、すでに燃えている方が空気が暖かいから、風はどうしてもこちらが風下になると思うわ。それに、避難してくる人たちが完全にいないことを確認しないと、挟み撃ちになった人は確実に焼け死んでしまうわよ」
ここは見通しがよく、燃料となるのは草だけの平原ではないと、風森望が反対した。草原であればその策は確かに有効だが、森では条件が違いすぎる。
「ううむ、火を押し返すに有効なのですが。やるとなれば、他の人々とも連動しなければいけませんし。現地の環境を確認して臨機応変に対応するのが得策のようですね」
「とりあえず、防火帯は有効なんだろ。少なくとも、トマスたちにはまずそちらに徹しろと連絡入れようぜ。あっ、後、その地図の写真もくれ」
そう言うと、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が、地図を携帯で写真に撮って、イコンに乗っているトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)とミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)に送った。
「ただいま本船は最大船速で進んでいます。すぐに現場に到着しますわ。皆様、準備を怠りなく!」
大型飛空艇を操舵しながら、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が、乗っている者たちに告げた。
『そろそろ着くようですよ、準備は怠りなく』
現場までの移動に同乗させてもらった笹野 朔夜(ささの・さくや)が、テレパシーで笹野 桜(ささの・さくら)に告げた。
火事が起きたと聞いたとたん、犯人を捜したいと笹野桜からコンタクトを取ってきたので、いつものように身体を明け渡したというところだ。
「準備ならできています」
握り拳をグッと突き出しながら、笹野朔夜(笹野桜)が言った。
「いろいろと、やる気まんまんだな」
「もちろんです」
呆れているのか感心しているのか、淡々と言う笹野 冬月(ささの・ふゆつき)に、笹野朔夜(笹野桜)が真顔で答えた。
「火のないところに煙は立たない、火のないところに火事も起きない。いくらなんでも、イルミンスールの森でこれほど大規模な火災が起きるはずがありません。きっと誰かが人為的に起こしたに決まっています。そんな犯人さんには、グーパンチの一つや二つでは、まだプレゼントが足りないというものです」
きっぱりと、笹野朔夜(笹野桜)が言った。
『船にいる他の人の話では、森に住んでいる人とか、ゴチメイ隊とか言う森で行方不明になった人などもいるらしい。案外、誰かが魔法実験でも失敗して、火が出たんじゃないのか?』
「だとしても、責任は取ってもらいます」
再び三度、拳を握りしめて笹野朔夜(笹野桜)は言った。
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「イルミンスールの森で火事ですって?」
「ええ、傍受した通信では、そう言っていたよ」
大型飛空艇アイランド・イーリの操舵室で、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がリネン・エルフト(りねん・えるふと)に答えた。
あわただしくイコンなどが出発しているようで、オープンチャンネルの情報が混乱気味に飛び交っている。
「そういえば、以前あの森では大変な目に遭ったわよね。何か関係しているのかな。ゴチメイの者たちも、あれ以来仲間を捜して森に常駐していたって言うし……」
「それは、あまりよくないんだもん。もし巻き込まれていたら……。助けに行こうよ」
「賛成だぜ。仲間のために動いている奴らを見捨ててなんておけねえ」
心配するヘイリー・ウェイクに、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が賛成した。
「その通りよ。イーリ、回頭、進路、イルミンスールの森、北部へ」
「面舵一杯!」
船長であるヘイリー・ウェイクが、操舵輪を思い切り右へ回す。それに反応したアイランド・イーリが選手を茨ドームの方へむけた。
「全速前進」
「全速前進、よーそろー」
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「やれやれ、単に車として乗ってきていたんだが、こんな所で役にたつとはな」
安全地帯に駐めた21式装甲兵員輸送車の中で、パワードスーツカタフラクトを装着しながら三船 敬一(みふね・けいいち)がぼやいた。できれば、パワードスーツが活躍するような事態など起こらないのに越したことはなかったのだが。
「いいではないか。危急のときに何もできないよりかは万倍もよいであろう」
現代の鎧は、かつてのものとはあまりに違うと、その違いに戸惑い楽しみながらコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)が言った。
「そうですね。せっかくのパワードスーツですから、十二分にその性能を人々のために生かしましょう」
各部の稼働確認をしながら、白河 淋(しらかわ・りん)が同意した。
「そうだな。出るぞ」
パワードスーツのハッチを閉めると、三船敬一が輸送車のコンテナを開放した。壁の横一面が開き、綺麗にならんだ三台のパワードスーツが日の光を浴びる。リーダー機である三船敬一のパーソナルカラーはブルー、白河淋とコンスタンティヌス・ドラガセスのパーソナルカラーはシルバーグレイとなっている。
「持ってきた消火剤を忘れるな」
三船敬一が、コンテナの中に積み込んできた消火弾を手に取った。グレネード型の消火弾だ。これを炎に投げ込んで消火する。だが、あくまでも主目的は消火ではなく、逃げ遅れた人々の救助である。
イコンよりは小回りに優れ、生身よりも防御力に優れるパワードスーツであるからこそ、人に対して有効に対することができる。何も、戦いだけがパワードスーツの運用法ではないということだ。
「移動するぞ。隊列を崩すな。避難者を見つけた場合は、各個に対応しろ」
そう指示を出すと、三船敬一は火災現場に直行していった。