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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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遺跡へ

 
 
「そろそろ下火になったようだ。こちらも地上に降りて、残り火の始末にかかるぞ」
 陽炎を地上モードに変更させると、緋山政敏は後始末にかかった。これを軽視すると、森林火災はすぐに息を吹き返してしまう。
 同様に、綺雲菜織も残り火のパトロールを行っていた。その過程で、遺跡のドームを発見する。
「何、この建物は? いえ、建物なのであろうか……。美幸、そちらでは何か確認できないか?」
 火事直後ということもあり、とりたてて何も発見できず、綺雲菜織がサブパイロット席の有栖川美幸に訊ねた。
「とりたてては……あれっ?」
「どうした?」
「今、何か、小さな影が動いたような……。拡大してみます」
 録画記憶された画像を、有栖川美幸が再生してみた。綺雲菜織の方のコンソールモニタでも、それが確認できる。
「子供か、地祇のようにも見えるが。空を飛んでいるな。なんだこれは?」
「もう少し調べてみましょう」
「うむ。分かった」
 同意すると、綺雲菜織が不知火を遺跡近くへと寄せていった。
「あれは……。そうか、そういうことか」
 顕わになった遺跡を上空から見下ろして、新風燕馬が言った。
「どうしたのです。何か分かったのですか」
 怪訝そうにサツキ・シャルフリヒターが訊ねた。
「だから、あの女のことだよ。近づくな……、つまり何に? これはもう、今、下にある物しかないじゃないか」
 ずっと謎に思っていた霧の日に出会った女。その答えが、今現れたのかもしれない。
「確かにそうですね。でも、そうすると、問題は……」
「その警告に従うかどうかだが……。どのみち、聞く耳持たない奴らは多そうだな。俺たちも下に降りるぞ」
 一応同意するサツキ・シャルフリヒターの言葉を、新風燕馬が続けた。眼下には、遺跡と聞けば中に入らずにはいられないような者たちが群れ始めている。これはもう止めるのは不可能だ。だとしたら、答えを聞こうではないか。
 意を決すると、新風燕馬はライゼンデ・コメートを下降させた。
 
    ★    ★    ★
 
「よし、だいたい防火帯は作れたな」
 緋山政敏らの情報を聞きつつ、大きく回り込む形で防火帯を作っていった瓜生コウが、ほっと一息ついた。
 ドンナーシュラークは、疲れをみせずによく働いてくれた。火に対しては背負った消火剤を撒き、その巨大なくわがたの牙で、大木をいとも簡単に切り倒して効率的に防火帯を作っていった。
「これは、誰かが作った防火帯か!? それにしては……まるで砲撃の跡のようだが」
 ミキストリの砲撃の跡を見つけて、瓜生コウが訝しんだ。
「この先には、オベリスクがあると聞いたことがあるが。行ってみるか」
 ドンナーシュラークに翼を広げさせると、瓜生コウはオベリスクへとむかった。
 だが、そこはすでに廃墟となっていたのだ。
「誰か来たな」
 源鉄心が、瓜生コウを見つけて、ソア・ウェンボリスたちに注意をうながした。
 だが、やってきたのが、イルミンスール魔法学校から派遣された消火隊だと分かると、ほっと緊張を解いた。すでに、人は大きく動きだしている。
「ここで何があったんだ」
 訊ねる瓜生コウに、悠久ノカナタが分かる範囲のことを説明した。
「この火事は、その謎のイコン部隊のせいだって言うのか」
「それよりも、火事は大丈夫なのか?」
 緋桜ケイが、現状を訊ねた。ここからでも炎が遠目に確認できたが、今ひとつ状況がつかめていなかったのだ。
「だいたい下火になったようだ。これ以上は延焼もしないだろう。もっとも、そのイコン部隊が、また火をつけなければの話だがな」
 説明した後、瓜生コウは情報を発信していた緋山政敏と情報のやりとりをした。それによって、焼け跡中央部に遺跡が出現したと言うことを知る。
「それだぜ、奴らの目的は」
 やりやがったなと、雪国ベアが唸る。
「だめです。それに入っちゃ。私たちがずっと守ってきたのに……」
 泣きだしそうな顔で、マスターの入った魔石を強く握りしめたメイちゃんが言った。
「今さら、遺跡に入るのを止めるのは難しいんじゃないか。すでに入り込んだ者もいそうだし……。それより、みんなにもっと情報を伝えないと。詳しい話を聞かせてくれ」
 瓜生コウが、メイちゃんたちに訊ねた。
 
    ★    ★    ★
 
「ここが火元のようよ。まさか、こんな物が隠されていたとは。もしかして、これを手に入れるために火事が起こされたのかしら」
 サルヴィン川から汲んできた水を散布しつつ火事の中央部を目指してきたアイランド・イーリが、燃えさかる茨ドームへと近づいていった。
 すでに登頂部は燃えて崩落し、外周の壁も、今まさに焼け落ちようとしているところだった。燃焼によって、茨ドームの内側から上昇気流が発生して、反り返った茨ドームの外周部を、めくるような感じで外側に崩壊させようとしていた。
「あれを。周囲に、まだ人が!」
 外をチェックしていたフェイミィ・オルトリンデが叫んだ。見れば、まさに焼け落ちようとしている茨の壁の手前に人の姿がある。どうやら魔法少女のようだ。
「今からじゃ間にあわない……。それ以前に、あの崩壊する壁をどうすることもではないわ」
 だが、そのまま茨ドームの茨が崩落したら炎の塊が広範囲に飛び散り、また火事が広がるかもしれない。
「ううん、まだ手はあるんだもん!」
 ヘイリー・ウェイクが、アイランド・イーリを加速させた。この大型飛行船をまともに崩壊しかけている茨ドームの外壁にぶつけて、そのまま中へと押し込もうというのである。
「大丈夫なの?」
 色々な意味で、リネン・エルフトがヘイリー・ウェイクに聞いた。
「大丈夫なんだもん。ああ、でも、やっぱりこの名前はやめておいた方がよかったかしら。とにかく何かにつかまって。行くよお!」
 ヘイリー・ウェイクが、燃える茨の壁へ突っ込んでいった。
「全員、対ショック防御!」
 リネン・エルフトが叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
『見つけた。葵、大丈夫か?』
 やっと秋月葵を見つけたフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、Night−gauntsの中から声をかけた。
 どうやら、巨大な燃える茨の壁が広範囲にわたって崩落したらしい。周囲は、炎の海だ。それをかき分けるようにして、Night−gauntsが秋月葵を寄せてくる炎から守った。
 そこへ、炎の海をかき分けるようにして突破してきた三機のパワードスーツの姿が現れた。三船敬一たちのカタフラクトだ。
「さすがだな。この炎の中でも充分活動できるぜ」
「過信は禁物であるぞ。決してこの鎧が熱せられていないわけではない」
 パワードスーツの耐火性能に感心する三船敬一に、コンスタンティヌス・ドラガセスが釘を刺した。残り少なくなっている消火剤を撒いて、秋月葵の周囲の火を消す。
「大丈夫ですか?」
 逸早く秋月葵に駆け寄った白河淋が、パワードスーツのハッチを開いて素顔をのぞかせた。煤で顔が真っ黒になっている秋月葵に、ヒールを施す。
「ここはいったん下がりましょう」
「う、うん、でも、あの飛空艇が……」
 倒れたまま、秋月葵が答えた。少し離れた所では、燃えて崩れかけた茨の壁に突っ込むようにして大型飛空艇アイランド・イーリが墜落している。
「早く、火を消さないと……」
『任せておけ』
 持っていたコンテナの水を大型飛空艇にぶちまけると、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』がデスサイズで覆い被さっていた茨の燃えかすを切り払った。
 
    ★    ★    ★
 
「茨が燃え落ちている……。遅かったの!?」
 崩れ落ちて炎の土手状態になっている茨ドームを見て、多比良幽那が愕然とした。
「まだであろう。この炎を消さなければ、もっと多くの草木が灰となってしまうのだぞ」
 しっかりしろと、アッシュ・フラクシナスが言った。
「ええ。ロサ=アテール、消火剤を!」
 多比良幽那の命令を受けて、龍樹【ロサ=アテール】が、運んできた消火剤を三船敬一たちのそばに下ろした。
「ありがたい、使わせてもらうぞ」
 さっそく、三船敬一が、消火剤の補給をして周囲の消火を始める。
 地上に降りたアルラウネたちが秋月葵たちと合流するが、どちらかというと炎から守らなければならない要員が増えてしまっただけのような気もする。だが、身軽になった龍樹【ロサ=アテール】は、氷獣双角刀を使ってアイランド・イーリの周囲の炎を薙ぎ払い始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「次はどこなんだもん?」
 次に消火剤を運ぶ場所を、小鳥遊美羽がベアトリーチェ・アイブリンガーに訊ねた。
「火災の中央部付近で、大型飛空艇が炎につつまれているそうです」
「大変、すぐ行くんだもん!」
「急ぎましょう」
 小鳥遊美羽が、グラディウスを指定された地点にむけて急がせた。
 報せの通りに、アイランド・イーリが崩れた茨ドームの外壁の一部を押し返すように、炎の中に突っ込んでいた。
 すでに、他のイコンも消火にあたっており、飛空艇自体の損傷の方は問題ない程度ですみそうだ。
 小鳥遊美羽も消火剤を散布して、アイランド・イーリの周囲の火を消して回った。ほどなく、完全に燃え落ちた茨ドームも鎮火する。
 そして、あらためて、小鳥遊美羽たちは異様な物を目の当たりにしていた。
「これは、何?」
「遺跡のようですが、異質ですね」
 ベアトリーチェ・アイブリンガーも、小鳥遊美羽にどう答えていいか分からないようであった。
「これが、火事を起こした犯人の目的地とか、本拠地だったりしたら……。調べてみようよ」
 小鳥遊美羽はグラディウスを、遺跡の外周に沿って飛ばしてみた。途中で放棄されたセンチネルが一機あった以外は、それらしい者たちの姿はない。
「いったい、これはなんなのかしら」
 小鳥遊美羽は困惑しながら、ドーム状の巨大な遺跡を見下ろした。