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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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茨ドームの眠り姫

 
 
「けんちゃんがいるとしたら、ここの真ん中だよ」
 遺跡に着くと、メイちゃんたちが率先して案内役を買って出てくれた。過去に、一度だけ中に入ったことがあったらしい。
「なになに、遺跡の中にいる放火犯の親玉をぶっ飛ばしに行くの? 確か、中にそいつらがいるって分かってるんだよね。だったら、私も行くよ。一発入れなきゃ気が済まないもの」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)がちょっと目的を勘違いしつつも、緋桜ケイたちにくっついて遺跡の中へと入っていった。
 すでに中に入った者たちは思い思いに奥へと進んでいたが、迷路状の内部で、まだ入り口近くをグルグルと回っている者もいた。
「いやあ、コントロールルームを探す術を模索していたところで、本当に助かったのだよ」
 内部がむきだしになっていた壁を調べていたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が緋桜ケイたちと合流した。
「ねえねえ、これって魔力の通り道みたいだけど。こんなのが壁中に走っているのかなあ」
「多分そうだよ」
 ラブ・リトル(らぶ・りとる)に訊ねられて、メイちゃんが答えた。それを裏づけるかのように、だんだんと壁を走る魔法の光が頻繁になっていく。
「これが巨大な爆弾だとして、そんな物を何千年も機能するように維持できるものであろうか。この場所は、なぜか修理しかけのようにも見えるが、今日修理したのか、何千年も前に修理しようとして放置されたのかは分からぬしな」
 中央コントロールシステムを目指すと聞いて、それ以上調べることを放棄したコア・ハーティオンではあったが、疑問はつきない。
「んーっと、確かちっちゃい子が、修理していたはず。邪魔すると、むかってくるから怖いんだよ」
 少し昔のことを思い出したように、コンちゃんが言う。
「敵対するような者が現れた場合は、私が排除しよう。今は、急ぐことが肝要だ」
 飛竜の槍をさりげなくも油断なく携えた馬 超(ば・ちょう)が、一行の先頭を歩くメイちゃんたちにならんで周囲に注意を向けた。
 
    ★    ★    ★
 
「あれは幻影ではないのか?」
 少女を追う緋山政敏とカチェア・ニムロッドと出会った新風 燕馬(にいかぜ・えんま)サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)が、共同で後を追いかけながら言った。
「そうだろうが、重要な手がかりだ。彼女の行く先に何かしらの手がかりがあるだろう」
「同感だ」
 緋山政敏の言葉に、新風燕馬がうなずいた。
「この先、多分、右に曲がります」
 サツキ・シャルフリヒターが、少女の次の行動を予測して指示した。
「いったん、出口方向に行くつもりかしら」
 カチェア・ニムロッドが、マップデータと照らし合わせて言った。傭兵部隊の横流しされたデータと合わせて、おおよそ半分という、すでにかなりの部分が踏破されている。基本は同じ高さにあるフロアで、上下にあるだろう別のフロアはほとんど探査されてはいないが、外部からの分析と内部からの分析を照らし合わせて、ほぼ遺跡はやや縦に潰れた球体であることが分かっている。
「早く、ここから出て行きなさい」
 少女が立ち止まって誰かに警告した。ちょうど、中心部を目指して進んでいる緋桜ケイたちの一団と遭遇したらしい。
「誰か、背後に隠れているな。敵でなければ姿を現せ」
 緋山政敏たちの気配を察した馬超が、槍の穂先をむけて言った。
「待った、敵じゃない」
 新風燕馬が、姿を現して彼らと合流した。
「お久しぶりです」
 少女の姿を見たメイちゃんたち三人が、ひざまづいて頭を垂れた。
「知り合いなのか。まさか、この人がけんちゃん、いや、四人目のマスターなのか?」
 源鉄心の疑問に、メイちゃんが軽くうなずいた。
 だが、メイちゃんたちの姿を見ても、少女の態度には変化がなかった。
「早くここから出て行きなさい」
 ただ、そう繰り返すだけである。
「やっぱり、足りないんだよ」
「うん、足りないんだ。ランちゃん、早く」
「分かったよ」
 何やら相談すると、ランちゃんがオベリスクから持ってきた小瓶の蓋を開いた。中からほのかに白い物、アストラルミストがたちのぼる。それは、幻影である少女の身体に吸い込まれていった。
「お久しぶりです」
「ええ、何年ぶりでしょう」
 メイちゃんたちの挨拶に、今度は少女が流暢に返した。
「どうなっているんだ、今までとは違ったような気がするが」
 ずっと姿を隠して少女を観察していた新風燕馬がちょっと驚く。
「前に、森でマスターを見かけたの。でも、凄くぼんやりしてて。私たちのマスターが霧で形だけ甦ったのとそっくりだったの。だって、私たちのマスターも、ケンくんのマスターも、ずっと石の中で眠り続けている眠り姫なんだもの。だから、この姿はマスターたちの見ている夢なんだろうって思ったの。多分、だから同じことしか言えなかったんだと思う」
「それでね、あたしたちの思いを霧で伝えれば、もっとちゃんとした姿になれるんじゃないかと思ったんだ」
「うん、大成功」
 メイちゃんたち三人が喜び合う。
「でも、それだったら、森がすっぽりと霧につつまれていたときに、もっとはっきりした形で復活していてもよかったんじゃないの」
 ちょっとおかしくないと、ソア・ウェンボリスが言った。
「今なら、それは私が説明できるでしょう」
 ゆらゆらと輪郭をゆらめかせながら、少女が答えた。その状態は、まるでアラザルク・ミトゥナの幻影とよく似ている。
「霧から生まれたばかりの私や、私たちは、かなり意識が薄い存在でした。ですから、一つこと、オベリスクを守るとか、イコンに人を近づけさせないと言ったことしか再現できなかったのです。それで充分だったため、できあがった霧の分身はそれ以上霧を集めて姿を確固たるものとしようとは思いませんでしたし、依代である魔石近くでなくてはそれも叶わなかったのです。メイちゃんたちがその姿になったのは、そうなりたいという強い思いを、依代の近くで強く思ったのでしょう?」
「うん、そうだよ。だって、みんなと同じ姿の方が、たくさん遊べると思ったんだもの」
 そう言うと、メイちゃんたちが、緋桜ケイや他のみんなたちをぐるりと見回した。以前の殴打事件でイルミンスール魔法学校近くまでやってきたことは、彼女たちにとって一つの転機だったに違いない。
「今も、私は彼女たちの強い思いを受けて、自分の意識に目覚めました。今は、この場所自体が私その物でもあるのです。その中で、より強い意志を私は持つことができました。ありがとう」
 そう言うと、少女はメイちゃんたちの頭を順繰りになでていった。その手は、また彼女たちの頭に触れることはできないとは言え、その心は彼女たちに触れる。
 どうも、アストラルミストは、その総量と記録容量が比例するようであった。ミストの総量が少ないと、完全な個体の身体を形成することもできないし、極端に少ないと単純なことを繰り返す幻にしかならないらしい。
 初期の少女の姿が一番少なくただの繰り返し人形で、アラザルク・ミトゥナの状態が不完全ながらも自我を保つ形となり、単純行動しかとらないサテライトセルや大量に霧を吸収したメイちゃんたちは、ちゃんとした肉体を手に入れたというのが正解なようだ。
「急ぎましょう。私自身の場所にむかっている者たちがいます。彼を私に触れさせてはいけません。それは、イコンの目覚めを意味しています。さあ、早く」
 そう言うと、少女は中央コントロールルーム目指した。