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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ちょっと、このイコン、なんなんだよー」
 ソピローテから逃げ回っていたラストホープであったが、なぜか逃げる先々に先回りされていた。ワープ移動できる玉霞の能力だ。
「無理。逃げるぞ!」
 ロックオンする度になぜか見失い、レーザーバルカンも弾幕にもならない。早々と、レヴィ・アガリアレプトが、サーシャ・ブランカに撤退を提案した。
「承認するよ、さっさと……うわっ!」
 逃げようとしたサーシャ・ブランカであったが、いきなり上方に現れたソピローテの苦無で垂直尾翼からベクターノズルにかけて大きく斬り裂かれ、あっけなく墜落していった。
「とっまれー!」
 飛行形態から歩行形態に変形して、スラスターと空気抵抗でなんとかブレーキをかける。
 接地したとたん、殺しきれなかった勢いで左脚が吹っ飛び、激しく回転しながらラストホープが地上をすべっていった。
「サーシャ! レヴィ! ちょっと、生きてる!?」
 あわてて伏見明子が墜落したラストホープに駆けつける。周囲に飛び散った破片からは、まだ薄く煙がたちのぼっている。
「ううーん……」
 キャノピーを強制排除すると、レヴィ・アガリアレプトがかろうじて手を動かして返事をした。
 伏見明子が、気絶しているサーシャ・ブランカの頬をペチペチして意識を回復させようとした。
 その眼前に、漆黒の闇が現れ、中から滲み出てくるようにしてソピローテが現れる。
 腕につけられたビームクローを展開して、ソピローテが迫る。
 振り上げられた腕が、ラストホープのコックピットめがけて振り下ろされた。
 その瞬間、別の黒い影が真横からソピローテに体当たりしてそのまま運んでいった。九つの青白い光跡が、スーッと空間に残って消えていった。
 突風に吹き飛ばされないように、伏見明子が必死にコックピットにしがみつく。
「この機体は……」
 アラバスターがソピローテをワープさせる。
 突然かかえていた敵を見失って、絶影が制動をかけて止まった。九つのバインダーの内、大型の四つがくるりとノズルを回転させて制動をかける。
『出てこい、リターンマッチだ!』
 紫月唯斗がアラバスターを挑発した。
『人まねはよくないな』
 近くに生えた大木の頂点に重力を無視したように立ちながら、腕を組んだソピローテが漆黒の鬣を風に靡かせた。
『対等と言ってもらおう』
 鬼苦無を構えた絶影が、ソピローテにむかってジャンプする。その刃が触れる直前、ソピローテの姿が消え、少し離れた場所の木に上に現れる。
『追いつけるかな』
 ヒュンヒュンと風の切る音をたてながら、ソピローテが木々の上を次々にワープしながら移動していく。
「俺にできるか……」
 同じ機体のはずだと、紫月唯斗が自分に言い聞かせた。
「エクス、座標を!」
「指示します」
 ソピローテを追うセンサーが、予測移動位置の候補をいくつか提示する。歴戦の立ち回りで、紫月唯斗が選んだ座標を目指した。その姿が空間に溶ける。
 黒髪を広げてワープアウトするソピローテのすぐ横に、絶影がワープアウトする。
「ほほう」
 直後に、ソピローテが再びワープして消えた。絶影が追いかける。激しく位置を入れ換えながら、二機の玉霞が切り結んでは離れ、離れては切り結んだ。
「いったい、どんな戦いをしているんだ?」
「ええと、分かんないんだもん」
 紫月睡蓮と共に少し離れた場所から戦いを見守っていた無限大吾と西表アリカが唖然とその戦いを見つめた。
「くっそー。やられっぱなしでいられるものですか……」
 ラストホープのFCSを調べて、なんとかスマートガンだけ発射可能にした伏見明子が、ソピローテを照準に収めようと努力していた。
「無理だよ。腕のアクチュエータがいかれて動かないんだよ」
 お手上げだと、意識を取り戻したサーシャ・ブランカが言った。
「あまり動くな」
 メディカルセットから包帯を取り出したレヴィ・アガリアレプトが、サーシャ・ブランカの頭に不器用に巻きつけながら言った。
「だったら、トリガーだけ頼むわ。狙いは、私がなんとかするから」
 そう言うと、下に降りた伏見明子が、金剛力で無理矢理スマートガンを持ちあげた。
 激しく位置を入れ替えながら高速で切り結ぶソピローテと絶影は、木立の間や梢の上、ミキストリと荒人の残骸の上など、めまぐるしく戦場を変えていく。
 突然ラストホープの直上に現れたソピローテが、絶影のスラスターの一本を蹴り折った。
「きゃっ」
 飛んできたスラスターが、ラストホープの上を通りすぎて大地に突き刺さる。吹っ飛ばされた土が、バラバラと伏見明子たちの上に降り注いだ。
 バランスを崩して尻餅をつく絶影に、ソピローテが苦無を持って突っ込む。間一髪、ソピローテの背後にワープした絶影が、補陀落山おろしを仕掛けた。
 ふいをつかれて投げ飛ばされたソピローテが、擱坐していたアペイリアーにぶつかる。すぐさま立ちあがって身構えるが、そのとき伏見明子がスマートガンをソピローテの方へとむけていた。
「撃て!!」
 伏見明子の声に合わせて、サーシャ・ブランカがトリガーを引く。伏見明子の担ぎあげた砲身が轟き、熱を上げて軽く肩を焼いた。
 発射された追尾弾が、ソピローテ……ではなく、アペイリアーに全弾命中した。ソピローテは、直前でワープしている。
「あれっ?」
 焼けるスマートガンの砲身を投げ捨てながら、なんか間違ったかと伏見明子が首をかしげた。被弾したアペイリアーの内部に火の手があがると、関係ないと言う感じでそっぽをむいた。
 絶影が、ソピローテのワープアウトポイントを読んで攻撃を仕掛けた。余裕で、ソピローテがワープで回避する。
 だが、そのワープアウトの場所は運が悪かった。
 アペイリアーの直上にワープアウトしたとたん、被弾炎上していたアペイリアーが誘爆した。
「ああ、アペイリアーが!!」
 木っ端微塵に爆散するアペイリアーを見て、無限大吾が叫んだ。爆風が、伏見明子や無限大吾たちの位置まで吹きつけてくる。
 ほとんど直撃を受けたソピローテが、バランスを崩した。その瞬間、黒い疾風がその横を通りすぎた。赤いマフラーが靡く。
 地面を削りながら勢いを止めて腰を沈めた絶影の背後で、ソピローテの左脚が切り落とされて地面で爆発した。
「まったく、こいつらは、はたして物を考えて戦っているのか?」
 片足を失ったソピローテを大地に身を伏せるようにさせながら、憎々しげにアラバスターがつぶやいた。イレギュラーだらけの戦いをする相手ばかりでは、まともに戦うのが馬鹿らしくなる。それとも、世界は本当にこのような者たちを望んでいたというのだろうか。
「いずれ分かる。淘汰は自然だ。滅びぬ者たちであるのならば、次の試しまで生き続けるだろう」
 これ以上は無用と判断したアラバスターは、霧隠れで絶影の攻撃をやり過ごすと、闇に身を沈めてその場から姿を消していった。