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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「みんな脱出しちゃったよ」
 まだ格納庫の中で、戦神アレスと共にミキストリと対峙していた荒人の中で、紫月睡蓮がエクス・シュペルティアに言った。
「そうではあるが。わらわたちは、唯斗を待つ」
「うん、そうだね」
 あえてミキストリへの本格的な攻撃は避けながら、エクス・シュペルティアたちは推移を見守った。今ならば、隊長機の破壊も可能に思えるが、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)からは秘匿回線で、待機するようにと連絡が入っていた。
 ドクター・ハデスたちの戦神アレスは、果敢にもミキストリに攻撃を仕掛けてはいるが、その分厚い装甲を破壊するまでには至っていない。
「邪魔である!」
 ドクター・ハデスが、擱坐して倒れていたイーグリットをつかむと、ミキストリの方へと投げ飛ばした。とは言っても、パワー的に床の上をすべらせたという方が正確ではあるが。
 バインダーソードでイーグリットを突き刺して止めると、ミキストリがそれを高く持ちあげた。ソードをバインダー内に収納すると同時に、機体を放り捨てる。そこへ、腰のスプレーミサイルポッドから数発のミサイルを浴びせかけた。吹き飛ばされたイーグリットが、何倍ものスピードで戦神アレスの方に飛んでいく。
 一連の動きを見ていたヘスティア・ウルカヌスが、高速起動でイコンを素早く避けた。外れたイーグリットは、床の上をすべっていきながら格納庫出口へとむかって行く。
「イコンに乗るのは嫌だけど、脱出するにはあれに乗るしか……。泣かないでね!」
 シルフィスティ・ロスヴァイセが、獣人の赤ちゃんをかかえたまま強化光翼を使ってイーグリットの上に飛び乗った。コックピットに入る暇などない。そのままサーフボードよろしく、イコンにしがみついて格納庫を脱出する。
 生身で戦闘中の外部へ飛び出していくよりは、少なくともイコンの機体が盾にはなるだろう。
 だが、無人でぼろぼろのイーグリットが飛べるはずもない。
 格納庫を飛び出した後は、まさに自由落下だった。
「まだ、離脱には早い……」
 しっかりと機体にしがみついたシルフィスティ・ロスヴァイセの視界に、ピルムムルスをこちらにむかって投げようとしているリーフェルハルニッシュの姿が映った。
「まずいわ!」
 急いで脱出しようとするが、ねんねこが破壊されたイーグリットの装甲の亀裂に引っ掛かった。一瞬動きが取れなくなる。
油断したかなあ……
 シルフィスティ・ロスヴァイセが獣人の赤ちゃんをだきしめたとき、ミサイルの直撃を受けてリーフェルハルニッシュが吹き飛んだ。
「大丈夫ですか? 今、回収します」
 上から覆い被さるように現れたベアトリーチェ・アイブリンガーのグラディウスが、空中でイーグリットをつかんで受けとめた。そのまま、安全な所まで運んでいく。
「助かったあ」
 シルフィスティ・ロスヴァイセは、ほっとして獣人の赤ちゃんをだきしめた。
 
    ★    ★    ★
 
「ヘスティア、機晶キャノンで敵センサーを潰すのだ」
「分かりました、ハデス博士」
 戦神アレスの肩に寝そべる形で一体化したヘスティア・ウルカヌスが、ミキストリのゴーグル型の頭部センサーを狙った。だが、くるりとバインダーが回転し、その攻撃に対応する。その隙を突くように、ドクター・ハデスがソードを突き入れようとした。だが、予測していたらしいミキストリが、手でその腕をつかんで動きを封じた。パワーでは、圧倒的にミキストリの方が上だ。すかさずもう片方の腕もつかむと、ミキストリが力業で戦神アレスの両腕をあげさせた。完全に、戦神アレスが無防備になる。
「それでは、そちらも攻撃できまい。ヘスティア、至近距離から……!?」
 外部装甲上に機晶姫が合体した戦神アレスのメリットを最大限生かした攻撃をドクター・ハデスが命じようとしたとき、戦神アレスの両腕が激しい衝撃と共に吹き飛んだ。ミキストリの胸筋部分に内装されたガトリングガンが、近距離で戦神アレスの両腕を吹き飛ばしたのだ。肩に乗っていたヘスティア・ウルカヌスも、腕ごと放り飛ばされる。
「ヘスティア!」
 コックピットハッチを開いて、ドクター・ハデスが飛び出した。手にした熱線銃でミキストリを狙う。戦神アレスの両腕を投げ捨てようとしていたミキストリの動きが一瞬遅れて熱線が頭部に命中するが、当然のことながらダメージは与えられない。だが、予想外の攻撃に、センサーがリミッターを超えて焼きついた。モニタの再起動に、若干のタイムラグが生じる。
 その間に、突き放された戦神アレスがあおむけに倒れ始めた。
「うおっ!?」
 コックピットから飛ばされて、ドクター・ハデスの身体がふわりと宙に投げ出された。そこを、下から飛んできたヘスティア・ウルカヌスが間一髪で受けとめた。そのまま、格納庫を脱出する。
「大丈夫であったか、ヘスティア」
「はい、ハデス博士。ぎりぎりのところでイコンとの接続が切れ、自我を取り戻しましたので。バックパックの緊急イジェクト機能を使って脱出しました」
 本来はバックパックを切り離して自身から遠くへ捨てる機能を逆に利用して、自らを射出して脱出に使ったらしい。
 機晶姫本来の飛行能力ではイコンとの戦闘など端から無理だと諦め、ヘスティア・ウルカヌスはドクター・ハデスをかかえたまま格納庫を脱出して地面に不時着した。
「虎の子の我がイコンが……。いや、待つのだ、部品ならたくさん落ちているではないか。はーっははははは!」
 最初は悔しがっていたドクター・ハデスではあったが、周囲に転がる破壊されたリーフェルハルニッシュの破片を見て、喜色の高笑いをあげるのだった。
 
    ★    ★    ★
 
「さすがに、このまま見逃してはくれぬか……」
 ミキストリと一対一で残される形になったエクス・シュペルティアが、荒人の剣の柄に手をかけた。だが、攻撃してくると思われたミキストリの姿が、スッとモニタの中から消えた。
「光学迷彩……」
「見逃してくれたの?」
 気を抜かずに周囲を索敵するエクス・シュペルティアに、紫月睡蓮が訊ねた。
「そうではないであろう。おそらくは、敵も、同じ命令を受け、主を待つことにしたのであろうな……」
 エクス・シュペルティアは、じっと紫月唯斗の帰りを待った。
「ちょっとお、イコンがまったくないじゃないの。あたしのイーグリットはどこぉ!?」
 そこへ戻ってきたリカイン・フェルマータが叫んだ。
 逸早く戻ってきたものの、すでに戦闘は一段落ついたところだ。もちろん、彼女のイーグリットは、すでに外に落ちて、ベアトリーチェ・アイブリンガーに回収されてしまっている。
「ここからどうやって、脱出しろって言うのよ。馬……」
 黒帝を見あげて、リカイン・フェルマータがつぶやいた。とりあえず、頭を下げてタクシーを頼むしかないのだろうか。
 だが、そのとき、格納庫の隅に見慣れた白い影を見つけた。
ディジー、無事だったの。よかった、おいでなさい」
 リカイン・フェルマータは、ペガサスを呼ぶとその背にまたがった。
「フィスの姿が見えないけれど、きっとさっさとイコンで逃げだしたのね。まったく、あれだけイコンなんて嫌いだと言っていたのに、やっぱり好きなんじゃない。お茶目さんねえ。今度、たっぷり乗せてあげるわよ。でも、その前に脱出よ。行け、ディジー!」
 手綱を鳴らすと、リカイン・フェルマータは格納庫から外へと飛び出していった。