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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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カスタムイコン

 
 
「遺跡が動いただって!? あれって、マ・メール・ロアやアルカンシェルのような移動要塞か何かだったのか? とにかく、安全に停止させるのが先決だ。行くぞ、ドンナーシュラーク!」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、巨大クワガタのドンナーシュラークを呼び寄せるとその背に飛び乗った。
「疲れているところすまないな。ひとまず、入れる場所を探すぞ」
 消火作業で大活躍であったドンナーシュラークを励ますと、瓜生コウは遺跡に近づいていった。背後では、大きくV字状に開いた外骨格の後ろで激しい羽音が響き渡っていた。
 青白く輝く遺跡の外壁のいくつかに扉のような物が開き、見慣れないイコンが次々と吐き出されてくる。どうやら、遺跡のガーディアンイコンのようだ。パラミタの遺跡としては、お約束の展開である。だが、艦載機とも言えるイコンに頼ると言うことは、ひとまずは対空砲のような物は備えてはいないようだ。
「入り口は……」
 瓜生コウは、敵イコンたちのいない安全な出入り口を探して、敵を避けながら遺跡の周囲を飛び回っていった。
 同様に、ベースを発進したジェファルコンの中では、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が情報を集め始めた。
「この数、私一人では処理しかねますな。ここは、閃崎 静麻(せんざき・しずま)たちが出てくるまで、情報収集のサポートに徹しましょう」
 そう決めると、クリュティ・ハードロックは戦闘域を避けるように高度を上げた。いかに第二世代機とはいえ、ソロパイロットではほとんどその性能は発揮できない。
 視界が広がると、遠くに見える巨大な世界樹が見えてくる。南に立つ深緑に煙る怪しい雰囲気の物がセフィロトだ。北東に見えるみずみずしい緑のこんもりとした世界樹が、イルミンスールであった。遺跡は、まっすぐにイルミンスールを目指して進んでいる。五千年前とは位置も大きさも違っているイルミンスールを、元の位置にいるセフィロトと間違えずにターゲットとしているところを見ると、世界樹ごとの識別機能を擁しているのだろう。
 もともと指定された位置にむかうだけであるのなら、移動できるイルミンスールにとっては脅威たり得ない。また、魔法力の強弱だけであれば、セフィロトか、離れているとはいえユグドラシルかに引き寄せられているはずだ。
 ストゥ伯爵はより強い魔力に引かれると考えていたようではあるが、それは検証不足であったようだ。間違いないことは、明確な意図を持ってこの巨大イコンは移動していると言うことである。単純なオートパイロットとは違う。だが、まだそれに気づいている者は少なかった。
 
    ★    ★    ★
 
「敵分布図と味方の配置、主な戦闘域を割り出して発信してください」
「まっかせといてよねー」
 佐野和輝に言われて、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が収集した情報をパッケージして発信していく。
 高高度に位置したグレイゴーストからは、地上付近の俯瞰図が一望できた。
 S−01ベースのマットメタルグレイの機体が、フォワード・スウェプト・ウイングから薄く二本の雲を曳きながら、青白く輝く巨大イコンを中心として大きく戦場全体を周回する。
 青白く発光する遺跡の進行方向では、イルミンスールからやってきた大型飛空艇船団が、敵イコンの攻撃を受けて輸送艦が不時着している。現在は、戦闘型の大型飛空艇二隻とイコン一機が、敵イコン群と戦闘を繰り広げているところだ。
 遺跡周辺では、多数の敵イコンが展開しており、ベースから発進したイコン各機が個別で迎撃を開始していた。
 遺跡内部では、中央コントロールルームで激しい戦闘が続いているらしい。
「この遺跡を止めるためには、中と外の連携が重要ですね。そして、事実を見極める自分自身の目が」
 佐野和輝はカナード翼を有する平たい機首のコックピットの中から自らの目で戦況を視認した。
「リアルタイムで、データ発信可能だよお」
「御苦労様。まずは、敵と味方をはっきりさせましょう」
 佐野和輝は、コミュニティメンバーを中核として、全周波数でこの場にいる者たちに呼びかけた。
 
    ★    ★    ★
 
「どうしたんですか、レガートさん」
 突然すっくと立ちあがって翼を広げたペガサスのレガートに、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が心配してその首筋に手を当てた。
 治療は終わったとはいえ、まだ完全ではないはずだ。けれども、レガートは耳をびくびくと動かしながらも、じっと馬首を南東へとむけていた。そちらは、源 鉄心(みなもと・てっしん)たちがむかった方向だ。
「分かりました。行きましょう、レガートさん。私たちも何かをしましょう」
 そう言うと、ティー・ティーはレガートにまたがった。赤銅色のレガートが、大きく翼を広げて空に舞いあがる。
 視界が開けると、空中に浮かんだ青白く輝く巨大な球体が見えた。
「あれは……。行きますよ、レガートさん」
 崩れ落ちたオベリスクを後にして、ティー・ティーたちは巨大イコンへとむかって行った。
 
    ★    ★    ★
 
『だが、断る!』
「ええい、頑固者があ!!」
 モニタに表示されたメッセージを見て、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)がバンとダイリュウオーのコンソールを叩いた。
 多数の敵に対してなんとか射撃管制プログラムを入れようとしたのだが、何をやっても拒絶されてしまう。
「ええい、もう諦めました。牙竜、きっぱり白兵戦だけでやってきなさい」
「おう、その方が俺にはあっているさ」
 メインパイロット席に座った武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、自信たっぷりに答えた。
「みやねぇ、もう出してもいいか?」
「しょうがないものだな。ひとまず、現在状況のデータを送る。敵の中央は浮遊する遺跡。これは、内部からの情報だと、巨大イコンで敵に制御されているとのことだ。自爆型で、イルミンスールへむかっているらしい。これを阻止するのが最終的なオーダーであるが、これは中にいる人たちに任せるとしよう。私たちの戦場は動きやすい外であろう。周囲に展開している同型イコンは、全て無人のようであるから、遠慮なく破壊してしまえ」
 佐野和輝やクリュティ・ハードロックから送られてくる情報を分析しながら、武神 雅(たけがみ・みやび)が指示を発した。
「雑魚は面倒だな」
「その通りだ。愚弟は、それらイコンの頭を潰すのだよ。確認したところ、四機のカスタムタイプが巨大イコン周辺に展開している。内一機は、現在大型飛空艇船団と交戦中。残り三機は、散開してこちらへ接近中。ダイリュウオーは現在白兵戦仕様であるから、愚弟は格闘戦タイプらしい緑色の二足歩行型をターゲットにするのだ。カエルと、見るからに飛行型の赤いイコンはひとまず他の人に任せよう。了解したか?」
「了解! リュウライザー出るぞ!!」
 身を低くしていた雷火タイプのリュウライザーがすっくと立ちあがった。スーパー六ボッとふうのシルエットとなったリュウライザーに、武者風の雷火の面影はない。白いボディに漆黒の装甲。竜血晶(カーバンクル)を思わせる真紅の透明セラミック装甲が機体の軽量化と力強さを語っている。
「とうっ!」
 竜頭を模した足で大地を蹴ると、リュウライザーが低空に飛びあがった。そのまま飛行ユニットを使ってアウカンヘルへとむかって行く。
「リュウライザー、聞こえるか? 予想戦闘ポイントの座標データを送る」
 迷彩塗装を施されたヘキサポッドに乗った武神雅はインカムにむかって言うと、リュウライザーの後を追って行った。
 
    ★    ★    ★
 
「全員、いったんベースキャリアーまで後退しろ」
『了解です』
『あい分かった』
 三船 敬一(みふね・けいいち)の指示に、パワードスーツ・カタフラクトに搭乗した白河 淋(しらかわ・りん)コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)から返信がある。
「エアハルト。エアハルト? ちっ、ベースを離れたままか。まあ、あいつのことだから、自分でなんとかするだろうが……」
 とにかく情報が欲しいところだ。いかにパワードスーツといえど、真正面からイコンと戦闘しようものなら無事では済まない。作戦が必要だ。
 そこへ、佐野和輝から直接詳細情報が送られてきた。別途、個別情報も添付されている。
「これは……。エアハルトの情報もあるのか」
 データの中に、希龍千里からのレギーナ・エアハルトと共に脱出準備をしているという物を見つけて、三船敬一はひとまず安堵した。だが、それはそれで救出に行かねばならない。
「各機、集合後はツートップフォーメーションで、攪乱・狙撃を行う。無理はせずに、遺跡にとりつくぞ」
『了解』