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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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「セルウスの代わりに、キリアナをパートナーに売り込んでみたらどないや? 結構強いんやろ?」
 キリアナ側の者達が、それぞれの分担に就くより前。
 いかにも楽しそうに声を掛けた瀬山 裕輝(せやま・ひろき)に、キリアナは困り果てた顔をした。
「それはほんまに堪忍しとくれやす。契約とか、うちは興味あらへんし」
「何や、つまらん」
 ミツエに会いに行くのは本気で断られてしまい、裕輝は肩を竦めた。
 裕輝はミツエを噂でしか知らないが、恐らくは売り込んだところで、ミツエが話に聞くような人物であるなら、速攻で却下するか拒否されるに違いないとは思うが。それはそれで、笑い話のネタだ。
「龍騎士ちうても、意気地のないもんやなあ」
 満面の笑顔でそう言うと、キリアナは苦笑する。
「……そうやね。
 龍騎士の中には、あえてミツエと共に乙王朝に居る人もおるのに、それに比べたら、うちは臆病者かも」
「まあなあ。
 後ろの方でコソコソ契約者の力を借りて隠れとるなんて、龍騎士を名乗る者のすることとは思えんわ。
 不可侵や何か知らんけどな。
 ま、いいからとっとと戦争なり抗争なりしいや」
 ひらひらと手を振ると、食らいつかんばかりの形相でその会話を睨み見ていたジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が、裕輝を押し退けるようにして、二人の間に割って入った。
「キリアナ。
 我々は、セルウス捜索者達の援護の為に、軍勢を以ってミツエの軍を襲撃し、時間を稼ぐ。
 ミツエがそれに対処すれば、捜索の方に手勢を集中できなくなるだろう」
 ジャジラッドにとっては、別の意味でもこれはチャンスだ。
 恐竜騎士団の副団長として、乙王朝を撃破することは、大きな意味を持つからである。
「キリアナは、手筈通り待機を」
「面倒をかけます」
 キリアナは、申し訳無さそうにそう言った。

「オレも手伝うで」
「要らん」
 裕輝の言葉をジャジラッドは切って捨てて歩いて行き、裕輝はけらけらと笑った。



 セルウスとミツエの契約させない為の手段として、先にセルウスを別の者と契約させてしまうしかないのでははないか、とブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は考えた。
 そして、その相手に最も相応しいのは、キリアナではないか、と。
「キリアナは、地球人じゃないの?」
 突飛な問いに、キリアナはぽかんとした。
「違いますえ」
 ブルタとしては、キリアナがセルウスに干渉できるのは、帝国の人間ではないのでは、というよりパラミタの人間ではないのでは? という予想があったのだが。
「違うのかぁ」
 だが、それでも対応策はある。
「でも、アスコルド大帝の息子は、魔術で地球人化して英霊と契約してるんだから、キリアナも地球人化すればいいんじゃないかな。
 帝国の為にも、キリアナがセルウスと契約した方が絶対にいい。すべきだと思う」
「皆さん、そのお人のことよく知ってますねえ」
 キリアナは苦笑した後、堪忍どす、と謝る。
「でも、うちは地球人化する魔術を知りませんし、申し訳ないけど、そうなる気もあらしまへん」
「シボラの長老なら、その方法を知っているのではないかと思いますわ」
 ブルタのパートナーの悪魔、ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)が提案する。
「第三勢力も出て来て、今や目的を果たすことは容易ではなくなってきていますわ。
 セルウスには、こちら側が追撃を止め、協力をすることを提示することで、契約を受け入れさせることができるでしょう。
 セルウスに、先に目的を達成させ、その後速やかに帝国に戻るよう、約束させる。
 妥協案を提示すべき時期に来ていると思います。
 諦めの悪いミツエを諦めさせる為にも、セルウスとの契約を推奨いたしますわ」
「……」
 キリアナは苦笑した。
 その案は、キリアナにとって受け入れ難い。
 仮に地球人化するにしても、シボラの長老を探し出すことがまず容易ではなく、今この場でミツエを出し抜いてセルウスと契約できる可能性は、皆無に近い。
 それを抜きにしても、自分が地球人となるという選択はできなかった。
 だが、ひとつだけ、キリアナはステンノーラの言葉に、思うことがある。
「……アキラはんにも、似たようなことを言われましたなあ……」
「え?」
 キリアナの呟きを聞き取れずに、ステンノーラは訊き返す。
「何でもないどす」
 じっと何かを考え込んでいる様子だったキリアナは、ステンノーラの視線を受けて顔を上げ、微笑した。

 一方で、強化人間のジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)は、別の予測を立てていた。
 ブルタ達の説得は叶わず、打ち合せた場所へ行こうとしているキリアナに、声を掛ける。
「ところで、その剣は姉譲りなの?」
「?」
 キリアナは首を傾げた。
「うちに姉はおりませんけど」
「あれ、そう?」
 間違えたみたい、と肩を竦める。
「違ってたみたいね」
 ポータラカ人のボイン・ボイン(ぼいん・ぼいん)が、共にキリアナの後姿を見送りながら言った。
 彼女らは、キリアナがアスコルドの娘なのではないか、という予測を立てていた。
 キリアナの剣筋は、どこかアイリスに似ているような気がしたし、戦場の第一線に出ることの少ない地味な第三龍騎士団であれば危険も少ないと、貴族の子弟が多く所属しているのではと予測した。
 ならばそこに大帝の隠し子がいてもおかしくはなく、まただからこそ、この重要な任務を任されたのではないか、と考えたのだが。



「AAAのみっつえーで、ミツエと呼ぶのはどうかしら」
 と、ミツエが聞いていたら憤怒の踵落としを浴びせてきそうなことを呟きながら、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は少し困っていた。
 武闘大会からの流れで何となく来てみたが、事情がさっぱり解らない上、立場が複雑だったからだ。
「舞台がキマク、ってところがねえ……」
 普段なら、一番強引そうなところにつくのだが、今回となると、それはAAA……じゃなかったミツエとなる。
 だが、リカインとパートナーのヴァルキリー、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は、恐竜騎士団の一員なのだ。
 更にまずいのは、ついでに連れてきた守護天使の双子は、その件に全くの無関係なのである。
「パートナーである以上、無関係ってことはないっス! どこまでも師匠について行くっスよ!」
 力説するアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)に、
「余計なことに足を突っ込むんじゃないの」
と本音を言ってから、
「恐竜騎士団じゃない、っていう肩書きが必要な時もあるでしょ」
と、建前もいいところの言い直しをする。
「成程、流石師匠っス!」
 アレックスは素直に感動したが、サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)はそんなアレックスを呆れて見た。

「とにかく、そういう事情があるので、龍騎士団に協力するというよりは、恐竜騎士団というか一般シャンバラ人として、騒動を鎮めにきた、みたいなスタンスで捕らえてて欲しいのよね」
 リカインの言葉に、キリアナは頷く。
「協力してくれるだけで、有難いどす」
「その代わり、なるべくセルウス関連で動くようにはするわ」

「さてと、やっぱり騒ぎが起きてくれたわね!」
 ようやく暴れられると、不謹慎にもシルフィスティはご機嫌である。
「でもちょっと今、新しいクラスに慣れないのよね。フラストレーション溜まりそう」
「程々にね」
 そう一応釘を刺すリカインも、実は全く人のことを言えていないのだが。
「僕は、師匠達とは実力差がある分、属性攻撃で補うっスよ。
 アンデッド達が相手だったら、僕の光輝魔法でそこそこ行けると思うっス!」
「兄貴も少しはものを考えられるようになったのね……」
 心底感心してから、サンドラは
「そんな兄貴が無様にやられても大丈夫なように、私は救護に徹してあげるからね。頑張って」
「師匠! 姉貴が酷いっス!」
「ちなみに、どういう事情で誰が敵で誰を護って戦うか解ってるわよね?」
 そんなアレックスに、リカインは笑顔で訊ねる。まあ私もよく解ってないけどね。
 アレックスはぴしりと凍りついた。
「……え、えーと、セルウス少年に味方以外を近づけさせなければいいんすよね?」
「まあ、それだけ解ってれば上出来か」
 サンドラが頷く。面倒なので、説明するつもりはなかったが。


「っくしゅん! っくしゅん! っくしゅん!!」
 ミツエのくしゃみに、風祭優斗が「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
「……大丈夫じゃないわ……」
 ミツエの声が凄んだ。
「今、ものすごーく不愉快な噂をされてる気がしたわ。まさか胸の話題じゃないでしょうね」
「エスパーじゃあるまいし」
 酒杜陽一が苦笑した。
 誰もミツエに対してそんな恐ろしいネタで噂をするわけないよ、などとは勿論言わない。
 だが、巷には怖いもの知らずも存在するのだった。



 如月 和馬(きさらぎ・かずま)は、密かに孫権に接触した。
 自分がキリアナに味方する者ということには触れず、提案だけする。
「乙王朝には元龍騎士団もいるだろう。
 今回のミツエの相手は帝国絡みであり、場合によっては帝国や、その関係者と戦わなければならないという噂を乙王朝内で広めてくれないか?」
 乙王朝には、かつて第二龍騎士団に所属していた、イリアス以下2500の元龍騎士団員がいる。
 事情があって乙王朝に身を寄せてはいるが、彼等は帝国への忠誠を失ったわけではなく、むしろ帝国の忠誠故にここにいると言っても過言ではない。
「成程、内側から攪乱する作戦か。
 だが俺は、ミツエから招集かかってるから、ミツエんとこに戻らなきゃならねえ」
「招集?」
「乙王朝に襲撃をふっかける動きの軍勢があるとかで、それに対抗する為にな。
 とりあえずミツエは、キリアナは自分に対して腰が引けてるのを見てるから、セルウスを探す一派だと思ってるみたいだが、お前等か?」
 孫権は、和真がドミトリエの味方とは違う、と見抜いているようだ。
「知らない、と言っておこう」
 和真の言葉に、孫権は肩を竦めた。
「俺の配下、ってことにして、お前を王朝内に紛らせてもいいぜ。
 噂を流すのは、お前がやんな。上手くやれよ。何人かには手伝わせる」
「解った」
 和真は頷く。
「ちなみに、饕餮は?」
「あれはとりあえず出ない。劉備も曹操もセルウス捜索の方に駆り出されてるしな」

 和真の、元第二龍騎士団員をターゲットにした作戦は覿面だった。
 彼等は、捜索の対象であるセルウスが「樹隷」であると知って躊躇い、捜索の手を鈍らせたからだ。
 不可侵の存在に対して、その本人に関わらないようにという考えが働いたのだった。


「龍騎士が役に立たないなんて、どういうことよ!」
「国民性、っていうか、お国の事情だろ。責めてやるなよ」
 孫権のフォローに、ミツエは彼を睨みつつ、しょうがないわね、と呟いた。
「それより、どうも当面の相手の他に、第三勢力の存在が報告されてるんだが。
 アンデッド恐竜の群れがうろついているらしいぜ。
 こっちに向かってる。目的は解らない。
 俺達を攻撃してくるかどうかは、まだ解らないが。どうする? 龍騎士団を相手させるか?」
「そこに万一セルウスが出てきて、途端に押される、なんてことになったら目も当てられないわ。
 龍騎士団は今回下がらせて、本拠地の防衛でもさせといて」
 ミツエはそう指示を出す。
「このタイミングで出て来て、セルウスと無関係ってことは有り得ないでしょ。例え無関係だとしたって関係あるとして扱うわ。
 あたし達に向かって来てる連中を、うまく誘導してぶつければいいわ。
 曹操に連絡して、セルウス捜索の手勢を半分戻して。状況によって劉備の隊にも戻って貰うわ」
「了解」
 孫権は携帯を取る。
 まずは曹操に、それから密かに、ドミトリエ側の小鳥遊美羽に。