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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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undeviginti セルウス捜索・争奪戦

 乱戦の混乱に乗じて、別働隊がセルウスを捜索する。

 ミツエ、キリアナ、ドミトリエ、ナッシング勢は、奇しくも皆、同様の作戦を立てていた。
 軍勢をぶつけ合わせたのは、正体を隠したキリアナ軍勢と、ミツエ軍。
 そこへ、ナッシングの操る、アンデッド恐竜の軍勢が飛び込む。
 セルウスの捜索を容易にする為には、いかに自分達の手勢を割かずにこの戦闘を長引かせるか、そしていかに敵側にこの戦闘に手勢をつぎ込ませるかが鍵だった。


 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、その前線で乙王朝に喧嘩を売った。
「俺は、かの賞金稼ぎ、【バウンティハンター貧乏】だっ!」
 名声と警告を織り交ぜたその叫びに、周囲のパラ実生達の動きが止まる。
「バウンティハンター貧乏……?」
「聞いたことあんぜ……」
 漂う剣呑な空気に、宵一は続けて叫んだ。
「俺は賞金稼ぎとして、キリアナという龍騎士に雇われた!」
 嘘である。
 宵一は、セルウス捜索の援護の為に、ミツエとキリアナを直接対決に持ち込ませようと仕向けているのだ。
「キリアナから伝言だ、ミツエ! 乙王朝なんざ屁でもない。フルボッコにしてやんよ、と。
 あと、エリュシオンを舐めるなよ! とも言っていた!」

「ミツエをフルボッコになんざさせるかあ!」
「ヒャッハー!!」
 手近のパラ実生達が、宵一に襲い掛かる。
 その足元を、大量に何かが這い回った。
「ぎゃー!? 何だこいつぁ!?」
 ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)がけしかけた、ネズミの大群だった。
「全く、宵一様の作戦は、無茶ですわ」
 宵一の嘘に対して、冷静に判断できないよう、混乱を誘ったのだ。
 ネズミ如き恐るるに足りないが、確かに足元の地面を隙間無くネズミが走り回れば驚く。
 足を駆け上がってくるネズミも居て、いくら百戦錬磨(笑)のパラ実生と言えども、生理的に何となく嫌だ。
「うがーっ、どっか行けーっ」
 片っ端から蹴散らす者あり、火炎放射器で焼き払う者あり、宵一はその混乱に乗じて、アナイアレーションを仕掛け、周囲の敵を一掃した。
「リーダーを援護するでふ!」
 パートナーの花妖精、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)も、上空からギフトのバズーカをがんがん撃ち込む。

 そんな混乱のせいで、実際に宵一の嘘が本陣のミツエに届くのは遅れた。
「バウンティハンター貧乏?
 聞いたことあるわね。仕事が出来ないせいで収入が無い賞金稼ぎだっけ?」
「それは違うんじゃねえかなあ……」
 孫権が肩を竦める。
「それじゃ、あたしの軍勢に恐竜の糞を投げつけてくれたのも、キリアナってわけね。
 わざわざ賞金稼ぎを雇って安っぽい挑発を仕掛けるなんて、キリアナとやら、エリュシオンの龍騎士を名乗らせるのも恥ずかしいんじゃないの?」
 せせら笑うミツエに、孫権も苦笑した。
「じゃ、挑発には乗らないのか」
「当然でしょ。戦地で敵から流れてくる情報なんて、基本嘘に決まってるじゃない」
 あっさりと、先の発言を否定する。
 端から、ミツエはその話を信用などしていないのだった。
「それと、通信兵を一人やられたぜ。情報が混乱してた。
 これも、バウンティハンター貧乏の手の者の仕業らしい」
「あれは範囲が狭いのが難点ね……。
 改良して、本拠地に一人立たせたら済むようにできたらいいんだけど」
 それはもはや、通信兵である必要は無いような気もするが。
「とりあえず、奪われたアンテナは使用不可能にしといたぜ」
 孫権は、ほんの少しだけバウンティハンター貧乏に感謝した。
 ミツエに疑いを持たれたが、今、何かバレることがあっても、それは情報を攪乱されたせい、で済ますことができそうだ。


◇ ◇ ◇


「そもそも、セルウス君本人は、ミツエさんとの契約についてどう思っているんだろうか」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、そう首を傾げた。
「我が旧主、孫権様は、かつて天下二分の計の一方当主として、この魯粛が見込んだ御方。
 待機組のパートナーに追いやられるなどと不名誉な事態は、許せません」
 パートナーの英霊、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、怒りを表す。
「パートナー契約は、そもそも不用意に片方の意志だけで押し切って成されてはならないもの。
 坊ちゃんと私がそうであるように、不思議で霊妙で、切っても切れない関係に立って……後悔しないという心の準備が、セルウス殿にあるのなら、仕方ありませんが、しかし……」
 もしも違うというのなら。
 うん、とトマスもその言葉に頷く。
「僕もそう思う。
 事の重大さと契約の大切さを説明して、ミツエさんと契約しないように説得しよう」
「そのような時間がありますか?」
「無理矢理にでも。
 隙を狙って攫って行ってもいい。後で帰してあげれば問題ないだろう」
 うっかりミツエと契約した孫権は、あまり幸せそうじゃない、とトマスは思う。
 魯先生のかつての御主君が、その上待機組に回されてしまうのは、お気の毒だ、と同情した。
 何とかしてあげたい。
 この実情をセルウスに伝え、契約を阻止しなくては。
「契約者となる意志は、男の子の大事なものと同じくらい、誰かれなしに捧げてあげてしまっていいものじゃなないんだから」
「何ですかそれは」
 キリアナと、キリアナに協力する者達に同行して現状の把握をしつつ、セルウスの発見を待ちながら、トマスはうんうんと頷く。
 セルウスに、己の志を思い出させたい。
 彼の力も資質も全ては、彼自身の志の為にあるべきなのだから。



 セルウスは、一人サルヴィン川周辺を、上流に向かって歩いていた。
「こっちが上流ってことは、向こうから来たんだよな……。
 戻れば、ドミトリエ達と合流できるかなあ……」
 西の方角を見る。
 追って来てくれていると信じているが、果たして闇雲に歩いて合流できるものだろうか。
 更に、サルヴィン川から西は、暫く荒野が続いていて見通しが良く、容易に発見されてしまいそうだ。
「何か俺、追われてるっぽいし……」
 ちら、と腰に目をやる。
 武闘大会が終わった後、キリアナに捕まった時点で、剣は奪われてしまった。
 というわけで、比較的身を隠しやすい、川の付近を歩いている。
「うん、まあ、何とかなるか!」
 とにかく、見付からない。捕まらない。前へ進む。そう決めた。


 最初にセルウスを発見したのは、樹月刀真だった。
 殺気看破で敵の気配に警戒しつつ、蹂躙飛空艇で一気に確保すべく、突っ込む。
 近付く飛空艇に気づき、セルウスは一瞬、敵か味方かを迷ったが、雰囲気から、味方ではないと察した。
 途中、自分を捜索していたミツエ配下の兵からぶん取った剣を抜きながら、有利な地形を求めて走る。

「セルウス!」
 別の所から叫び声がした。はっと見る。
「翔一朗!」
「追われとるんか!」
 ジェットドラゴンで降下しながら、光臣翔一朗は、セルウスを追う相手を見てはっとした。
「翔一朗ですか」
「あんたか……!」
 こういう状況を、全く想像しなかったわけではない。
 相手がどちらに味方しているかも互いに知っていたし、連絡も何度かした。
「しゃあない。今はセルウスの確保が先じゃ!」
「同意です」
 意見は同じだが、立場が違う。
 翔一朗は、味方に報せる信号弾を撃ちながら、片手で手綱を操り、突っ込む。
 取り合うものが無機物だったら、ニ対一、しかも小回りの利く飛空艇に乗っていた刀真達が断然有利だった。
 だが、セルウスは素早く翔一朗の方へ走る。
 刀真が放ったワイヤークローを剣に絡ませてその剣を投げ捨て、ジェットドラゴンに飛び付いた。


 翔一朗と同様、サルヴィン川流域をセルウスの捜索にあたっていたレキ・フォートアウフも、翔一朗の信号弾を見て、遅れてその場に駆けつけた。
 少し離れたところでギフトを降り、携帯用に戻しながら、代わりに星輝銃を手にし、身を低くして近寄る。
「わらわは上から行くぞ」
「見つからないでね」
 パートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは)は、空飛ぶ魔法で上空へ行く。
「よかった、無事だった」
 セルウスの様子を確認してとりあえずはほっとして、レキは飛空艇のドミトリエ達に、HCで発見と現状の連絡を入れる。

「他に隠れている者はおらぬようじゃな」
 一方上空から辺りを探ってミアは呟いた。
 しかし油断はしていられない。
 自分達は早く到着できたが、追って他にも此処に来る者がいるだろう。それが味方とは限らない。
 報告は短く済ませて、レキは薮や木の影に隠れながら、様子を窺う。

 刀真と翔一朗は、互いに本気で戦うことはしていなかった。
 本気は本気だが、二人共に、ここはセルウスを奪取し、離脱することを優先している。
 セルウスが翔一朗のジェットドラゴンに飛び付き、離れた瞬間を狙って、ミアは上空から奈落の鉄鎖で刀真の飛空艇を押し潰した。
 月夜が素早く気付き、上空へ威嚇射撃を放つ。
 更にレキがそれを阻んで発砲した。
 刀真の攻撃が怯んだ隙に、翔一朗達はすかさずこの場を飛び去る。
「人が集まってくるみたいだね」
 刀真の方でも仲間に連絡をしたのだろう。
 此処では、身を隠し続けるには心許ない。
 ミアとレキは深追いせず、セルウス達がこの場を脱出したのを確認すると、素早くそこを離れた。


「セルウスを発見したって」
 連絡を受けた黒崎天音が、少し困ったように苦笑した。
「どうした?」
 雪国ベアが訊ねる。
「刀真くんとみっちゃんが、敵同士で鉢合わせたそうだよ」
「あ……」
 ソア・ウェンボリスの表情が陰った。ベアも難しい顔をする。
「そういうことにも、なるか。
 敵、じゃねえんだけどなあ……」
「とりあえず、セルウスを発見したことは、広めておかないとね。
 後々、飛空艇で回収する偽装をやりやすいように」
 陽動の為に戦っている仲間達にも、知らせてやらなくては。援護も必要だろう。
 天音とブルーズが手回す。
 やれやれ、と安堵する様子のドミトリエに、ソアが笑いかけた。
「とにかく、見つかってよかったです」
「ああ。ありがとう。……セルウスが言うべき言葉だが」
 憮然とするドミトリエに、ソアは微笑んだ。